86 / 200
ザイオン
しおりを挟む
スズネたちの登場により新手が来たのかとセロフトは面倒臭そうにするが、そん背後に立つクロノの存在に気づき歓喜の声を上げる。
「おお~これはこれはクロノ様、まさかご無事だったとは。僕は喜びのあまり身震いが止まりませんよ」
「あ?誰だお前?とりあえず魔族のようだな。ここで何をしている」
「何を?これはまた不思議なことをお聞きになりますね。そんなの再び魔族がこの地を統べるために決まってるじゃないですか」
「俺はそんなことを指示した覚えはないぞ」
「それはそうでしょうね。この計画はザイオン様からの指示ですから」
「ザイオン・・・」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
三年前 ──────── 。
魔王城、宰相執務室。
「お呼びですか~ザイオン様」
「セロフトか。魔王様の様子はどうだ?」
「う~ん。特に変わりはないですかね。これといって何かをしようって感じには見えないです」
「はぁ~、あやつはいったい何を考えているのだ」
「駄目ですよ~。いくら宰相様といえども魔王様を“あやつ”呼ばわりなんてしちゃ~」
クロノは父である先代魔王を打ち倒しその座を手に入れてからというもの一切魔族再興に向けての動きをみせることはなかった。
それは千年前にヒト族に敗れ、大陸の南部へと追いやられた魔族たちにとっては耐え難いものであった。
中でもヒト族撲滅を掲げ邁進していた先代魔王を崇拝し、ヒト族に対して攻勢を掛けるために着々と準備を進めていた勢力の者たちからしては到底納得の出来るものではなかった。
そしてその筆頭とでもいうべき者こそ、我の強い魔族たちを一手にまとめ上げ魔王の右腕ともまで呼ばれた宰相ザイオンであった。
そんなザイオンに呼ばれたセロフトはさっそく用件を尋ねる。
「それで今日は何の用なんですか?」
「セロフト、貴様に行ってもらいたい場所がある」
「え~面倒臭いのは勘弁してくださいよ。それで何処なんです?」
「この地より北東に位置する島。名を“グリーンアイランド”という。今この時より貴様にはその地にて極秘の任務に就いてもらう」
「了解。で、その“グリーンアイランド”でしたっけ?そこには何があるんです?」
唐突に告げられた極秘任務に対して迷うことなく即答で引き受けるセロフト。
それは“危険”と“快楽”を天秤に掛けた時に“快楽”を求めるセロフトにとっては当然の選択なのであった。
「龍族だ。その島に四天龍の一角“緑龍ラフネリアス”がいるという情報が入った」
「!? ────── なんですかその面白そうな話。それで、僕はその龍族を殺せばいいんですか?」
「馬鹿を言うな。貴様ごときの力では龍族の相手になどなりようもないわ。さらに相手は四天龍。このワシであってもまともにぶつかれば勝機は薄いだろう」
さすがの魔族といえど龍族を相手に真っ向から戦いを挑むような馬鹿な真似はしない。
それは龍族という存在の強大さと圧倒的な力を物語っている。
「へぇ~、それじゃそんな化け物を相手に僕は何をしたらいいの?」
「力を削げ。時間を掛けてじっくりじわじわとその力を奪え。最後はこちらで何とかする」
「まぁ~そのくらいなら僕にでも出来るか。やり方は僕に任せてもらえるんですよね」
「ああ、そこは貴様に一任する。ワシの知る限り卑劣さと狡猾さでは貴様が一番だからな」
「アハハハハ。龍族か~どうやって痛ぶってやろうかな ──────── 」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ザイオンからの指令を受けて任務に就くこと三年。
セロフトの仕事も最終段階へと突入する。
島の守護者である“緑龍ラフネリアス”を弱体化させるために狙いをラフネリアス本体ではなくグリーンアイランドにしたことでラフネリアスを含めた島全土を朽ち果てさせることに成功した。
そして、さらにそこに行方知れずとなっていたクロノが現れたのだ。
