魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

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人魚、現る

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スズネたちがパルーナ湖を訪れてから二週間が過ぎたその日、湖の中で発せられた魔力をラーニャが感知した。
そして、それは木の上から湖全体を見渡していたセスリーの眼にも捉えられていた。
ちょうどラーニャの感知魔法に反応があったその時、水中を高速で移動する影があったのだ。


「み…みなさん、水中に何かいます」

「えっ!?魚とかじゃなくて?」

「はい。魚にしては動きが速過ぎます」

「恐らく魔力を発しておるのもそやつじゃ」


突如現れた魔力の存在に対してにわかに慌て出すスズネたちであったが、相手にそれを気取られてはならないと必死にその興奮を抑える。
そして、スズネたちの気配に微妙な変化を感じたマクスウェルは、何かしらの反応があったのだと瞬時に察し、いつ何が起きても対処出来るようにと心を落ち着かせた。


──────── チャプン 。

!? !? !? !? !? !?


「こんにちは、お兄~さん」

「・・・」

「あれ?どうしたの?お兄さん」

「あっ…いえ、突然だったもので驚いてしましました」


驚いた表情を見せたマクスウェル。
それもそのはず、突然水中から女性が顔を出して現れ声を掛けてきたのだ。
一方のスズネたちは別の意味で衝撃を受けていた。
それは、ラーニャが感知した魔力及びセスリーが確認した水中を高速で動く影とマクスウェルの前に現れた人物が別であったからである。


「村の人…じゃないよね。旅の人?」

「ええ…そうです。旅の途中で知人に会うためにトットカ村に立ち寄り、久しぶりに釣りでもしようかなと思いまして」

「へぇ~そうなんだ」

「そういうあなたは ───── 」

「私?私はね~人魚だよ。ほら」


そう言いながら女性が長い髪をかき上げると先端の尖った耳が現れた。
それは目にした誰もが瞬時にヒト族ではないと分かるものであった。
そして、続けて女性が体をくねらせると足先の部分にある大きなヒレを見せたのだった。


「・・・」

「どう?信じてくれた?」

「あっ…はい。何ぶん初めて人魚の方とお会いしたので驚いてしまいました」

「アハハハハ、それはそうだよね。私たち人魚族は滅多に他の種族と関わりを持たないから」


突然現れた人魚に対し強い警戒を見せていたマクスウェルであったが、あまりにもフランクに接してくる人魚を前に呆気に取られてしまう。


「それじゃ~ね。今日は楽しかったよ。また会いましょう」


そう言うと人魚は湖の中へと潜り、ラーニャの感知魔法やセスリーの魔眼でも捉えきれないほどあっという間に湖の奥底へと姿を消したのだった。


─────────────────────────


その日の夜。
一度ホームヘと戻ったスズネたちは今日の出来事を振り返り、明日以降の作戦について話し合いをしていた。


「いたわね・・・人魚」

「いたっすね」

「本当、ビックリしたね」


噂や伝承の類であった人魚を実際に目の当たりにし興奮を通り越して放心状態のスズネたち。
夢か…
幻か…
はたまた狐にでも馬鹿されたか…
絵本の世界でのみその存在と触れ合ってきたスズネたちにとっては、そう思ってしまいそうになるほどの衝撃であった。
しかし、遠く離れた位置から目撃したスズネたちとは違い、ほんの数メートル先にまで接近し会話までしたマクスウェルだけはその存在をリアルに感じていた。


「僕が想像していたものとは全く別物でしたね。あの人魚からは警戒心というものを全く感じませんでした」

「ゆ…油断させるためかもしれませんよ。現にマクスウェルの前に現れた人魚とは別に水中を高速で移動する影もあったわけですから、複数体で襲ってくる可能性も十分に考慮するべきだと思います」

