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【風雲、桶狭間編】
第4話 長谷川真昼、追放された帰蝶の過去を知り号泣する
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信長様が藤吉郎さんに抱きつき、帰蝶と呼んだ衝撃の瞬間から数分後。
信長様は「積もる昔話をしてやれ。俺は少し風に当たってくる」と、気を利かせたのか照れ隠しか、センイチボールを持って庭へと出て行ってしまった。
残されたのは私と、藤吉郎さんと肩に乗ったお猿さん。
広い部屋に、静寂が落ちる。
「……えっと? つまり、藤吉郎さんが帰蝶様で、帰蝶様が藤吉郎さんで?」
私の脳内CPUはオーバーヒート寸前だ。
だって歴史の授業でもマンガでも、そんなこと一言も書いてなかったよ⁉
「驚かせてすまないね、真昼。だが、真実なんだ」
藤吉郎さんは人当たりの良い笑みを浮かべつつ、懐かしそうにお猿さんの頭を撫でた。
「少し長くなるが……聞いてくれるか? 私が男として生きることになった経緯を」
「は、はい! 正座して聞きます!」
***
話は数年前、弘治2年まで遡る。
その年、帰蝶様のお父さんである美濃の蝮こと斎藤道三が息子の義龍に討たれた。
世に言う長良川の戦いっていうらしい。
「父上が討たれた夜、清洲城に私の従兄が、この小一郎と共にやってきた。傷だらけの身体で、父上の遺言状を携えてな」
「お猿さんの名前、小一郎っていうんだ。いい名前だね」
「ウキー」
小一郎が誇らしげに胸を張ってくる。
「この猿はただの猿ではない。父・道三が可愛がっていた愛玩動物でな。父上の狂気も、知略も、最期も、すべて見てきた生き証人なのだ」
うっそお。このお猿さん、そんな重要キャラなの?
ただのマスコットじゃなかったんだ……。
「それで遺言状って?」
「うむ。『美濃一国を婿の信長に譲る』とな」
「ほへえ、届けてくれた従兄さんは今どこに?」
「従兄は信長様に仕え、今は上方の探索をしておられる」
へえー。壮絶なドラマを見ているみたい。
ん? 帰蝶様の従兄って、たしか……。
「明智光秀⁉ 本能寺の人⁉」
「ほんのうじ?」
「ウキー?」
きょとんとする帰蝶様と小一郎。
あれ? 違ったかな?
「えっと、京都にあって炎上した……」
「ああ、洛中法華二十一ヶ寺の本能寺か。天文5年に延暦寺に焼き討ちされた……」
延暦寺? 焼き討ち? たしかそんな話だったような?
歴史の授業で聞いた記憶あるぞ。
「そうそう、その本能寺です。焼き討ちされた本能寺、大丈夫だったんですか?」
「天文14年に再建されてるよ」
なんだ、もう本能寺の変も終わってるんだ。
ふう、巻き込まれなくって済む。よかったよかった。
「それに、たしかに従兄の名前は明智十兵衛光秀。まだ無名の十兵衛様なのに、真昼殿は意外と博識なのだな」
「いやあ、照れます」
えへへ、博識なんて人生初めて言われたよ。
「話を戻すよ。長良川で父上を失い、兄が敵となり、美濃との同盟は崩れた。織田家家中でも、美濃の女を置いておくわけにはいかぬという声が高まったのだ。それに……」
藤吉郎さんは少し寂しそうに目を伏せる。
「私には三郎様……信長様との間に子ができなかった。子はかすがいと言うが、そのかすがいが無いゆえ、私は織田家の火種でしかなかったのだ」
だから、帰蝶様は自ら離縁を申し出たそうだ。
信長様は激怒したけど、最後は彼女の「織田家のために」という固い決意に折れた。
「城を出る時、信長様はこの小一郎を私にくださったのだ。『こいつは蝮殿の魂だ。美濃はお前が持ってきたも同然。だから、こいつと生きろ。また会う日まで』とな」
「ううっ……信長様、不器用すぎるよぉ……」
私の涙腺、早くも決壊注意報発令中。
「私は美濃には戻らなかった。兄、義龍は私を政治の道具にするだけだからな。私は髪を切り、名を捨て、三河や遠江へ渡り、商人として生きることにした」
「な、なんと⁉」
元お姫様が針売りや行商をして泥にまみれ、人に頭を下げ、算術を覚え、世渡りの術を身につけていく。
すべては力をつけて、再び信長様の役に立つ日のために。
「ねねと出会ったのも、私が商人だった頃だ」
「ねねちゃんと婚約してるみたいですけど、どうしてですか?」
「商人として浅野家に世話になったのだが……ねねは浅野家の養女でね」
藤吉郎さんは苦笑する。
「あの子は聡い。私の商いの手腕を見込んで援助をしてくれたのだが、私が女であることもすぐに見抜かれたよ」
そして帰蝶様は、信長様が戦いに次ぐ戦いに明け暮れ、実の弟にも裏切られた彼を身近で支えるべく、木下藤吉郎という男として再び仕える決意をした時、ねねちゃんはこう言ったらしい。
『藤吉郎さん。男として仕えるなら、奥さんがいないと他の家臣たちに不審がられますよ?』
『だが、私は女だ。娘を嫁に貰うわけにはいかん』
『じゃあ、どうするの? 一生独り身? 怪しまれて終わりですよ?』
困り果てる藤吉郎さんに、ねねちゃんは不敵にニヤリと笑って提案したんだって。
『いい案があります。私と夫婦になればいいんです』
『え⁉』
『藤吉郎さんは世間の目を偽装できる。私は汚らしい男と夫婦になって苦労しなくて済む。それにね……』
ねねちゃんは、ビシッと藤吉郎さんを指差して予言した。
『信長様の性格を熟知している帰蝶様なら、絶対手柄を立てて、ポンポンポーンって出世します! そうなれば私はお金に困らないし、お菓子も食べ放題! いいことずくめですよ!』
「……私は勢いに押されて、頷いてしまったんだ」
藤吉郎さんは恥ずかしそうに口にした。
ねねちゃん、恐ろしい子!