まさに天の計らい ──────── 。
セロフトはそう思った。
これで計画は盤石となり、“緑龍ラフネリアス”を捕えることは確実だと確信したのだった。
「クロノ様、この地に住まう“緑龍ラフネリアス”を捕らえ、僕と共に魔族領へ帰還しましょう。そして今一度大陸の頂点に君臨するのです」
クロノの姿を目にしたことにより喜びから笑みが溢れるセロフト。
そんな彼が告げた提案を耳にしスズネたちはクロノへと視線を向けた。
「はぁ?そんなもんに興味はない。やりたければ勝手にすればいい。だが、間違っても俺の邪魔だけはするなよ」
セロフトの提案はあっさりと拒否されてしまう。
そのまさかの返答に驚き開いた口が塞がらない様子のセロフトは怒りのあまり小刻みに震えだす。
そして、クロノの言葉に絶望するセロフトはスズネたちがクロノを惑わせている原因だと判断したのだった。
「お前らか?どうやって取り入ったのかは知らないけど、ヒト族のことだからどうせ卑怯な手でも使ったんだろ!」
「ちょっと、アイツなんか勘違いしてるわよ」
「よく分かんないっすけど、なんかブチ切れてるっすよ」
「あのーーー私たちは別にクロノを騙してなんかいませんよーーーーー」
「五月蝿い、うるさい、ウルサイ、ウルサイ!!お前らも他の奴らと同じように皆殺しにしてやる」
「なんかヤバそうですよ」
「あやつさっきからごちゃごちゃと五月蝿いのじゃ。先にやっつけた方が早いんじゃないのか?」
「そ…それが出来たらいいんですけど、恐らくあの魔族の方は私たちよりも格段に強いですよ」
「消し飛べ!! ──────── 地獄の業火」
ブウォォォォォゴォォォォォ ──────── 。
「フンッ、くだらん」
フウォン ──────── 。
セロフトによる紫黒色の炎がスズネたちを襲うが、クロノによって容易くいなされる。
冒険者たちを葬った強力な魔法攻撃もクロノにとっては大したものではなく、軽く右手を振り払っただけで易々とかき消されたのだった。
「反逆行為ですよ」
「はぁ?」
「この計画は宰相であるザイオン様直々の指令です。それを妨害するということは僕たち魔族に対する反逆行為となりますよ」
「それがどうした。俺は魔族を統べる王だ。お前ごときにつべこべ言われる筋合いはない」
魔王であるクロノに対して強気な姿勢を取るセロフト。
あろうことかクロノに対して反逆者のレッテルを貼ろうというのだ。
これにはクロノも苛立ちを見せたのだが、それを見てもセロフトはその姿勢を崩そうとはしなかった。
「あなたは何も分かっていない」
「あぁ?どういう意味だ」
「すでにあなたは魔王ではないんですよ」
!? !? !? !? !? !? !?
その一言に衝撃が走る。
そして、その言葉を聞いた瞬間スズネたちはセロフトの言っている意味を理解することが出来なかった。
ヒト族の認識として現魔王はクロノであり、クロノ本人も自身が魔王であると明言している。
しかし、今目の前にいる魔族の男は確かにクロノが魔王ではないと言ったのだ。
「アハハハハハ、さすがに驚きますよね~。ですが、当然といえば当然でしょ。あなたが行方不明となってから随分と経ちましたからね。いつまでも生きているかも分からない者を王の座に座らせておくわけにはいきませんよ」
「で、今の王は誰だ」
「気になります?そりゃ~気にもなりますよね」
「さっさと言え」
「はいはい。ほんとせっかちだなぁ~。現魔王は“オロック様”ですよ」
・・・・・。
「え~と・・・誰?」
「っていうか、さっきからずっと話に出てきてるザイオンって人も誰なんすか?ウチ全く話についていけてないんすけど」
「クロノ、オロックっていうのは・・・」
スズネたちからの質問を受け、クロノはフゥーと大きく息を吐くと静かに答え始める。
「ザイオンは魔族の宰相であり、先代魔王の右腕だった男だ。そして、オロックというのは ────── 俺の弟だ」
!? !? !? !? !? !?
「アンタの弟!?」
「クロノ、弟なんていたんすか!?」
「そんなに驚くことか?」
次から次へと押し寄せる衝撃に驚きを通り越して呆れてしまうスズネたち。
そんな彼女たちのことなど気にも止めずセロフトはクロノとの会話を続ける。
「クロノ様、こちらに戻って来てください。そいつらはいつか必ずあなたを裏切りますよ」
改めてクロノに魔族領への帰還を求めるセロフト。
ヒト族によって傷付けられた魔族のプライドを取り戻すためにはその根源であるヒト族を滅ぼす他なく、そのためには歴代最強と云われるクロノの力が不可欠。
そして、魔族によるにはを含めた他種族への侵攻準備は着々と進められており、その手始めがグリーンアイランドに住む“緑龍ラフネリアス”の力を得ることなのだという。
龍の力を取り込み魔族という存在を更なる高みへと昇華させる。
今回の計画はそのための第一歩なのだ。
「そ…そんな事のために緑豊かだったグリーンアイランドを灰まみれにしたんですか!それに無抵抗のラフネリアスさんまで・・・。こんな事、今すぐ止めてください」
「黙れ!ヒト族風情がこの僕に指図するな!!」
自分たちが強くなるためだけにラフネリアスを弱体化させ、さらにグリーンアイランド全土を灰まみれの異常な状態にしたということに憤りを感じ、今すぐ止めるようにいうスズネ。
しかし、ヒト族に対する魔族の憎悪は深く、セロフトはスズネを睨みつけ邪悪な殺気を飛ばすのであった。
「フゥー、フゥー、まったくふざけた女だ。お前らも周りに転がってる奴らと同じように焼け焦げた肉塊にしてあげるよ。準備は出来てるからね。火山を噴火させて最後の仕上げといこうか!!」
セロフトは三年にも及ぶ計画を完遂するために最後の仕上げに入ることを高らかに宣言する。
その言葉を聞き周囲を見渡すスズネ。
知り合ったばかりとはいえ道中にもいろんな話をして親交を深めた人たち。
そして今、何よりも大切な仲間たちと共にかつてない強敵を前にして生きるか死ぬかの瀬戸際に立っている。
さらに、このまま目の前の魔族を放置すればラフネリアスもグリーンアイランドも殺され、いずれその脅威はガルディア王国全土へと広がるだろう。
その光景が脳裏に浮かびスズネは静かに涙を流す。
「スズネ、泣いてるの?大丈夫?」
「えっ!?あれ?なんだろう。こんな時に…なんで?」
ミリアから言われるまで自分が泣いていることに気づいていなかったスズネは何故泣いているのかと驚きながら溢れ出る涙を拭う。
「さぁ~さぁ~、フィナーレだよ」
「どうするんすか。噴火なんてされたらウチらひとたまりもないっすよ」
シャムロムの言う通りである。
そして、そのことはセロフトも重々承知している。
噴火による熱と溶岩は魔族である自身とクロノは耐えられたとしてもヒト族であるスズネたちは耐えられはしない。
さすがにクロノの力をもってしても今からそれを阻止するには圧倒的に時間が足りない。
そして、不敵な笑みを浮かべセロフトが両手を掲げて最後の仕掛けを起動させる。
「それじゃ~始めようか ─────── 山の怒り」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ────────── 。
重く深い地鳴りが始まると同時に地面が大きく震えだす。
もはやここまでかと誰もが思い、クロノでさえも緊急回避の準備に取り掛かっていたその時 ──────── 。
ブウォン ─── ブウォン ─── ブウォン ─── 。
周りの喧騒とは対照的にスズネの身体が静かに淡い緑色の光に包まれ輝きを放つのであった。
「おお~これはこれはクロノ様、まさかご無事だったとは。僕は喜びのあまり身震いが止まりませんよ」
「あ?誰だお前?とりあえず魔族のようだな。ここで何をしている」
「何を?これはまた不思議なことをお聞きになりますね。そんなの再び魔族がこの地を統べるために決まってるじゃないですか」
「俺はそんなことを指示した覚えはないぞ」
「それはそうでしょうね。この計画はザイオン様からの指示ですから」
「ザイオン・・・」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
三年前 ──────── 。
魔王城、宰相執務室。
「お呼びですか~ザイオン様」
「セロフトか。魔王様の様子はどうだ?」
「う~ん。特に変わりはないですかね。これといって何かをしようって感じには見えないです」
「はぁ~、あやつはいったい何を考えているのだ」
