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第一章 ゼイウェンの花 編
10 尾行されたのは
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畑をあとにして数刻。もと来た道を戻って行くと、レーヴの街はすっかり夕焼けの光に照らされ、小暮れていた。その日に照らされ、僕の頭の中は沢山のものがグルグルと回っていた。
「……灯台下暗し、か。」
「…どうしたんですか、突然。」
「いや……何だか、気が抜けちゃってね。」
コールが、疑問符を浮かべた顔になる。気づかないのもしょうがないか。あの婦人は、なかなかの曲者だからね。一筋縄ではいかない………なんて考えていると。
「………クラムさん。」
辺りに分からないよう、コールが小さく呟き、周りに分からないように小さく手振りする。僕らの他に数人歩いている程度の道。人々が行き交う場所では当然視線が飛び交う。しかし………その向こうから注がれるそれだけは、異様だった。
「やっぱり、気が抜けないかなァ。………あの石壁の向こうだね。」
「広場から、ずっと付けてきています。」
「そうだねェ……。」
「どなたでしょう。」
「有力な商人をつぶすように命じられた暗殺者!……とか?」
「冗談でも変なことをおっしゃらないでください。」
はあ、と小さくため息をつかれてしまった。あれ、不発か。
…まあともかく、ずっと付けられているのも気味が悪い。何とかしなきゃな。
「…あ、そうだ。裏路地に用事があるんだったー。」
「そ、そうでしたねー、急がないと怒られてしまいますよー!」
流石コーちゃん、素晴らしい演技だ。自分で言うのもなんだけど、僕の演技力もまだまだおとろえていないな。これでも、騎士学校時代は“演技派”と呼ばれていたからなあ。同級のヤツらは半笑いだったけど。
そう言いながら、左手に見えてきた露店の陰にある、小さな路地に入る。入る瞬間一瞬視線を向けると、予期せぬ動きだったのか、慌てて動いていたのが見えた。
◇
「…………ッ!」
追っ手は、路地で姿を見失った。さっきまで目の前にいたはずの二人がいない。それに気づいた慌てふためきようは……。
「……あれれ、僕らのことが見えなくなったのがそんなにショックだった?」
そう背後から声をかけると、その人物は反射で後ろに飛びのいた。だが…。
「……逃がしませんよ。」
後ろには、護身用の剣を掲げたコールが、退路を阻んでいた。
追っ手は、顔が分からないようにフードを深く被っており、服装も地味なものだった。しかし……。
「……その靴。君は……。」
「…………!!」
指摘すると、フードから少しだけ見える口が強く閉じられるのが分かった。
なるほど、だとすると…。
「………コーちゃん、同業者だ。」
「えっ…………ということは、商人の方!?」
頭を搔きながらそう頷くと、フードを被った人物は警戒心を少し強めた。
「靴。どんな下っ端であっても、身だしなみには気を付けなければならない。コーちゃんには常々言ってるけど、客は僕たち以上に細かいところを見ている。」
少しづつ、フードを被った人物に近づく。
「…服装に気を遣う人物は、少数。特に王族や貴族、商人だね。」
「でも、身分が高い人達が、わざわざ護衛をつけずに出歩くことはほぼあり得ない。だからこの方は………。」
「………商人、でしょ?」
そう、微笑みかける。暫くの沈黙の後、その人物はフードをゆっくりと外した。光を透かす瞳。バサッと現れる、金色の長髪。それは、丁寧に手入れがされているのだろう、伸ばすと美しく先が広がった。その胸元には、確かに“公商紋章”がつけられていた。
「……ね? フーロン商会の…エーナさん。」
彼女……ミナは、僕の問いに小さな笑みで返した。
「……灯台下暗し、か。」
「…どうしたんですか、突然。」
「いや……何だか、気が抜けちゃってね。」
コールが、疑問符を浮かべた顔になる。気づかないのもしょうがないか。あの婦人は、なかなかの曲者だからね。一筋縄ではいかない………なんて考えていると。
「………クラムさん。」
辺りに分からないよう、コールが小さく呟き、周りに分からないように小さく手振りする。僕らの他に数人歩いている程度の道。人々が行き交う場所では当然視線が飛び交う。しかし………その向こうから注がれるそれだけは、異様だった。
「やっぱり、気が抜けないかなァ。………あの石壁の向こうだね。」
「広場から、ずっと付けてきています。」
「そうだねェ……。」
「どなたでしょう。」
「有力な商人をつぶすように命じられた暗殺者!……とか?」
「冗談でも変なことをおっしゃらないでください。」
はあ、と小さくため息をつかれてしまった。あれ、不発か。
…まあともかく、ずっと付けられているのも気味が悪い。何とかしなきゃな。
「…あ、そうだ。裏路地に用事があるんだったー。」
「そ、そうでしたねー、急がないと怒られてしまいますよー!」
流石コーちゃん、素晴らしい演技だ。自分で言うのもなんだけど、僕の演技力もまだまだおとろえていないな。これでも、騎士学校時代は“演技派”と呼ばれていたからなあ。同級のヤツらは半笑いだったけど。
そう言いながら、左手に見えてきた露店の陰にある、小さな路地に入る。入る瞬間一瞬視線を向けると、予期せぬ動きだったのか、慌てて動いていたのが見えた。
◇
「…………ッ!」
追っ手は、路地で姿を見失った。さっきまで目の前にいたはずの二人がいない。それに気づいた慌てふためきようは……。
「……あれれ、僕らのことが見えなくなったのがそんなにショックだった?」
そう背後から声をかけると、その人物は反射で後ろに飛びのいた。だが…。
「……逃がしませんよ。」
後ろには、護身用の剣を掲げたコールが、退路を阻んでいた。
追っ手は、顔が分からないようにフードを深く被っており、服装も地味なものだった。しかし……。
「……その靴。君は……。」
「…………!!」
指摘すると、フードから少しだけ見える口が強く閉じられるのが分かった。
なるほど、だとすると…。
「………コーちゃん、同業者だ。」
「えっ…………ということは、商人の方!?」
頭を搔きながらそう頷くと、フードを被った人物は警戒心を少し強めた。
「靴。どんな下っ端であっても、身だしなみには気を付けなければならない。コーちゃんには常々言ってるけど、客は僕たち以上に細かいところを見ている。」
少しづつ、フードを被った人物に近づく。
「…服装に気を遣う人物は、少数。特に王族や貴族、商人だね。」
「でも、身分が高い人達が、わざわざ護衛をつけずに出歩くことはほぼあり得ない。だからこの方は………。」
「………商人、でしょ?」
そう、微笑みかける。暫くの沈黙の後、その人物はフードをゆっくりと外した。光を透かす瞳。バサッと現れる、金色の長髪。それは、丁寧に手入れがされているのだろう、伸ばすと美しく先が広がった。その胸元には、確かに“公商紋章”がつけられていた。
「……ね? フーロン商会の…エーナさん。」
彼女……ミナは、僕の問いに小さな笑みで返した。
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