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第二十六話 不器用な恋心
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獅子浜高校に到着した桜ヶ峰女子サッカー部一行は、各々の荷物を抱えバスを降りる。
その降りた先には、獅子浜高校女子サッカー部が総出で出迎えてくれていた。
そして、集団の先頭にいる獅子浜高校女子サッカー部主将の本郷 晶は、腕を組みじっと修人をにらみつけるのであった。
その視線をビシビシと感じていた修人は、出来るだけ気軽に本郷に話かける。
「よう、晶!久しぶり!中学の合同合宿以来だな!今日は練習試合を引き受けてくれてありがとな!俺ら全力で行くからさ、お互いとことんやり合おうぜ!」
修人は握手を求め、右手を差し出す。
しかし本郷はそれに応じず、そっぽを向いてしまうのであった。
「フン!か…勘違いするなよ修人!何もお前の為に練習試合を受けたんじゃないんだからな!ウチらの強さを他のライバル校に証明する為だ!だから今日はケチョンケチョンに叩き潰してやるから覚悟しとけよな!」
そう吐き捨てた本郷は、最後に力強く修人ににらみを利かせ威嚇する。
「そ…そうか、なんか…悪かったな。まあ、お手柔らかに頼むよ。」
それを見た修人は、申し訳なさそうに差し出した右手を引っ込めるのであった。
「そう試合前からピリピリするこたぁないでしょ、本郷さん。そーゆーのはピッチの中だけにしましょうよ。」
修人と本郷の間に割って入ったのは、一年生の呉であった。
そして、呉の姿を見た獅子浜高校女子サッカー部員たちの間にどよめきが起こる。
「え…あの人ってまさか……!呉 泉美⁉︎アンダー15日本代表の呉がなんでこんな所に?」
「サッカー辞めたって聞いてたのに、いつの間に復帰してたの⁉︎」
「てゆーか、今日の試合にも出るってことだよね…ウチらヤバくない⁉︎」
「落ち着け!お前たち!」
動揺する部員たちを、本郷は一声で黙らせる。そして呉の方に向き直ると修人の時とは打って変わって、優しい態度で話し始めるのであった。
「久しぶりだなぁ、呉。サッカーを辞めたと聞いて残念に思っていたが、よく復帰してきてくれた。」
「まあ…色々ありましてね。選手に戻ることにしたんです。てなわけですから、今日はお手柔らかに頼みますよ。」
「フッ…お前がいるとなれば話は別だ。全力でいかなければ、こちらがやられてしまうからな。」
「ちぇっ、流石に通用しないか…ってアレ?」
呉は何かに気づいた様子で本郷の顔をまじまじと見つめる。
「どうした、呉?私の顔をじっと見つめて。」
「本郷さんひょっとして、今日化粧してます?なんか前と雰囲気違うから…あっ!もしかして片桐監督に会うから…モガっ!」
ここで本郷は突然呉の口を塞いだ。
「さ、さあ立ち話もなんだ!グラウンドへ案内するからついて来てくれ!」
「モガッモガガーーーー!」
半ば強引に会話を終了させた本郷は、呉をさらう様な形でグラウンドへと連れて行ってしまう。
「あっ、キャプテン!ちょっと待ってくださいよー!」
そして、それに釣られて他の獅子浜部員たちも本郷の後を追うのであった。
その場に取り残された呉以外の桜ヶ峰サッカー部員たちは、状況が把握できず呆気に取られていた。
「なんか…よくわかんないんだけど……なんで片桐監督は、向こうのキャプテンさんにあんなに嫌われてるわけ?過去に何かあったの?」
鞍月は怪訝そうな眼差しを向けながら、修人に質問をする。
「いや、正直俺にもわかんねーんだ。向こうのキャプテン…本郷 晶とは、日本代表の男女合同合宿とかで昔からよく一緒にサッカーやってたんだけど、事あるごとに俺に突っかかってきてなあ。
なんとか仲良くなろうと、俺も歩み寄ってみたりしてるんだけどいつもあんな感じで怒らせちまうんだよ。」
修人が深いため息をついていると、不意に何者かの声が聞こえてきた。
「本当に…ウチのキャプテンがご無礼を働いてすみませんでした…」
「うわっ!びっくりした!」
突然修人の目の前に現れたのは、気弱そうな獅子浜高校の部員であった。
