TS? 入れ替わり? いいえ、女の身体に男の俺と女の俺が存在しています! ~俺の身体は冷蔵庫に保管中~

ハムえっぐ

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第31話 想いを君に託して

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 俺、相模原勇(男)は女の勇と共に一つの身体を共有しながら、内面では口論を繰り広げていた。

 先生やクラスメイトが立ち上がった相模原勇に奇異な目を向ける。

「なんでもありません……すいません」

 だが、女の勇の声は震え、心の奥底から湧き上がる不安と、同時にそれ以上の決意が溢れ出ていた。

 一礼して席に戻る女の俺に、この世界の聖愛が軽く手を振ってくる。
 武彦はぶっきらぼうに隣の席に存在していた。

(何……女の身体に入るなんて! 一体どういうつもり?)
『わ、わざとじゃないんだ、信じてくれ!』

(で? 誰なの?)
『俺は別世界の相模原勇……男だ』

(は? バカなの? 私が男になるわけないじゃない)
『くそ……こうなったら……君、戦場武彦が好きだろ?』

(⁉)
『よし……勝った』

(どういうこと⁉ まさか……男の君も君の世界で戦場君のことが⁉ ……ん? 今、聖愛の顔が浮かんだわ。……君……)
『くそ……脳内共有はこれだから…… でも都合はいい。俺の記憶、全部見せてやる!』

 男の勇は、女の勇と身体を共有して起きた出来事を想像した。

(……これって)
『俺が体験した真実だ。未来の君は俺を護って犠牲になった。……俺は、そんな未来を変えて君を守りたい』

 そんなやり取りの後、男の勇の真剣な声に触れて女の勇は心を打たれ、涙が零れるほどの覚悟を決めた。
 彼女の声は震えていた。

 涙を零す勇に、クラスメイトたちがざわめく。

「どうしたの? 勇」

 聖愛が真っ先に気づいて声をあげる。
 さすが聖愛だ。この世界でも優しいんだな。

 隣の席の武彦は動揺している。
 これはあれだな。
 俺の隣だから泣いたのか、とでも思っているんだろうな。

「よかったら使ってくれ」

 おっ、武彦やるじゃないか。ハンカチを出すなんて。
 ……でもアニメ柄って。

「ありがとう、戦場君……」

 おお……この心臓がバックンバックンしてる感じ、懐かしいなあ。
 それにしても武彦と女の勇は会話したことがないって言っていたが、そんな感じがしない流れだったぞ。

(あってるわよ……嬉しい。このハンカチ生涯家宝にするわ)
『いや、洗って返すんだよ⁉』

 そんなやり取りをしつつ女の勇は立ち上がり、気分が悪いので早退しますと告げた。

「大丈夫? 送る? 戦場君が」
 
「はあ? 何をまた変なことを言ってるんだ修道院! でもまあ、送ってやるぜ」

 そう言いつつ、2人はきょとんとした。なぜ言ったのかわからないって感じだ。

 これはあれかな? 俺の存在によって過去に影響が出ている証拠なのかも。

「気にしないで。大丈夫。また明日会いましょう」

 笑顔で手を振る女の俺。
 う~む。俺がこう言って早退したら、「お前絶対体調不良じゃないだろ」ってツッコまれそうだ。
 でもそんなツッコミなし!
 ちょっと悔しい。

 学校を出た俺たち。
 たち、と言っても身体は女の勇だけだ。

(最近知り合ったテイアという人物の元に行くわ。その人なら何か知っているはず)

『テイア? どういう知り合いなんだ?』

(変な人なのよ。外国の研究者だと言って私に2つの魂があるとか訳の分からないことを言っていたけど、まさか本当だったとはね。ま、実際に会ってみなさい)

 女の勇の説明に俺はまだ疑問を抱きながらも、彼女の決意に心を動かされ、信じるしかなかった。

 2人は1つに結ばれた心で、目的地へと急ぐ。

 到着した場所は、俺の世界ではフレアが住んでいたマンションだった。
 夕暮れ時のオレンジ色の光がマンションの外壁を照らし、静寂が広がっていた。

『テイアって男の人だろ? 1人で女の君が行くのって危なくないか?』
(……テイアは女よ?)

