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中編
16.現実との対峙-1
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「次は、回避している現実へ向き合う訓練の話をする」
今日からこの現実との対峙訓練を開始することになっている。それにあたって、アルヴィドはこの訓練の仕組みについて説明した。
「君はセムラクを用いて、外出時には不安や恐怖を受けないようにしている。それから、精神的負荷が大きいと予想されることは、セムラクを使っている最中であっても、避ける癖がついている。避けているものにあえて向き合うことで、その習慣をやめられるようにする」
「……最初の頃、一度だけセムラクを使わずに外へ出ようとしたことがあります。ですが、出る前から震えが止まらなくなって、結局できませんでした」
これからやろうとしている訓練と似た、過去の挑戦とその失敗を説明したつもりだった。
だがアルヴィドはかぶりを振る。
「それは負荷のかけすぎだ。いきなり普通の生活をしようとしたのだろう。溺れた経験のある泳げない人を、海へ放り出すようなものだ。これからする訓練は、底に足の付く安全な池に浸かることから始める。つまり、不安の弱い状況から始めて、徐々に負荷を上げていく」
アルヴィドの言う通り、その日から普通に授業を受けようとしていた。簡単なことから始める、という挑戦はしていない。
「不安になる状況へ向き合ってみると、実際には危険はないのだと理解してくる。不安になることと、危険なことは同一ではない。いくらかは、危険だと思い込んでしまっているだけの状況が含まれている。不安な状況へ向き合い続ければ、それが判断できるようになり、危険ではない状況に不安なく身を置けるようになるだろう。君が意識していなくても、グンナル先生と二人きりになれるのはそういうことだ。だが、回避し続けていると、安全なことがわからず、やみくもに避けたままになる」
グンナルに対しては、弱みを握っているという優位性や、危害を加えられない保証があったためか、男性であるが二人きりになっても問題ない。
「あと、恐ろしい状況へ置かれると、その場にいる限り延々と恐怖が続き、自分を失うのではないかと思うだろう。しかし実際には、人間は慣れていく。長い時間その状況に置かれ続ければ、慣れで恐怖は低減されていく。私の治療でもそうだった」
実は、勤め始めた頃は校長室の訪問を不快に思っていたのだが、いつの間にか大きな精神的負荷がかからないようになっていた。
それはアルヴィドの説明にあるように、慣れてきたということなのだろう。事前にグンナルが安全であると理解しており、かつ、やむを得ず向き合い続けたところ、偶然今回の訓練と似た結果になった。
「こうした訓練を続けていくと、自信がつく。努力をして、少しずつ成功を積み上げ、怖くて避けていたことができるようになるからだ。すると、自分を卑下し、こんな自分には相応しくない、許されないと、これまで遠ざけていたことに触れられるようになる。辛いことを思い出させるわけでもないのに、避けたり、楽しめなくなったりした事があると思う。それらは、自信の喪失が原因の可能性がある。思い当たることはあるか?」
「ベゼルスは……、しばらく遠ざかっています」
昔は部活に入るほど好きで、楽しんでいた。だが、アルヴィドを負かした大会以来、触っていない。私物の盤や駒も捨ててしまった。
「それも、今後の訓練に入れる。これまで避けていたことに、忌避感が薄いものから順に向き合っていく。そうすればいずれは、不安な状況だけでなく、以前は楽しんでいたことも避けなくて済むようになる」
今日からこの現実との対峙訓練を開始することになっている。それにあたって、アルヴィドはこの訓練の仕組みについて説明した。
「君はセムラクを用いて、外出時には不安や恐怖を受けないようにしている。それから、精神的負荷が大きいと予想されることは、セムラクを使っている最中であっても、避ける癖がついている。避けているものにあえて向き合うことで、その習慣をやめられるようにする」
「……最初の頃、一度だけセムラクを使わずに外へ出ようとしたことがあります。ですが、出る前から震えが止まらなくなって、結局できませんでした」
これからやろうとしている訓練と似た、過去の挑戦とその失敗を説明したつもりだった。
だがアルヴィドはかぶりを振る。
「それは負荷のかけすぎだ。いきなり普通の生活をしようとしたのだろう。溺れた経験のある泳げない人を、海へ放り出すようなものだ。これからする訓練は、底に足の付く安全な池に浸かることから始める。つまり、不安の弱い状況から始めて、徐々に負荷を上げていく」
アルヴィドの言う通り、その日から普通に授業を受けようとしていた。簡単なことから始める、という挑戦はしていない。
「不安になる状況へ向き合ってみると、実際には危険はないのだと理解してくる。不安になることと、危険なことは同一ではない。いくらかは、危険だと思い込んでしまっているだけの状況が含まれている。不安な状況へ向き合い続ければ、それが判断できるようになり、危険ではない状況に不安なく身を置けるようになるだろう。君が意識していなくても、グンナル先生と二人きりになれるのはそういうことだ。だが、回避し続けていると、安全なことがわからず、やみくもに避けたままになる」
グンナルに対しては、弱みを握っているという優位性や、危害を加えられない保証があったためか、男性であるが二人きりになっても問題ない。
「あと、恐ろしい状況へ置かれると、その場にいる限り延々と恐怖が続き、自分を失うのではないかと思うだろう。しかし実際には、人間は慣れていく。長い時間その状況に置かれ続ければ、慣れで恐怖は低減されていく。私の治療でもそうだった」
実は、勤め始めた頃は校長室の訪問を不快に思っていたのだが、いつの間にか大きな精神的負荷がかからないようになっていた。
それはアルヴィドの説明にあるように、慣れてきたということなのだろう。事前にグンナルが安全であると理解しており、かつ、やむを得ず向き合い続けたところ、偶然今回の訓練と似た結果になった。
「こうした訓練を続けていくと、自信がつく。努力をして、少しずつ成功を積み上げ、怖くて避けていたことができるようになるからだ。すると、自分を卑下し、こんな自分には相応しくない、許されないと、これまで遠ざけていたことに触れられるようになる。辛いことを思い出させるわけでもないのに、避けたり、楽しめなくなったりした事があると思う。それらは、自信の喪失が原因の可能性がある。思い当たることはあるか?」
「ベゼルスは……、しばらく遠ざかっています」
昔は部活に入るほど好きで、楽しんでいた。だが、アルヴィドを負かした大会以来、触っていない。私物の盤や駒も捨ててしまった。
「それも、今後の訓練に入れる。これまで避けていたことに、忌避感が薄いものから順に向き合っていく。そうすればいずれは、不安な状況だけでなく、以前は楽しんでいたことも避けなくて済むようになる」
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