「ああっ!驚かしてしまってすみません!私、獅子浜高校女子サッカー部の副キャプテンを務めております、三田と申します。先程は、ウチのキャプテンの本郷が失礼なことを言ってしまい申し訳ございませんでした。」
三田はしきりにペコペコと頭を下げながら、修人たちに謝罪をした。
「いやいや、いいよいいよ。気にしないでくれ。昔からあんな感じだし、慣れっこだよ。」
「そうですか…ありがとうございます。片桐監督は心が広い方なのですね。」
「アハハ…そんなことないよ。」
三田からニコリと微笑みかけられた修人は、満更でもなさそうなニヤケ面になる。
それを横で見ていた鞍月は、ジロリと修人をにらんでいた。
「……信じられないかもしれませんが、実はキャプテンは今日の試合をすごく楽しみにしていたんです。」
「晶が?本当に?」
「ええ…修人にいいとこ見せるんだーって、試合が決まった時からすごい張り切ってたんですよ。」
「ええ…じゃあなんだって、あんなに強く当たってくるんだ…?」
「ウチのキャプテンは不器用で…なかなか素直になれないんです。ですから、その本当の気持ちだけでも分かってもらいたくって、ついつい話かけてしまいました。突然すみませんでした。」
そう言って、三田は再び修人に頭を下げた。
「そっか…じゃあ三田さんの言ったこと信じるよ。でも、今日は晶に良い格好をさせるつもりはないよ。正々堂々、戦おう。よろしくね!三田さん!」
「……はい!ありがとうございます!こちらこそよろしくお願いしますね!では、僭越ながら私がグラウンドまで案内させていただきます!ささ、どうぞこちらです!」
三田は笑顔を綻ばせ、意気揚々と修人たちを案内する。
『私なりにフォローしましたからね!後は素直になって本当の気持ちを伝えてくださいね!キャプテン!』
本郷との付き合いが長い副キャプテンの三田 由美香は、本郷が修人に惚れていることを知っていた。
そして、そんな本郷を放っておけない三田は、何とか修人の印象を変えようとフォローに回ったのである。
当の修人は、本郷の恋心に全く気づいていなかったが、察しの良い桜ヶ峰のサッカー部員の何人かは、この時点でそれに気づく。
面白くなさそうな顔をする者、修人を見ながらニヤニヤする者、それぞれが思い思いの表情を浮かべながら、戦場となるグラウンドへと向かうのであった。
その降りた先には、獅子浜高校女子サッカー部が総出で出迎えてくれていた。
そして、集団の先頭にいる獅子浜高校女子サッカー部主将の本郷 晶は、腕を組みじっと修人をにらみつけるのであった。
その視線をビシビシと感じていた修人は、出来るだけ気軽に本郷に話かける。
「よう、晶!久しぶり!中学の合同合宿以来だな!今日は練習試合を引き受けてくれてありがとな!俺ら全力で行くからさ、お互いとことんやり合おうぜ!」
修人は握手を求め、右手を差し出す。
しかし本郷はそれに応じず、そっぽを向いてしまうのであった。
「フン!か…勘違いするなよ修人!何もお前の為に練習試合を受けたんじゃないんだからな!ウチらの強さを他のライバル校に証明する為だ!だから今日はケチョンケチョンに叩き潰してやるから覚悟しとけよな!」
そう吐き捨てた本郷は、最後に力強く修人ににらみを利かせ威嚇する。
「そ…そうか、なんか…悪かったな。まあ、お手柔らかに頼むよ。」
それを見た修人は、申し訳なさそうに差し出した右手を引っ込めるのであった。
「そう試合前からピリピリするこたぁないでしょ、本郷さん。そーゆーのはピッチの中だけにしましょうよ。」
修人と本郷の間に割って入ったのは、一年生の呉であった。
そして、呉の姿を見た獅子浜高校女子サッカー部員たちの間にどよめきが起こる。
「え…あの人ってまさか……!呉 泉美⁉︎アンダー15日本代表の呉がなんでこんな所に?」
「サッカー辞めたって聞いてたのに、いつの間に復帰してたの⁉︎」
「てゆーか、今日の試合にも出るってことだよね…ウチらヤバくない⁉︎」
「落ち着け!お前たち!」
動揺する部員たちを、本郷は一声で黙らせる。そして呉の方に向き直ると修人の時とは打って変わって、優しい態度で話し始めるのであった。
「久しぶりだなぁ、呉。サッカーを辞めたと聞いて残念に思っていたが、よく復帰してきてくれた。」
「まあ…色々ありましてね。選手に戻ることにしたんです。てなわけですから、今日はお手柔らかに頼みますよ。」
