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第三章 冒険者ギルドの宿命 編
25 報い
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長く続く石造りの廊下を、一歩一歩着実に歩みを進めていく。
廊下の両脇を騎士団の面々が固め、物々しい雰囲気になっている。
俺の後ろには、ミヨ、クラム、そしてサクマ本部長が続く。
呼吸を整える。
冒険者ギルド本部へと、直訴に行った時のことを思い出す。
ミヨもまた、頭にあの時の情景を浮かべているのだろうか。
だが、あの時とは違う。
俺は……いや、俺たちは、この二十年をかけて準備してきた。
今こそ、終わらせてやろう。
突き当りにある大きな扉を、両手で押し開ける。
……いざ、特別審判の場へ。
◇
「それでは、特別審判を行う。まず、今回審判を請求したフーガ・ラドカルトよ。証言台に立ち、我らに概要を伝えよ。」
「……はっ。」
議長ミームの指示を受け、証言台の前に立つ。
「全国冒険者協会、冒険者ギルド、ユンクレア支部長フーガ・ラドカルトより、説明いたします。」
すると、向こう側に座るルーフェスが、眉をひそめる。俺の名前に引っ掛かる節でもあるのだろうか。兎に角、続けよう。
「今回、私が審判を請求するのは、他でもない“迷宮溢れ”についてです。」
そうして、前回話したことを一通り話していく。
“迷宮溢れ”……その“魔石”に、人為的に発生させられた跡が見つかったということ。
そして、その跡が“召喚紋”………“召喚秘具”のものであること。
これを、前回声を荒げた貴族、ガメル・マゴーレが黙って聞く。今日は反抗しないのだろうか。
……不気味だ。
説明を終えると、議長ミームはこう問うた。
「では、単刀直入に尋ねよう。今回の“迷宮溢れ”、ガウル帝国の権力者が関わっていると話していたが、そなたは誰が関わっていると考える?」
「それは………ラグレッセ州長ガメル・マゴーレ伯爵と、ガウル帝国騎士団……特に、団長ルーフェス・テルミア大佐です。」
向こう側へと、指差す。俺の言葉に、議場にざわめきが広まる。
だが……やつらは、全く動揺していなかった。
笑みを浮かべながら、ガメルは立ち上がって議長側にある証言台へと向かう。
「では、フーガ殿から疑いをかけられているガメル・マゴーレ伯爵よ、何か発言はあるか?」
「州長。この者の言うことは偽りでかためられています。」
「……説明せよ。」
歩みを進め、証言台に立つ。
「まず第一に、ヤツは“召喚秘具”を使って、“迷宮溢れ”を発生させていると言っていましたが、それには無理がありますな。」
「……どういうことだ?」
「各州長の皆様方がお分かりの通り、あれは確かにこの城に、厳重に保管されています。そして、これを使用することが許されるのは、帝国議会の州長クラスだけ。それで、冒険者制度に対して否定的な考えを持つ私を犯人だと考えたようだが、何も根拠がない!」
ダンッ、と証言台を叩く。ヤツの顔は、自信に満ち溢れていた。
だが……。
「いえ、根拠はありますよ。」
「……何だと?」
議長ミームの下へと向かい、一つ目の資料を提示する。そして、それが“投影”によって、全席に映し出される。それに、ガメルは食いついた。
「…こっ、これがなぜ、お前のところにっ!?」
映し出されるそれは、“マゴーレ州の会計報告書”。
「私は、冒険者ギルド本部で、経理部長を務めていたことがありましてね。これはその時に手に入れた資料です。“引き出し”の欄に記載されている、この1000000マニーという値。しかも、これと同じ金額が、数か月に渡って何度も振り込まれているのが、お分かりになられるかと思います。差出元は記載されていませんでしたがね。」
「ま、待てっ!! 何故貴様がこの資料を持って……いや、この資料はニセモノ…そう、ニセモノだ! こいつが私にありもしない罪を着せるために作り上げた証拠だ!!」
恥じらいもなく、そう言い切ってみせる。……はあ。
「いえ、これは間違いなく本物ですよ。」
「……証明できるか?」
「ええ、議長。各州長の皆様も、この報告書の右上に記載のある“番号”をご覧ください。」
皆、目を移す。そこには、三桁の番号が書かれていた。
