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「悪霊は火魔法に弱いと聞きましたが、本当でしょうか?」

「うむ、本当じゃ。と言うか、悪霊は剣で切っても死なない。むしろ増える一方じゃ、分裂するだけで傷を負う事は無い。悪霊を退治するには魔法が必須。神聖魔法でも倒す事は可能じゃが、火魔法で焼き尽くすのが一番効率が良い。」

 なるほど、やはりこう言う事は実際に見た人間に聞く方が説得力があるな。

「例えば、悪霊が取り憑いた魔物を火魔法で倒したら、一緒に悪霊も退治できますか?」

「いや、悪霊は火魔法に弱いので、火魔法を使われると本体を置き去りにして逃げるじゃろうな。」

「では、逃げられない様に魔法で囲ってから火魔法を使えば良いのでしょうか?」

「そうじゃな。それが一番確実じゃろうな。」

 ようやく悪霊の退治方法が明確になって来たぞ。後は悪霊を探すだけなんだが。

「そもそも、悪霊ってどうやって見つければ良いのでしょう?」

「それなんじゃがな、現在の所、悪霊をピンポイントで察知する方法は無い。その反乱軍のリーダーじゃったか?そいつの様に目立つ物に取り憑いてくれれば解り易いのじゃが、適当な魔物に取り憑かれたら実際に戦うまでは解らない事も多いぞ。」

 ありゃ?そいつは困ったな。

「でも、今回の悪霊は力を求めている訳ですから、比較的強い魔物に取り憑く可能性が高いんじゃありませんか?」

「ふむ、しかし、強い魔物はこの大陸にかなりの数おるぞ?」

「Sランクの魔物で知能が比較的低い魔物に絞れば、かなり絞り込めるんじゃないかと思うんですが?」

「それでも100や200じゃ効かないぞ。そいつらを退治して回るのか?」

「いや、悪霊が取り憑いた魔物には、ある特徴があるんです。おそらく見るだけで判別できると思いますよ。」

「ほう?それは儂も知らん情報じゃな。教えて貰えんか?」

 博士が喰いついて来た。相変わらず知識欲の強い爺さんだ。

「悪霊が取り憑いた魔物の周りには黒い小さな点の様な物が飛び交っています。おそらく悪霊が空気中の邪念や怨念を取り込みエネルギーにしているのだと思います。言うなれば悪霊の食事ですね。」

「ほう?そんな現象が起こるのか?それは過去に読んだ書籍にも載って居なかったな。悪霊を見分ける方法として、後世に残すべき発見じゃな。」

 そうだ、あの無数の黒い点はサーチに反応していた。この世界にあんなに小さい魔物は存在しない。だとすれば、上手くすればサーチで悪霊を特定出来るかもしれないな。

 しかし、この広い大陸をカバー出来る程のサーチは僕には使えない。ん?待てよ、悪霊の方はどうなんだ?悪霊の本体が反乱軍のリーダーなら、そこからあまり離れた位置ではコントロールが効かないのでは無いだろうか?

 今回、ヒュドラが現れた地点は王国と帝国の境にある、帝国寄りの森だ。王都からの距離だとおよそ100キロと言った所になる。これは仮定になるが、もし、王都を中心に半径120キロが悪霊の支配領域だとするなら、そこに存在するSランクの魔物はかなり限られるのでは無いだろうか?

 ストレージの中で地図を広げ、王都の中心から半径120キロで円を描いてみる。思った通りだ。円の中に高位のランクの魔物が生息する可能性がある森は意外に少ない。規模的には大森林の半分以下だ。これなら探知するのもそう難しく無いだろう。

「これは一度王国に潜入する必要があるな。」

「ん?王国に潜入?」

 しまった、声に出てた?フローネル嬢が怪訝な顔でこちらを見ている。

「あ、いや。」

 誤魔化すのも面倒なので、今考えて居た事を2人に聞かせた。そして、地図を取り出し、円を描いて見せる。

「ほう?なるほど、お前さん、面白い事を考えるな。」

 博士が感心している。フローネル嬢は食い入る様に地図を見ている。

「この地図が理論通りなら、王都の南と東の森が条件に当てはまると言う事ですね?」

「あくまでも理論上の話だ。もしかしたら悪霊の支配領域は僕が考えるよりも広い可能性だってある。」

「それで、王国に潜入って話になる訳ですね?」

「だって、国王と王太子は頼りにならないんだろう?」

「それはそうですが、他国の問題に帝国貴族である旦那様が手を出すのはどうかと。」

 確かに言われてみればおかしな話なんだろうが、ここで王国が滅ぶと色々と困る事が起きるんだよね。

「バレなきゃ良いのでは?」

「それもそうですね。2人で仮面でも被りますか?」

 ん?今、2人って言ったよね?フローネルさん、もしかして一緒に行く気ですか?

