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第三章 冒険者ギルドの宿命 編
17 「信じる」こと
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落ちこぼれの、ユンクレア支部。
色々な事情があってそう呼ばれるようになったこの支部を、支部長は…フーガさんは助けてくれた。
頭の良いフーガさんのことだ。もしかしたら、助けた裏には何かあるのかもしれない。
だけど、目の前に立ちふさがる大きな壁に絶望していた私たちに、フーガさんは救いの手を差し伸べてくれたことが、嬉しかった。ユンクレア支部だけじゃない。
私は、私自身に絶望していた。かつて、自分の力及ばず、冒険者の男の子を傷つけてしまったからだ。あの頃は、ずっとそれを引きずっていた。だが、フーガさんは私にもその優しさを向けてくれた。無責任な言葉で励ますのではなく、私が彼にしてあげたことが沢山ある。そう諭してくれた。私は、それだけで救われた。自分の仕事に取り組む意義を、思い出させてくれた。
フーガさんはよく自分のことを、勢いだけでゴリ押す、腕だけの男だと言っている。
だけど、そんなことは絶対にない。彼は、ユンクレア支部を、その手を下さずに立て直す方法を考え、実践してくれている。それは、腕だけの人には絶対にできない。
フーガさんは、優しいのだ。優しいが故に、私たちが余計な心配をしないように、してくれている。優しいが故に、自身の思いを誰にも伝えられないのだ。
だから……今度は、私たちがフーガさんを…支部長を、助ける番だ。
この前から、フーガさんは様子が変だった。あの“熱砂”の件が片付いた後から、気持ちがどこか上の空であることが大きくなった。それに、どこか態度もよそよそしかった。今思えば、内に抱えている悩みを、私たちに悟られないようにするためだったのだろう。
「支部長。…私たちに何か、隠していることはありませんか?」
少し強引かもしれないけど……私たちの力を、貸させてください。
◇
それを上手くかわしてやろう、そう思った俺の考えを吹き飛ばす位に、ミヨは真剣な顔をしていた。その顔は、かつてを思うと、見違えるくらいに頼もしいものだった。
……だが、この件はミヨやスバルたちとは全くの無関係。もし話したら、俺たちが引き起こしたことに巻き込むことになってしまう。そう思うと、やはり話すわけにはいかないという気持ちが強くなった。だが……それと同時に、俺の心は何故だか苦しくなった。
「どうして、俺が何かを隠しているように思えた?」
罪悪感?……いや違う。
「私たちとミーティングしている時も、どこか遠くを見つめている顔をしていたので。」
どうしてこんなに苦しいのだろう。
「……これは、俺の個人的な問題だ。お前たちを巻き込むわけには……。」
すると、ミヨは大きな声でこう叫んだ。
「私たちを……見くびらないでくださいっ!!」
「…………!!」
資料を床に置き、スタスタとこちらに歩いてくる。
「“幻影の霊”の討伐の際、支部長室は、私たちに単独行動を任せてくれました。私もスバル君も、支部長から信頼されているんだと思って、嬉しかったんです。ああ、私たち、支部長が信用してくれるレベルになれたんだ、と。」
話すその声は、大きくも、震えていた。
「だから私たちは、支部長に身の上話ができたんです。悩みを打ち明けられたんです。でも……今支部長は、あなた自身のことを隠しています。私たちは、信用に値する人物とは違ったんですか? 私たちの勘違いだったんですか? …私たちは、ユンクレア支部の仲間じゃないですか。短い間でも、苦楽をともにしてきたじゃないですか。私たちは…私は、あなたのことをとても信頼しています、だから……」
ミヨの顔を見る。
「私たちのことも……信じてくださいっ!」
ポロポロと、涙が零れていた。