「これは、ガウル帝国内の金融資産を管理するための識別番号……つまり、住所みたいなものです。一桁目の数字が、取引対象が個人なのか組織なのかを表し、二桁目が州を、三桁目が身分を表します。この紙の場合、“124”ですね。1は、“個人”、2は、“ラグレッセ州”、4は序列四等、“伯爵位”。……もうお分かりですね? ラグレッセ州に伯爵位の人間は一人しかいない。つまり、これは間違いなくガメル・マゴーレ、あんたのものだ!」
俺の畳みかけに怯む。だが、反論するためなのか、再び口を開こうとした。
「番号を偽っている……とは言わせませんよ。この国において、金融財産に関する資料の偽造は、投獄され、奇跡的に出られたとしても、三十年間の重労働が義務付けられる、重罪だ。それに、これにはちゃんと偽造防止のための仕掛けが施されています。だから、複製も編集も不可能なんですよ。」
言葉にならない声で呻く。だが……腕の力を使って、しぶとく証言台へと立つ
「……だが、それが何だというのだ。金の動きが、“召喚秘具”とどう関係する?」
全ては分からんだろうとばかりに、苦し紛れにそう言ってのける。ヤツの顔は、尋常ではないほどの汗に覆われていた。
……言わないと分からないのか。
「この1000000マニーという大金、この振込元と関係しています。苦労しましたよ。何せ、ガウル帝国の資産のやり取りは暗号化されていましてね、秘匿性が高いんですよ。」
「そうだ! そうだろう!! だから、私が関与したという証拠はないっ!!」
ここぞとばかりに叫び散らす。まるで、廃人のように。
「ですから、教えてもらいました。このシステムの開発者に。」
「………………!!!???」
あまりの衝撃に、とんでもない顔になる。
…仕方がない。この手は使いたくなかったのだが。
俺の後ろから、そいつが姿を見せる。その背の高さを補うように、証言台に小さな台を置く。
「き、貴様はっ……クラム・アテレーゼ!??」
クラムは、ニイッ、と笑顔を見せる。
……さっきもいたんだが、気づかなかったのだろうか。
「この国で使われている金融管理システムは、この僕…クラム・アテレーゼが作ったものさ。元々は、僕の商会の売り上げとかを管理するためのシステムだったんだけどね。それを何年か前の財務卿に頼まれてね、改良して技術提供したの。まあ、仕組み自体は、僕は簡単だと思うんだけどね。」
クラムは、そう言って古代言語を唱える。
俺たち一般人には全くもって意味がが分からない、エルフだけしか知りえない言葉。
「“古代の叡智”。その暗号は複雑のようで、単純だった。何故なら、このシステムはあくまでも人に対する匿名性を高めるために作られている。言い換えれば、エルフになら分かる言語で構築されているということだ。」
この口座情報を手に入れたのは、クラムと再会する前だった。資金の流れはつかんではいたが、この暗号文だけはどうしても解けなかった。
だが……あいつが、クラムがユンクレア支部に来た日、あいつが作った料理を食べながら、その言葉が頭に浮かんだ。
“シンプルが一番、だって分かりいいからね。”
クラムの座右の銘。それが、報告書の透かしに使われていた。
だから、ピンときた。
もしかしたら、クラムが開発に携わったのではないか、と。
結果的に読みは当たっていたわけだが。
クラムは、いつにもなく不機嫌な雰囲気を纏い、ガメルへと詰め寄る。
「そして、一つだけ忠告しておくと、このシステムの権利は未だに僕が保有している。ガウル帝国に於いて作られたものは、作成者による権利の保護が、何年か続くことが法律で定められているからね。だから、僕が暗号を暴いても怒られない。ま、元々そんな権利を行使するつもりはなかったんだけどね。覚えていないとは言わせないよ? 前財務卿……ガメル・マゴーレ。まさかシステムの秘匿性の高さを、裏金のために悪用するなんてね。」
「あんたが採用した金融システム、それを絶対に安全だと信用仕切ったのが、間違いだったな。」
その言葉に、ビクッと体を震わせる。そして、白目を向いて、そのまま崩れ落ちた。
最早、勝敗は決していた。だが……まだ、全てが終わったわけではない。
「……そして、この振込元も意外なところだった。」
ヤツの下へと、歩みを進める。
「それは……ガウル帝国騎士団団長、ルーフェス・テルミア、あんただ。」
