スキル「鞭」を手に入れて、俺を追放した勇者に「ザマア」する!

ぽんぽこまだむ

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第十三話:スキル「鞭」初級取得!

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 ヒュッ! と空気を切り裂いてユルトが鞭を振るうと、部屋の反対側に立てた背の高い燭台の炎が、ふっと消えた。

「どうだ!」
「トレビア~~ン♪ スキル『鞭』初級レベルには達しているわよん♪」
「よっしゃ~!」

 ジョセフィーヌの言葉に、ユルトは両腕を突き上げた。
 鞭のスキルは、需要が少ないのでレベル設定には三段階しかない。初級、中級、そして上級だ。
 スキルがないとできない仕事もなく、先生が良いと言えばスキル取得である。

 ──やった! これでウルリックをシバき倒せるぜ!

 花をもらったせいでウルリックとの思い出をやたら思い出してしまい、ここ数日おセンチな夢ばかり見ている。
 目を覚ましてパーティから追い出された現実と引き比べると、なおさら腹が立って仕方がないので、一刻も早くウルリックを鞭でビシビシ打ち据えたいと、ユルトは練習に励んでいた。

「次は、実際に人を相手に鞭を振るう練習をするわよん♪」

 ジョセフィーヌは、大胸筋を見せつけるようにポージングしてから、ユルトの胸元を九尾鞭でビシッと指した。

「パートナーを、連れておいでなさい!」

 ──ぱ、ぱーとなー?

「へ? 実験台とかギルドのやられ役バイトじゃなくて?」

 冒険者ギルドには、本当の冒険に出るのが怖い本物の初心者向けに、そういった案件が時々用意される。

「貴方、牛飼いになるの? 人を叩くために鞭スキルを取得するんでしょ?」

 ジョセフィーヌはユルトの疑問に動じることもなく当たり前のように答えた。

「……そりゃまあ。だから人を用意するっていうのはわかるんですけど、なんで『パートナー』なんですか」

「アタクシ、最初の日に申し上げたはずよ。鞭を使う時に最も大切なことは、『相手の反応を見ること』だと。貴方……通りすがりの有象無象の『反応』に、興味あって?」
「ないッス」

 ウルリックほどではないが、ユルトもわりと関係ない赤の他人のことは気にならないタイプである。でなければ盗賊稼業はやっていられない。

「鞭を与える側とッ、鞭を受ける側はッ、表・裏・一・体! わかりやすく言えば『セット』なのよ~ん♪」
 ジョセフィーヌは、脇の筋肉を見せびらかす謎のポーズを取って叫んだ。
 しかし表裏一体とは。さっぱりわからない。

「え、でもジョセフィーヌ先生は、お店で有象無象を叩いてるんでしょ」
「それはアタクシがプロだからよッ。叩き、叩かれるにふさわしい関係性を短時間で構築し、その上で叩いているのですっ!」

 なんだかまったくわからない。ユルトの疑問に答えていないような、答えているような。ユルトは具体的でスパッとした回答を求めているのに、ジョセフィーヌからはよくわからないSM哲学で返ってくるのである。

「なんかよくわかりません」
「貴方がわかってらっしゃらないのはわかってます。説明するよりも、体験してもらった方が早い。そう・いう・こ・と♪」

 バチン、とウィンクするとジョセフィーヌは、鞭以外にも拘束台や手枷足枷、三角木馬など、数々の責め具が用意された店内を案内し、使い方や片づけ方を説明した。
 パートナーはいるのかとかどうやって見つけるのかとか、そういうことは話してくれない。

「お相手にもご都合があるでしょ? だから一週間期間を取ってあげるわん♪ 貴方の修行のために、アタクシは一切顔も出さないし、口出しも助言もいたしませんッ。夕方までなら、このお店を自由に使ってオッケーよぉん♪」

 なんだか煙に巻かれたような感じを抱きつつ、ユルトはジョセフィーヌの店を後にした。

 ◇ ◇ ◇

 「パートナー」を誘えと言われたが、ユルトにはウルリックを叩くという選択肢しかない。かつては冒険のパートナーだった──いやそう思っていたのはユルトだけかもしれない──しかしウルリックはユルトのパートナーではないし、増してやSMのパートナーではありえないのだ。

 どうしようか考えながら歩いていると、長年の盗賊稼業で培ったセコいアイデアがユルトの脳裏に浮かんだ。

 ──そうだ! パートナーかどうかなんて、ジョセフィーヌには伝わりっこないんだから、実態はどうでもウルリックをシバき倒せばいいんだ!

 ジョセフィーヌは顔も口も出さないと言っていたのだから、後でちゃんとやったと報告すればいい。そうすれば鞭スキル中級を取得して、ウルリックをさらにビシビシとシバくことができる。

 初級のハンコが押されたスキル認定証をポケットから出して、ユルトはにんまりと笑った。

 ◇ ◇ ◇

 しかし問題は、どうやってウルリックを「涅槃ニルヴァーナ・絶頂エクスタシー」に連れてくるかである。

 堂々とお願いすれば、ウルリックの性格上、むげには断らないはずだ。むしろ淡々と「わかった」とか言ってついてきそうである。

 ──いやしかし、俺をパーティから追放したくらいだからな……。

 これまでユルトが見ていたウルリックが、虚像だったかもしれないのだ。
 それにパーティを追放したようなウルリックに、頭を下げて頼み事をすること自体がイヤだった。

 ──薬でも盛って眠らせるか……。

 薬で眠らされ、簀巻きにされて「涅槃絶頂」の床に転がされ、手も足も出ないウルリックが悔しそうにしているところと、それを鞭でビシバシ叩きながら自分が「や~いや~いザマアwww」と言っているところを想像してみた。

 よくも俺をもてあそびやがって! ビシッ! バシッ! 
 ねーねー今どんな気持ち? ビシッ! バシッ!

 ──うん、これぞ俺のやりたかったことだ!

 ユルトはゴキゲンで下宿に向かって駆けだした。
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