「駄目ですよ~。いくら宰相様といえども魔王様を“あやつ”呼ばわりなんてしちゃ~」
クロノは父である先代魔王を打ち倒しその座を手に入れてからというもの一切魔族再興に向けての動きをみせることはなかった。
それは千年前にヒト族に敗れ、大陸の南部へと追いやられた魔族たちにとっては耐え難いものであった。
中でもヒト族撲滅を掲げ邁進していた先代魔王を崇拝し、ヒト族に対して攻勢を掛けるために着々と準備を進めていた勢力の者たちからしては到底納得の出来るものではなかった。
そしてその筆頭とでもいうべき者こそ、我の強い魔族たちを一手にまとめ上げ魔王の右腕ともまで呼ばれた宰相ザイオンであった。
そんなザイオンに呼ばれたセロフトはさっそく用件を尋ねる。
「それで今日は何の用なんですか?」
「セロフト、貴様に行ってもらいたい場所がある」
「え~面倒臭いのは勘弁してくださいよ。それで何処なんです?」
「この地より北東に位置する島。名を“グリーンアイランド”という。今この時より貴様にはその地にて極秘の任務に就いてもらう」
「了解。で、その“グリーンアイランド”でしたっけ?そこには何があるんです?」
唐突に告げられた極秘任務に対して迷うことなく即答で引き受けるセロフト。
それは“危険”と“快楽”を天秤に掛けた時に“快楽”を求めるセロフトにとっては当然の選択なのであった。
「龍族だ。その島に四天龍の一角“緑龍ラフネリアス”がいるという情報が入った」
「!? ────── なんですかその面白そうな話。それで、僕はその龍族を殺せばいいんですか?」
「馬鹿を言うな。貴様ごときの力では龍族の相手になどなりようもないわ。さらに相手は四天龍。このワシであってもまともにぶつかれば勝機は薄いだろう」
さすがの魔族といえど龍族を相手に真っ向から戦いを挑むような馬鹿な真似はしない。
それは龍族という存在の強大さと圧倒的な力を物語っている。
「へぇ~、それじゃそんな化け物を相手に僕は何をしたらいいの?」
「力を削げ。時間を掛けてじっくりじわじわとその力を奪え。最後はこちらで何とかする」
「まぁ~そのくらいなら僕にでも出来るか。やり方は僕に任せてもらえるんですよね」
「ああ、そこは貴様に一任する。ワシの知る限り卑劣さと狡猾さでは貴様が一番だからな」
「アハハハハ。龍族か~どうやって痛ぶってやろうかな ──────── 」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ザイオンからの指令を受けて任務に就くこと三年。
セロフトの仕事も最終段階へと突入する。
島の守護者である“緑龍ラフネリアス”を弱体化させるために狙いをラフネリアス本体ではなくグリーンアイランドにしたことでラフネリアスを含めた島全土を朽ち果てさせることに成功した。
そして、さらにそこに行方知れずとなっていたクロノが現れたのだ。
まさに天の計らい ──────── 。
セロフトはそう思った。
これで計画は盤石となり、“緑龍ラフネリアス”を捕えることは確実だと確信したのだった。
「クロノ様、この地に住まう“緑龍ラフネリアス”を捕らえ、僕と共に魔族領へ帰還しましょう。そして今一度大陸の頂点に君臨するのです」
クロノの姿を目にしたことにより喜びから笑みが溢れるセロフト。
そんな彼が告げた提案を耳にしスズネたちはクロノへと視線を向けた。
「はぁ?そんなもんに興味はない。やりたければ勝手にすればいい。だが、間違っても俺の邪魔だけはするなよ」
セロフトの提案はあっさりと拒否されてしまう。
そのまさかの返答に驚き開いた口が塞がらない様子のセロフトは怒りのあまり小刻みに震えだす。
そして、クロノの言葉に絶望するセロフトはスズネたちがクロノを惑わせている原因だと判断したのだった。
「お前らか?どうやって取り入ったのかは知らないけど、ヒト族のことだからどうせ卑怯な手でも使ったんだろ!」
「ちょっと、アイツなんか勘違いしてるわよ」
「よく分かんないっすけど、なんかブチ切れてるっすよ」
「あのーーー私たちは別にクロノを騙してなんかいませんよーーーーー」
「五月蝿い、うるさい、ウルサイ、ウルサイ!!お前らも他の奴らと同じように皆殺しにしてやる」
「なんかヤバそうですよ」
「あやつさっきからごちゃごちゃと五月蝿いのじゃ。先にやっつけた方が早いんじゃないのか?」
「そ…それが出来たらいいんですけど、恐らくあの魔族の方は私たちよりも格段に強いですよ」
「消し飛べ!! ──────── 地獄の業火」
