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03.女官長-3
「――あら、マハスティが女官長を呼びつけた様子ね」
「先日宝石商から大きな買い物をしていたわ」
「ああ、それで……。女官長に贈り物など意味がないのに」
「そんなことも知らない『孤高の』マハスティ。ふふ……」
後宮内の広間に集まってお喋りに花を咲かせていた妃たちが、廊下を歩くシュルークの姿を見止めた。そして彼女が誰の居室に出入りしたのか、目撃して知らせにきた女奴隷の耳打ちから推測し、昏い笑いを交わしあう。
後宮の女奴隷はもとより、妃たちも継続して皇帝の寵を競う間柄である。心から気を許せる相手など限られるし、それすら裏切られることもある。そんな他人を信じられない環境でも、情報交換などを目的に表向きは交友を深めるのが常だ。しかしマハスティは善良なふりすらできない不器用な女で、表面的な友人もいなかった。そのため『孤高』と揶揄されている。
「それにしても、いつまであの女が居座るのかしら」
「本当に。やりづらくて仕方がないわ」
次の陰口はシュルークへ移った。
公正で情を挟まない仕事ぶりのシュルークは、女官以外の後宮の女たちからあまり好かれていない。
「陛下の子を産んだ私たちを、家畜か何かと思っているに違いないわ」
特に妃たちは、自分こそが皇帝に寵愛されている女、もしくは皇帝の子の母として尊重されるべきと考えている。
しかしシュルークは、妃同士の揉め事は彼女らが法に触れているかだけで裁定し、寵愛の程度や子の有無を考慮しない。彼女たちの価値観を重視しないという態度が反感を買っている。その無情さも相まって、まるで家畜を管理するように妃たちに接していると言われており、かなり受けが悪い。
彼女らにとって都合のいい女官長とは、皇帝からの寵愛などを重視し、賄賂を受け取って柔軟な対応をする、歴代その職にあったような人間である。シュルークとは真逆だが、後宮はそういう場所なのだ。
そうして溜まった女たちの不満は、皇帝に甘えるようにしてそれとなく伝えられる。それを聞いたファルハードがシュルークに命令して、ようやく配慮がなされる。シュルークは、妃たちがファルハードに訴えればするであろう対応を事前にしておくことはない。鈍感ではないので察している。察していながら、越権行為、職務の範囲外として取り合わない、融通の利かない女だ。
「不祥事でも起こして、どこか遠くにでも追放されてしまえばいいのに」
――陛下の御目に入らないほど遠くに。
その続きは、誰も実際に言葉にはしなかった。口にしてしまったら、妃たちがずっと抱いている不安が現実のものになってしまいそうだから。あるいは、屈辱的なそれを事実と認めることになってしまうから。
しばらくシュルークの愛想のなさをさえずったあと、彼女たちは別の話題に移っていった。
「先日宝石商から大きな買い物をしていたわ」
「ああ、それで……。女官長に贈り物など意味がないのに」
「そんなことも知らない『孤高の』マハスティ。ふふ……」
後宮内の広間に集まってお喋りに花を咲かせていた妃たちが、廊下を歩くシュルークの姿を見止めた。そして彼女が誰の居室に出入りしたのか、目撃して知らせにきた女奴隷の耳打ちから推測し、昏い笑いを交わしあう。
後宮の女奴隷はもとより、妃たちも継続して皇帝の寵を競う間柄である。心から気を許せる相手など限られるし、それすら裏切られることもある。そんな他人を信じられない環境でも、情報交換などを目的に表向きは交友を深めるのが常だ。しかしマハスティは善良なふりすらできない不器用な女で、表面的な友人もいなかった。そのため『孤高』と揶揄されている。
「それにしても、いつまであの女が居座るのかしら」
「本当に。やりづらくて仕方がないわ」
次の陰口はシュルークへ移った。
公正で情を挟まない仕事ぶりのシュルークは、女官以外の後宮の女たちからあまり好かれていない。
「陛下の子を産んだ私たちを、家畜か何かと思っているに違いないわ」
特に妃たちは、自分こそが皇帝に寵愛されている女、もしくは皇帝の子の母として尊重されるべきと考えている。
しかしシュルークは、妃同士の揉め事は彼女らが法に触れているかだけで裁定し、寵愛の程度や子の有無を考慮しない。彼女たちの価値観を重視しないという態度が反感を買っている。その無情さも相まって、まるで家畜を管理するように妃たちに接していると言われており、かなり受けが悪い。
彼女らにとって都合のいい女官長とは、皇帝からの寵愛などを重視し、賄賂を受け取って柔軟な対応をする、歴代その職にあったような人間である。シュルークとは真逆だが、後宮はそういう場所なのだ。
そうして溜まった女たちの不満は、皇帝に甘えるようにしてそれとなく伝えられる。それを聞いたファルハードがシュルークに命令して、ようやく配慮がなされる。シュルークは、妃たちがファルハードに訴えればするであろう対応を事前にしておくことはない。鈍感ではないので察している。察していながら、越権行為、職務の範囲外として取り合わない、融通の利かない女だ。
「不祥事でも起こして、どこか遠くにでも追放されてしまえばいいのに」
――陛下の御目に入らないほど遠くに。
その続きは、誰も実際に言葉にはしなかった。口にしてしまったら、妃たちがずっと抱いている不安が現実のものになってしまいそうだから。あるいは、屈辱的なそれを事実と認めることになってしまうから。
しばらくシュルークの愛想のなさをさえずったあと、彼女たちは別の話題に移っていった。
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