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16.待望-3 *
寝室の中に漂う、寝つきを良くする香に紛れた、人の汗と精のにおい。会話はなく、二人の吐息と、女の耐えきれないように漏れる呻きと喘ぎ声だけがある。
「はぁ、あ……っ」
自らの手で裸にさせたシュルークを、ファルハードは寝台の上で静かに暴いていた。
シュルークを凌辱し、彼女に刃を向けた妃とそそのかした妃を処分したファルハードは、その後も度々彼女を寝台へ引き込んだ。これでもう何度目なのかわからないが、シュルークはファルハードの体に馴染み、そしてファルハードも彼女の体の隅々まで知るようになっていた。
今ではシュルークが情交により、その無表情をどう歪ませるのか、穏やかな声をどう掠れさせるのか、よく見聞きして熟知している。
一番初めにシュルークを犯した理由は、彼女の記憶を甦らせるためだった。あの凌辱だけではない。全裸にして首輪を嵌めて犬のように庭で散歩をさせたのも含め、全て同じ理由だ。
シュルークについて相談した占星術師は、当初、時間がまずは解決すると答えたが、彼女は体が回復しても淡々と日々を生きるだけで、記憶の戻る兆しはなかった。時間では、解決できない。
次に占星術師は、失われた記憶の中の重大な出来事、例えば本人の大事な思い出や、記憶を失うに至った事件などを追体験させれば、それをきっかけに思い出すかもしれないと語った。
だからファルハードは、シュルークから受けた仕打ちを彼女に返し始めた。この最中、復讐心があったことは否めない。犬の真似をさせて、一瞬胸のすく思いがした。ところが、指示を淡々とこなし受け入れるだけで、シュルークは過去を思い出すことも、屈辱を感じる様子もなかった。
同じ行動でも、二度目は変化があるだろうか、別の行動はどうか、と繰り返し試した。だが、一切響かず、ファルハードの胸には苦々しさが広がった。
やがて、十代の後半だった二人は二十代の半ばとなった。ファルハードはその間に帝位を継ぎ、多くの妃と子を持った。変わらないのは、シュルークの壊れた内面だけだ。ファルハードの徒労感と焦燥感は、募るばかりであった。
直近でさせた犬の真似である、足を舐めさせる行為。あれは最近になってファルハードが思い出して試したことだった。ファルハードとて欠落なく全てを記憶しているわけではない。
当時のシュルーク曰く、最初の飼い犬が、母を失って虚ろになっていた幼い彼女の足を舐め、目を覚まさせてくれたのだそうだ。最初は無視していた飼い主が、足を舐めればくすぐったがって反応してくれて、犬はそれ以降シュルークが気落ちしている時に足を舐めるようになったという。
――あの子は私を励ますときに足を舐めてくれたわ。……そう、足の甲をそっと舐めてね。
せいぜい口元だけの愛想笑いしかしない現在のシュルークでは、絶対に見せない心からの微笑み。あの日々を思い出して今の彼女の無表情を見ると、苛立ちと喪失感を覚えるのだ。
もう、シュルークにさせられた犬の真似はない。一縷の望みをかけて足を舐めさせたが、結果は同じだった。せめて同じ舐め方でもして、彼女の中には眠っているだけで記憶が残っているのだと思わせてほしかったが、まるで違った。
ファルハードは、シュルークに犬の真似をさせることを諦めた。もう、意味がない。
そうしてファルハードは、やむなく最後の手段を取った。
占星術師の挙げた、過去の追体験の例。ファルハードの知るシュルークの大事な思い出である犬扱いは、効果なく終わった。だからもう一つの例である、記憶を失うに至った事件の追体験へ移ったのだ。
無理に自分を性的に興奮させる香を使って、地下牢でシュルークを凌辱した兵士がしたように、彼女を手酷く犯した。完全に同じとはいかなかったが、これまでの犬の真似と異なり、シュルークは最初に強い怯えを見せた。
ついに、思い出したのかと期待した。ファルハードを犬としか見ない、あの娘に戻ったのかと。だが、単純に女が男に暴行を受ける恐怖によるものだった。最後まで行為を遂げても、それ以外の目立った異変は見受けられなかった。
これで、手詰まりとなった。
思い出さないのなら、もう記憶の有無に固執せず、処刑すべきではないか。生かしていたのは、罪を自覚させるためだった。それはもう叶わないのだから。
昔、何日もかけて下したその決断がまた頭を過った時、ファルハードの背筋を悪寒が走った。そしてすぐに、まだ何か他に手があるかもしれない、まだ平穏の時間が足りていないだけかもしれない、という様々な声が、終わりを先送りにした。
