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川上からでっかい脳みそが流れてきたぞ!

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 むかしむかしあるところに、ジジイとおばあさんが住んでいました。ジジイは歩きスマホで隣町のハンバーグ屋さんへ、おばあさんは川へ尻を冷やしに行きました。

 おばあさんが川にお尻をつけて冷やしていると、川上からヌルゥァン、ヌルゥァン、と大きな脳みそが流れて来ました。それを見たおばあさんが呟きました。

「ぬ」

 おばあさんは川上から流れてくる脳みそを見ながら自分の好きな平仮名を呟くことで、日々のストレスを発散しているのです。

「ぬ!」

 おや、今日は1回では収まらなかったようですね。

「ぬ! ぬ!」

 まだまだ収まりません。今日はダメな日なのかもしれませんね。少し考えたおばあさんはパンティーを脱ぎ全裸になり、川へ飛び込みました。

「こいつめっ、大人しくしろいっ!」

 大きな脳に大の字で張り付いたおばあさんは、特に暴れているわけでもない脳に高圧的な態度で接しています。

 暴れたわけでもないのに怒られた脳は少ししょんぼりしてしまい、足を生やし川岸までバタ足でおばあさんごと泳ぎました。岸に上がった脳は「ピューッ」と口笛を鳴らしました。すると、どこからともなく星型のヨットが現れ、脳とおばあさんを乗せ、走り出しました。

「お客さん、どこまでですか」

 ヨットが脳に聞いています。

「マンピョス」

 脳が答えました。マンピョスとはおばあさんの住んでいる家の住所なのです。この脳はおばあさんの家に行くつもりのようですね。

「どうじゃ、ワシの運勢は!」

 隣町のハンバーグ屋さんに着いたジジイが店員にたずねています。このハンバーグ屋さんはハンバーグ占いというハイレベルな占いを生業なりわいとしており、客の尻を見ただけで色んなことを言い当てるのだそうです。

「またあなたですか、警察呼びますよ」

 実は先程の説明は全部ジジイの妄想で、実際は普通のハンバーグ屋さんなのです。ジジイは自分の妄想に基づき、店員に生尻を向け大声を出すのです。なので当然ジジイはブラックリスト入りを果たしています。

「失礼いたしました。帰らせていただきます」

 ジジイもバカではないので、警察に捕まる訳にはいかない、と尻を出したまま全速力で逃げるのでした。家まで12km全力疾走したジジイは信じられない光景を目の当たりにします。

「ばあさん、ワシ以外の男と、よりにもよってあんな男と⋯⋯!」

 ちょうど脳と家に入っていくおばあさんを目撃してしまったジジイ。ワシが情けないから⋯⋯と少し悲観的になりましたが、いやいや、ここはワシの家だ、家主が帰ってきて何が悪い、とジジイは自分に言い聞かせました。

「おい、なんでそんなやつと⋯⋯」

 ジジイは家に入るなりおばあさんを責めようとしました。しかし、家の中ではおばあさんが脳に包丁を突き立てているではありませんか。パニックになったジジイは必死でおばあさんを止めました。

「あらジジイ、おかえりなさい。今から切ってあげますからね、手を洗って待っててくださいね」

 おばあさんはそう言うと、大きな脳に包丁を入れました。よく切れる包丁なので、スルスルと刃が入っていきました。

「さぁ、出来ましたよ」

 爪楊枝で脳を食べる2人。おしどり夫婦とはこういう2人のことを言うのでしょうね。

「おい、そこの君」

 ジジイがこちらに向かって何か言っています。よく耳をすまして聞いてみましょう。

「脳から脳太郎のうたろうが生まれると思ったか? 残念だったな、今日は生まれねぇよ」

 ただの煽りでしたね。脳から人が生まれるわけがありません。ただの耄碌ジジイの戯言でした。

「おぎゃピョス! おぎゃピョス!」

 おや? 赤ちゃんの泣き声が聞こえます。どうやら脳太郎が生まれたようですね。ジジイは嘘しか吐かないようです。このジジイの言う事は1ミリも信じてはいけません。さて、脳太郎はどこにいるのでしょうか。

「ばあさん、神棚に脳太郎が!」

 神棚に乗っていました。トカゲのようなポーズをしています。

「ジジイ、おばあさん、今からボミ退治に行ってきます」

 脳太郎はそう言うと口笛を鳴らし、ヨットを呼びつけました。心配したおばあさんは脳太郎にあるものを渡しました。

「いざ、出発!」

 背中に『マンピョス1番』の旗を掲げた脳太郎は意気揚々と家を出ました。

「脳太郎、無事に帰って来るわよね⋯⋯?」

 おばあさんが心配そうな顔で言っています。

「ああ、ワシらの子だ。大丈夫に決まっとる。そんなことより今は愛し合おうぞ⋯⋯」

 そう言ってジジイは立ち上がり、おばあさんの方に近づきました。2人はお互いの頭めがけて頭突きを繰り返します。パァーン、パァーンという音がマンピョス中に響き渡ります。

 40分ほど経過した頃でしょうか、2人にツノが生えてきました。互いのツノは刺さり合い、頭を赤く染めていきます。この2人は結婚式で言っていました。『パートナーに残した傷こそが愛の証である』と。過激派ですね。

「ああこれで、お前が死んでもお前を感じられる」

「私も、ジジイが今死んでも大丈夫なくらい傷ついてる」

 十人十色という言葉があります。この2人は合意の上で行っているのです。外野がとやかく言う権利はありません。

「し、死ぬゅーゅ~う」

 その頃脳太郎は倒れていました。途中でお金が尽きてヨットから降ろされ、自分の足で100mも歩いたのです。脳なので100m歩くのもとても大変なのです。

「そういえばおばあさん、お腹がすいたら食べなさいって何かくれたな⋯⋯」

 脳太郎は腰に着けていた巾着を手に取り、中を見ました。中には手紙と一緒に白い物体が入っていました。

『お前のお母さんだよ。お腹が減ったらお食べ』

 脳太郎は泣きました。

「お母さん、こんな姿になってもまだ僕を助けてくれるなんて⋯⋯!」

 母は強し。そんな言葉を思い出した脳太郎でした。お母さんを食べ、力を取り戻した脳太郎はまた歩き始めました。

「ボミめ⋯⋯お前たちのせいで僕の故郷は!」

 脳太郎はボミへの憎しみを口にしながら林の中を歩いています。ボミとは、かつて平和に暮らしていた脳族の村を乗っ取り、脳を全て養殖に変えてしまい、毎日川に流すという残虐極まる行為をしている超人たちの総称なのです。

「ももたろさん、ももたろさん、お腰につけたきび⋯⋯え、なに? 脳!? が、歩いてんの!?」

 茂みから喋る犬が出てきました。

「ふえぇ」

 脳太郎は喋る犬を見たことがなかった為、驚いて幼女になってしまいました。

『幼女は犬を見る前の脳太郎』

 という言葉があります。現在研究者の間では「犬を見たあとだろ」という議論がされているそうです。

 幼女となった脳太郎は犬、猿、非情冷血アルティメットサイボーグを家来にし、ボミ村へ向かいました。

 非情冷血アルティメットサイボーグの活躍によりボミ村は壊滅し、もとの脳村に戻りましたとさ、めでたしめでたし。
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