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14.脱出-2
そうして二人が地下牢の冷たい地面の上で終わりへの時間を過ごしていると、前室の高い位置の窓から喧騒が聞こえてきた。将軍たちが乗り込んできたあとは、いつの間にか静かになっていたのに、また何かが起きるのか。
繋いだシュルークの手に、怯えるように力がこもった。
剣を交わすような高い金属音が裏庭から響いてくる。
とその時、階段の上の裏庭へ出る鉄扉が開かれる音がした。
身構える代わりにシュルークが震えながら身を丸める。
「殿下!」
だが、階段を駆け下りてきたのは、ファルハードの配下であるシャーヤールだった。血に濡れた剣を手にし、額や肩などを負傷し流血している。
「シャーヤール! 鍵はそこの壁の隙間だ!」
まだ先だったはずの救出計画を変更し無理に押し入ってきたと推測されるが、だめ元の捨て身なのか、勝算はあってのことなのか。
それを考えたり聞いている暇はない。ファルハードはシュルークが土の壁に隠した鍵の場所をシャーヤールに示した。
シャーヤールはすかさず鍵を見つけ出し、ファルハードの牢を開錠する。外の喧騒はまだ続いている。彼一人ではなく、何人かは味方がいるようだ。
「助かった」
「お急ぎください、殿下!」
牢から這い出ると、シャーヤールに男物の服を渡された。脚衣はないがあっても着ている暇はない。ファルハードは迅速に長い上着に袖を通す。
その短い間に、シャーヤールは階段の上を警戒しながら、早口に状況を説明した。
「地上へ出てすぐ屋敷の正門まで走ってください。門は他の仲間が抑えに向かっております。屋敷を出て右に馬を用意しておりますので、それで都の門を出て、南西にしばらく行けば帝国軍と合流できます。軍勢は遠いため、都の門はまだ開いております」
帯を雑に結び、鞘に収まった剣を受け取る。
「急遽計画を変更したため、今お伝えした流れに確証はございません。命があれば私が最後までご案内します。都の中では私が倒れても他の仲間が継ぎ、最短の道を案内いたします」
「わかった」
「……殿下」
前室で屈んだファルハードの肩を、シャーヤールが掴んだ。まるで何かを制止するかのような挙動だった。
そこでファルハードは、自分が当然のようにシュルークを助け起こそうとしていたことに気づいた。
「人ひとりを抱えてゆく余裕はございません」
その通りだ。シュルークに走ることはおろか、立つ力も残っていないだろう。抱えては走れない。ファルハードを逃がすために、今も裏庭や屋敷の門の付近で配下が命懸けで戦っている。シャーヤールも負傷して血まみれだ。
「お早く!」
腕を引くようにして無理矢理立たされ、声に追われれば、考える前に足は出口へ向かう。行かなければならない。急がなければ、皆の犠牲が無駄になる。
「ぁ……」
階段へ足をかけながらも、最後にファルハードは振り返ってしまった。
背後から、か細い掠れた声が聞こえた気がしたのだ。
シュルークは倒れたまま、ファルハードに向けて手を伸ばしていた。もう涙は枯れていたはずの青い瞳が、また濡れている。
「殿下!」
「くっ……!」
シャーヤールに急かされ、ファルハードはシュルークの視線を振り払って階段を上っていった。
ファルハードは生きて彼らの貢献に報いなければならない。
――待って、行かないで!
シュルークが愛犬を呼んでいる。しかし今の彼女にこのような大きな声は出せない。幻聴だ。
階段を駆け上がるファルハードの背中を、幻がいつまでも追いかけてきた。
繋いだシュルークの手に、怯えるように力がこもった。
剣を交わすような高い金属音が裏庭から響いてくる。
とその時、階段の上の裏庭へ出る鉄扉が開かれる音がした。
身構える代わりにシュルークが震えながら身を丸める。
「殿下!」
だが、階段を駆け下りてきたのは、ファルハードの配下であるシャーヤールだった。血に濡れた剣を手にし、額や肩などを負傷し流血している。
「シャーヤール! 鍵はそこの壁の隙間だ!」
まだ先だったはずの救出計画を変更し無理に押し入ってきたと推測されるが、だめ元の捨て身なのか、勝算はあってのことなのか。
それを考えたり聞いている暇はない。ファルハードはシュルークが土の壁に隠した鍵の場所をシャーヤールに示した。
シャーヤールはすかさず鍵を見つけ出し、ファルハードの牢を開錠する。外の喧騒はまだ続いている。彼一人ではなく、何人かは味方がいるようだ。
「助かった」
「お急ぎください、殿下!」
牢から這い出ると、シャーヤールに男物の服を渡された。脚衣はないがあっても着ている暇はない。ファルハードは迅速に長い上着に袖を通す。
その短い間に、シャーヤールは階段の上を警戒しながら、早口に状況を説明した。
「地上へ出てすぐ屋敷の正門まで走ってください。門は他の仲間が抑えに向かっております。屋敷を出て右に馬を用意しておりますので、それで都の門を出て、南西にしばらく行けば帝国軍と合流できます。軍勢は遠いため、都の門はまだ開いております」
帯を雑に結び、鞘に収まった剣を受け取る。
「急遽計画を変更したため、今お伝えした流れに確証はございません。命があれば私が最後までご案内します。都の中では私が倒れても他の仲間が継ぎ、最短の道を案内いたします」
「わかった」
「……殿下」
前室で屈んだファルハードの肩を、シャーヤールが掴んだ。まるで何かを制止するかのような挙動だった。
そこでファルハードは、自分が当然のようにシュルークを助け起こそうとしていたことに気づいた。
「人ひとりを抱えてゆく余裕はございません」
その通りだ。シュルークに走ることはおろか、立つ力も残っていないだろう。抱えては走れない。ファルハードを逃がすために、今も裏庭や屋敷の門の付近で配下が命懸けで戦っている。シャーヤールも負傷して血まみれだ。
「お早く!」
腕を引くようにして無理矢理立たされ、声に追われれば、考える前に足は出口へ向かう。行かなければならない。急がなければ、皆の犠牲が無駄になる。
「ぁ……」
階段へ足をかけながらも、最後にファルハードは振り返ってしまった。
背後から、か細い掠れた声が聞こえた気がしたのだ。
シュルークは倒れたまま、ファルハードに向けて手を伸ばしていた。もう涙は枯れていたはずの青い瞳が、また濡れている。
「殿下!」
「くっ……!」
シャーヤールに急かされ、ファルハードはシュルークの視線を振り払って階段を上っていった。
ファルハードは生きて彼らの貢献に報いなければならない。
――待って、行かないで!
シュルークが愛犬を呼んでいる。しかし今の彼女にこのような大きな声は出せない。幻聴だ。
階段を駆け上がるファルハードの背中を、幻がいつまでも追いかけてきた。
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