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後編
27.希望-2
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「それにしても本当に残念です。もう恋人がいるとなれば、生徒たちを大人しくさせられると思ったんですが」
「どういう意味ですか?」
聞き返すとカッセルは、生徒はベゼルス部員としか関わりのないアルヴィドに、思わぬ情報を教えてくれた。
「セーデルルンド先生、最近取っつき易くなったでしょう」
「そうなんですか」
治療が進み、現在のイリスはセムラクなしで日中の勤務を行っている。セムラクの使用中はいわゆる心の壁があるような冷たさを感じるので、それがなくなった今は、いくらかは親しみやすくなっていることだろう。
だがアルヴィドは、学校の中ではイリスと特別親しくない同僚という位置づけを守っている。そのためカッセルの言うイリスの変化は初めて知ったふりをした。
「七年生になるともう十八歳ですからね。色々興味が出てきてますよ。同年代は幼く感じてしまうようなませた子からすれば、セーデルルンド先生……二十代半ばぐらい? は程よい年の差で憧れるんでしょう。前は『女史』だなんて裏で呼んで、陰気だ何だって好き勝手言ってたくせに、調子のいい子供たちですよ。恋人がいないか、私に聞いてきてくれって頼むんです。試験前に何を浮かれてるんだか。まぁそれは生徒からだけの依頼じゃないんですが……」
「……まだ、早いと思います」
「へ?」
「あ、いえ……」
とっさに口をついて出た言葉に、アルヴィドは慌てた。
喪服のような装いやセムラクの所為で、イリスの印象は陰鬱さが勝ってしまうが、学生の頃から派手な容姿ではなくとも美人だった。男性から好意を持たれるのも自然なことだ。
しかし、イリスは治療中で、私的な人間関係の構築を再開したばかりだ。友人も、校医のカミラがようやくそうなった程度で、ごく僅かである。恋人などまだ考えもしていないだろう。
他人からその旨働き掛けられるだけでも、相当な負担になると予想された。成人の男女となると遅かれ早かれ性的な関わりも出てくるだろうが、過去の出来事の内容を思えば、イリスはそれに忌避感があるはずだ。
そんな彼女にいきなり恋人は早すぎる。
アルヴィドの失言を、幸いカッセルは勘違いをしてくれた。
「ああ、そうですね。学生の内はまだ早いです。……ノイマン先生がおっしゃると、父親の言葉みたいですね」
アルヴィドも避けてはいるが、稀に窓等に映った自分の顔を見てしまうこともある。確かにとても二十代とは思えない老け具合である。
長年の心労や苦しい生活が祟ったのだろう。だがイリスの方が辛いはずなのに、彼女は年齢相応である。それがまた、自分の方の反応が大げさに思えてしまい、アルヴィドは恥じていた。今さらどうしようもないことだが。
「どういう意味ですか?」
聞き返すとカッセルは、生徒はベゼルス部員としか関わりのないアルヴィドに、思わぬ情報を教えてくれた。
「セーデルルンド先生、最近取っつき易くなったでしょう」
「そうなんですか」
治療が進み、現在のイリスはセムラクなしで日中の勤務を行っている。セムラクの使用中はいわゆる心の壁があるような冷たさを感じるので、それがなくなった今は、いくらかは親しみやすくなっていることだろう。
だがアルヴィドは、学校の中ではイリスと特別親しくない同僚という位置づけを守っている。そのためカッセルの言うイリスの変化は初めて知ったふりをした。
「七年生になるともう十八歳ですからね。色々興味が出てきてますよ。同年代は幼く感じてしまうようなませた子からすれば、セーデルルンド先生……二十代半ばぐらい? は程よい年の差で憧れるんでしょう。前は『女史』だなんて裏で呼んで、陰気だ何だって好き勝手言ってたくせに、調子のいい子供たちですよ。恋人がいないか、私に聞いてきてくれって頼むんです。試験前に何を浮かれてるんだか。まぁそれは生徒からだけの依頼じゃないんですが……」
「……まだ、早いと思います」
「へ?」
「あ、いえ……」
とっさに口をついて出た言葉に、アルヴィドは慌てた。
喪服のような装いやセムラクの所為で、イリスの印象は陰鬱さが勝ってしまうが、学生の頃から派手な容姿ではなくとも美人だった。男性から好意を持たれるのも自然なことだ。
しかし、イリスは治療中で、私的な人間関係の構築を再開したばかりだ。友人も、校医のカミラがようやくそうなった程度で、ごく僅かである。恋人などまだ考えもしていないだろう。
他人からその旨働き掛けられるだけでも、相当な負担になると予想された。成人の男女となると遅かれ早かれ性的な関わりも出てくるだろうが、過去の出来事の内容を思えば、イリスはそれに忌避感があるはずだ。
そんな彼女にいきなり恋人は早すぎる。
アルヴィドの失言を、幸いカッセルは勘違いをしてくれた。
「ああ、そうですね。学生の内はまだ早いです。……ノイマン先生がおっしゃると、父親の言葉みたいですね」
アルヴィドも避けてはいるが、稀に窓等に映った自分の顔を見てしまうこともある。確かにとても二十代とは思えない老け具合である。
長年の心労や苦しい生活が祟ったのだろう。だがイリスの方が辛いはずなのに、彼女は年齢相応である。それがまた、自分の方の反応が大げさに思えてしまい、アルヴィドは恥じていた。今さらどうしようもないことだが。
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