「こうして私は、ねねとの契約を結び、木下藤吉郎として草履取りとして帰参したのだ。信長様は私を見るなり大笑いして、『猿!』と叫んで抱きしめてくださったがな」
話を聞き終えた私は呆然としていた。
父を殺された悲しみ。愛する人と離れる辛さ。泥水をすする苦労。そして奇妙だけど温かい、ねねちゃんとの絆。
気がつくと、視界がぐにゃりと歪んだ。
「う……うう……」
「真昼?」
「うわあああああああああああん!」
私の目から、鼻から、口から、これでもかってくらいの水分が噴出した。
もうJKの尊厳とかどうでもいい。顔面崩壊レベルで号泣だよ!
「藤吉郎さん、あなた最高だよおおお! 健気すぎるよおおお! 映画化決定だよこんなの! ねねちゃんも腹黒そうだけどイイ奴だよおおおお!」
「お、おい、汚いぞ真昼。鼻水が」
「ウキー」
小一郎が私の頭を撫でてくれるけど、涙も鼻水も止まらない。
だって、こんなの応援するしかないじゃん!
夫婦の愛と、主従の絆と、猿とロリっ娘との友情だよ⁉
ガラッ。
襖が開いて、信長様が入ってきた。
「おい、いつまで泣いている。外まで聞こえて……うわ、なんだその顔は。化け物か」
私はグズグズに濡れた顔を上げ、信長様と藤吉郎さんを交互に見つめた。
そして、鼻水をズズッとすすって宣言する。
「私、決めました……!」
「何をだ」
「私、頑張ります! 一生懸命働いて、信長様と藤吉郎さんのお役に立ちます! うおおおおおお! 燃えてきたああああああ!」
そんな私を見て藤吉郎さんはフッと笑って、信長様はニヤリと笑う。
「やかましい奴よ。センイチ、こやつに先程話した任務を任せようじゃないか」
『じゃな。他の任務割り振っても、この小娘、余計な混乱しか起こさんだろうし』
ボールのくせに偉そうだな。センイチっていったっけ? 残り107個見つけるのにこき使ってやるからな。
でも、任務だって! よっしゃ、どんな任務でも頑張るぞおおおお。
「長谷川真昼、貴様に野球部員勧誘を命じる」
『しっかりやれよ、小娘。未来から来たなら適任じゃろ』
……。
おっと、いかんいかん。思考が停止してしまった。
なんだって? 野球部員を勧誘?
「はああああああああああああああ⁉」
絶叫する私の肩に、小一郎がポンと手を置いたのだった。
信長様は「積もる昔話をしてやれ。俺は少し風に当たってくる」と、気を利かせたのか照れ隠しか、センイチボールを持って庭へと出て行ってしまった。
残されたのは私と、藤吉郎さんと肩に乗ったお猿さん。
広い部屋に、静寂が落ちる。
「……えっと? つまり、藤吉郎さんが帰蝶様で、帰蝶様が藤吉郎さんで?」
私の脳内CPUはオーバーヒート寸前だ。
だって歴史の授業でもマンガでも、そんなこと一言も書いてなかったよ⁉
「驚かせてすまないね、真昼。だが、真実なんだ」
藤吉郎さんは人当たりの良い笑みを浮かべつつ、懐かしそうにお猿さんの頭を撫でた。
「少し長くなるが……聞いてくれるか? 私が男として生きることになった経緯を」
「は、はい! 正座して聞きます!」
***
話は数年前、弘治2年まで遡る。
その年、帰蝶様のお父さんである美濃の蝮こと斎藤道三が息子の義龍に討たれた。
世に言う長良川の戦いっていうらしい。
「父上が討たれた夜、清洲城に私の従兄が、この小一郎と共にやってきた。傷だらけの身体で、父上の遺言状を携えてな」
「お猿さんの名前、小一郎っていうんだ。いい名前だね」
「ウキー」
小一郎が誇らしげに胸を張ってくる。
「この猿はただの猿ではない。父・道三が可愛がっていた愛玩動物でな。父上の狂気も、知略も、最期も、すべて見てきた生き証人なのだ」
うっそお。このお猿さん、そんな重要キャラなの?
