【R-18】【完結】皇帝と犬

雲走もそそ

文字の大きさ
71 / 79

21.所有者-1

 女官長シュルークと夜中に逢引した近衛兵のキアーは、彼女と結婚の約束をして天にも昇る気持ちだった。だが、そこへ同じ近衛のオーランと宦官のサドリが踏み込んできて、皇帝ファルハードが二人を呼んでいると言い渡したのだ。
 時間も時間だったからか、キアーとシュルークが引き立てられたのは皇帝の寝室だった。寝台の足元の縁に腰かけ、二人を見下ろす寝間着姿のファルハード。他にはオーランとサドリだけで、キアーたちを挟んでそれぞれ反対側の壁際に立っている。

 シュルークと共に平伏し、許しを得て顔を上げたキアーは、吐き気がするほどの緊張を覚えながらファルハードを見上げた。
 彼女とは裸で抱き合っていたため、隠れて性交に及んだことは否定しようもない。風紀を乱したとして処罰されるのは間違いなかった。だが、キアーが動揺しているのはそれだけが理由ではない。

 ファルハードはシュルークを繰り返し抱くなど、執着があるようだった。いくらシュルーク本人が、自分は平民で自由であり、ファルハードも気にしないと説明してくれても、一時的に気が軽くなるだけだ。後から、主君に背反しているという罪悪感が湧き、肥大化していた。
 だが同時に、男としてシュルークに好意を抱くようになったキアーとしては、自分の愛する人を、たとえ主君であっても他の男の元へ向かわせなくてはならない。その嫉妬心は無視できるものではなかった。シュルークには、他の男に抱かれても構わないと言って求婚したが、本心では独占したいと思っていたのだ。
 ただ、順序は違うが、求婚は独占のための布石でもあった。

「女官たちを統率する女官長と、私の傍を守る近衛兵。いずれも他の者の手本となる立場のはずだが、此度のことは褒められた行いではないな」

 ファルハードの眼差しはいつも通り鋭いが、怒りの色はなかった。口調も冷静に聞こえる。オーランに引き立てられた時は、まさか処刑されるのではないかと最悪の想像をしたキアーであったが、いくらか恐怖は薄れてきていた。
 隣のシュルークを横目で窺えば、顔を隠すための帽子の薄布でよく分からないが、口元はいつも通りの気楽にすら見える無表情だ。キアーの思いを受け入れてくれた彼女のためにも、恐れるばかりではなく行動しなくてはならない。
 生唾を飲み下したキアーは意を決し、再びファルハードにひれ伏した。

「陛下、どうかお許しください。女官長が……、シュルークが、かつて陛下に償いきれないことをしたと察してはおります。ですが私は、彼女を愛しているのです。たとえ彼女がこれからも皇宮から出られずとも、それを承知で添い遂げたいと思っております」
「この痴れ者に随分と入れ込んでいるようだな」

 頭上から降ってくるファルハードの声音には嘲りが乗っていて、痴情のもつれにしてはどこか他人事だった。キアーは馬鹿にされようとも、彼の女に手を出したと認識され不興を買っていないのであれば、むしろ都合がよいと自分を奮い立たせた。

「シュルークは、浮世離れしている部分もあります。ですがそれが全てではありません。彼女も、私との将来を真剣に考えて、求婚を受け入れてくれました!」

 シュルークに結婚の約束を取りつけ、可能であれば密かに婚姻まで結んでしまおうとしていたのは、キアーの策略だった。独身ならまだしも法の下に他人の妻となった女であれば、これ以上の醜聞を嫌ってシュルークから手を引いて貰えるのではないか、と。
 約束の段階で露見してしまったのは痛手であったが、ファルハードは恐れていたほどは、キアーとシュルークの行為を気にしていない。最初から執着などしていなかったのか、いつの間にか薄れたのか、どちらかはわからないものの、それならこの策略も上手くいくかもしれない。

「……なんだと?」

 期待と緊張で背中に汗を滲ませていたキアーは、ファルハードの地の底を這うような声に、思わず顔を上げてしまった。
 もうファルハードは、キアーなど見ていない。先ほどまでは冷静だった瞳を怒気で燃え滾らせながら、シュルークを睨みつけていた。
感想 2

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041