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第100話 女の戦う姿は華がある
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リイナとマーサの姉妹喧嘩が巻き起こす衝撃波、カレンたちの魔法が炸裂する轟音、そして俺とおっさんの魂と拳が交錯する奇妙な打撃音。
それらが絶え間なく響き渡り、謁見の間を破壊し尽くしていく。
まあ、俺はグリーンウェルとフェリックスの二人羽織野郎に手一杯で、仲間たちの華麗なる共闘を指をくわえて見てるだけなんだが。
だが、戦場はここだけじゃねえ。
窓の外に目をやれば王都のあちこちで火の手が上がり、市民の悲鳴と魔獣の咆哮が夜空を焦がしている。
リュカやウッド、サリアさんたちが奮戦してくれてるのは分かるが、数が多すぎる。このままじゃ……。
そう思った矢先、広場の一つが昼間のように眩い光に包まれた。
「風霊の矢雨!」
凛とした声と共に近くの教会の尖塔から放たれた一本の光の矢が、空中で幾千にも分裂し、魔獣の群れへと降り注ぐ。
断末魔を上げる魔獣どもに、矢は一匹一匹の眉間を正確に貫き崩れ落ちさせていく。
尖塔のてっぺんで、月光を背に優雅に弓を構えるのは、もちろんシルフィだ。
(ちくしょう……! ビッチのくせに、いちいち絵になりやがって! あの矢の軌道、男を惑わす上目遣いみてえにいやらしいのに正確無比! ムカつくほどにカッコいいじゃねえか!)
彼女の無双はそれだけじゃ終わらねえ。
一体の巨大なオーガが矢の雨を耐え抜き、教会に向かって突進するもシルフィは慌てることなく囁いた。
「縛れ、地の精霊」
オーガの足元から無数の岩の腕が突き出し、巨体をガッチリと拘束する。
身動きが取れなくなったオーガに向かって、シルフィは最大まで引き絞った弓から、螺旋状の魔力をまとった一矢を放った。
「終わりだ、風神螺旋貫」
矢は竜巻となってオーガの巨体を飲み込み、木っ端微塵に風化させた。
入り組んだスラム街の路地裏でも、別の風が吹き荒れていた。
「遅いにゃ!」
影から飛び出したリザードマンの爪を、ミャミャは紙一重で躱し、勢いを利用して壁を駆け上がる。
宙でくるりと身体を反転させると、リザードマンの首筋に、猫のようにしなやかな蹴りを叩き込んだ。
ゴキッ、と嫌な音を立てて、魔獣は崩れ落ちる。
(速ええ……! あの動き、絶対夜のベッドでも激しいに決まってんだろ! チッ、今頃ミャミャと寝たことあるやつは「俺、あの子とヤッたんだぜ」とか自慢してんだろうな! 羨ましいぜ、ちくしょう!)
一体を仕留めても、次から次へと魔獣が路地裏の闇から現れるも、ミャミャは愉しげに喉を鳴らす。
「雑魚がいくら集まっても、ミャミャの爪からは逃げられないにゃ! 猫影連牙!」
ミャミャの姿が、無数の黒い残像となって路地裏を駆け巡る。
一瞬の静寂後、全ての魔獣の身体に無数の赤い線が走り、次にはスローモーションのようにバラバラに崩れ落ちていった。
ふぅ、と息を吐くミャミャの元へ、尖塔から飛び降りてきたシルフィが合流する。
「そっちは片付いたか」
「当然にゃ。シルフィこそ、派手にやったにゃ」
「リュカ様のためなら、この程度!」
「そうにゃ!」
月光の下、互いの健闘を称え合う美少女2人。
……フン、どうせ全て片付いたあと、助けたイケメン衛兵に「お礼に一杯どうだい?」とか誘われて、そのままに直行するんだろうなあ。
俺も誘え!
