吸血

デコポン

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吸血

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昔々、ある村には「吸血妖怪」と呼ばれる恐ろしい存在がいたと言われています。この吸血妖怪は、夜な夜な村人の血を吸っては姿を消すという恐ろしい噂が立ちました。村人たちはその存在に恐怖し、夜には必ずと言っていいほど家に篭ってしまうようになりました。人々は耳をすませば、時折聞こえてくる奇妙な音におののき、不安な気持ちで眠りについていました。

ある日、村の中心にある大きな松の木の下で、数人の村人が集まって話をしていました。彼らは吸血妖怪のことを話題にしていたのです。

「最近、吸血妖怪の被害が増えているらしいな。誰か対策はないものか」

「そうだな、昔から伝わる対策法を試してみるか。幸いにも吸血妖怪は太陽の光が苦手だから、明るい場所で過ごすのが一番だと聞いたことがある」

「それなら、夜になったら村の灯りを一斉につけることにしよう!」

村人たちは話し合い、夜になると村のあちこちで明かりが灯るようになりました。明るい灯りが村を照らし、村人たちは安心して眠りにつけるようになったのです。

しかし、ある夜、村人たちは気がついてしまいました。灯りをつけても吸血妖怪の被害が収まるどころか、ますます増えているのです。村人たちは困惑し、恐怖に包まれました。

「なんでだ…?何が間違っているんだ?」

「もしかして、吸血妖怪は夜の闇とは関係なく、明るい場所でも活動できるのかもしれない…」

村人たちは絶望に打ちひしがれました。吸血妖怪に対する唯一の対策が通用しないとなれば、もはや彼らにはどうすることもできないのです。

すると、突然村人たちの身体に寒気が走りました。周りの空気が重くなり、異様な静寂が広がっていきます。そして、どこからともなく聞こえてくる不気味な音が村に響き渡ります。

コツコツコツ…

村人たちは顔を見合わせ、震えながら固まってしまいました。その音は、まるで誰かが扉をゆっくりと叩いているように聞こえたのです。

コツコツコツ…

その音は少しずつ近づいてくるように感じられました。村人たちは恐怖のあまり、声を出すこともできずに身を固くしました。そして、ついに音の主が村人たちのいる場所に辿り着きました。

「……吸血妖怪だ…」

村人たちの中から、ひとりの男が小さな声で呟きました。彼の声は震えており、恐怖心を抱えながらも、吸血妖怪の存在を確信していました。

男の言葉を聞いた瞬間、村人たちは一斉に恐怖に包まれました。吸血妖怪が村人たちの前に姿を現し、狂気じみた笑い声を上げるのです。

「キャハハハハハ!吸血妖怪の存在を知ってしまったのか?お前たちの血をすべて吸い尽くしてやる!」

恐怖に身を震わせながらも、村人たちは必死に逃げ出そうとしました。しかし、吸血妖怪は瞬く間に村人たちを追い詰め、その鋭い牙を彼らの首筋に突き立てていくのです。

村人たちは痛みに悶えながらも、吸血妖怪の牙によって次々と命を奪われていきました。村は血の海と化し、悲鳴と絶望の叫び声が夜空に響き渡ります。

そして、朝が訪れる頃、村にはもはや生き物の気配すらなくなりました。吸血妖怪は満腹になったのか、村を去っていったのです。

その後、吸血妖怪の存在が広まり、その恐怖は村から村へと伝えられていきました。人々は吸血妖怪の襲撃を恐れ、夜には家に篭るようになりました。しかし、吸血妖怪は夜の闇の中で忍び寄り、人々の血を吸いつくすのでした。

それからというもの、吸血妖怪は村人たちにとって永遠の恐怖の存在となりました。人々は夜になると、身を固くし、耳を澄ませて、吸血妖怪の気配を感じ取ろうとしました。

しかし、吸血妖怪はいつ現れるのか、どの村を襲撃するのか、その予測は不可能でした。人々は恐怖の中で日々を過ごし、吸血妖怪の恐ろしさを語り継いでいくのでした。
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