ビシッと、指を指す。団長ルーフェスは驚きつつも、不敵な笑みを浮かべていた。
廊下の両脇を騎士団の面々が固め、物々しい雰囲気になっている。
俺の後ろには、ミヨ、クラム、そしてサクマ本部長が続く。
呼吸を整える。
冒険者ギルド本部へと、直訴に行った時のことを思い出す。
ミヨもまた、頭にあの時の情景を浮かべているのだろうか。
だが、あの時とは違う。
俺は……いや、俺たちは、この二十年をかけて準備してきた。
今こそ、終わらせてやろう。
突き当りにある大きな扉を、両手で押し開ける。
……いざ、特別審判の場へ。
◇
「それでは、特別審判を行う。まず、今回審判を請求したフーガ・ラドカルトよ。証言台に立ち、我らに概要を伝えよ。」
「……はっ。」
議長ミームの指示を受け、証言台の前に立つ。
「全国冒険者協会、冒険者ギルド、ユンクレア支部長フーガ・ラドカルトより、説明いたします。」
すると、向こう側に座るルーフェスが、眉をひそめる。俺の名前に引っ掛かる節でもあるのだろうか。兎に角、続けよう。
「今回、私が審判を請求するのは、他でもない“迷宮溢れ”についてです。」
そうして、前回話したことを一通り話していく。
“迷宮溢れ”……その“魔石”に、人為的に発生させられた跡が見つかったということ。
そして、その跡が“召喚紋”………“召喚秘具”のものであること。
これを、前回声を荒げた貴族、ガメル・マゴーレが黙って聞く。今日は反抗しないのだろうか。
……不気味だ。
説明を終えると、議長ミームはこう問うた。
「では、単刀直入に尋ねよう。今回の“迷宮溢れ”、ガウル帝国の権力者が関わっていると話していたが、そなたは誰が関わっていると考える?」
「それは………ラグレッセ州長ガメル・マゴーレ伯爵と、ガウル帝国騎士団……特に、団長ルーフェス・テルミア大佐です。」
向こう側へと、指差す。俺の言葉に、議場にざわめきが広まる。
だが……やつらは、全く動揺していなかった。
笑みを浮かべながら、ガメルは立ち上がって議長側にある証言台へと向かう。
「では、フーガ殿から疑いをかけられているガメル・マゴーレ伯爵よ、何か発言はあるか?」
「州長。この者の言うことは偽りでかためられています。」
「……説明せよ。」
歩みを進め、証言台に立つ。
「まず第一に、ヤツは“召喚秘具”を使って、“迷宮溢れ”を発生させていると言っていましたが、それには無理がありますな。」
「……どういうことだ?」
「各州長の皆様方がお分かりの通り、あれは確かにこの城に、厳重に保管されています。そして、これを使用することが許されるのは、帝国議会の州長クラスだけ。それで、冒険者制度に対して否定的な考えを持つ私を犯人だと考えたようだが、何も根拠がない!」
ダンッ、と証言台を叩く。ヤツの顔は、自信に満ち溢れていた。
だが……。
「いえ、根拠はありますよ。」
「……何だと?」
議長ミームの下へと向かい、一つ目の資料を提示する。そして、それが“投影”によって、全席に映し出される。それに、ガメルは食いついた。
「…こっ、これがなぜ、お前のところにっ!?」
映し出されるそれは、“マゴーレ州の会計報告書”。
「私は、冒険者ギルド本部で、経理部長を務めていたことがありましてね。これはその時に手に入れた資料です。“引き出し”の欄に記載されている、この1000000マニーという値。しかも、これと同じ金額が、数か月に渡って何度も振り込まれているのが、お分かりになられるかと思います。差出元は記載されていませんでしたがね。」
「ま、待てっ!! 何故貴様がこの資料を持って……いや、この資料はニセモノ…そう、ニセモノだ! こいつが私にありもしない罪を着せるために作り上げた証拠だ!!」
恥じらいもなく、そう言い切ってみせる。……はあ。
「いえ、これは間違いなく本物ですよ。」
「……証明できるか?」
「ええ、議長。各州長の皆様も、この報告書の右上に記載のある“番号”をご覧ください。」
皆、目を移す。そこには、三桁の番号が書かれていた。
「これは、ガウル帝国内の金融資産を管理するための識別番号……つまり、住所みたいなものです。一桁目の数字が、取引対象が個人なのか組織なのかを表し、二桁目が州を、三桁目が身分を表します。この紙の場合、“124”ですね。1は、“個人”、2は、“ラグレッセ州”、4は序列四等、“伯爵位”。……もうお分かりですね? ラグレッセ州に伯爵位の人間は一人しかいない。つまり、これは間違いなくガメル・マゴーレ、あんたのものだ!」