「えっと、なんで2人?」

「あれ?もしかして博士も連れて行くんですか?」

 いやいや、何であなたは行く事決定してるんですか?つーか、博士が引きつった顔で笑ってるぞ。

「いや、そうじゃなくて、何でフローネルも行く事になってるの?」

「え?私は行けないんですか?」

「フローネルにもしもの事があったら、僕が皇帝に殺されるよ。」

「むしろ、旦那様に手を出したら殺されるのはお父様の方では?」

 あー、的確な突っ込みをありがとう。

「それに、私はそう簡単にどうこうされる程軟じゃ無いですよ?」

 うん、知ってた。って言うかそれが一番厄介なんだよね。おそらく、この間戦ったヒュドラもフローネル嬢なら、一人で倒せるだろう。まあ、僕よりは時間が掛かるかもしれないが、負ける未来は想像できない。多分無傷で勝利するだろう。

 まあ、そう言う風に鍛えたのは僕なんだけどね。

「ちなみに、フローネルの王国での知名度はどの位なんだ?」

「おそらく、私の顔を正確に知って居る者は居ないと思います。他国との正式な交渉の場には女の私は出られませんから。」

「なら、変装で誤魔化せそうだな。仮面を被って変に警戒心を煽るより良いだろう。」

「それは、私も連れて行ってもらえると言う事ですか?」

「最初から行く気だったんだろう?」

「まあ、悪霊の件は、帝国にも関係がある事ですからね。」

 博士の家を辞して家に帰る。転移で帰っても良いのだが、こうして、外を歩く機会は滅多に無いので、家に着くまでつかの間のデートを楽しんだ。

 家に着いたのは3時前、まだ時間はある。応接室で、王国潜入の具体的なプランを練る。潜入するなら暫くハンターの仕事は休まないとイケない。

 まあ、そう長くはならないと思うが、最低でも1週間から10日は掛かると考えた方が良いだろう。

 潜入するのは王都だ、他の都市に用は無い。ならば、旅商人を偽装するのが一番怪しまれない。だが、王国の身分証が無い。

「王国の身分証をどうにかして手に入れないとイケないな。何か伝手はあるか?」

「手っ取り早く身分証を手に入れるならハンターになるのが一番ですよ。ハンターなら面倒な手続きは要りませんから。」

 ハンターか、まあ、ハンターカードを手に入れてから商人の申請をする事も可能だが、僕もフローネル嬢もハンターなら王都でも稼げそうだな。

「しかし、ハンターって登録時は最下位のGランクからだよな?それは王国も変わらないのか?」

「私も詳しくは知りませんが、おそらく帝国のギルドとあまり変わらないはずです。」

「だとすると、Gランカーがいきなり稼ぐのは目立つんじゃないか?」

 そう言うと、確かにと答え、フローネル嬢が考え込む。

「最初は目立たない様に低位の魔物を狩って居れば良いのでは?」

「王都に行くのは偵察のためだぞ。それなりの資金が必要になる。帝国のお金は王国では使えないんだろう?」

「商業ギルドに行けば、王国のお金は手に入りますよ。一応国交がある国なので、両替のサービスは何処の国でも行っています。少しばかり手数料は高いですけどね。」

 ほう?それなら、明日にでも商業ギルドに行って、王国のお金を手に入れよう。白金貨1枚分もあれば十分だろうしね。

「お金が手に入るなら、身分証はハンターで十分だな。後は宿屋を拠点にして、情報収集だな。」

「それで良いと思いますよ。」

「ハンターの生活は貴族の生活とはかなり違うぞ、フローネルに耐えられるかな?」

「旦那様が一緒なら大丈夫だと思いますよ?」

 ん?どう言う根拠?
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