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21.所有者-1
女官長シュルークと夜中に逢引した近衛兵のキアーは、彼女と結婚の約束をして天にも昇る気持ちだった。だが、そこへ同じ近衛のオーランと宦官のサドリが踏み込んできて、皇帝ファルハードが二人を呼んでいると言い渡したのだ。
時間も時間だったからか、キアーとシュルークが引き立てられたのは皇帝の寝室だった。寝台の足元の縁に腰かけ、二人を見下ろす寝間着姿のファルハード。他にはオーランとサドリだけで、キアーたちを挟んでそれぞれ反対側の壁際に立っている。
シュルークと共に平伏し、許しを得て顔を上げたキアーは、吐き気がするほどの緊張を覚えながらファルハードを見上げた。
彼女とは裸で抱き合っていたため、隠れて性交に及んだことは否定しようもない。風紀を乱したとして処罰されるのは間違いなかった。だが、キアーが動揺しているのはそれだけが理由ではない。
ファルハードはシュルークを繰り返し抱くなど、執着があるようだった。いくらシュルーク本人が、自分は平民で自由であり、ファルハードも気にしないと説明してくれても、一時的に気が軽くなるだけだ。後から、主君に背反しているという罪悪感が湧き、肥大化していた。
だが同時に、男としてシュルークに好意を抱くようになったキアーとしては、自分の愛する人を、たとえ主君であっても他の男の元へ向かわせなくてはならない。その嫉妬心は無視できるものではなかった。シュルークには、他の男に抱かれても構わないと言って求婚したが、本心では独占したいと思っていたのだ。
ただ、順序は違うが、求婚は独占のための布石でもあった。
「女官たちを統率する女官長と、私の傍を守る近衛兵。いずれも他の者の手本となる立場のはずだが、此度のことは褒められた行いではないな」
ファルハードの眼差しはいつも通り鋭いが、怒りの色はなかった。口調も冷静に聞こえる。オーランに引き立てられた時は、まさか処刑されるのではないかと最悪の想像をしたキアーであったが、いくらか恐怖は薄れてきていた。
隣のシュルークを横目で窺えば、顔を隠すための帽子の薄布でよく分からないが、口元はいつも通りの気楽にすら見える無表情だ。キアーの思いを受け入れてくれた彼女のためにも、恐れるばかりではなく行動しなくてはならない。
生唾を飲み下したキアーは意を決し、再びファルハードにひれ伏した。
「陛下、どうかお許しください。女官長が……、シュルークが、かつて陛下に償いきれないことをしたと察してはおります。ですが私は、彼女を愛しているのです。たとえ彼女がこれからも皇宮から出られずとも、それを承知で添い遂げたいと思っております」
「この痴れ者に随分と入れ込んでいるようだな」
頭上から降ってくるファルハードの声音には嘲りが乗っていて、痴情のもつれにしてはどこか他人事だった。キアーは馬鹿にされようとも、彼の女に手を出したと認識され不興を買っていないのであれば、むしろ都合がよいと自分を奮い立たせた。
「シュルークは、浮世離れしている部分もあります。ですがそれが全てではありません。彼女も、私との将来を真剣に考えて、求婚を受け入れてくれました!」
シュルークに結婚の約束を取りつけ、可能であれば密かに婚姻まで結んでしまおうとしていたのは、キアーの策略だった。独身ならまだしも法の下に他人の妻となった女であれば、これ以上の醜聞を嫌ってシュルークから手を引いて貰えるのではないか、と。
約束の段階で露見してしまったのは痛手であったが、ファルハードは恐れていたほどは、キアーとシュルークの行為を気にしていない。最初から執着などしていなかったのか、いつの間にか薄れたのか、どちらかはわからないものの、それならこの策略も上手くいくかもしれない。
「……なんだと?」
期待と緊張で背中に汗を滲ませていたキアーは、ファルハードの地の底を這うような声に、思わず顔を上げてしまった。
