【リア充絶対殺すマン】~異世界を救う勇者として転生した俺は、限定チート能力でリア充相手に無双する。なお、非モテに絡まれたら即死する弱さです~

ハムえっぐ

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第35話 ザッハークラブリーちゃん死守同盟

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 牢屋を出た俺とリイナはスレイブの言葉を確かめるべく、再びあの古びた工房があった場所へと向かった。
 だが何度その周辺を往復しても、年季の入った「アガット工房」の看板も、古ぼけた建物も見当たらない。
 そこにあるのはただ、埃っぽい空き地だけだった。

「おかしい……。確かにこの辺りだったはずだが。道を間違えたのか?」

 リイナが眉間に深い皺を寄せ、納得いかない顔で首を傾げる。
 ちょうどその時、腕を組んで仲睦まじげに歩いてくる、おっさんとラブリーちゃんのカップルが通りかかった。

「おい、そこの者、この辺りに、人形を売っている店があるはずなのだが知らないか?」

 リイナは彼らを呼び止めると、汚物でも見るかのような冷たい視線を向け、尊大な態度で尋ねた。
 おいおいリイナ。潔癖なのはわかるがその態度は不味かろう。
 ここは、俺が今まで培った卑屈な交渉術を見せるしかあるまい。

 俺がコホンと咳払いして、ヘコヘコして喋ろうとするが、リイナの言葉におっさんは驚いたように目を見開いたが瞬時に顔が憎悪に歪む。
 ひっ⁉ 怖っ!

「……余所者め。この街の平和を乱す不埒者は貴様らか」

 おっさんの声に応じるかのように、どこからともなくぞろぞろと男たちが現れる。
 彼らの腕には一様に、表情のないラブリーちゃん人形が寄り添っている。
 気づけば、俺とリイナは街中の男とラブリーちゃんと、さらには駆けつけた衛兵たちにまで完全に包囲されていた。

「「「我らザッハークの男たち、ここに誓う! 1人のラブリーちゃんに仇なす者は、我ら全員の敵と見なす! 1人の同胞が流した涙は、我ら全員の血をもって贖うべし! 我らは一蓮托生、一心同体! この楽園を汚す不埒者には、鉄槌あるのみ! それこそが磐石なザッハークラブリーちゃん死守同盟の結束なり!」」」

「ちっ、そういうことかよ」

 俺の『リア充チェッカー』が自動で発動する。
 男ども全員の頭上に、見慣れたウィンドウが煌々と輝いていた。
 
【最終性交時間:24時間以内(相手:ラブリーちゃん)】

 全員だ。この街の男は全員、ラブドールとパンッパンッってやってやがる。
 つまり、俺のスキルが発動するバカどもだ。
 ……ていうか、ラブドールも性行為対象に含まれるのかよ。
 いいなあ……それって本当の女性の肉体ってことになるじゃねえか。
 錬金術の究極の目標、ここに成就する!

「このまま領主邸に突っ込むぞ、セイヤ!」

「応!」

 リイナの言葉に応え、俺たちは背中合わせに構える。

「リイナ! リイナはラブリーちゃんを相手にするんだ! 俺が男どもをぶん殴る!」

「セイヤ、君が強いと言っても男の数が多い、無理するな!」

「無理なんかしてないさ。それに、俺は女の子を殴る趣味はないからな、そっちを引き受けてくれ」

 俺の渾身のカッコつけに、リイナは一瞬、心底呆れたように柳眉をひそめたが、蒼い瞳の奥に小さな光が灯る。
 シュンッ、と彼女の剣が鞘から抜き放たれる。

「オオイシセイヤ、ハニートラップに簡単に引っかかりそうだな。敵を性別で判断してはならんぞ」

 真顔でそう忠告すると、リイナは舞うようにしてラブリーちゃん人形の群れへと突っ込んでいった。
 彼女の剣閃は無慈悲に、人形たちの手足を、胴を、首を、豆腐のように斬り刻んでいく。

(えぇ……今のは俺渾身のセリフだったのに……。女の子は殴らないって、めちゃくちゃポイント高いやつだろ……)

 俺が内心で凹んでいるとは露知らず、リイナは敵を斬り伏せながら、俺には見えない角度で、クスッと楽しそうに微笑んでいた。

「うおおおおお! リア充が! ラブドールリア充がァァァ! 羨ましいぜコンチクショー」

 スキルで強化された拳と蹴りで、襲い来る男どもをバッタバッタとなぎ倒していく。
 俺たち2人の進む道には壊れた人形の残骸と、白目を剥いて倒れる男たちが積み上がっていった。

 ***

 俺とリイナが暴れまくって領主邸を目指している頃。
 薄暗く、カビ臭い石造りの部屋で、アンナとレイラは目を覚ました。

「ん……ここは……?」

 アンナは動こうとするが、身体が荒縄で固く縛られていることに気づく。

「ふ、不覚。でもこのくらいの縄なら……フンスッ!」

 アンナが気合と共に腕に力を込めると、ぶちぶちと音を立てて縄がいとも簡単に引き千切れた。

「……ゴリラの神でも宿っているのですか?」

 同じように縛られていたレイラが呆れたように呟く。

「え~ひどーいレイラちゃん。純粋にレベルだよー。それより、ここはどこかな? まさかトイレに穴が空くなんて思いもしなかったよ」

「あれは空間転移魔法ですね。この街全体に、ここへ繋がる術式が掛けられていたのでしょう。私も不覚でした。アンナさん、周りをよく見てください」

 レイラに言われ、アンナはごしごしと目を擦る。
 薄闇に目が慣れてくると、そこに広がっていたのはおぞましい光景だった。
 何十人、いや何百人という、容貌の違う若い女性たちが同じように縄で縛られ、生気を失った目で虚空を見つめている。
 そんな彼女たちを、大量のラブリーちゃん人形が微動だにせず、見張っていた。

「なんじゃこりゃー!」

 アンナの素っ頓狂な叫びが静まり返った空間に響き渡った。
 そこへカツン、カツン、と奥の暗闇から足音が近づいてくる。

「ゲヘヘ、勇者パーティがこの街にやってくるとは好都合。これで1万人の雌豚を集め終えたかのう。子供やババア含めれば数万よ。魔王様への手土産にしてくれるわ」

 姿を現したのはビヨーンと横に長く伸びた、特徴的な髭を持つ小柄なおっさんだった。

「とりあえず殴ります!」

 アンナが考えるより先に駆け出し、渾身の拳を叩き込もうとする。
 だがアンナの拳が届く直前、どこからともなく現れたラブリーちゃんが身代わりとなり、粉々に砕け散った。

「無駄じゃ、無駄じゃ」

『闇よりもなお昏きもの、ヤマの投げ縄が汝の生命を捕らえ、ヴィタラニーの腐水が汝の骨の髄までを蝕むだろう。マーヤーの濃霧が汝の理性を覆い、サンサーラの車輪が汝の精神を永遠に砕き続け、そして破壊神の第三の目が開くとき、マハープララヤの劫火が汝の存在を痕跡すら残さず焼き尽くせ』

 レイラの呪殺詠唱が響くが、言霊が髭のおっさんに届く前に壁際に立つ1体のラブリーちゃんが、糸の切れた操り人形のようにガクンと崩れ落ちる。
 呪いは身代わりによって霧散したのだ。

「ひょっひょっひょ、無駄なことを。君たちは膨大な人質の数がわからんのかね?」

 髭のおっさんがニヤリと、金歯を見せて笑う。
 アンナとレイラはなす術もなく、チッと忌々しげに舌打ちするのだった。
 
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