「フッ…お前がいるとなれば話は別だ。全力でいかなければ、こちらがやられてしまうからな。」
「ちぇっ、流石に通用しないか…ってアレ?」
呉は何かに気づいた様子で本郷の顔をまじまじと見つめる。
「どうした、呉?私の顔をじっと見つめて。」
「本郷さんひょっとして、今日化粧してます?なんか前と雰囲気違うから…あっ!もしかして片桐監督に会うから…モガっ!」
ここで本郷は突然呉の口を塞いだ。
「さ、さあ立ち話もなんだ!グラウンドへ案内するからついて来てくれ!」
「モガッモガガーーーー!」
半ば強引に会話を終了させた本郷は、呉をさらう様な形でグラウンドへと連れて行ってしまう。
「あっ、キャプテン!ちょっと待ってくださいよー!」
そして、それに釣られて他の獅子浜部員たちも本郷の後を追うのであった。
その場に取り残された呉以外の桜ヶ峰サッカー部員たちは、状況が把握できず呆気に取られていた。
「なんか…よくわかんないんだけど……なんで片桐監督は、向こうのキャプテンさんにあんなに嫌われてるわけ?過去に何かあったの?」
鞍月は怪訝そうな眼差しを向けながら、修人に質問をする。
「いや、正直俺にもわかんねーんだ。向こうのキャプテン…本郷 晶とは、日本代表の男女合同合宿とかで昔からよく一緒にサッカーやってたんだけど、事あるごとに俺に突っかかってきてなあ。
なんとか仲良くなろうと、俺も歩み寄ってみたりしてるんだけどいつもあんな感じで怒らせちまうんだよ。」
修人が深いため息をついていると、不意に何者かの声が聞こえてきた。
「本当に…ウチのキャプテンがご無礼を働いてすみませんでした…」
「うわっ!びっくりした!」
突然修人の目の前に現れたのは、気弱そうな獅子浜高校の部員であった。
「ああっ!驚かしてしまってすみません!私、獅子浜高校女子サッカー部の副キャプテンを務めております、三田と申します。先程は、ウチのキャプテンの本郷が失礼なことを言ってしまい申し訳ございませんでした。」
三田はしきりにペコペコと頭を下げながら、修人たちに謝罪をした。
「いやいや、いいよいいよ。気にしないでくれ。昔からあんな感じだし、慣れっこだよ。」
「そうですか…ありがとうございます。片桐監督は心が広い方なのですね。」
「アハハ…そんなことないよ。」
三田からニコリと微笑みかけられた修人は、満更でもなさそうなニヤケ面になる。
それを横で見ていた鞍月は、ジロリと修人をにらんでいた。
「……信じられないかもしれませんが、実はキャプテンは今日の試合をすごく楽しみにしていたんです。」
「晶が?本当に?」
「ええ…修人にいいとこ見せるんだーって、試合が決まった時からすごい張り切ってたんですよ。」
「ええ…じゃあなんだって、あんなに強く当たってくるんだ…?」
「ウチのキャプテンは不器用で…なかなか素直になれないんです。ですから、その本当の気持ちだけでも分かってもらいたくって、ついつい話かけてしまいました。突然すみませんでした。」
そう言って、三田は再び修人に頭を下げた。
「そっか…じゃあ三田さんの言ったこと信じるよ。でも、今日は晶に良い格好をさせるつもりはないよ。正々堂々、戦おう。よろしくね!三田さん!」
「……はい!ありがとうございます!こちらこそよろしくお願いしますね!では、僭越ながら私がグラウンドまで案内させていただきます!ささ、どうぞこちらです!」
三田は笑顔を綻ばせ、意気揚々と修人たちを案内する。
『私なりにフォローしましたからね!後は素直になって本当の気持ちを伝えてくださいね!キャプテン!』
本郷との付き合いが長い副キャプテンの三田 由美香は、本郷が修人に惚れていることを知っていた。
そして、そんな本郷を放っておけない三田は、何とか修人の印象を変えようとフォローに回ったのである。
当の修人は、本郷の恋心に全く気づいていなかったが、察しの良い桜ヶ峰のサッカー部員の何人かは、この時点でそれに気づく。
面白くなさそうな顔をする者、修人を見ながらニヤニヤする者、それぞれが思い思いの表情を浮かべながら、戦場となるグラウンドへと向かうのであった。
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