まあ、外の雑魚を任せて安心は安心だ。
問題はこっち。
俺は再び、目の前の二人羽織野郎に意識を集中させた。
「消えなさい、お姉様! あなたさえいなければ、私が女王となり、この国を変えられる!」
マーサ王女の絶叫と共に、無数の闇の槍がリイナへと殺到する。
瞳に宿るのは純粋な嫉妬と、長年燻り続けた姉への劣等感。
「愚かな! 権力を望むなど、結局叔父上を粛清した貴族どもと同じではないか!」
リイナは剣を振るい、闇の槍を的確に弾き返していくが、剣を持つ手は震えていた。
妹に向ける刃は、あまりにも重い。
「違う! 私には大義がある! 私の魔法の才能が実現させる! 剣でただ敵を薙ぎ倒すお姉様とも、権力の固執する母とも違う!」
マーサの魔力が爆発的に膨れ上がり、謁見の間の大理理石の床が余波でメキメキと悲鳴を上げた。
(やべえ……あの姉妹、ガチで殺り合ってやがる……! 姉妹喧嘩のレベルじゃねえぞ、これ!)
俺がグリーンウェルとフェリックスの二人羽織状態のおっさんを、いなしながら冷や汗を流していると、リイナが深いため息をついて剣を鞘に納めた。
「な、何を……! 命乞いですか、お姉様!」
マーサが嘲笑うが、リイナはただ悲しげな瞳で妹を見つめ返した。
「……そうか。君は、ずっと寂しかったのだな」
「……!」
「私が悪かった。マーサ、私は姉でありながら、君の心の闇に気づいてやれなかった。母上の確執を理由に、君から目を背けていた。……済まなかった」
リイナは無防備なまま深々と頭を下げる姿に、マーサの瞳が激しく揺らぐ。
「……今更、何を……! そんな言葉で、私が翻意するとでも……!」
「翻意しなくていい。だが、これだけは言わせてくれ」
リイナは顔を上げ、涙で潤む瞳で真っ直ぐに妹を見据えた。
「1人で抱え込むな! 私に相談しろ! このバカ妹がああああああ!」
リイナの渾身の拳が、マーサの完璧な顔面にめり込んだ。
ゴッ! という鈍い音と共に、マーサは白目を剥き、綺麗な放物線を描いて壁に叩きつけられ、そのまま気絶した。
(……え? 拳? 剣じゃなくて? ていうか、乙女の顔面を殴るのアリなのかよ……)
俺がドン引きしていると、リイナはふぅ、と息を吐き、何事もなかったかのように気絶したマーサのそばにそっと膝をつき、自らの拳を見つめた。
赤く腫れ上がった拳に血が滲んでいる。
「……痛いな」
ポツリと呟く。それは殴った拳の痛みか、それとも今まで妹を傷つけてきた心の痛みか。
「……だが、お前が感じてきた痛みに比べれば、こんなもの……」
涙を一筋流し、リイナは眠る妹の額にそっと口づけを落とす。
「……おかえり、マーサ」
……うん、リイナちゃんも大概脳筋だったな。
でもよ、最高にカッコいい姉貴だぜ。
***
対魔王戦。
カレン、アンナ、レイラ、サーシャの4人は、魔王アルディスを相手に苦戦を強いられていた。
「無駄だ! あんたたちなんかに、父様を想う私の覚悟が止められるわけない!」
アルディスの身体から放たれる絶望のオーラが、4人の動きを鈍らせる。
「くっ……! この魔力、精神に直接干渉してくるタイプか……! 厄介な!」
「経験値に換算しづらい攻撃はやめてください!」
カレンの炎も、アンナの拳も、アルディスに届く前に威力を殺されてしまう。
「なぜ、そこまでして……! あなたの父君は、もう……!」
「うるさい! 父様は生きてる! 私がこの手で復活させる! そのためには、人間もエルフも、邪魔する奴はみんな始末する!」
アルディスの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
父を想う純粋な愛が歪み、世界を破壊する力へと変貌していた。
「……アルディスさん、あなたの気持ち、分かります」
レイラが言葉を紡ぐ。
「私も大切なものを守るためなら、手段は選びません。邪魔するものは、たとえ神であろうと……皆殺しにします」
レイラの瞳に昏い光が宿る。彼女の言葉にアンナも、カレンも、そしてサーシャまでもが頷いた。
「そうです! 私も大切な仲間や、美味しいご飯が食べられる日常を守るためなら、魔王だってぶん殴ります!」
「あたしもそうだ。仲間を傷つける奴は、たとえ親でも許さねえ」
「私もカレン様のためなら、魔王軍だろうが人間だろうが、全部敵に回したっていいし!」
4人の想いが、一つになる。
「だから、アルディス! あんたもこっち側に来い!」
カレンが叫ぶ。
「私たちも協力します! 魔王軍と人間、エルフたちとの友好を永遠にするために!」
アンナが拳を突き上げる。
「そうですよ。そのために邪魔な貴族とか、腐った教会とか、全部まとめてお掃除しましょう? 楽しいですよ、きっと」
レイラが天使の笑顔で、悪魔の囁きを口にする。
「それ、アルディスの今と全然変わんねーじゃねえか!」
カレンがすかさずツッコむが、もう遅い。
「「「「私も手伝う(し)!」」」」
4人の技が、想いが、一つに束ねられて巨大な光の奔流となってアルディスへと殺到した。
もうただの破壊の力ではない。
それぞれの正義と大切なものを守りたいという純粋な願いが混じり合った、混沌の光となって。
「なっ……! これは……温かい……?」
光に包まれながら、アルディスは驚愕に目を見開く。
脳裏に遠い昔の記憶が蘇る。
赤ん坊の自分を抱く父の温かい腕と、見つめてくる母の優しい笑顔。
「父様……母様……」
光が晴れた時、そこに立っていたのは魔王の禍々しいオーラを失い、ただ涙を流す、1人の少女の姿だけだった。
そんなアルディスに、サーシャがおずおずと近づいた。
「……あんた、バカだし」
「……ええ。本当に、馬鹿な魔王でした」
アルディスが力なく笑う。
「……でも、父親のこと、大好きだったのは本当だって伝わるし。……その気持ち、ちょっとだけ分かるし。私も母さん大好きだし」
サーシャはそう言うと、アルディスにそっと手を差し伸べた。
「だから、これからちゃんと償うし。あたしも……カレン様に恥ずかしくないように、頑張るし。魔王様」
サーシャの手を取り、アルディスは静かに頷いた。
(……おお。なんだかんだで決着ついたみてえだな。友情パワーってやつか。……みんなグッジョブ)
俺は二人羽織野郎の猛攻をいなしながら、少しだけ胸が温かくなるのを感じるのだった。
……まあ、すぐにこう思ったんだが。
「ていうか、魔王戦で俺の出番ないっておかしくね? 俺、勇者だよ?」
それらが絶え間なく響き渡り、謁見の間を破壊し尽くしていく。
まあ、俺はグリーンウェルとフェリックスの二人羽織野郎に手一杯で、仲間たちの華麗なる共闘を指をくわえて見てるだけなんだが。
だが、戦場はここだけじゃねえ。
窓の外に目をやれば王都のあちこちで火の手が上がり、市民の悲鳴と魔獣の咆哮が夜空を焦がしている。
リュカやウッド、サリアさんたちが奮戦してくれてるのは分かるが、数が多すぎる。このままじゃ……。
そう思った矢先、広場の一つが昼間のように眩い光に包まれた。
「風霊の矢雨!」
凛とした声と共に近くの教会の尖塔から放たれた一本の光の矢が、空中で幾千にも分裂し、魔獣の群れへと降り注ぐ。
断末魔を上げる魔獣どもに、矢は一匹一匹の眉間を正確に貫き崩れ落ちさせていく。
尖塔のてっぺんで、月光を背に優雅に弓を構えるのは、もちろんシルフィだ。
(ちくしょう……! ビッチのくせに、いちいち絵になりやがって! あの矢の軌道、男を惑わす上目遣いみてえにいやらしいのに正確無比! ムカつくほどにカッコいいじゃねえか!)
彼女の無双はそれだけじゃ終わらねえ。
一体の巨大なオーガが矢の雨を耐え抜き、教会に向かって突進するもシルフィは慌てることなく囁いた。
「縛れ、地の精霊」
オーガの足元から無数の岩の腕が突き出し、巨体をガッチリと拘束する。
身動きが取れなくなったオーガに向かって、シルフィは最大まで引き絞った弓から、螺旋状の魔力をまとった一矢を放った。
「終わりだ、風神螺旋貫」
矢は竜巻となってオーガの巨体を飲み込み、木っ端微塵に風化させた。
入り組んだスラム街の路地裏でも、別の風が吹き荒れていた。
「遅いにゃ!」
影から飛び出したリザードマンの爪を、ミャミャは紙一重で躱し、勢いを利用して壁を駆け上がる。
宙でくるりと身体を反転させると、リザードマンの首筋に、猫のようにしなやかな蹴りを叩き込んだ。
ゴキッ、と嫌な音を立てて、魔獣は崩れ落ちる。
(速ええ……! あの動き、絶対夜のベッドでも激しいに決まってんだろ! チッ、今頃ミャミャと寝たことあるやつは「俺、あの子とヤッたんだぜ」とか自慢してんだろうな! 羨ましいぜ、ちくしょう!)
一体を仕留めても、次から次へと魔獣が路地裏の闇から現れるも、ミャミャは愉しげに喉を鳴らす。
「雑魚がいくら集まっても、ミャミャの爪からは逃げられないにゃ! 猫影連牙!」
ミャミャの姿が、無数の黒い残像となって路地裏を駆け巡る。
一瞬の静寂後、全ての魔獣の身体に無数の赤い線が走り、次にはスローモーションのようにバラバラに崩れ落ちていった。
ふぅ、と息を吐くミャミャの元へ、尖塔から飛び降りてきたシルフィが合流する。
「そっちは片付いたか」
「当然にゃ。シルフィこそ、派手にやったにゃ」
「リュカ様のためなら、この程度!」
「そうにゃ!」
月光の下、互いの健闘を称え合う美少女2人。
……フン、どうせ全て片付いたあと、助けたイケメン衛兵に「お礼に一杯どうだい?」とか誘われて、そのままに直行するんだろうなあ。
俺も誘え!
まあ、外の雑魚を任せて安心は安心だ。
問題はこっち。
俺は再び、目の前の二人羽織野郎に意識を集中させた。
「消えなさい、お姉様! あなたさえいなければ、私が女王となり、この国を変えられる!」
マーサ王女の絶叫と共に、無数の闇の槍がリイナへと殺到する。
瞳に宿るのは純粋な嫉妬と、長年燻り続けた姉への劣等感。
「愚かな! 権力を望むなど、結局叔父上を粛清した貴族どもと同じではないか!」
リイナは剣を振るい、闇の槍を的確に弾き返していくが、剣を持つ手は震えていた。
妹に向ける刃は、あまりにも重い。
「違う! 私には大義がある! 私の魔法の才能が実現させる! 剣でただ敵を薙ぎ倒すお姉様とも、権力の固執する母とも違う!」
マーサの魔力が爆発的に膨れ上がり、謁見の間の大理理石の床が余波でメキメキと悲鳴を上げた。
(やべえ……あの姉妹、ガチで殺り合ってやがる……! 姉妹喧嘩のレベルじゃねえぞ、これ!)
俺がグリーンウェルとフェリックスの二人羽織状態のおっさんを、いなしながら冷や汗を流していると、リイナが深いため息をついて剣を鞘に納めた。
「な、何を……! 命乞いですか、お姉様!」
マーサが嘲笑うが、リイナはただ悲しげな瞳で妹を見つめ返した。
「……そうか。君は、ずっと寂しかったのだな」
「……!」
「私が悪かった。マーサ、私は姉でありながら、君の心の闇に気づいてやれなかった。母上の確執を理由に、君から目を背けていた。……済まなかった」
リイナは無防備なまま深々と頭を下げる姿に、マーサの瞳が激しく揺らぐ。
「……今更、何を……! そんな言葉で、私が翻意するとでも……!」
「翻意しなくていい。だが、これだけは言わせてくれ」
リイナは顔を上げ、涙で潤む瞳で真っ直ぐに妹を見据えた。
「1人で抱え込むな! 私に相談しろ! このバカ妹がああああああ!」
リイナの渾身の拳が、マーサの完璧な顔面にめり込んだ。
ゴッ! という鈍い音と共に、マーサは白目を剥き、綺麗な放物線を描いて壁に叩きつけられ、そのまま気絶した。
(……え? 拳? 剣じゃなくて? ていうか、乙女の顔面を殴るのアリなのかよ……)
俺がドン引きしていると、リイナはふぅ、と息を吐き、何事もなかったかのように気絶したマーサのそばにそっと膝をつき、自らの拳を見つめた。
赤く腫れ上がった拳に血が滲んでいる。
「……痛いな」
ポツリと呟く。それは殴った拳の痛みか、それとも今まで妹を傷つけてきた心の痛みか。
「……だが、お前が感じてきた痛みに比べれば、こんなもの……」
涙を一筋流し、リイナは眠る妹の額にそっと口づけを落とす。
「……おかえり、マーサ」
……うん、リイナちゃんも大概脳筋だったな。
でもよ、最高にカッコいい姉貴だぜ。
***
対魔王戦。
カレン、アンナ、レイラ、サーシャの4人は、魔王アルディスを相手に苦戦を強いられていた。
「無駄だ! あんたたちなんかに、父様を想う私の覚悟が止められるわけない!」
アルディスの身体から放たれる絶望のオーラが、4人の動きを鈍らせる。
「くっ……! この魔力、精神に直接干渉してくるタイプか……! 厄介な!」
「経験値に換算しづらい攻撃はやめてください!」
カレンの炎も、アンナの拳も、アルディスに届く前に威力を殺されてしまう。
「なぜ、そこまでして……! あなたの父君は、もう……!」
「うるさい! 父様は生きてる! 私がこの手で復活させる! そのためには、人間もエルフも、邪魔する奴はみんな始末する!」
アルディスの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
父を想う純粋な愛が歪み、世界を破壊する力へと変貌していた。
「……アルディスさん、あなたの気持ち、分かります」
レイラが言葉を紡ぐ。
「私も大切なものを守るためなら、手段は選びません。邪魔するものは、たとえ神であろうと……皆殺しにします」
レイラの瞳に昏い光が宿る。彼女の言葉にアンナも、カレンも、そしてサーシャまでもが頷いた。
「そうです! 私も大切な仲間や、美味しいご飯が食べられる日常を守るためなら、魔王だってぶん殴ります!」
「あたしもそうだ。仲間を傷つける奴は、たとえ親でも許さねえ」
「私もカレン様のためなら、魔王軍だろうが人間だろうが、全部敵に回したっていいし!」
4人の想いが、一つになる。
「だから、アルディス! あんたもこっち側に来い!」
カレンが叫ぶ。
「私たちも協力します! 魔王軍と人間、エルフたちとの友好を永遠にするために!」
アンナが拳を突き上げる。
「そうですよ。そのために邪魔な貴族とか、腐った教会とか、全部まとめてお掃除しましょう? 楽しいですよ、きっと」
レイラが天使の笑顔で、悪魔の囁きを口にする。
「それ、アルディスの今と全然変わんねーじゃねえか!」
カレンがすかさずツッコむが、もう遅い。
「「「「私も手伝う(し)!」」」」
4人の技が、想いが、一つに束ねられて巨大な光の奔流となってアルディスへと殺到した。
もうただの破壊の力ではない。
それぞれの正義と大切なものを守りたいという純粋な願いが混じり合った、混沌の光となって。
「なっ……! これは……温かい……?」
光に包まれながら、アルディスは驚愕に目を見開く。
脳裏に遠い昔の記憶が蘇る。
赤ん坊の自分を抱く父の温かい腕と、見つめてくる母の優しい笑顔。
「父様……母様……」
光が晴れた時、そこに立っていたのは魔王の禍々しいオーラを失い、ただ涙を流す、1人の少女の姿だけだった。
そんなアルディスに、サーシャがおずおずと近づいた。
「……あんた、バカだし」
「……ええ。本当に、馬鹿な魔王でした」
アルディスが力なく笑う。
「……でも、父親のこと、大好きだったのは本当だって伝わるし。……その気持ち、ちょっとだけ分かるし。私も母さん大好きだし」
サーシャはそう言うと、アルディスにそっと手を差し伸べた。
「だから、これからちゃんと償うし。あたしも……カレン様に恥ずかしくないように、頑張るし。魔王様」
サーシャの手を取り、アルディスは静かに頷いた。
(……おお。なんだかんだで決着ついたみてえだな。友情パワーってやつか。……みんなグッジョブ)
俺は二人羽織野郎の猛攻をいなしながら、少しだけ胸が温かくなるのを感じるのだった。
……まあ、すぐにこう思ったんだが。
「ていうか、魔王戦で俺の出番ないっておかしくね? 俺、勇者だよ?」
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