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前編
8.救出-1
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魔力をぶつけて気絶させたはずの男が、すぐに立ち上がった。
額から血を流しながら、倒れ伏すイリスの元までやってくる。
イリスの手の甲に、ダンッと、革靴の足が振り下ろされた。
「いっ、ぎ……!」
強烈な痛みに、まだほとんど動かないはずの体が痙攣する。
叫び声にもならない呻きと滲んだ生理的な涙を見て、男は少し溜飲が下がったのか、最後に踏みにじってから足をどけた。
骨が無事かもわからない左手は、赤く染まってぶるぶる震えている。
「精神魔術の教師っていうから、実戦は大したことないと思って油断してたよ。ルーヘシオンに名を連ねるだけのことはある。防御障壁五枚重ねが吹き飛んじまった。流石だよセンセー。でもお利口じゃあなさそうだ。手足だけここへ置き去りにしたくなけりゃ、大人しくしてな」
そう言いながら男は戸棚をあさり、先ほどイリスが出してきたように新しい注射器を持ってきた。魔力を消す薬の瓶へ針先を入れ、中に薬を満たす。
注射器を片手に、もう一方の手でイリスの襟首を掴むと、まるで拾い上げるように軽々と診察台の上へ引きずり上げた。
すかさず片膝をイリスの胴へ乗せて体重をかける。
「はっ……、ア……!」
イリスは肺を圧迫され息が止まった。
先ほどのように集中して魔力を放つことができない。
「じっとしててねー。ま、動けないだろうけど」
男はワンピースの高い襟を引き裂いて、イリスの首から肩までをあらわにした。
そして首の血管目掛けて注射針を突き刺し、薬液を全量注入する。
「はい、よく我慢できました」
「……かはっ」
男は注射器を捨てて、イリスの上から膝をどけた。
ようやく許された呼吸に喘ぎ、戻った酸素で思考が再開される。
これで、魂が体に馴染んだとしても、イリスは薬が切れるまで魔術を使えない。
今は夜で廊下に人の往来はない。研究室同士は距離があるため、他の教師がこの騒ぎに気付く可能性は低い。イリスは普段から患者を校門まで見送りはしていないので、守衛は一人帰る男を違和感なく通すだろう。その手の鞄の中にイリスが入っているなどとは、疑いもしないはずだ。
何か打つ手や隙はないかと考えを巡らすイリスだったが、黙ってじっと見下ろしていた男と目が合う。
男の視線は、正確にはイリスの目ではなく、むき出しになった肩や胸元に注がれていた。
「やっぱり、ちょっとゆっくりしていこうか」
そう言って笑った男の手は、イリスの服の前立てを腹部の辺りまで無理矢理開いた。
額から血を流しながら、倒れ伏すイリスの元までやってくる。
イリスの手の甲に、ダンッと、革靴の足が振り下ろされた。
「いっ、ぎ……!」
強烈な痛みに、まだほとんど動かないはずの体が痙攣する。
叫び声にもならない呻きと滲んだ生理的な涙を見て、男は少し溜飲が下がったのか、最後に踏みにじってから足をどけた。
骨が無事かもわからない左手は、赤く染まってぶるぶる震えている。
「精神魔術の教師っていうから、実戦は大したことないと思って油断してたよ。ルーヘシオンに名を連ねるだけのことはある。防御障壁五枚重ねが吹き飛んじまった。流石だよセンセー。でもお利口じゃあなさそうだ。手足だけここへ置き去りにしたくなけりゃ、大人しくしてな」
そう言いながら男は戸棚をあさり、先ほどイリスが出してきたように新しい注射器を持ってきた。魔力を消す薬の瓶へ針先を入れ、中に薬を満たす。
注射器を片手に、もう一方の手でイリスの襟首を掴むと、まるで拾い上げるように軽々と診察台の上へ引きずり上げた。
すかさず片膝をイリスの胴へ乗せて体重をかける。
「はっ……、ア……!」
イリスは肺を圧迫され息が止まった。
先ほどのように集中して魔力を放つことができない。
「じっとしててねー。ま、動けないだろうけど」
男はワンピースの高い襟を引き裂いて、イリスの首から肩までをあらわにした。
そして首の血管目掛けて注射針を突き刺し、薬液を全量注入する。
「はい、よく我慢できました」
「……かはっ」
男は注射器を捨てて、イリスの上から膝をどけた。
ようやく許された呼吸に喘ぎ、戻った酸素で思考が再開される。
これで、魂が体に馴染んだとしても、イリスは薬が切れるまで魔術を使えない。
今は夜で廊下に人の往来はない。研究室同士は距離があるため、他の教師がこの騒ぎに気付く可能性は低い。イリスは普段から患者を校門まで見送りはしていないので、守衛は一人帰る男を違和感なく通すだろう。その手の鞄の中にイリスが入っているなどとは、疑いもしないはずだ。
何か打つ手や隙はないかと考えを巡らすイリスだったが、黙ってじっと見下ろしていた男と目が合う。
男の視線は、正確にはイリスの目ではなく、むき出しになった肩や胸元に注がれていた。
「やっぱり、ちょっとゆっくりしていこうか」
そう言って笑った男の手は、イリスの服の前立てを腹部の辺りまで無理矢理開いた。
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