「はぁ、あ……っ」
自らの手で裸にさせたシュルークを、ファルハードは寝台の上で静かに暴いていた。
シュルークを凌辱し、彼女に刃を向けた妃とそそのかした妃を処分したファルハードは、その後も度々彼女を寝台へ引き込んだ。これでもう何度目なのかわからないが、シュルークはファルハードの体に馴染み、そしてファルハードも彼女の体の隅々まで知るようになっていた。
今ではシュルークが情交により、その無表情をどう歪ませるのか、穏やかな声をどう掠れさせるのか、よく見聞きして熟知している。
一番初めにシュルークを犯した理由は、彼女の記憶を甦らせるためだった。あの凌辱だけではない。全裸にして首輪を嵌めて犬のように庭で散歩をさせたのも含め、全て同じ理由だ。
シュルークについて相談した占星術師は、当初、時間がまずは解決すると答えたが、彼女は体が回復しても淡々と日々を生きるだけで、記憶の戻る兆しはなかった。時間では、解決できない。
次に占星術師は、失われた記憶の中の重大な出来事、例えば本人の大事な思い出や、記憶を失うに至った事件などを追体験させれば、それをきっかけに思い出すかもしれないと語った。
だからファルハードは、シュルークから受けた仕打ちを彼女に返し始めた。この最中、復讐心があったことは否めない。犬の真似をさせて、一瞬胸のすく思いがした。ところが、指示を淡々とこなし受け入れるだけで、シュルークは過去を思い出すことも、屈辱を感じる様子もなかった。
同じ行動でも、二度目は変化があるだろうか、別の行動はどうか、と繰り返し試した。だが、一切響かず、ファルハードの胸には苦々しさが広がった。
やがて、十代の後半だった二人は二十代の半ばとなった。ファルハードはその間に帝位を継ぎ、多くの妃と子を持った。変わらないのは、シュルークの壊れた内面だけだ。ファルハードの徒労感と焦燥感は、募るばかりであった。
直近でさせた犬の真似である、足を舐めさせる行為。あれは最近になってファルハードが思い出して試したことだった。ファルハードとて欠落なく全てを記憶しているわけではない。
当時のシュルーク曰く、最初の飼い犬が、母を失って虚ろになっていた幼い彼女の足を舐め、目を覚まさせてくれたのだそうだ。最初は無視していた飼い主が、足を舐めればくすぐったがって反応してくれて、犬はそれ以降シュルークが気落ちしている時に足を舐めるようになったという。
――あの子は私を励ますときに足を舐めてくれたわ。……そう、足の甲をそっと舐めてね。
せいぜい口元だけの愛想笑いしかしない現在のシュルークでは、絶対に見せない心からの微笑み。あの日々を思い出して今の彼女の無表情を見ると、苛立ちと喪失感を覚えるのだ。
もう、シュルークにさせられた犬の真似はない。一縷の望みをかけて足を舐めさせたが、結果は同じだった。せめて同じ舐め方でもして、彼女の中には眠っているだけで記憶が残っているのだと思わせてほしかったが、まるで違った。
ファルハードは、シュルークに犬の真似をさせることを諦めた。もう、意味がない。
そうしてファルハードは、やむなく最後の手段を取った。
占星術師の挙げた、過去の追体験の例。ファルハードの知るシュルークの大事な思い出である犬扱いは、効果なく終わった。だからもう一つの例である、記憶を失うに至った事件の追体験へ移ったのだ。
無理に自分を性的に興奮させる香を使って、地下牢でシュルークを凌辱した兵士がしたように、彼女を手酷く犯した。完全に同じとはいかなかったが、これまでの犬の真似と異なり、シュルークは最初に強い怯えを見せた。
ついに、思い出したのかと期待した。ファルハードを犬としか見ない、あの娘に戻ったのかと。だが、単純に女が男に暴行を受ける恐怖によるものだった。最後まで行為を遂げても、それ以外の目立った異変は見受けられなかった。
これで、手詰まりとなった。
思い出さないのなら、もう記憶の有無に固執せず、処刑すべきではないか。生かしていたのは、罪を自覚させるためだった。それはもう叶わないのだから。
昔、何日もかけて下したその決断がまた頭を過った時、ファルハードの背筋を悪寒が走った。そしてすぐに、まだ何か他に手があるかもしれない、まだ平穏の時間が足りていないだけかもしれない、という様々な声が、終わりを先送りにした。
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