7 / 7
(7)
しおりを挟む
「ま、まさか、それだけのために十二年も――」
「あー! すっきりした!!」
子供、いや、あのときの子供の幽霊は、進の言葉をさえぎると、両手を天に突き上げ、伸びをした。
その手の先は、雲がわずかに割れ、光が差し込み始めていた。
「じゃあね。お兄さん」
「ちょ、ちょっと待って。もう会えないのかな?」
「うん。会えませんよ。さようなら」
あっさりとした別れの言葉と同時に、子供の体全体が淡い光に包まれる。
「えっ、あっ。ちょっと! ありがとう!」
進の言葉は間に合った。お辞儀をするのもなんとか間に合った。
頭を上げると、笑顔の子供の姿は加速度的に透明度を増していき、あっという間に消えていった。
進はそのまま、立ち尽くしていた。
「お兄さんや。雨の音に交じって大きな声が聞こえたけど、どうした? 噂の幽霊でも出たのかいな?」
しばらくすると、後ろから神社総代の声が聞こえた。
進は振り返った。
「出ましたよ」
十二年も待ってくれていた、執念深くて暇な幽霊が――。
心の中で、そう付け加えた。
(完)
「あー! すっきりした!!」
子供、いや、あのときの子供の幽霊は、進の言葉をさえぎると、両手を天に突き上げ、伸びをした。
その手の先は、雲がわずかに割れ、光が差し込み始めていた。
「じゃあね。お兄さん」
「ちょ、ちょっと待って。もう会えないのかな?」
「うん。会えませんよ。さようなら」
あっさりとした別れの言葉と同時に、子供の体全体が淡い光に包まれる。
「えっ、あっ。ちょっと! ありがとう!」
進の言葉は間に合った。お辞儀をするのもなんとか間に合った。
頭を上げると、笑顔の子供の姿は加速度的に透明度を増していき、あっという間に消えていった。
進はそのまま、立ち尽くしていた。
「お兄さんや。雨の音に交じって大きな声が聞こえたけど、どうした? 噂の幽霊でも出たのかいな?」
しばらくすると、後ろから神社総代の声が聞こえた。
進は振り返った。
「出ましたよ」
十二年も待ってくれていた、執念深くて暇な幽霊が――。
心の中で、そう付け加えた。
(完)
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
静かに壊れていく日常
井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖──
いつも通りの朝。
いつも通りの夜。
けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。
鳴るはずのないインターホン。
いつもと違う帰り道。
知らない誰かの声。
そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。
現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。
一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。
※表紙は生成AIで作成しております。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる