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第二章 ギルド業務、再開 編

8 おい、なんだあの教官は……

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オアシス・レッセでの用事が終わり、すぐに馬タクシーでユンクレアに戻ると、スバルによる“職業適性検査”がちょうど終わったところだった。スバルが馬車に乗る俺を見つけて、手を振っている。

「支部長ー! 鑑定終わりましたよー!」
「おーう、お疲れ様ー。」

ミヨもこっちに手を振っている。“適性検査”が無事に終わってよかった。



日が沈んだので、夜のミーティングを行う。今日から三日間は通常業務を特例でストップさせているので、早めにミーティングを済ませてしまうことにした。

「……というわけで、講習会参加の冒険者全員の検査が終わったので、明日に備えるようにと伝え、今日は解散させました。」
「そうか、ありがとう。」
「いえ、とんでもないです…。」

スバルが頭を掻く。

「どうだった? “適性”と“職業”が一致したのはどのくらいだ?」
「えっと……、50人中22人ですね。大体五割弱といったところでしょうか。」
「予想よりも多いな。でも、一致していない者の方が多かったか。」

この“適性検査”は、相手が最もその力を発揮できる職業を、“攻撃力”、“魔力”、“防御力”、“スキル”などから判断している。だから、外れはないはずだ。

「ええ。再検査もやってみましたが、結果の通りです。…………“適性”と“職業”が一致せず、落ち込む人が大多数で……。」

スバルが顔をうつむける。この“適性検査”は、鑑定士ごとによって結果が変わることなどないので、スバルに全くの非はない。だが、彼の“観察眼”が、結果的に何人かの冒険者の気持ちを落としてしまったので、どこか後ろ髪引かれる思いがあるのだろう。俺は、スバルの頭にポンと手を置く。

「お前のその“力”のおかげで、冒険者達の“適性”をしっかりと判別することができた。それに、お前の“力”のおかげで明日からの訓練もよりやりやすくなる。本当に助かったよ。」
「支部長……。………はい、ありがとうございますっ!」

顔を一瞬そらしたが、素早く俺の方に向き直る。すぐに立ち直ることができるのも、スバルの良いところだ。

「よし。ミヨ、今日はお前の出番がほぼ無かったが、明日の訓練からが勝負だ。“力”を貸してもらうぞ。」
「ええ勿論もちろん、望むところです!」

ミヨは、俺に力こぶを作ってみせる。だが、本当に明日は彼女に頼ることになりそうだ。他人の魔力を操作できるのは、俺でもできないからな。

「よし、今日ももう遅い。明日に備えて寝るとしよう。」

ガタンと椅子から立ち上がる。すると、スバルが何か思い出したような顔をする。

「そういえば、支部長、王都に行ったにしては随分と早く帰ってきましたね。」
「そう言われてみるとそうですね……。ここから片道半日はかかる道のりを、今日中に帰ってきましたね。何かあったんですか?」

二人に詰め寄られる。うーん、明日まで内緒にしておこうと思ったのだが、やっぱり隠し事はできないな。

「………ばれたか。俺が今日向かったのは、アスタル王都じゃない。オアシス・レッセだ。」
「確かに、オアシス・レッセなら、往復しても、長くて半日ですね。ということは、ロインさんに用事が?」
「スバルも勘が鋭いな。正確に言うと、ロインの客に用事があったんだ。」
「へえ………私たちが使う武器でも買いに行ったんですか?」
「いや、その客は商人じゃない。俺の昔のパーティ……仲間だ。」
「なんで一瞬言い淀んでるんですか……。というか、パーティ仲間って、ロインさんと二人だけで組んでたんじゃないんですか?」
「おう。あれ、話さなかったっけか。」

