【R-18】【完結】壊された二人の許しと治療

雲走もそそ

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後編

34.許し-1

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 塔の階段を駆け上がり、校長室の前まで辿りつくと、イリスは扉を叩き入室の許可を求めた。
 すぐに返事があり、肩で息をしながら部屋へ足を踏み入れる。

「先生、アルヴィドはどこですか!」

 室内には、机へ向かうグンナルしかいない。話はもう終わってしまったのかと焦るイリスへ、グンナルは書面を一通差し出した。

「もう出ていった」

 それは、退職の届出書だった。アルヴィド・ノイマンの署名がある。

「そんな……」

 やはりアルヴィドは、本当に出ていくことにしたのだ。

「失礼します!」
「待ちなさい」

 退職届を突き返し、アルヴィドを追いかけるため部屋を出ようとしたイリスを、グンナルは呼び止めた。

「アルヴィドがお前にしたことは聞いた。彼への憐れみや治療への感謝で許す必要はない」

 退職を決めたアルヴィドは、グンナルへつい先刻の自らの行いを告白していったのだ。だからグンナルは、もうアルヴィドを引き止めなかった。
 その顔に、アルヴィドへの軽蔑は見えない。ただ、イリスがこれ以上傷つかないようにと案じ、願う切実な表情だった。

 ここで追いかけない選択が正常なのだろう。
 セムラクが破れたために、アルヴィドの心は暴走した。だがあの行動は彼の判断ではない。
 イリスはもたらされた恐怖を抜きに、その理解だけで彼を既に許している。ベネディクトに蔑まれた通り、どこかおかしいのかもしれない。

 今はイリスを案じてくれているグンナルも、そう思うのだろうか。これまでの心配など無用だった、奇異な存在だと軽蔑し見放すだろうか。
 信頼する人から背を向けられるかもしれない恐怖に、言葉は喉元でわだかまり、涙が勝手に滲んでくる。

「先生……、昔、あんなことのあった私たちが、お互いに愛情を持つのは、許されないことでしょうか……」

 か細くなった声でも確かにグンナルへ届いたようで、彼は息を呑んだ。

 だがそれは一瞬のことで、すぐにこれまでと変わらない真摯な眼差しで頷く。

「止める必要などなかったな。早く行きなさい」

 グンナルが杖を振るって呪文を詠唱すると、戸棚に収まっていた羽根飾りがひとりでにイリスの手の中へ滑り込んできた。一度きり、使用者を数秒浮遊させる効果のある魔法道具だ。
 塔の最上階から飛び下りて地面へ着く前に使用すれば、無傷で着地できる。時間をかけて階段で下りる必要がない。

「あ、ありがとうございます。グンナル先生……!」

 イリスはしっかり頭を下げてから、すぐに校長室の窓から身を投げ出した。

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