もうファルハードは、キアーなど見ていない。先ほどまでは冷静だった瞳を怒気で燃え滾らせながら、シュルークを睨みつけていた。
時間も時間だったからか、キアーとシュルークが引き立てられたのは皇帝の寝室だった。寝台の足元の縁に腰かけ、二人を見下ろす寝間着姿のファルハード。他にはオーランとサドリだけで、キアーたちを挟んでそれぞれ反対側の壁際に立っている。
シュルークと共に平伏し、許しを得て顔を上げたキアーは、吐き気がするほどの緊張を覚えながらファルハードを見上げた。
彼女とは裸で抱き合っていたため、隠れて性交に及んだことは否定しようもない。風紀を乱したとして処罰されるのは間違いなかった。だが、キアーが動揺しているのはそれだけが理由ではない。
ファルハードはシュルークを繰り返し抱くなど、執着があるようだった。いくらシュルーク本人が、自分は平民で自由であり、ファルハードも気にしないと説明してくれても、一時的に気が軽くなるだけだ。後から、主君に背反しているという罪悪感が湧き、肥大化していた。
だが同時に、男としてシュルークに好意を抱くようになったキアーとしては、自分の愛する人を、たとえ主君であっても他の男の元へ向かわせなくてはならない。その嫉妬心は無視できるものではなかった。シュルークには、他の男に抱かれても構わないと言って求婚したが、本心では独占したいと思っていたのだ。
ただ、順序は違うが、求婚は独占のための布石でもあった。
「女官たちを統率する女官長と、私の傍を守る近衛兵。いずれも他の者の手本となる立場のはずだが、此度のことは褒められた行いではないな」
ファルハードの眼差しはいつも通り鋭いが、怒りの色はなかった。口調も冷静に聞こえる。オーランに引き立てられた時は、まさか処刑されるのではないかと最悪の想像をしたキアーであったが、いくらか恐怖は薄れてきていた。
隣のシュルークを横目で窺えば、顔を隠すための帽子の薄布でよく分からないが、口元はいつも通りの気楽にすら見える無表情だ。キアーの思いを受け入れてくれた彼女のためにも、恐れるばかりではなく行動しなくてはならない。
生唾を飲み下したキアーは意を決し、再びファルハードにひれ伏した。
「陛下、どうかお許しください。女官長が……、シュルークが、かつて陛下に償いきれないことをしたと察してはおります。ですが私は、彼女を愛しているのです。たとえ彼女がこれからも皇宮から出られずとも、それを承知で添い遂げたいと思っております」
「この痴れ者に随分と入れ込んでいるようだな」
頭上から降ってくるファルハードの声音には嘲りが乗っていて、痴情のもつれにしてはどこか他人事だった。キアーは馬鹿にされようとも、彼の女に手を出したと認識され不興を買っていないのであれば、むしろ都合がよいと自分を奮い立たせた。
「シュルークは、浮世離れしている部分もあります。ですがそれが全てではありません。彼女も、私との将来を真剣に考えて、求婚を受け入れてくれました!」
シュルークに結婚の約束を取りつけ、可能であれば密かに婚姻まで結んでしまおうとしていたのは、キアーの策略だった。独身ならまだしも法の下に他人の妻となった女であれば、これ以上の醜聞を嫌ってシュルークから手を引いて貰えるのではないか、と。
約束の段階で露見してしまったのは痛手であったが、ファルハードは恐れていたほどは、キアーとシュルークの行為を気にしていない。最初から執着などしていなかったのか、いつの間にか薄れたのか、どちらかはわからないものの、それならこの策略も上手くいくかもしれない。
「……なんだと?」
期待と緊張で背中に汗を滲ませていたキアーは、ファルハードの地の底を這うような声に、思わず顔を上げてしまった。
もうファルハードは、キアーなど見ていない。先ほどまでは冷静だった瞳を怒気で燃え滾らせながら、シュルークを睨みつけていた。
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