ブウォォォォォゴォォォォォ ──────── 。
「フンッ、くだらん」
フウォン ──────── 。
セロフトによる紫黒色の炎がスズネたちを襲うが、クロノによって容易くいなされる。
冒険者たちを葬った強力な魔法攻撃もクロノにとっては大したものではなく、軽く右手を振り払っただけで易々とかき消されたのだった。
「反逆行為ですよ」
「はぁ?」
「この計画は宰相であるザイオン様直々の指令です。それを妨害するということは僕たち魔族に対する反逆行為となりますよ」
「それがどうした。俺は魔族を統べる王だ。お前ごときにつべこべ言われる筋合いはない」
魔王であるクロノに対して強気な姿勢を取るセロフト。
あろうことかクロノに対して反逆者のレッテルを貼ろうというのだ。
これにはクロノも苛立ちを見せたのだが、それを見てもセロフトはその姿勢を崩そうとはしなかった。
「あなたは何も分かっていない」
「あぁ?どういう意味だ」
「すでにあなたは魔王ではないんですよ」
!? !? !? !? !? !? !?
その一言に衝撃が走る。
そして、その言葉を聞いた瞬間スズネたちはセロフトの言っている意味を理解することが出来なかった。
ヒト族の認識として現魔王はクロノであり、クロノ本人も自身が魔王であると明言している。
しかし、今目の前にいる魔族の男は確かにクロノが魔王ではないと言ったのだ。
「アハハハハハ、さすがに驚きますよね~。ですが、当然といえば当然でしょ。あなたが行方不明となってから随分と経ちましたからね。いつまでも生きているかも分からない者を王の座に座らせておくわけにはいきませんよ」
「で、今の王は誰だ」
「気になります?そりゃ~気にもなりますよね」
「さっさと言え」
「はいはい。ほんとせっかちだなぁ~。現魔王は“オロック様”ですよ」
・・・・・。
「え~と・・・誰?」
「っていうか、さっきからずっと話に出てきてるザイオンって人も誰なんすか?ウチ全く話についていけてないんすけど」
「クロノ、オロックっていうのは・・・」
スズネたちからの質問を受け、クロノはフゥーと大きく息を吐くと静かに答え始める。
「ザイオンは魔族の宰相であり、先代魔王の右腕だった男だ。そして、オロックというのは ────── 俺の弟だ」
!? !? !? !? !? !?
「アンタの弟!?」
「クロノ、弟なんていたんすか!?」
「そんなに驚くことか?」
次から次へと押し寄せる衝撃に驚きを通り越して呆れてしまうスズネたち。
そんな彼女たちのことなど気にも止めずセロフトはクロノとの会話を続ける。
「クロノ様、こちらに戻って来てください。そいつらはいつか必ずあなたを裏切りますよ」
改めてクロノに魔族領への帰還を求めるセロフト。
ヒト族によって傷付けられた魔族のプライドを取り戻すためにはその根源であるヒト族を滅ぼす他なく、そのためには歴代最強と云われるクロノの力が不可欠。
そして、魔族によるにはを含めた他種族への侵攻準備は着々と進められており、その手始めがグリーンアイランドに住む“緑龍ラフネリアス”の力を得ることなのだという。
龍の力を取り込み魔族という存在を更なる高みへと昇華させる。
今回の計画はそのための第一歩なのだ。
「そ…そんな事のために緑豊かだったグリーンアイランドを灰まみれにしたんですか!それに無抵抗のラフネリアスさんまで・・・。こんな事、今すぐ止めてください」
「黙れ!ヒト族風情がこの僕に指図するな!!」
自分たちが強くなるためだけにラフネリアスを弱体化させ、さらにグリーンアイランド全土を灰まみれの異常な状態にしたということに憤りを感じ、今すぐ止めるようにいうスズネ。
しかし、ヒト族に対する魔族の憎悪は深く、セロフトはスズネを睨みつけ邪悪な殺気を飛ばすのであった。
「フゥー、フゥー、まったくふざけた女だ。お前らも周りに転がってる奴らと同じように焼け焦げた肉塊にしてあげるよ。準備は出来てるからね。火山を噴火させて最後の仕上げといこうか!!」
セロフトは三年にも及ぶ計画を完遂するために最後の仕上げに入ることを高らかに宣言する。
その言葉を聞き周囲を見渡すスズネ。
知り合ったばかりとはいえ道中にもいろんな話をして親交を深めた人たち。
そして今、何よりも大切な仲間たちと共にかつてない強敵を前にして生きるか死ぬかの瀬戸際に立っている。
さらに、このまま目の前の魔族を放置すればラフネリアスもグリーンアイランドも殺され、いずれその脅威はガルディア王国全土へと広がるだろう。
その光景が脳裏に浮かびスズネは静かに涙を流す。
