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後編
32.決壊-1
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異変に気付いたイリスは、アルヴィドのシャツの前を手放し、一歩下がろうとする。
だがその前に、イリスの腕を、アルヴィドが掴んだ。逃がさないための力加減だった。
「あっ!」
ぐっと腕を引き寄せられ、体勢を崩す間もなく、強く抱き込まれた。
冷たかった態度に反して、アルヴィドの体温は熱く感じ、密着した彼の胸から響く鼓動の音は、異常に速く大きい。
男性との接触は、まだアルヴィドの手に触れるほどしか練習していない。
「アル――」
眼前にある彼の顔。後頭部にまわった手。名前を呼ぶ口を塞いだのは、アルヴィドの唇だった。
ぬめる何かが口の中へ入ってくる。
「やめて!」
恐怖と混乱の中でも案外力が出て、イリスはアルヴィドの顔を振り払えた。
離れたその顔は、熱に浮かされているように見えた。ぼんやりしつつも光る瞳。浅い呼吸。様子が、おかしい。
イリスの詰問をきっかけに、セムラクが破れたのだ。彼は精神魔術の適性が低い所為で、セムラクを使えたとしても先送りに出来る感情の許容量は僅かなはず。だから高々口論程度でそれを超えてしまった。
今のアルヴィドは、セムラクの障壁が決壊したために、元の何倍にも増幅された感情に呑まれ、正気を失っている。本能、感情、理性、記憶などが頭の中で均衡を保つために必要な、正気という箍が外れている。
「しっかりして!」
アルヴィドは答えずに、腕を固く掴んだまま、イリスを壁際まで追いやった。背後の腰の高さのキャビネットにぶつかる。
信じられないぐらい強い力で押さえ込まれ、再度唇を奪われた。
「う、……ん、ふ、うぐ」
触れ合うという言葉では足りないほど深く、唇と舌で嬲られる。
息ができない。逃げなくては。
イリスは必死にアルヴィドの胸を押し返そうと力を込める。だがまるでびくともしない。
「……んっ、……はぁっ、はあっ」
急に口づけから解放され息苦しさに喘ぐ。
やっと離れてくれたと思ったのもつかの間、アルヴィドはイリスの片膝の裏へ手を入れ、抱え上げた。
「何を……!?」
暴れる間もなく、浮いた体は後ろにあったキャビネットへ座らせられてしまった。
つま先がぎりぎり床に届かない。逃げられない。
アルヴィドの膝を蹴りつけ、足掛かりにして降りようと試みる。
それが読まれていたのか、蹴られないようにアルヴィドの体が両足の間へ割り込んできた。
「いやっ!」
彼の体に押されて、長いスカートが腿まで捲りあがる。
裾を押さえようと伸ばした手を掴まれ、肩も一緒に壁へ押さえつけられた。
「やめて……、やめて……!」
アルヴィドが迫ってきて、イリスは顔を背ける。だが無駄な抵抗で、顎を持って無理矢理前を向かされ、また彼の舌を含まされた。
「んう、ぐ……」
口づけを強制するのとは別の方の手が、イリスのワンピースのボタンを上から順に外していく。両手でそれを邪魔しているというのに、器用に、着実に、服の前が開かれていった。
胸の下までボタンを外すと、手が差し込まれる。素肌をアルヴィドの手が滑っていき、服の肩も抜かれて、上半身がほとんど晒された。
どちらのものかわからない唾液がイリスの口から零れ、胸元へ伝い落ちる。
「はっ、イリス……」
口づけの合間に漏れる、切羽詰まったような低い声。
ここまでされて、分からないはずはない。彼はまた、イリスを犯そうとしている。これでは昔と同じではないのか。
だがその前に、イリスの腕を、アルヴィドが掴んだ。逃がさないための力加減だった。
「あっ!」
ぐっと腕を引き寄せられ、体勢を崩す間もなく、強く抱き込まれた。
冷たかった態度に反して、アルヴィドの体温は熱く感じ、密着した彼の胸から響く鼓動の音は、異常に速く大きい。
男性との接触は、まだアルヴィドの手に触れるほどしか練習していない。
「アル――」
眼前にある彼の顔。後頭部にまわった手。名前を呼ぶ口を塞いだのは、アルヴィドの唇だった。
ぬめる何かが口の中へ入ってくる。
「やめて!」
恐怖と混乱の中でも案外力が出て、イリスはアルヴィドの顔を振り払えた。
離れたその顔は、熱に浮かされているように見えた。ぼんやりしつつも光る瞳。浅い呼吸。様子が、おかしい。
イリスの詰問をきっかけに、セムラクが破れたのだ。彼は精神魔術の適性が低い所為で、セムラクを使えたとしても先送りに出来る感情の許容量は僅かなはず。だから高々口論程度でそれを超えてしまった。
今のアルヴィドは、セムラクの障壁が決壊したために、元の何倍にも増幅された感情に呑まれ、正気を失っている。本能、感情、理性、記憶などが頭の中で均衡を保つために必要な、正気という箍が外れている。
「しっかりして!」
アルヴィドは答えずに、腕を固く掴んだまま、イリスを壁際まで追いやった。背後の腰の高さのキャビネットにぶつかる。
信じられないぐらい強い力で押さえ込まれ、再度唇を奪われた。
「う、……ん、ふ、うぐ」
触れ合うという言葉では足りないほど深く、唇と舌で嬲られる。
息ができない。逃げなくては。
イリスは必死にアルヴィドの胸を押し返そうと力を込める。だがまるでびくともしない。
「……んっ、……はぁっ、はあっ」
急に口づけから解放され息苦しさに喘ぐ。
やっと離れてくれたと思ったのもつかの間、アルヴィドはイリスの片膝の裏へ手を入れ、抱え上げた。
「何を……!?」
暴れる間もなく、浮いた体は後ろにあったキャビネットへ座らせられてしまった。
つま先がぎりぎり床に届かない。逃げられない。
アルヴィドの膝を蹴りつけ、足掛かりにして降りようと試みる。
それが読まれていたのか、蹴られないようにアルヴィドの体が両足の間へ割り込んできた。
「いやっ!」
彼の体に押されて、長いスカートが腿まで捲りあがる。
裾を押さえようと伸ばした手を掴まれ、肩も一緒に壁へ押さえつけられた。
「やめて……、やめて……!」
アルヴィドが迫ってきて、イリスは顔を背ける。だが無駄な抵抗で、顎を持って無理矢理前を向かされ、また彼の舌を含まされた。
「んう、ぐ……」
口づけを強制するのとは別の方の手が、イリスのワンピースのボタンを上から順に外していく。両手でそれを邪魔しているというのに、器用に、着実に、服の前が開かれていった。
胸の下までボタンを外すと、手が差し込まれる。素肌をアルヴィドの手が滑っていき、服の肩も抜かれて、上半身がほとんど晒された。
どちらのものかわからない唾液がイリスの口から零れ、胸元へ伝い落ちる。
「はっ、イリス……」
口づけの合間に漏れる、切羽詰まったような低い声。
ここまでされて、分からないはずはない。彼はまた、イリスを犯そうとしている。これでは昔と同じではないのか。
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