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第三章 冒険者ギルドの宿命 編

12 冒険者ギルドと帝国①

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「それじゃあ、先ずは……スバル!」
「え、あ…ハイッ!!」

ビシッと指をさす。それに少し動揺したようだが、返事を即座に返す。

「そもそも、冒険者ギルドってなんだと思う?」
「え……。えーと……。」

少し漠然とし過ぎていただろうか。その返答に戸惑っているが……。

「そうですね……あまり考えたこともありませんでした。私たちの生活に根付いた、当たり前の存在というのが、私の考えです。」

それを見かねて、ミヨが助け舟を出す。ナイスフォローだ。

「そうだな。スバルもミヨもフラットも、ギルドが出来て以降に産まれたから、それが模範解答だろうな。それじゃあ、聞き方を変えよう。……何故冒険者は、ギルドに加入する?」

スバルに目線を向け、別の質問を投げかける。

「…それなら! 冒険者として活動する時に、保障を受けることができるからですッ!」

そして、それに意気揚々と答えて見せる。

「そうだな。お前も元々冒険者として活動していたから知っているとは思うが、第一に挙げられるのは“手厚い保障”。例えば、依頼を失敗したときの賠償金手当の支給。依頼中の事故によるケガで治療を受けた際の、治療費の支給。労災ってやつだな。これ以外にも色々とあるが、代表的なものはこれくらいだろう。冒険者を保護するためのものだな。」

ホワイトボードに書き出していく。

「そして、第二に挙げられるのが“信頼できる依頼の仲介”。ギルドが出来る前までは、直接依頼人から依頼を受けるのがほとんどだった。だが、これでは冒険者の身の安全の担保ができない。それに、依頼料の中抜きや、依頼の偽装なども起こり得る。…冒険者が“無謀に挑戦する者”と呼ばれるようになった所以でもある。だが、冒険者ギルドはこれを無くした。冒険者ギルドのバックについている、とある巨大な看板のおかげで依頼料も安定し、依頼の基準が明確に定められたことで、冒険者達はより安全に活動できるようになったというわけだ。」

これも書いていく。

「そして第三に、“素材の適正買取”。これもまた大事なことだ。冒険者が倒した魔物や採取した素材は、基本的には依頼が主目的で取られていた。ところが、依頼で使う部位以外を冒険者が捨てて行ってしまうことが増えていった。これが森の奥なら問題はない。死体処理は魔物がしてくれるからだ。だが、町や村の近くならどうだろう?」
「匂いにつられた魔物が、いっぱい近寄ってきてしまいますね。」

フラットが答える。

「そう。町や村が討伐依頼を出した魔物。それを倒したのに、証明部位以外捨てて行ってしまうことによって、新たな魔物が集まってきて町や村に被害を出す………と、正に本末転倒だ。」
「でも、魔物の素材は高く売れますし、そんなに頻発することは……。」
「そうだね。確かに、、スバルンの言う通りだね。」
「スバルンって……。」

クラムのあだな呼びに、スバルは思わず苦笑いする。それを尻目にクラムは話を続ける。

「だけどね、当時は違った。商人にとって、冒険者は大して大きな取引相手じゃなかったからだ。要は、冒険者の足元を見ていたんだよ。そもそも冒険者というのが、特段特別な職業ではなかったからね。それに、彼らが持ってくる素材は、質がいいものは決して多くはなかった。だから、最初から疑いの目をもって食い掛る人も多かったんだよ。僕も昔はそうだったなー……。」
「商人が皆、アテレーゼ商会のような大きな組織に所属しているわけではない。大半が、フリーか小さな組織に所属する者たちばかりだ。彼等は勿論悪い人物ではないが、決して羽振りが良い訳でもない。だから、そんな商人の目を変えるために改革をしなければならなかった。それが……“双剣と翼”の御紋だ。」

双剣と翼の御紋をホワイトボードに書き表す。それまでずっと受動的に聞いていたフラットが、それを見てピンと来たのか、声を上げる。

「これって……ガウル皇帝の紋章じゃないですか!」
「その通り。俺がさっき言った巨大な看板というのは、ガウル帝国のことだ。それまでなにもなかった薄っぺらい冒険者という板を、御紋という釘を使ってガウル帝国という心柱に打ち込む。皇帝の御紋が入ったそれは、正に帝国が認めたという印になる。だから、もし噓の依頼を出したら…? もし依頼料の中抜きをしたら…? もし商人が適正価格以下で素材の買取をしたら…?」

ホワイトボードに書かれた紋章に、バツ印を入れる。

「…帝国の顔に泥を塗ることになる。無論、俺たちの失敗もだ。」

俺の言葉に、三人は息を吞む。そんなに驚かすつもりはなかったのだが…。

「だからこそ、ギルドに所属する冒険者は、その見返りとして国の出す依頼を優先して受けなければならないという義務がある。まあ、と言ってもそんな依頼は滅多に出んがな。それに、普通に仕事をしている分には、しょっ引かれることもないん……だが?」

そう補足するが、まだ三人はブルブル震えている。やれやれ。

「そ……それにしても、どうして帝国はそこまで、冒険者への支援をしてくれるのでしょうか?」

声がまだ震えているが、ミヨが訊く。確かに、普通に考えて、劣った見方をされている冒険者を何の利益も無しに助けるはずがない。そう、帝国による冒険者ギルド………そして、その親組織である全国冒険者協会への支援には、帝国にとって逃したくないうまみがあるのだ。

「考えてみろ、簡単なことだ。……勢力維持だよ。」
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