魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

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暴走

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「グヴヴ…グッ…グヴヴヴヴ…」


バリバリッ ─── バリバリバリッ ─── バチバチッ ─── バリバリバリバリッ!!

この光景をなんと表現したらいいものか。
気を失い倒れたはずのゼリックの身体が地上から数メートル浮いた状態で白い光に包まれている。
そして、意識が戻った様子はないものの、低く重い唸り声のようなものが周囲の者たちの耳に届いていた。


「ゼリックはどうしたんだ?」

「いったい何が起きている?」

「ここから見る限りでは気を失っているようだが・・・」


その様子を見守る観客たちも事態が飲み込めず、ただただゼリックの身を心配するのであった。


「ザックス、あれはどういう状況なんだ?」

「私にも分かりかねます。意識はないようですが、何故あのような状態になっているのか・・・」


試合が終わった ───── とは言い難いその状況に言葉を失う者が多くいる中、獣王国を守る戦士たちは自身の目に映る異様な光景を前に警戒せざるを得なかった。

相手は気を失っている。
まったく動く気配もない。
それにも関わらず身体は宙に浮き、バリバリと音を立てながら凄まじいエネルギーを発している。
これまでにそのような光景を目にしたことなど一度たりともない。

“何か”が起こる ──────── 。

戦士としての直感がそう言っている。
しかし、その“何か”が分からない以上警戒を解くわけにはいかないのだが、未知との遭遇というのはそれだけで人々に恐怖を与えるもの。
そして、それは数々の戦場を経験してきた者とて例外ではない。

ゾクッ ──────── 。

目に映る輝かしさに騙されそうになるが、その奥に見え隠れする不気味な違和感に背筋が凍る。


ドックン ─── ドックン ─── ドックン ─── 。


再び聞こえ出した異様な音。
そして、それと同時にこれまで快晴だった上空が分厚い雲に覆われ、闘技場は瞬く間に暗闇に包まれたのだった。


ドックン ─── ドクン ─── ドクンドクン ─── ドクンドクンドクンドクン ─── 。


「いったいこれから何が起きるんだ」

「なんだか嫌な予感がするわい」


次第に速くなるその異音によってさらに恐怖心が掻き立てられていく。
そして、多くの者が感じていた違和感が最悪の形で姿を表す。


バリバリバリバリッ ──────── ドゴーーーーーン!!


突如として発生した大きな落雷。
その行き先はリング上で浮かんでいたゼリックであった。
その衝撃的な光景を目にした者たちは皆驚きのあまり固まってしまう。
一方、落雷を直に受けたゼリックはというと ───── 落雷の影響により焼け焦げているかと思いきや、自身を襲った雷の力をそのまま吸収し我が物としたのである。
さらに意識を失っていることも相まって、その膨大なエネルギーを吸収したゼリックは人型を保っていられなくなり獣化したのだった。


=========================

【獣化】
獣人族が力を解放し、持てる力を最大限発揮するために人型からその者本来の獣の姿になった状態。

=========================


「あ…あれは・・・」

「獣化したのか?」


獣人族にとって獣化は珍しいものでのなんでもない。
特に鳥獣にとって移動する際に獣化することは日常的に行われているのだ。
しかし、今回獣化したのは“雷獣”である。
“雷の化身”とも云われるその本来の力がどれほどのものなのかはまったくの未知数。
それ故により一層の緊張感が漂い始める。


「グオォォォォ ──────── 」


バリバリッ ───── ドーーーン!!

バリバリッ ───── ドーーーン!!

バリバリッ ───── ドーーーン!!


「キャーーーーッ」

「危ない!崩れるぞ!!」


ガラガラガラ ──────── ドゴーーーーーン。

ゼリックの雄叫びに呼応するように上空より落雷が発生し闘技場を破壊する。
人々は悲鳴がこだまする中で我先にと逃げ惑うのであった。


「おい!ゼリック止めろ!!」

「グヴゥゥゥゥ」

「この大馬鹿野郎が…」


懸命に呼び掛けるパンサーの声も届く気配はなく、無差別に雷を落とし続けるゼリック。
その様子を前に覚悟を決めたパンサーは、暴走するゼリックを止めるべく単身で突っ込むのだった。

ダッ ──────── 。


「いい加減にしやがれ!!」


──────── !?

