異世界系(?)短編集

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【とある侍女の言葉】

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 旦那様、決して私めにはあの愚かな男を庇うつもりはございません。それだけはご承知いただけないでしょうか。ただ、私めの頭では、考えれば考えるほどに理解が及ばないのです。ええ、ええ、貴族のマナーを知らぬ平民でさえあんな愚行を犯すことは無いでしょうに、よりにもよって大貴族の令息が……あの例祭の場で。


 アリスお嬢様は亡き奥方様によく似ていらっしゃいます。お美しさもさながらですが、私めのような侍女の一人に至るまでお優しい所、魔法や学問に長けて英明な所もそっくりでいらっしゃいます。奥方様の輿入れの際に隣国から私めもお供してこの国に参りましたが、ええ、お若い頃の奥方様の生き写しだと時々思うのです。ですが少しお転婆で、令嬢の身でありながら狩猟がお好きなのは旦那様に似ていらっしゃいますよ。

まあ!貶すつもりなど毛頭ございません。私めもアリスお嬢様が可愛くてならないのです。それに領地の魔獣を適度に間引きして減らさねば、領民の田畑が荒らされてしまうのは旦那様こそお分かりでしょうに。ええ、ええ!お嬢様の最初の獲物は黒角ウサギでございましたね、でも今は巨大な六本牙イノシシをお見事に仕留めてお戻りになるように……。

 いけない、話が逸れましたことをお詫び申し上げます。

 ……アリスお嬢様が婚約なさったのは15のお年の時でございましたね。相手は近衛騎士団の長を代々輩出する大貴族のお家でしたが、何でしょう、奥方様と私めは言葉にならない不安を抱いたのを覚えております。

婚約者がアリスお嬢様の日焼けした手を見て顔をしかめたから?こざっぱりと短く整えられた髪を令嬢らしくなくてみっともないと言い放ったから?狩猟が趣味と聞いて「ハズレだ」などと口にしたからでしょうか?

この魔獣が多い辺境伯領で、狩猟がどれほどに大事なことなのか考えようともしないあの態度に、私めら下々の者は密かに憤っておりましたよ。

それでも……変わってくれると期待はしていたのです。あの婚約者が病に倒れ、その治療には神々の眷属である神竜の鱗が必要だとなった時に。アリスお嬢様や旦那様が命がけで神竜と戦って、力を認められて鱗を与えられて……あの婚約者の命が助かったと聞いた時に。

 しかしあの婚約者のよからぬ噂は、その頃から容赦なく私めらにも伝わってきたのです。その噂は酷くなることはあれど、薄まることも改善することもありませんでした。浮気相手との爛れた関係に、愛人に子を産ませた、騎士の稽古をまともにしない……およそ女が聞いて正気でいられるような内容ではありませんでしたから、私めらが多感なお年頃のアリスお嬢様だけには聞かせまいと必死になったのも、旦那様にはお分かり頂けていたでしょう。

 奥方様が運悪しく……セドリック坊ちゃまのご出産の際に儚くなられた時に、あの男はお悔やみの手紙も慰めの言葉も寄越しませんでしたね。

でも、よくよく考えれば、この時には旦那様もあの男を見限っていらっしゃったのでしょう?

 いえいえ、私めらにも良く分かっておりましたよ。

何しろ奥方様を亡くされて塞ぎ込まれたアリスお嬢様を、あの神竜が若い男の形にやつしてまで見舞いに来た時、旦那様が面白く無さそうなお顔をされていたのは誰もが知るところでございましたから。

 ……今年の例祭こと豊穣捧祭で、あの男がふしだらな女を侍らせながらアリスお嬢様に婚約破棄だとまるで神々を気取ったかのような態度で告げたあの時、私めらの頭には理解が及ばない混乱、大事なこの辺境伯の家を侮辱された屈辱、そして――これでもうアリスお嬢様がこの不埒漢に嫁ぐ必要がないと知った安堵で、千々に乱れておりました。

あまりにも落ち着かなかったものですからその夜は皆で夜更けまで起きていました。そのような有様でしたから、豊穣捧祭に神使としていらっしゃっていた神竜がその夜に旦那様の元を訪れて、ほぼ脅すような形でお嬢様との婚約を結んだと知って、年若いメイドなど思わず飛び跳ねて喜んでおりましたよ。

 だからこそあの場であのような衆目を集める場で最悪の愚行を犯したバカが理解できもしないし、理解すら及ばないのです。

 ……はい、はい、国を追放されたとは聞いております。神使の花嫁にもしも危害を加えられようものなら、国全体に恐ろしい神罰が下るであろうことは子供でも分かりますので。

 さ、旦那様、これで身支度は済みました。これからアリスお嬢様の結婚式なのに、ああ、お涙はよろしくございません。セドリック坊ちゃまが先ほど勘違いしてお誕生日の歌を歌っておられましたが、それよりよろしくございませんよ。

 奥方様の小肖像画を胸に抱いて――ほら、奥方様も微笑んでいらっしゃいます――どうか微笑んでアリスお嬢様と共にバージンロードを歩いて差し上げて下さいまし。
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