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3話

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「今日は結婚式ではなく、本当は皆様に伝えるべきことがあるからです」

「お、おい何を言ってるんだアルマ」

ラクマは慌ててアルマに近づこうとするのを、ラクマの父が止める。

「まあまあ、ラクマ。話を聞いてからでもいいだろ」

一度だけアルマは彼に対して会釈をすると再び口を開いた。

「結婚式と聞いて、足を運ばれた方々なので気がついている人も多いと思われますが、本来ここに立つべき人は私ではなく姉のアリシアです」

会場中がざわめく。

「たしかにそうだ」なんて呟く人もいる。

「それなのに、私とラクマさんの結婚式だなんておかしいですよね。実際に招待状にも私ではなく姉の名が書いてあったはずです」

そんな……ということはここにいる方々は皆、私の結婚式だと思ってたということ。

私も不穏な空気は感じ取ってはいたけれど、私に話しかける人がいなかったのもざわざわしていたのも、最初から気づいていたからだったんですね。

てっきり、半数くらいしか知らないことだと思っていたのに。

「だからこそ伝えなければなりません。私の隣にいるラクマ様が重罪を犯したということを」

「「「なんということ?!」」」

同時にヤジを飛ぶ。

この感じからしておそらく、妹が仕込んでいたサクラなのではなかろうか。

明らかに不自然だ。

「何を言ってるんだ!アルマ! 僕は重罪なんて!」

焦ってアルマの口を押さえようとするラクマは、再び父に取り押さえられる。

たしかに、正当な理由なしの婚約破棄は法的に重罪となる。

他に好きな女性ができたという言い訳なら、まだ罪はまだ軽かったかもしれないが、妹に手を出したのが仇となってしまった。

婚約者の身内に手をだすことはタブーな行為なのだ。


「ラクマ様は私のことが前々から好きだったらしく、親同士が決めたこの婚約の腹いせにアリシア姉様には暴力をふるうこともありました。それを見兼ねた私は、婚約者になることをやむなく決断し、互いの両親もそれを承諾しました。でも、この際だからはっきり言いますが私は彼のことが嫌いでたまりません。大切な家族を傷つけ、さらには私にあんなことまで……」

言いながら、アルマは涙を流す。

会場はさらにどよめきを増しつつあるけれど、一つ言えることはこれが完全に演技であるということ。

何故なら、私は暴力なんて受けたこともない上に、互いの両親の承諾もありえない。

ただでさえ重い罪を、妹はさらに重くして、さらに自分は罪から逃れようという三段。

流石の妹だ。恐怖すら感じる。

「アルマの言う通りだ。我が息子ラクマはとんでもない罪をおかしてしまった。それを償わせることが一番重要だ。そしてお前は一生アリシアさんに謝罪しなければいけない」

一生謝罪されると、逆に迷惑なのだけれど……。

どうやら、ラクマの父もアルマの手の上らしい。

「そういうことだ。誰でもいい連れて行け。お前は家族からも国からも追放する」

しばらくすると、侍人がやってきて暴れ回るラクマを取り捕まえ運び去った。

それを悲しそうに見つめるアルマ。

「そして、アルマ。君の罪に関しては皆の意見を聞こう」

ラクマの父がそう会場の貴族たちに問う。

当然のように、皆、アルマに同情して彼女を許した。

結果としてアルマは無罪放免。

もっとも、アルマは最初から結婚する気もなかっただろうし、引き受けさえしなければ罪に問われることすらなかったのだ。

それを、私を傷つけたラクマのことが許せず自らの手で復讐したということなのだろう。

頼りになる妹ですが、全く恐ろしすぎます!

「お姉様‼︎  やってやりました。アリシアお姉様は私だけのお姉様ですから、あんな虫けらと婚約すると聞いたときは吐き気がしましたが、結果的に婚約破棄になってよかったです。私のの成功のおかげですね」


「そ、そうねアルマ……」

アルマの口ぶりからして、もしかするとラクマは初めから彼女の色仕掛けで騙されて好意を抱いたのかもしれない。とすると、

「もしかして、アルマは私の婚約が決まった時からそれを揉み消そうとしてたのかしら?」

「ええ。そうですよ!」

アルマは澄み切った笑顔で答えきった。

ははは……もう逆にラクマが気の毒に思えて仕方がない。


それから数日経つと、慰謝料としてラクマ側の両親からとんでもない大金が入ってきた。

そこそこの貴族の家柄の私でも、それにはちょっと引いた。城がたつくらいの額だったのだ。

「お姉様のためにがっぽり徴収してきた甲斐がありましたね!」

これもまた、アルマの仕業なのね。

姉を好きすぎる妹よ頼むからもうご勘弁を!
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