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第二部
@28 計画
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ユヅハの両親との絶縁に当たって、僕たちには重大な問題があった。それはユヅハは彼女の両親の居場所を突き止めることができないことだった。彼女の父親は環華人民銀行の幹部であり、それもかなり機密性の高い部署にいるからであった。僕たちには正確な役職すらもわからなかった。
しかし手がかりはあった。ユヅハはある業務用のMFD端末(多機能端末)を隠し持っていた。過去に彼女の父親が情報保護のための端末破壊処理サービスに出そうとしていたものらしく、ユヅハは既(すんで)の所でそれを盗んで他の端末と入れ替えたそうだ。
「何かの情報が残っているかもしれない」
ユヅハはウェイに相談をした。僕たちの技術では端末の情報を復元できなかったからだ。ウェイは協力的だった。そしてこれが他ならないユヅハがわざわざFRCに来てウェイと合流した理由だった。郵送だとリスクがあると判断した彼女は手渡しでこの端末の解析をウェイに頼みたかったのだ。
端末は完全に初期化されており、僕はあまり楽観的には考えられなかった。しかしたった二日でウェイはユヅハの父親の役職を判明させた。
「端末の情報はほとんど完全に抹消されており、復元できた情報も環華人民銀行規格U50で暗号化されていました。苦労しましたよ。萩原 孔樹(はぎわら こうき)、ユヅハの父親の役職は…公平審査所の責任者です」
僕とユヅハは短く驚きの声を上げた。公平審査所というのは国家政府でいう軍事施設に匹敵するほど重大な機密だ。そこに妻と住んでいるのならば会うことすら難しいだろう。場所だってわからないのだから。
ユヅハは目に見えて萎縮していた。しかしウェイだけは諦めるでもなく頭を下げて深く考え込んでいる様子だった。数分後、ウェイはようやく顔を上げた。
「持っているすべての通信端末の電源を切ってここに置いてください」
僕とユヅハは戸惑いながらも指示に従った。彼はそれを確認すると部屋を変えた。
「傍受を恐れているのか?」
ウェイは肯定して僕とユヅハの前に立ち、こう言った。
「私は公平審査所の場所を知っています」
「確かなのか? 非公表どころじゃない、場所は完全に機密のはずだ」
「我々はそこを急襲する計画を立てています」
彼がたびたび口にした”我々”というのはある組織を指していた。それは藍色戦線。反共産主義、反監視社会を標榜する武装組織だ。彼はそこに所属する技術者だというのだ。しかしユヅハはあまり驚いていないようだった。おそらく何となく勘づいていたのだろう。
迎えた八月二十九日。本来ならばもう帰国しているべき日付だ。夏休みの終わりまで一週間もない。
僕たちがいるのはさまざまな作業工具が並んだ部屋だった。僕とユヅハ、そしてウェイは二台の多機能端末が載った作業台を囲んでいた。
「この計画を実行するとなると、夏休みが終わっても日本には帰れません。当たり前ですが失敗すれば逮捕されます。本当にいいんですね?」
ユヅハが頷き、僕を見る。期待の眼差しだ。僕にこの恐れ知らずな計画に参加するように期待している。僕は目を瞑った。暗闇のなか雪の姿が遠くに見えた。そして目を開く。僕は誓ったのだ。
「ああ、後悔なんてしない」
僕とユヅハは金槌を作業台に振り下ろした。そこにあったのはそれぞれの多機能端末だった。日本に帰国するのに必要な電子情報が中に収まっている。もちろん電子情報自体はオンラインのものなので新しい端末を手に入れれば簡単に情報を取得できる。なのでこの行為はどちらかというと象徴的な意味合いが強かった。
手に振動が走り細かな破片が散る。これでいいんだ。このとき衝撃的な既視感が走った。腕に鋭い痛みを錯覚する。あの日の早朝、わずか二週間前。ユヅハはマオを殺した。血が飛び散り、マオは泣き叫び、僕の腕に包丁の先端が刺さった。僕だけでなくユヅハもあのときを想起したようだった。僕とユヅハは視線だけでお互いがあの日を思い出したことを確認した。
ウェイの言う“計画”は次のようなものだ。環華人民銀行の保護下にあるフィネコン社の審査所の急襲───。彼が言うにはそこの警備系統はほとんどが無人化されており、ウェイと藍色戦線の力を使えば少数勢力の侵入を隠蔽して感づかれることなく侵入できるという。少人数で環華人民銀行とフィネコン社の警備を突破してフィネコン社の審査所を安全化(クリア)、あとから来る藍色戦線の本隊に引き渡すという計画だ。そして僕とユヅハはこれに協力、同行する。