その時、その動きを察知したゼリックによる特大の雷撃がパンサーを襲う。


「グオォォォォ ───── 」


ゴロゴロゴロ…バリッ ─── バリバリバリバリッ!!


「ガハッ・・・」


プスッ…プスッ…プスッ… ───── ドサッ。

一撃。
現役最強の男が一撃で倒された。
その驚愕の光景に闘技場にいた者たちは唖然とする。

⦅何が起きた?⦆
⦅パンサーがやられたのか?⦆
⦅逃げられない⦆
⦅もうダメだ…俺たちも殺される…⦆

その光景を目の当たりにした者たちの中に絶望が広がっていく。
それはじわりじわりと心を蝕んでいき、ついには逃げることさえ諦めさせるのであった。


「グオォォォォ ──────── 」


バリバリッ ───── ドーーーン!!

バリバリッ ───── ドーーーン!!

バリバリッ ───── ドーーーン!!


それでも暴走したゼリックによる破壊が止まることはない。
あちらこちらに瓦礫が散乱し、開始前の美しく整備された闘技場の姿は見る影を失っていた。


「近衛兵!」

「ハッ」

「私は暫し席を外す。獣王様の警護を頼む」

「ザックス様はどちらへ」

「無論、自らの力ひとつ制御することも出来ん愚か者を抑えてくる」

「行くのか、ザックス」

「ハッ。この度の愚息の失態、獣王様にはお恥ずかしいところをお見せし申し訳ございません。直ちに鎮圧して参ります」

「そう言ってやるな。此度の件は必死さゆえのこと、あまりゼリックを責めてやるでないぞ」

「寛大なお言葉に感謝致します。それでは失礼致します」


獣王レオニスに向けて深々と頭を下げゼリックの暴走に関して謝罪したザックスは、客席から闘技場内に飛び降りると未だ暴走を続ける息子の元へと駆け出すのだった。


「ザックス様は大丈夫なのだろうか?」

「ああ、パンサー様でさえ一撃でやられてしまったというのにどのように戦うつもりなのか」

「案ずるな。あの男が長きに渡り獣王国ビステリアの戦士たちの頂点である戦士長の職に就いているのは伊達ではない」

「「獣王様!?申し訳ございません。失礼致しました」」


恐怖のあまり不安を口にする近衛兵たちに対して、心配は無用だと断言するレオニス。
それは幾度となく戦場を駆け抜けてきた重臣への確かな信頼からくる言葉なのであった。



─────────────────────────


「ゼリック! ───── ゼリック!!」


──────── !?


「グヴゥゥゥゥ」


父であるザックスの顔を見ても威嚇することを止めようとしないゼリック。
どうやら完全に意識を失い本能のみで行動しているようだ。
こうなってしまっては仕方がない。
ザックスは覚悟を決める。


「己の力量くらいしっかり把握しておけ、この大馬鹿者が ─────  行くぞ!!」


タッタッタッタッタッ ──────── 。

先ほどのパンサーと同じようにゼリック目掛けて一気に距離を詰めようと駆け出したザックス。
それを見てゼリックは再び雷撃を放つ。


「グオォォォォ ───── 」


ゴロゴロゴロ…バリッ ───── 。


「フンッ」


グサッ ───── バリバリバリバリッ!!

誰もがパンサーの二の舞になると思ったのだが ───── そうはならなかった。
落雷の瞬間にザックスは背負っていた自身の剣を地面へと突き刺し、それによって雷はザックスではなく突き立てられた剣目掛けて一直線に落ちたのだった。


「「「「「 ウオォォォォォ!! 」」」」」


その光景にパニック状態であった闘技場は一気に盛り上がりを見せる。
さらにザックスは剣を避雷針の代わりとして見事に落雷を回避した後、スピードを落とすことなくゼリックの懐に潜り込む。


「グオォォォォ ──────── 」


そこからはまさに一瞬の出来事であった。
懐に潜り込まれたゼリックが慌てて右前足を振り上げたのだが、時すでに遅し。
それが振り下ろされるよりも早く天へと目掛けて突き上げられたザックスの掌底がゼリックの顎を撃ち抜く。

スコーーーン。


「・・・・・」


グラッ…グラッ… ──────── ドスーーーーーン。

そして、綺麗に顎を撃ち抜かれたゼリックは左右に大きく身体を揺らした後、ゆっくりと地面に倒れたのだった。



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