「スズネ、泣いてるの?大丈夫?」
「えっ!?あれ?なんだろう。こんな時に…なんで?」
ミリアから言われるまで自分が泣いていることに気づいていなかったスズネは何故泣いているのかと驚きながら溢れ出る涙を拭う。
「さぁ~さぁ~、フィナーレだよ」
「どうするんすか。噴火なんてされたらウチらひとたまりもないっすよ」
シャムロムの言う通りである。
そして、そのことはセロフトも重々承知している。
噴火による熱と溶岩は魔族である自身とクロノは耐えられたとしてもヒト族であるスズネたちは耐えられはしない。
さすがにクロノの力をもってしても今からそれを阻止するには圧倒的に時間が足りない。
そして、不敵な笑みを浮かべセロフトが両手を掲げて最後の仕掛けを起動させる。
「それじゃ~始めようか ─────── 山の怒り」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ────────── 。
重く深い地鳴りが始まると同時に地面が大きく震えだす。
もはやここまでかと誰もが思い、クロノでさえも緊急回避の準備に取り掛かっていたその時 ──────── 。
ブウォン ─── ブウォン ─── ブウォン ─── 。
周りの喧騒とは対照的にスズネの身体が静かに淡い緑色の光に包まれ輝きを放つのであった。
0
あなたにおすすめの小説
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
ウォーキング・オブ・ザ・ヒーロー!ウォークゲーマーの僕は今日もゲーム(スキル)の為に異世界を歩く
まったりー
ファンタジー
主人公はウォークゲームを楽しむ高校生、ある時学校の教室で異世界召喚され、クラス全員が異世界に行ってしまいます。
国王様が魔王を倒してくれと頼んできてステータスを確認しますが、主人公はウォーク人という良く分からない職業で、スキルもウォークスキルと記され国王は分からず、いらないと判定します、何が出来るのかと聞かれた主人公は、ポイントで交換できるアイテムを出そうとしますが、交換しようとしたのがパンだった為、またまた要らないと言われてしまい、今度は城からも追い出されます。
主人公は気にせず、ウォークスキルをゲームと同列だと考え異世界で旅をします。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
現世に侵略してきた異世界人を撃退して、世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。
佐久間 譲司
ファンタジー
突如として人類世界に侵略を始めた異世界人達。圧倒的な戦闘能力を誇り、人類を圧倒していく。
人類の命運が尽きようとしていた時、異世界側は、ある一つの提案を行う。それは、お互いの世界から代表五名を選出しての、決闘だった。彼らには、鉄の掟があり、雌雄を決するものは、決闘で決めるのだという。もしも、人類側が勝てば、降伏すると約束を行った。
すでに追い詰められていた人類は、否応がなしに決闘を受け入れた。そして、決闘が始まり、人類は一方的に虐殺されていった。
『瀉血』の能力を持つ篠崎直斗は、変装を行い、その決闘場に乱入する。『瀉血』の力を使い、それまでとは逆に、異世界側を圧倒し、勝利をする。
勝利後、直斗は、正体が発覚することなく、その場を離れることに成功した。
異世界側は、公約通り、人類の軍門に下った。
やがて、人類を勝利に導いた直斗は、人類側、異世界側両方からその身を狙われるようになる。人類側からは、異世界の脅威に対する対抗策として、異世界側からは、復讐と力の秘密のために。
パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い
☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。
「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」
そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。
スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。
これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる