【リア充絶対殺すマン】~異世界を救う勇者として転生した俺は、限定チート能力でリア充相手に無双する。なお、非モテに絡まれたら即死する弱さです~

ハムえっぐ

文字の大きさ
48 / 103

第47話 誰だって好みがある

しおりを挟む
 月明かりが手入れの行き届いた庭園を幻想的に照らし出していた。
 夜風に乗って運ばれてくる、硫黄と檜の香りが混じり合った独特の匂いが鼻腔をくすぐる。
 俺は宿の貸し浴衣に身を包み、気まずい沈黙の中、目の前に立つ少女の姿から目を逸らせずにいた。

 黄金のナイト、リュカのパーティメンバー、2級冒険者シルフィ。
 月光を浴びて淡く輝く金色の髪に、長く尖った耳。
 浴衣姿でも隠しきれない、しなやかで蠱惑的な肢体。
 彼女の美しさは、まさしく物語から抜け出してきたエルフそのものだ。

(ちくしょう……。クソビッチに助けられるとは一生の不覚だ……!)

 だが同時に認めざるを得ない。
 金髪美少女のエルフの浴衣姿。この組み合わせは反則だ。
 考えても見ろ、金髪ショートヘア、尖った耳、ビッチ、2人っきり!
 ここで誘惑されたら俺の貧弱な理性などひとたまりもない。
 いや、誘われなくても理性が蒸発寸前だ。

(落ち着け、俺! ここで童貞を失ったら、俺の勇者生命は終わるんだ! 俺の『リア充絶対殺すマン』がただの『非モテ』に成り下がる! それに……俺の初めてはリイナって、心に決めてるんだ……!)

 激しく葛藤しながらも、俺は社会人ならぬ異世界人としての最低限の礼儀を思い出し、なんとか言葉を絞り出す。

「……た、助けてくれて、ありがとうよ。精霊魔法ってのは回復もできるんだな。さすがは2級冒険者、肩書きは伊達じゃねえな」

 そうだ、褒めるのを忘れるな。
 こいつは1週間以上ご無沙汰、つまり俺のスキル補正は『わずかに上回る』レベルだ。下手に争い、苦戦でもしたら「あれ? 勇者って思ったより強くなくない?」なんて思われたら、俺の威厳に傷がつく。
 そんな打算に満ちた俺の言葉に、シルフィはふっと、それこそ反則的なほど艶めかしい笑みを浮かべた。

「礼はいらん。こっちも貴様の仲間に助けられたからな、貸し借りなしだ。それに、今はリュカ様を救うため、貴様に協力をお願いする身だ。その程度の分別は弁えている」

(へえ……。単なる強くて嫌味で尻の軽いビッチ女だと思ってたが、意外にしっかりしてるんだな)

 少しだけ見直すと同時に。俺の脳内で都合のいい妄想が爆発的に構築される。

(ま、待てよ、この展開……。助けてもらったお礼として、俺に身体を捧げようとするやつじゃないか? 夜の庭園、2人っきり、ちょっとだけはだけた浴衣から覗く太もも! あれ絶対、俺に見せつけてるだろ! グヘヘ……心臓のドキドキが止まらねえ! リイナには悪いがここで経験を積んでおくのもアリだよな? うん、アリだ! 世界平和はリイナとアンナとレイラに任せて、俺はここで引退しよう。それがいい、そうしよう!)

 俺がハアハアと荒い息を吐きながら、人生の岐路に立っていると、シルフィがすっと俺の前に進み出て、その場で深々と頭を下げた。

「勇者オオイシセイヤ。リュカ様を救ってくれたあかつきには貴様の願いを……性的以外のあらゆることを最大限叶える努力をしよう。頼む、この通りだ」

「……」

 俺の心臓のドキドキがピタリと止まった。
 時が止まったかのような静寂の中、俺はゆっくりと、震える声で聞き返す。

「……うん、礼儀正しいよな。すごく礼儀正しい。でもさ……なんで今、わざわざ『性的以外』って付けたの?」

「は? 何を言っている?」

「って! もう一度言わせる気か! 『性的以外』ってなんだよ! だよ! リュカ以外の男とも寝てる、クソビッチのくせに!」

 俺の魂からの叫びに、シルフィは心底不思議そうな顔で、平然と答えた。

「噂のことか? それがどうした。リュカ様だって、私以外の女に誘われたら、嫌な顔せずに片っ端から抱いているんだ。私が他の男と寝て、何が悪い」

「はああああ⁉ ハーレムの主が浮気するのは許されても、ハーレムメンバーが他の男と寝るなんてのはタブー中のタブーなんだよ! 一番やっちゃいけねえことなんだ! それがハーレムの掟ってもんだろ! 敵組織の裏切り者だったとしても、ダメージでけえんだよ!」

 俺の目から涙が溢れる。
 男だったとしてもダメージでかいんだぞ。裏切ったあげくに相棒が戦って殺してしまうのを想像してみろ。
 それが女の子だぞ? デートして救っていたつもりなのに世界の根幹が揺らいでしまうだろ。

「なんだその、ふざけた男尊女卑のとんでも理論は。王族の後宮でもあるまいし、誰と寝ようが私の自由だろうが」

「ざっけんな! ていうか! リュカに悪いと思わねえのかよ! どうせリュカは、お前が他の男と寝てるなんて知らないんだろ!」

 俺の言葉に、シルフィの表情が一変した。
 それまでの余裕のある笑みは消え失せ、代わりにぞっとするほど冷たい、昏い光がその瞳に宿る。

「リュカ様に、悪い……? フフッ……フフフフフ」

(ひいっ! な、何その怖い笑み⁉ 俺の心臓、凍りつきそうなんですけど!)

「私はリュカ様と24時間、寝ている時も、お風呂の時も、トイレの時も、離れず結合していても構わないというのに……。リュカ様は誘ってきた女を、見境なく抱く。……当然、私はリュカ様が他の女を抱いている間、リュカ様が私の中に入っていない。……リュカ様に悪い? 違うな。リュカ様が悪い、だ!」

 シルフィから放たれるオーラに、俺は完全に気圧されていた。
 ヤバい。こいつ、ガチでヤバい奴だ。
 だが……そうだ、まだ肝心なことが残っている。

「……な、なら! なんで俺には性的は拒否なんだよ! 俺は年中無休、開店休業状態で空いてるんだぞ!」

 俺の悲痛な問いに、シルフィはハッと我に返ると、俺の頭のてっぺんから爪先までをじろりと値踏みするように見下ろし、心底どうでもよさそうに、こう言い放った。

「決まっているだろう。私にだって、好みがあるんだ」

 月夜が俺たち2人を静かに照らしていた。
 俺は庭園の冷たい石畳に両手をつき、がっくりと項垂れる。

「ちくしょう……ちくしょう……ウッドにも抱かれたくせによお……」

 大粒の涙がぽたぽたと地面に染みを作っていく。
 そんな俺に、シルフィはさらに追い打ちをかけるように、衝撃の一言を告げた。

「……オオイシセイヤ。古城に巣食う悪党のカリスマは……」

 シルフィの声のトーンが真面目になり、俺は顔を上げる。
 そして……最悪の一言を耳にする。

「ウッドだ」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...