『あれ? 氷華……フレアが好きだったんじゃ?』
(フレアって人も知っているわ。テイアの恋人ね)
 
『ファッ⁉』

 俺は混乱しながらも対面の時がくる。
 扉が開き、現れたのは銀髪の美しい美女。横にはフレアも立っていた。

 テイアは笑みを浮かべ、はっきりと告げてくる。
 待っていたと言わんばかりに、全てを知っているかのように。

「相模原勇……未来から来た魂を持つ者よ」
 
「性別が違いますけどね」

 とツッコむ女の勇だったが、苦笑してテイアとフレアは続けた。

「別世界で性別が違う特殊な存在の君たちだから、可能だ。さあ、指輪を破壊してこれから3つの世界で起きる悲劇を食い止めてくれ」

 俺は疑問に思わずにはいられない。

『どうして……彼女たちは知っているんだ?』
 
(君の記憶を覗いたから私は理解できるわ。フレアが君の世界で行った実験、あれはテイアに全てを教えるためよ。以前、テイアから聞いたことがあるわ)

『……それ、事前情報があるからじゃ』
 
(細かいことを気にしないの。そんなことより気にするのは……)

 女の勇が疑問を口にする。彼女の声は震えていた。

「すでに過去に戻っている、私の中にいる男の私はどうなるんですか?」

 即座にフレアが断言して答える。

「続く未来がなくなるということは、存在しなくなることよ」

 それはつまり、俺の消滅を意味していた。
 ……この時間軸で、ボケッとしている別世界の男の俺は何も知らずに存在し続けるのだろう。

 ようするに俺が女子高生になって、女の俺と共に過ごした時間軸が消滅するということだ。

 俺は一瞬だけ心が揺れたが、すぐに迷わず口にした。
 声は決意に満ちている。

『やってくれ! 俺は君も異世界人たちの悲劇をなくすためにここにいるんだ! 君の未来を守るために俺の存在が消えるなら、それでいい』

「簡単に口にしないで! 私が……私だけが生き残っても意味ないわ!」

 その刹那、脳内に俺が映像を流す。
 未来で、この身体で男の勇が主体となって一緒に戦い、笑い、過ごした日々を。

「反則よ……ズルいわ」
『はは、今度こそ初めて君に勝てたかな?』

「私だけ覚えてろって……酷い話ね」
『君だから……覚えていてほしいんだ』

(何よそれ……さすが男の私ね、惚れちゃいそうだわ)

 泣かしてしまったのは申し訳ないと思う。
 彼女の涙腺が崩壊するのを、感覚を共有している俺に止める術はなかった。

『君には武彦がいるだろ? 終わったら告白しろよ。俺は君の幸せだけを願ってるから。俺の存在が消えるなら、それでいい。君を……愛してる。君の未来を……守りたい』

(……バカね。そういうのは2人でお出かけを重ねてからよ。……忘れないわ。君の勇気を私の心に刻む。君への愛を……)

 異世界からの侵攻がもうすぐという状況、時間がないとテイアが告げた。

「あなたがたの世界はどうなるんですか?」
「我々の世界の後始末は我々がするさ。気にするな」

 決意した表情の女の勇の問いに、テイアは答えた。
 フレアも続けて言ってくる。

「テイアと私がいるんです。心配しないで。あなたたちは、あなたたちの世界を守ればいい」

 指輪の破壊方法は2つの異なる性別の同一存在が、消滅を願うことで達成させることだった。

 テイアは指輪を広げた手の中に載せ、神聖な光を帯びた言葉を唱え始めた。

【全く同じ世界が2つあり、そこに1人だけ性別が違う存在がいる。それ即ち、歴史の歪み。しかし正しき歴史のラインに戻す唯一の希望の歪みだ。異なる世界で男と女で育った2人の(相模原勇)よ。1つの身体に2つの魂を共有させた歪みを持って、3つの世界を不幸にさせる指輪を破壊せよ!】

 部屋全体が光に包まれ、指輪が浮かび上がり、光り輝き、ヒビが入っていった。

(男の私、ありがとう。君がいなかったら、私は……何もできなかった。君が私の心を救った。君が……私の希望だった)

『いや、君が俺を今まで支えてくれたからだ。君の世界も、そして俺の世界も守りたい。……君と過ごした時間が、俺の宝物だ』

 2人の魂が一つに結ばれ、互いの決意が指輪を包み込む。

 指輪が完全に消失し眩い光が2人を包む、その瞬間、歴史が改変される。

 俺の意識は徐々に薄れていった。
 女の勇は涙を流しながら、男の勇に感謝の言葉を叫び続けた。
 彼女の瞳から涙がこぼれ、光の中に溶け込む。

(またね、男の私。君の勇気を忘れないわ。君、私なんだから諦めないでよ! 絶対に元の身体に戻ると願うのよ!)

 流れ続ける涙をそのままにして、女の勇が叫ぶ。

『女の俺……ありがとうな』

 そして、男の勇は最期にこう言って……消失した。

『……君の世界、君の友人たち、そして君の存在を守り続けるよ。俺の存在が消えても、君の心の中で生き続ける。こんな嬉しいことはないさ』

 やがて光が消え、マンションの一室には何もなくなった。

 テイアもフレアも存在した形跡がない空室。

 そこでただ1人、相模原勇は長い黒髪を地面に垂らし、号泣し続けた。
 
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