ああ、そうか。俺は、こいつらのことをどこか心の中で、信じていなかったんだ。
相談してもどうしようもない、絶対に解決の手助けができない。
俺たちの因縁に巻き込んでしまう、そういう言い訳を作って、責任逃れをしていたんだ。
……仲間を信用できないなんて、俺は支部長失格だ。
どうして、仲間を泣かせなければいけないのだ。
ふぅ、と一息つく。
「………もしかしたら、お前たちの将来が危ういことになるやもしれない。それくらい危険なんだ。」
「分かっていますよ。支部長が悩むくらいなんですから、天災級の魔物が襲ってきたと言われたって、驚きません。」
「おい………。だがまあ、魔物よりかはたちが悪いかもしれないが、な。」
ミヨが落ちた資料を拾う。…そこで、違和感に気づいた。
「……おい、何こそこそ聞き耳立てているんだ、スバル、フラット。」
「「おわっ!?」」
その声に反応し、スバルとフラットが、ズシャッとずっこける。
「ばれてましたか……。」
「気を隠せ、フラット。スバルはうまく隠せてたぞ。」
「す、すみません。」
フラットは、頭をかく。スバルは、胸の前に拳をぎゅっと突き出す。
「支部長。ミヨさんと同じように、僕も支部長に助けてもらいました。僕も、恩返ししたいんです。それに、ハイルさんに言われたんです。もし、支部長が無茶するようなことがあったら、助けてやってくれって。だから、僕たちにも手伝わせてください。」
ミヨとスバルの顔は、かつて見たそれとはまったく違っていた。俺が来た頃のあいつらは、受動的で、自分から進んで行動に出ることはなかったのに。フラットもそうだ。
……立て直し。その事務的な作業で派遣された、このユンクレア支部。だが、この立て直しという機会がなければ、俺がこいつらと出会うこともなかったのだろう。
「俺は、お前たちのような仲間を持てて幸せだよ。」
「へへっ……。」
スバルは、鼻の下をこする。ミヨも、得意げな顔をした。
「……分かった。皆、もう一度相談スペースに来てくれ。…今、この冒険者ギルドに何が起きているのか、話そう。」
三人は、黙って頷いた。
色々な事情があってそう呼ばれるようになったこの支部を、支部長は…フーガさんは助けてくれた。
頭の良いフーガさんのことだ。もしかしたら、助けた裏には何かあるのかもしれない。
だけど、目の前に立ちふさがる大きな壁に絶望していた私たちに、フーガさんは救いの手を差し伸べてくれたことが、嬉しかった。ユンクレア支部だけじゃない。
私は、私自身に絶望していた。かつて、自分の力及ばず、冒険者の男の子を傷つけてしまったからだ。あの頃は、ずっとそれを引きずっていた。だが、フーガさんは私にもその優しさを向けてくれた。無責任な言葉で励ますのではなく、私が彼にしてあげたことが沢山ある。そう諭してくれた。私は、それだけで救われた。自分の仕事に取り組む意義を、思い出させてくれた。
フーガさんはよく自分のことを、勢いだけでゴリ押す、腕だけの男だと言っている。
だけど、そんなことは絶対にない。彼は、ユンクレア支部を、その手を下さずに立て直す方法を考え、実践してくれている。それは、腕だけの人には絶対にできない。
フーガさんは、優しいのだ。優しいが故に、私たちが余計な心配をしないように、してくれている。優しいが故に、自身の思いを誰にも伝えられないのだ。
だから……今度は、私たちがフーガさんを…支部長を、助ける番だ。
この前から、フーガさんは様子が変だった。あの“熱砂”の件が片付いた後から、気持ちがどこか上の空であることが大きくなった。それに、どこか態度もよそよそしかった。今思えば、内に抱えている悩みを、私たちに悟られないようにするためだったのだろう。
「支部長。…私たちに何か、隠していることはありませんか?」
少し強引かもしれないけど……私たちの力を、貸させてください。
◇
それを上手くかわしてやろう、そう思った俺の考えを吹き飛ばす位に、ミヨは真剣な顔をしていた。その顔は、かつてを思うと、見違えるくらいに頼もしいものだった。
……だが、この件はミヨやスバルたちとは全くの無関係。もし話したら、俺たちが引き起こしたことに巻き込むことになってしまう。そう思うと、やはり話すわけにはいかないという気持ちが強くなった。だが……それと同時に、俺の心は何故だか苦しくなった。
「どうして、俺が何かを隠しているように思えた?」
罪悪感?……いや違う。
「私たちとミーティングしている時も、どこか遠くを見つめている顔をしていたので。」
どうしてこんなに苦しいのだろう。
「……これは、俺の個人的な問題だ。お前たちを巻き込むわけには……。」
すると、ミヨは大きな声でこう叫んだ。
「私たちを……見くびらないでくださいっ!!」
「…………!!」
資料を床に置き、スタスタとこちらに歩いてくる。
「“幻影の霊”の討伐の際、支部長室は、私たちに単独行動を任せてくれました。私もスバル君も、支部長から信頼されているんだと思って、嬉しかったんです。ああ、私たち、支部長が信用してくれるレベルになれたんだ、と。」
話すその声は、大きくも、震えていた。
「だから私たちは、支部長に身の上話ができたんです。悩みを打ち明けられたんです。でも……今支部長は、あなた自身のことを隠しています。私たちは、信用に値する人物とは違ったんですか? 私たちの勘違いだったんですか? …私たちは、ユンクレア支部の仲間じゃないですか。短い間でも、苦楽をともにしてきたじゃないですか。私たちは…私は、あなたのことをとても信頼しています、だから……」
ミヨの顔を見る。
「私たちのことも……信じてくださいっ!」
ポロポロと、涙が零れていた。
ああ、そうか。俺は、こいつらのことをどこか心の中で、信じていなかったんだ。
相談してもどうしようもない、絶対に解決の手助けができない。
俺たちの因縁に巻き込んでしまう、そういう言い訳を作って、責任逃れをしていたんだ。
……仲間を信用できないなんて、俺は支部長失格だ。
どうして、仲間を泣かせなければいけないのだ。
ふぅ、と一息つく。
「………もしかしたら、お前たちの将来が危ういことになるやもしれない。それくらい危険なんだ。」
「分かっていますよ。支部長が悩むくらいなんですから、天災級の魔物が襲ってきたと言われたって、驚きません。」
「おい………。だがまあ、魔物よりかはたちが悪いかもしれないが、な。」
ミヨが落ちた資料を拾う。…そこで、違和感に気づいた。
「……おい、何こそこそ聞き耳立てているんだ、スバル、フラット。」
「「おわっ!?」」
その声に反応し、スバルとフラットが、ズシャッとずっこける。
「ばれてましたか……。」
「気を隠せ、フラット。スバルはうまく隠せてたぞ。」
「す、すみません。」
フラットは、頭をかく。スバルは、胸の前に拳をぎゅっと突き出す。
「支部長。ミヨさんと同じように、僕も支部長に助けてもらいました。僕も、恩返ししたいんです。それに、ハイルさんに言われたんです。もし、支部長が無茶するようなことがあったら、助けてやってくれって。だから、僕たちにも手伝わせてください。」
ミヨとスバルの顔は、かつて見たそれとはまったく違っていた。俺が来た頃のあいつらは、受動的で、自分から進んで行動に出ることはなかったのに。フラットもそうだ。
……立て直し。その事務的な作業で派遣された、このユンクレア支部。だが、この立て直しという機会がなければ、俺がこいつらと出会うこともなかったのだろう。
「俺は、お前たちのような仲間を持てて幸せだよ。」
「へへっ……。」
スバルは、鼻の下をこする。ミヨも、得意げな顔をした。
「……分かった。皆、もう一度相談スペースに来てくれ。…今、この冒険者ギルドに何が起きているのか、話そう。」
三人は、黙って頷いた。
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