【R-18】【完結】皇帝と犬

雲走もそそ

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06.最後の手段-2

「首輪を――」
「不要だ」

 取ってくると言おうとしたのに、遮られた。
 ファルハードの眼差しは、常の冷たさから一転、強く光っていて、身を焦がしそうなほどの熱を宿していた。
 これが何か、シュルークにはわかった。欲情だ。
 ファルハードは、今夜初めてシュルークを抱こうとしている。

(……怖い。怖い……!)

 いつ以来かの恐怖が、シュルークの足を動かした。
 身を翻し、出入り口へ向けて走ろうとする。

「あっ……!」

 しかし走るというには遅鈍に二歩ほど歩いたところで、シュルークの杖と足がもつれた。腱を切られた右足が枷となり、そもそもシュルークは走れない。急げばこのように転んでしまう。
 絨毯の上に倒れ伏し、その拍子に帽子が転がり落ちた。シュルークは帽子は捨て置き、体を起こして杖を探す。

 その背中に、男の影がかかった。這って逃げる前に、肩を掴まれる。
 シュルークは普段見上げるほど上背のあるファルハードが、自分より体格も力も圧倒的に上で、命令せずともこうして力づくで来られればもう逃れられないのだと、今さらながら思い知った。

 掴んだ肩をぐん、と引かれれば、屈んだファルハードが間近へ迫り寄っていた。

「いやっ……!」

 もしかすると『身に覚えのある恐怖』が、いつも何でも冷静に対処してきたシュルークの頭をめちゃくちゃにして、恐慌状態へ陥らせていた。
 主君への抵抗。それが許されないということは忘れて、シュルークは必死に暴れた。だが腕を掴まれ、脚を膝で跨がれて、それも叶わなくなる。

「いやっ、いやぁ!」

 なんでもいいから、この怖くて痛いことから逃れたい。
 その混乱を打ち切らせたのは、ファルハードの鋭い声だった。

「思い出したのか!?」
「……え?」

 気がつけば、シュルークは恐怖のあまり泣いていた。涙で滲んだ視界の向こう、間近のファルハードがシュルークを真剣な目で見つめている。
 どういう意味なのか。もしかしてやめてもらえるのか。疑問が脳内を駆け巡る。
 その時、寝室の扉が叩かれた。

「陛下、何事ですか! 陛下! 女官長!」

 部屋の前の近衛兵たちだ。シュルークの悲鳴を聞きつけたのだ。

「構うな!」

 ファルハードの声が届き、廊下は静かになる。近衛兵はシュルークに何かあったとしても、ファルハードの意思であれば当然助けに来ない。

「思い出したのか」

 もう一度、落ち着いて尋ねられて、帝国へ来る前のことかと思い至った。

「祖国での、ことでしょうか」
「そうだ。思い出したか。私がどう見える」
「お、思い出して、いません。陛下が、どう見える、とは……」

 なぜ今それを尋ねたのか。続いた問いの意味は何なのか。
 しかしファルハードは、シュルークの答えが望んだものではなかったようだ。どこか切実さすらあった琥珀色の瞳に、落胆の陰りが差した。

 ファルハードがそれを振り払うかのように目を逸らしたかと思えば、シュルークは仰向けに押し倒されていた。

「う……」

 後ろへ纏め上げていた髪が、ぐしゃりと乱れる感触。
感想 2

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