スバルもミヨもどうやら初耳らしい。やれやれ、こうも年を取ると、どうも最近の記憶が少しずつあやふやになってくる。それでも、昔の記憶だけは鮮明なんだがな。

「まあいいや。そいつは俺たちのパーティのいわば顔だな。」
「Sランク冒険者のロインさんよりも有名なんですか?」
「ああ。依頼を受注するときは、いつもギルドにいる冒険者に声をかけられたな。」
「へ、へえ……………。」

二人とも、あまり理解できていないようだ。まあ、仕方がない。目立っていたのは、ヤツが“職業適性”を引き当てたせいだからな。

「ともかく、そいつに話をつけて、教官を頼んだ。」
「なるほど………ってまた高ランクの冒険者に教官を!? お金は大丈夫なんですか?」
「ああ。大丈夫さ。…………ロインが肩代わりするから。(ぼそっ)」
「?」

スバルとミヨはまだ少し疑問符を浮かべている。鼻持ちならないヤツだが、実力だけは本物だ。明日、ヤツの動きを見れば、すぐにその疑問符も吹っ飛ぶだろう。………だかもう年だからな。ぎっくり腰にでもならなきゃいいが。

「さあ、とにかく明日は忙しくなる。今日のミーティングはここまでとしよう。各自、明日に備えてくれ。」
「「はい!」」

明日は二日目。冒険者たちが“幻影の霊ファントムゴースト”を倒せるようにするためには、明日が一番大事になる。気を引き締めて取りかからなければな。



翌早朝、ミヨとスバルを起こし、訓練する広場へと向かう。

「支部長…………今日は随分と朝早くから始めるんですね……。」

あくびをして目をこすりながら、スバルは歩みを進める。

「まあ、そうしないと終わらないからな。」
「………どれだけ事を荒立てるハードな訓練をするつもりなんですか……。」

対照的に、ミヨはシャキッとしている。まあ、スバルが眠いのも仕方がない。 まだ朝の四時だからな。辺りはまだ暗い。

「お、みんな集まっていますね。」

ミヨが手に持っているランプを冒険者たちのいる広場へと向ける。冒険者たちも、みんな眠そうだ。こいつらの目を冷まさせる意味でも、一度挨拶をした方が良さそうだ。壇上に上がり、数を数える。………うん、50人全員いるな。

「みんな、こんな朝早くに集まってもらいすまない。今日から、本格的に訓練を開始する。職業ごとに教官がつくので、彼らの指示を仰ぐように。まず、“魔法使い”、“治癒師”、“探索者”の者には、このミヨがつく。そして、“鑑定士”、“薬師”、“召喚士”の者は、ここにいるスバルが担当する。“剣士”とその他の職業の者は主に俺、フーガが担当し、あと全ての職業の訓練補助にも入る。さらに、今回は二人、かつて冒険者として素晴らしい手腕を発揮した冒険者をお呼びした。」

合図を送ると、二人の人物が物陰から出てくる。その二人を見て、冒険者たちが驚く。ミヨとスバルも、ものすごい顔で驚いている。二人の男は、立ち止まり、冒険者たちの方を見る。

「ロインです。今回は、教官として魔法を扱う職業の特訓をします。よろしく。」

手を胸に当て、丁寧にお辞儀をする。

ザワザワ……
『おい、あれって……Sランク冒険者のロインさんでは?』
『まじかよ、“聖なるセイクリッド魔術師ウィザード”、初めて見たぜ……。』

まあ、ロインは魔法使いとしては非常に高名な人物。同業者で知らない者はいないだろう。……そして、もう一人。
こっちの男を見て、冒険者は全員固まっている。ミヨとスバルに至っては、口が地面についてしまうのではというくらい、あんぐりと開いている。男は、冒険者の方を見て、ニヤリとする。

「儂はハイル・ゲイザー。二十年も前、“勇者”として巷で騒がれていた者じゃ。よろしく頼むぞ!」

スバルとミヨは指を指しながら、

「「きょ、教官って…………まさかの“勇者”ぁぁぁぁぁぁあああああああ!!?」」

激しく絶叫した。
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