【R-18】【完結】壊された二人の許しと治療

雲走もそそ

文字の大きさ
97 / 114
後編

32.決壊-1

しおりを挟む
 異変に気付いたイリスは、アルヴィドのシャツの前を手放し、一歩下がろうとする。
 だがその前に、イリスの腕を、アルヴィドが掴んだ。逃がさないための力加減だった。

「あっ!」

 ぐっと腕を引き寄せられ、体勢を崩す間もなく、強く抱き込まれた。
 冷たかった態度に反して、アルヴィドの体温は熱く感じ、密着した彼の胸から響く鼓動の音は、異常に速く大きい。
 男性との接触は、まだアルヴィドの手に触れるほどしか練習していない。

「アル――」

 眼前にある彼の顔。後頭部にまわった手。名前を呼ぶ口を塞いだのは、アルヴィドの唇だった。
 ぬめる何かが口の中へ入ってくる。

「やめて!」

 恐怖と混乱の中でも案外力が出て、イリスはアルヴィドの顔を振り払えた。

 離れたその顔は、熱に浮かされているように見えた。ぼんやりしつつも光る瞳。浅い呼吸。様子が、おかしい。
 イリスの詰問をきっかけに、セムラクが破れたのだ。彼は精神魔術の適性が低い所為で、セムラクを使えたとしても先送りに出来る感情の許容量は僅かなはず。だから高々口論程度でそれを超えてしまった。

 今のアルヴィドは、セムラクの障壁が決壊したために、元の何倍にも増幅された感情に呑まれ、正気を失っている。本能、感情、理性、記憶などが頭の中で均衡を保つために必要な、正気という箍が外れている。

「しっかりして!」

 アルヴィドは答えずに、腕を固く掴んだまま、イリスを壁際まで追いやった。背後の腰の高さのキャビネットにぶつかる。

 信じられないぐらい強い力で押さえ込まれ、再度唇を奪われた。

「う、……ん、ふ、うぐ」

 触れ合うという言葉では足りないほど深く、唇と舌で嬲られる。

 息ができない。逃げなくては。
 イリスは必死にアルヴィドの胸を押し返そうと力を込める。だがまるでびくともしない。

「……んっ、……はぁっ、はあっ」

 急に口づけから解放され息苦しさに喘ぐ。
 やっと離れてくれたと思ったのもつかの間、アルヴィドはイリスの片膝の裏へ手を入れ、抱え上げた。

「何を……!?」

 暴れる間もなく、浮いた体は後ろにあったキャビネットへ座らせられてしまった。
 つま先がぎりぎり床に届かない。逃げられない。

 アルヴィドの膝を蹴りつけ、足掛かりにして降りようと試みる。
 それが読まれていたのか、蹴られないようにアルヴィドの体が両足の間へ割り込んできた。

「いやっ!」

 彼の体に押されて、長いスカートが腿まで捲りあがる。
 裾を押さえようと伸ばした手を掴まれ、肩も一緒に壁へ押さえつけられた。

「やめて……、やめて……!」

 アルヴィドが迫ってきて、イリスは顔を背ける。だが無駄な抵抗で、顎を持って無理矢理前を向かされ、また彼の舌を含まされた。

「んう、ぐ……」

 口づけを強制するのとは別の方の手が、イリスのワンピースのボタンを上から順に外していく。両手でそれを邪魔しているというのに、器用に、着実に、服の前が開かれていった。

 胸の下までボタンを外すと、手が差し込まれる。素肌をアルヴィドの手が滑っていき、服の肩も抜かれて、上半身がほとんど晒された。

 どちらのものかわからない唾液がイリスの口から零れ、胸元へ伝い落ちる。

「はっ、イリス……」

 口づけの合間に漏れる、切羽詰まったような低い声。
 ここまでされて、分からないはずはない。彼はまた、イリスを犯そうとしている。これでは昔と同じではないのか。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

メイウッド家の双子の姉妹

柴咲もも
恋愛
シャノンは双子の姉ヴァイオレットと共にこの春社交界にデビューした。美しい姉と違って地味で目立たないシャノンは結婚するつもりなどなかった。それなのに、ある夜、訪れた夜会で見知らぬ男にキスされてしまって…? ※19世紀英国風の世界が舞台のヒストリカル風ロマンス小説(のつもり)です。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...