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12.放棄-3
「あッ……!」
庇っていた頭や胴は狙われなかった。代わりに、将軍の方へ残されていた足が犠牲になった。
痛みを感じながらも、何が起きたのかまだ理解していないシュルークは、恐る恐る振り返る。
そして半長靴の、右の足首の少し上から血が滲み始めたのを見止めた。
「あ、ああ……!」
もう行き場はないのに、シュルークはまだ逃れようと足掻いている。だが、切られた足の動きがおかしい。怯えていることを抜きにしても、左足と明らかに違う。
そこでファルハードは、シュルークが右足の腱を切られたのだと気がついた。
将軍は比較的軽いその一太刀だけで気が済んだのか、剣の血を払って彼女に背を向けた。
「男を裸にして侍らすような女だと知れては、最早使いようがない。この恥さらしが……。帝国の皇子と二人、次の蔓草の曜日に反逆罪で処刑する」
シュルークと、そしてファルハードも息を呑んだ。
将軍は娘への仕置きに気が済んだのではない。足の腱を切ってこれ以上勝手ができないようにしたうえで、公式に処刑することに決めたのだ。
「そんな……」
「刑場への申請は私が行う。刑場の牢への移送は刑の直前にする。ひとまずそちらの牢へ放り込んでおけ。鍵は――」
呆然と父の背中を見つめる娘に、将軍は振り返りもせず部下たちに指示を始めた。
壁にかかった鍵束を見て、向かいの牢と地上への扉の鍵しかないことを確認したようだ。ファルハードの牢の鍵は、シュルークが先ほど隠した。
「見張りから聞きそびれたか……。合鍵を使う。探さずともよい」
尋問された、もう生死すら分からない見張りの兵士は、シュルークに鍵を渡したことはまだ話していなかったようだ。
将軍は牢の中に転がされているファルハードを見下ろすと、ガン、と鉄格子を蹴りつけた。
「忌々しい……。ここに鍵が無くて幸運だったな、帝国の皇子よ。貴様の残りの指も削ぎ落してやりたいと考えていたところだ。公開処刑を楽しみに待っていろ」
話せない代わりに、ファルハードは将軍を睨みつけた。将軍はそれを虚勢と捉えたらしく、鼻で笑って踵を返す。
「あの見張りの首は見せしめとして裏庭に晒しておけ。それから、あれの『処刑の準備』をしておけ。直前に移送するからには、看守に任せずこちらで済ませておく必要がある」
「それは……」
「よろしいんですか?」
将軍が顎でしゃくって指し示したのは、まだ隅で震えているシュルークだった。その指示に、なぜか兵士の一人だけ口の端を歪めて笑い、他の二人は苦い表情を浮かべる。
「余計な情を……。まあいい。そのために傭兵のお前を連れてきたのだ。お前がやれ」
「了解です」
にやにやと笑う砕けた口調の兵士一人を残し、将軍と他の兵士は階段を上がって地下牢から出ていった。
それを見送った男は、装備を外しながらシュルークの方へ歩き出した。
よく見れば、男は異国の人間のようだ。顔立ちがこの国や帝国の人間と少し違う。日に焼けた肌と明るい金髪で、かなり体格がいい。
「いやー、戦場から戻ってすぐこんなご褒美が待ってるとはなぁ。他の二人は遠慮して勿体ねぇ。まぁ、この屋敷の私兵だったこともあるって話だったから、ガキの頃から仕えたお嬢様は手にかけられないって心情も理解はできるか」
すぐ傍へしゃがんだ男に、シュルークは目に涙を溜めて怯えを見せた。まだ彼女は、自分の身に何が起こるか、知らないのだ。
「変わった伝承だよなぁ。処女は殺しちゃならないから、前もって犯しておくなんてよ」
将軍の口にした『処刑の準備』とは、そのことだった。
庇っていた頭や胴は狙われなかった。代わりに、将軍の方へ残されていた足が犠牲になった。
痛みを感じながらも、何が起きたのかまだ理解していないシュルークは、恐る恐る振り返る。
そして半長靴の、右の足首の少し上から血が滲み始めたのを見止めた。
「あ、ああ……!」
もう行き場はないのに、シュルークはまだ逃れようと足掻いている。だが、切られた足の動きがおかしい。怯えていることを抜きにしても、左足と明らかに違う。
そこでファルハードは、シュルークが右足の腱を切られたのだと気がついた。
将軍は比較的軽いその一太刀だけで気が済んだのか、剣の血を払って彼女に背を向けた。
「男を裸にして侍らすような女だと知れては、最早使いようがない。この恥さらしが……。帝国の皇子と二人、次の蔓草の曜日に反逆罪で処刑する」
シュルークと、そしてファルハードも息を呑んだ。
将軍は娘への仕置きに気が済んだのではない。足の腱を切ってこれ以上勝手ができないようにしたうえで、公式に処刑することに決めたのだ。
「そんな……」
「刑場への申請は私が行う。刑場の牢への移送は刑の直前にする。ひとまずそちらの牢へ放り込んでおけ。鍵は――」
呆然と父の背中を見つめる娘に、将軍は振り返りもせず部下たちに指示を始めた。
壁にかかった鍵束を見て、向かいの牢と地上への扉の鍵しかないことを確認したようだ。ファルハードの牢の鍵は、シュルークが先ほど隠した。
「見張りから聞きそびれたか……。合鍵を使う。探さずともよい」
尋問された、もう生死すら分からない見張りの兵士は、シュルークに鍵を渡したことはまだ話していなかったようだ。
将軍は牢の中に転がされているファルハードを見下ろすと、ガン、と鉄格子を蹴りつけた。
「忌々しい……。ここに鍵が無くて幸運だったな、帝国の皇子よ。貴様の残りの指も削ぎ落してやりたいと考えていたところだ。公開処刑を楽しみに待っていろ」
話せない代わりに、ファルハードは将軍を睨みつけた。将軍はそれを虚勢と捉えたらしく、鼻で笑って踵を返す。
「あの見張りの首は見せしめとして裏庭に晒しておけ。それから、あれの『処刑の準備』をしておけ。直前に移送するからには、看守に任せずこちらで済ませておく必要がある」
「それは……」
「よろしいんですか?」
将軍が顎でしゃくって指し示したのは、まだ隅で震えているシュルークだった。その指示に、なぜか兵士の一人だけ口の端を歪めて笑い、他の二人は苦い表情を浮かべる。
「余計な情を……。まあいい。そのために傭兵のお前を連れてきたのだ。お前がやれ」
「了解です」
にやにやと笑う砕けた口調の兵士一人を残し、将軍と他の兵士は階段を上がって地下牢から出ていった。
それを見送った男は、装備を外しながらシュルークの方へ歩き出した。
よく見れば、男は異国の人間のようだ。顔立ちがこの国や帝国の人間と少し違う。日に焼けた肌と明るい金髪で、かなり体格がいい。
「いやー、戦場から戻ってすぐこんなご褒美が待ってるとはなぁ。他の二人は遠慮して勿体ねぇ。まぁ、この屋敷の私兵だったこともあるって話だったから、ガキの頃から仕えたお嬢様は手にかけられないって心情も理解はできるか」
すぐ傍へしゃがんだ男に、シュルークは目に涙を溜めて怯えを見せた。まだ彼女は、自分の身に何が起こるか、知らないのだ。
「変わった伝承だよなぁ。処女は殺しちゃならないから、前もって犯しておくなんてよ」
将軍の口にした『処刑の準備』とは、そのことだった。
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