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中編
19.アルヴィドの地獄-3
しおりを挟む校門の前へ立った瞬間、学校での最も新しい記憶が、目の前に想起された。
ベゼルス大会。敗北。記憶の鏡。
鏡面に映ったのは、狂気すら感じるおぞましい笑みを浮かべる自分が、女生徒を凌辱する光景だった。
法を犯していないことだけしか救いにならないような、最低の人間だと思っていた。だが、その一線も越えてしまっていた。
続く記憶は因果応報としか言いようがない。女生徒の受けた悲惨な記憶を植え付けられ、まるで自らが犯されたような感覚になった。
その植え付けられた記憶は、一番最後に戻った。
この、かつて自分がなぜそこまで惨いことをしたのか理解できない、記憶の大半を失ったアルヴィドに。
門の前で、立っていられなくなり、泣き叫び、嘔吐し、頭を掻きむしってのたうち回った。
人格形成の主要な記憶を失い、もう別人同然になっている。なのに、あの記憶を植え付けられた時の反応は、皮肉なことに以前の自分とよく似ていた。
その後短い学校生活を過ごし、卒業と同時にノイマン家へ養子へ出され、名実ともにエーベルゴート家との縁は切れた。
イリスは、かつてのアルヴィドの手で壊された。
だがアルヴィドも、エーベルゴートの当主と自身の過去の記憶により、壊されていた。
◆
「子供の頃のことを覚えていないというのは、そういうことだったんですか……」
「ああ。弟のことも、ほとんど何も知らない。思い出せない。……学校での記憶からすると、あまり仲は良くなかったのだと思う」
弟はアルヴィドの異常性に気付いており、それで距離を置いていたのかもしれない。
「過去の記憶は、エーベルゴート家にまつわること以外はある。だから、この学校で君にしたことも、全て覚えている。その時自分が何を考えていたかも、何一つ忘れていない」
アルヴィドはそう念押しした。
だが、イリスの気が晴れることはなかった。忘れていない。覚えているだけの、他人の記憶。結局他人事だ。内心は彼の罪ではないと思っているだろう。
急に他人も同然の人生を歩むことになったアルヴィドの苦難は、想像もつかない。それでも、彼がどれほど心身を害されたのかは推測が付く。
イリスは改めてアルヴィドの横顔を見つめた。
学生の頃は綺麗で明るい色合いだった金髪は、傷んで乾き、暗い色に変わったため白髪が目立つ。青い瞳にも昔の輝きはない。下瞼には青黒く濃い隈が変わらず刻まれており、よく眠れていないのだろうと想像される。亡霊のようにやつれ、とてもイリスの一歳上には見えない、異常な年の重ね方。
何も持たない状態で放り出され、残されたのは自分のものではない罪に対する報復の記憶と、それを原因とした男性恐怖症。
この男は、もうイリスが怒りと憎しみをぶつけて意味のある相手ではない。どうせ本人は、自らを十分気の毒な境遇だと思っているだろう。イリスが彼の立場だったらそう感じる。事実、他人事だと述べていた。
自分の罪ではないから謝罪はしない。グンナルの言うように反省もできない。
(なぜ、あなただけ無かったことにできるの?)
かつてのアルヴィドではない。今の彼に怒りを向けても仕方がない。
それでも、イリスの中から怒りは消えてくれなかった。
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