俺の畳みかけに怯む。だが、反論するためなのか、再び口を開こうとした。
「番号を偽っている……とは言わせませんよ。この国において、金融財産に関する資料の偽造は、投獄され、奇跡的に出られたとしても、三十年間の重労働が義務付けられる、重罪だ。それに、これにはちゃんと偽造防止のための仕掛けが施されています。だから、複製も編集も不可能なんですよ。」
言葉にならない声で呻く。だが……腕の力を使って、しぶとく証言台へと立つ
「……だが、それが何だというのだ。金の動きが、“召喚秘具”とどう関係する?」
全ては分からんだろうとばかりに、苦し紛れにそう言ってのける。ヤツの顔は、尋常ではないほどの汗に覆われていた。
……言わないと分からないのか。
「この1000000マニーという大金、この振込元と関係しています。苦労しましたよ。何せ、ガウル帝国の資産のやり取りは暗号化されていましてね、秘匿性が高いんですよ。」
「そうだ! そうだろう!! だから、私が関与したという証拠はないっ!!」
ここぞとばかりに叫び散らす。まるで、廃人のように。
「ですから、教えてもらいました。このシステムの開発者に。」
「………………!!!???」
あまりの衝撃に、とんでもない顔になる。
…仕方がない。この手は使いたくなかったのだが。
俺の後ろから、そいつが姿を見せる。その背の高さを補うように、証言台に小さな台を置く。
「き、貴様はっ……クラム・アテレーゼ!??」
クラムは、ニイッ、と笑顔を見せる。
……さっきもいたんだが、気づかなかったのだろうか。
「この国で使われている金融管理システムは、この僕…クラム・アテレーゼが作ったものさ。元々は、僕の商会の売り上げとかを管理するためのシステムだったんだけどね。それを何年か前の財務卿に頼まれてね、改良して技術提供したの。まあ、仕組み自体は、僕は簡単だと思うんだけどね。」
クラムは、そう言って古代言語を唱える。
俺たち一般人には全くもって意味がが分からない、エルフだけしか知りえない言葉。
「“古代の叡智”。その暗号は複雑のようで、単純だった。何故なら、このシステムはあくまでも人に対する匿名性を高めるために作られている。言い換えれば、エルフになら分かる言語で構築されているということだ。」
この口座情報を手に入れたのは、クラムと再会する前だった。資金の流れはつかんではいたが、この暗号文だけはどうしても解けなかった。
だが……あいつが、クラムがユンクレア支部に来た日、あいつが作った料理を食べながら、その言葉が頭に浮かんだ。
“シンプルが一番、だって分かりいいからね。”
クラムの座右の銘。それが、報告書の透かしに使われていた。
だから、ピンときた。
もしかしたら、クラムが開発に携わったのではないか、と。
結果的に読みは当たっていたわけだが。
クラムは、いつにもなく不機嫌な雰囲気を纏い、ガメルへと詰め寄る。
「そして、一つだけ忠告しておくと、このシステムの権利は未だに僕が保有している。ガウル帝国に於いて作られたものは、作成者による権利の保護が、何年か続くことが法律で定められているからね。だから、僕が暗号を暴いても怒られない。ま、元々そんな権利を行使するつもりはなかったんだけどね。覚えていないとは言わせないよ? 前財務卿……ガメル・マゴーレ。まさかシステムの秘匿性の高さを、裏金のために悪用するなんてね。」
「あんたが採用した金融システム、それを絶対に安全だと信用仕切ったのが、間違いだったな。」
その言葉に、ビクッと体を震わせる。そして、白目を向いて、そのまま崩れ落ちた。
最早、勝敗は決していた。だが……まだ、全てが終わったわけではない。
「……そして、この振込元も意外なところだった。」
ヤツの下へと、歩みを進める。
「それは……ガウル帝国騎士団団長、ルーフェス・テルミア、あんただ。」
ビシッと、指を指す。団長ルーフェスは驚きつつも、不敵な笑みを浮かべていた。
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