もちろんこれは重大な犯罪行為だ。成功する保証だってない。ここにいる三人全員がその覚悟を持っている。だが僕たちを止める人間はいない。僕たちは前に進むしかないのだ。悪者になってでも復讐をするために。
しかし手がかりはあった。ユヅハはある業務用のMFD端末(多機能端末)を隠し持っていた。過去に彼女の父親が情報保護のための端末破壊処理サービスに出そうとしていたものらしく、ユヅハは既(すんで)の所でそれを盗んで他の端末と入れ替えたそうだ。
「何かの情報が残っているかもしれない」
ユヅハはウェイに相談をした。僕たちの技術では端末の情報を復元できなかったからだ。ウェイは協力的だった。そしてこれが他ならないユヅハがわざわざFRCに来てウェイと合流した理由だった。郵送だとリスクがあると判断した彼女は手渡しでこの端末の解析をウェイに頼みたかったのだ。
端末は完全に初期化されており、僕はあまり楽観的には考えられなかった。しかしたった二日でウェイはユヅハの父親の役職を判明させた。
「端末の情報はほとんど完全に抹消されており、復元できた情報も環華人民銀行規格U50で暗号化されていました。苦労しましたよ。萩原 孔樹(はぎわら こうき)、ユヅハの父親の役職は…公平審査所の責任者です」
僕とユヅハは短く驚きの声を上げた。公平審査所というのは国家政府でいう軍事施設に匹敵するほど重大な機密だ。そこに妻と住んでいるのならば会うことすら難しいだろう。場所だってわからないのだから。
ユヅハは目に見えて萎縮していた。しかしウェイだけは諦めるでもなく頭を下げて深く考え込んでいる様子だった。数分後、ウェイはようやく顔を上げた。
「持っているすべての通信端末の電源を切ってここに置いてください」
僕とユヅハは戸惑いながらも指示に従った。彼はそれを確認すると部屋を変えた。
「傍受を恐れているのか?」
ウェイは肯定して僕とユヅハの前に立ち、こう言った。
「私は公平審査所の場所を知っています」
「確かなのか? 非公表どころじゃない、場所は完全に機密のはずだ」
「我々はそこを急襲する計画を立てています」
彼がたびたび口にした”我々”というのはある組織を指していた。それは藍色戦線。反共産主義、反監視社会を標榜する武装組織だ。彼はそこに所属する技術者だというのだ。しかしユヅハはあまり驚いていないようだった。おそらく何となく勘づいていたのだろう。
迎えた八月二十九日。本来ならばもう帰国しているべき日付だ。夏休みの終わりまで一週間もない。
僕たちがいるのはさまざまな作業工具が並んだ部屋だった。僕とユヅハ、そしてウェイは二台の多機能端末が載った作業台を囲んでいた。
「この計画を実行するとなると、夏休みが終わっても日本には帰れません。当たり前ですが失敗すれば逮捕されます。本当にいいんですね?」
ユヅハが頷き、僕を見る。期待の眼差しだ。僕にこの恐れ知らずな計画に参加するように期待している。僕は目を瞑った。暗闇のなか雪の姿が遠くに見えた。そして目を開く。僕は誓ったのだ。
「ああ、後悔なんてしない」
僕とユヅハは金槌を作業台に振り下ろした。そこにあったのはそれぞれの多機能端末だった。日本に帰国するのに必要な電子情報が中に収まっている。もちろん電子情報自体はオンラインのものなので新しい端末を手に入れれば簡単に情報を取得できる。なのでこの行為はどちらかというと象徴的な意味合いが強かった。
手に振動が走り細かな破片が散る。これでいいんだ。このとき衝撃的な既視感が走った。腕に鋭い痛みを錯覚する。あの日の早朝、わずか二週間前。ユヅハはマオを殺した。血が飛び散り、マオは泣き叫び、僕の腕に包丁の先端が刺さった。僕だけでなくユヅハもあのときを想起したようだった。僕とユヅハは視線だけでお互いがあの日を思い出したことを確認した。
ウェイの言う“計画”は次のようなものだ。環華人民銀行の保護下にあるフィネコン社の審査所の急襲───。彼が言うにはそこの警備系統はほとんどが無人化されており、ウェイと藍色戦線の力を使えば少数勢力の侵入を隠蔽して感づかれることなく侵入できるという。少人数で環華人民銀行とフィネコン社の警備を突破してフィネコン社の審査所を安全化(クリア)、あとから来る藍色戦線の本隊に引き渡すという計画だ。そして僕とユヅハはこれに協力、同行する。
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