「確かにセスリーの言う通りだね。アルベルさんも何度か話をして仲良くなった上で消息を絶ったわけだし、警戒はしておかないとね」


今回のクエストの依頼人であるニーナから聞いたアルベルの話を踏まえて、スズネたちは改めて人魚への警戒を強めたのだった。


「あと、もしマクスウェルが襲われた時にはどうやって戦うのかも考えとかないとね」

「確かに。足場もない湖の上ではどうしようもないっすよ」

「フフフフフ、それはわっちに任せておけ。わっちの新たな力を見せてやるのじゃ」

「何?何?ラーニャちゃん新しい魔法でも覚えたの?」

「フッフッフッ、まぁ~そんなところじゃ。本番まで楽しみにしておくのじゃ」


詳しいことは分からないが、何か新たな魔法を覚えたようで自信満々な様子のラーニャ。
スズネたちはそれが何なのか気にはなりながらも、ラーニャの言葉に従いその時が来るまで詮索しないことにした。
そして話し合いを進めた結果、相手の行動の意図などが不明であるため明日以降も一先ず今の作戦を続けて人魚側の出方を見ることにしたのだった。

しかし、その翌日・翌々日と人魚はその姿を見せることはなかった。
やはり前回姿を現したのは偶然であったのか ───── 。
スズネたちはそう思い始めていた。


─────────────────────────


人魚に遭遇した日から五日が経ったその日、今日も一人静かに釣りを始めたマクスウェル。
そして、釣り糸を垂らし始めてから一時間が経過した頃、前回と同様に突然水中から人魚が姿を現した。


「また来たんだ。久しぶりだね、お兄さん。もしかして、また私に会いたくて来ちゃった感じ?」

「そ…そうですね。否定は出来ません」

「え~っ、なんか照れちゃうな~」

「人魚という存在を噂や伝承くらいでしか耳にしたことがなかったので、夢や幻か何かなのかと思い確認するために来ました」

「アハハハハ、お兄さん可愛いね。真面目そうだし強そう。でも安心して、ちゃんと実在してるから。ほら、手でも握ってみる?」


ススーッと距離を縮め手を差し伸べる人魚。
最初は戸惑い躊躇していたマクスウェルであったが、怪しまれてはいけないと思いその手を取ったのであった。


「ほらね、ちゃんと実在してるでしょ。それにしてもお兄さんガッチリした手をしてるのね」

「まぁ~旅をする上でいつ何時何が起こるか分かりませんからね。用心のためにも鍛えているんですよ」

「すご~い。やっぱりお兄さん強いんだ。でも、水の中だとどうなんだろうね・・・のお兄さん」


!!!!!


グイッ ────── 。


「うわっ!?」


ドボーーーン ───── 。


どうやらマクスウェルの正体はバレていたようで、その手を掴んだ人魚は女性のそれとは思えないほどの力でマクスウェルを湖へと引きずり込んだ。


「ちょっと、ちょっと、引きずり込まれちゃったわよ」

「早く助けないと」


バシャッ ───── 。

バシャッ ───── 。

バシャッ ───── 。


「アハハハハ、お兄さん大丈夫?ヒト族には水の中は動きづらいでしょ」

「ウッ…プファー」


なんとか掴まれた手を振り解いたマクスウェル。
しかし、一難去ってまた一難。
いつの間にか湖を漂うマクスウェルの周りに十体にもおよぶ人魚が姿を現し、周囲を高速で泳ぎ回っていたのである。


「ヤバいっす。マクスウェルが囲まれてるっすよ」


ヒュンッ ───── 。

ヒュンッ ───── 。

ヒュンッ ───── 。


人魚たちに狙われているマクスウェルを援護するために湖に向けて矢を放つセスリーであったが、高速で移動する人魚たちを捉えることは出来なかった。


「何百年経とうが我々が受けた痛み、そしてこの恨みの念は消えはしない。ヒト族の男・・・しかも冒険者ともなれば八つ裂きでは済まさんぞ!!」


とうとう本性を現した人魚族。
圧倒的に不利な状況下で危機を迎えるマクスウェル。
この絶体絶命のピンチを前に慌てるスズネたちであったが、その中でただ一人冷静に状況を見ながらラーニャは詠唱を唱えるのだった。


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