ただのマスコットじゃなかったんだ……。
「それで遺言状って?」
「うむ。『美濃一国を婿の信長に譲る』とな」
「ほへえ、届けてくれた従兄さんは今どこに?」
「従兄は信長様に仕え、今は上方の探索をしておられる」
へえー。壮絶なドラマを見ているみたい。
ん? 帰蝶様の従兄って、たしか……。
「明智光秀⁉ 本能寺の人⁉」
「ほんのうじ?」
「ウキー?」
きょとんとする帰蝶様と小一郎。
あれ? 違ったかな?
「えっと、京都にあって炎上した……」
「ああ、洛中法華二十一ヶ寺の本能寺か。天文5年に延暦寺に焼き討ちされた……」
延暦寺? 焼き討ち? たしかそんな話だったような?
歴史の授業で聞いた記憶あるぞ。
「そうそう、その本能寺です。焼き討ちされた本能寺、大丈夫だったんですか?」
「天文14年に再建されてるよ」
なんだ、もう本能寺の変も終わってるんだ。
ふう、巻き込まれなくって済む。よかったよかった。
「それに、たしかに従兄の名前は明智十兵衛光秀。まだ無名の十兵衛様なのに、真昼殿は意外と博識なのだな」
「いやあ、照れます」
えへへ、博識なんて人生初めて言われたよ。
「話を戻すよ。長良川で父上を失い、兄が敵となり、美濃との同盟は崩れた。織田家家中でも、美濃の女を置いておくわけにはいかぬという声が高まったのだ。それに……」
藤吉郎さんは少し寂しそうに目を伏せる。
「私には三郎様……信長様との間に子ができなかった。子はかすがいと言うが、そのかすがいが無いゆえ、私は織田家の火種でしかなかったのだ」
だから、帰蝶様は自ら離縁を申し出たそうだ。
信長様は激怒したけど、最後は彼女の「織田家のために」という固い決意に折れた。
「城を出る時、信長様はこの小一郎を私にくださったのだ。『こいつは蝮殿の魂だ。美濃はお前が持ってきたも同然。だから、こいつと生きろ。また会う日まで』とな」
「ううっ……信長様、不器用すぎるよぉ……」
私の涙腺、早くも決壊注意報発令中。
「私は美濃には戻らなかった。兄、義龍は私を政治の道具にするだけだからな。私は髪を切り、名を捨て、三河や遠江へ渡り、商人として生きることにした」
「な、なんと⁉」
元お姫様が針売りや行商をして泥にまみれ、人に頭を下げ、算術を覚え、世渡りの術を身につけていく。
すべては力をつけて、再び信長様の役に立つ日のために。
「ねねと出会ったのも、私が商人だった頃だ」
「ねねちゃんと婚約してるみたいですけど、どうしてですか?」
「商人として浅野家に世話になったのだが……ねねは浅野家の養女でね」
藤吉郎さんは苦笑する。
「あの子は聡い。私の商いの手腕を見込んで援助をしてくれたのだが、私が女であることもすぐに見抜かれたよ」
そして帰蝶様は、信長様が戦いに次ぐ戦いに明け暮れ、実の弟にも裏切られた彼を身近で支えるべく、木下藤吉郎という男として再び仕える決意をした時、ねねちゃんはこう言ったらしい。
『藤吉郎さん。男として仕えるなら、奥さんがいないと他の家臣たちに不審がられますよ?』
『だが、私は女だ。娘を嫁に貰うわけにはいかん』
『じゃあ、どうするの? 一生独り身? 怪しまれて終わりですよ?』
困り果てる藤吉郎さんに、ねねちゃんは不敵にニヤリと笑って提案したんだって。
『いい案があります。私と夫婦になればいいんです』
『え⁉』
『藤吉郎さんは世間の目を偽装できる。私は汚らしい男と夫婦になって苦労しなくて済む。それにね……』
ねねちゃんは、ビシッと藤吉郎さんを指差して予言した。
『信長様の性格を熟知している帰蝶様なら、絶対手柄を立てて、ポンポンポーンって出世します! そうなれば私はお金に困らないし、お菓子も食べ放題! いいことずくめですよ!』
「……私は勢いに押されて、頷いてしまったんだ」
藤吉郎さんは恥ずかしそうに口にした。
ねねちゃん、恐ろしい子!
「こうして私は、ねねとの契約を結び、木下藤吉郎として草履取りとして帰参したのだ。信長様は私を見るなり大笑いして、『猿!』と叫んで抱きしめてくださったがな」
話を聞き終えた私は呆然としていた。
父を殺された悲しみ。愛する人と離れる辛さ。泥水をすする苦労。そして奇妙だけど温かい、ねねちゃんとの絆。
気がつくと、視界がぐにゃりと歪んだ。
「う……うう……」
「真昼?」
「うわあああああああああああん!」
私の目から、鼻から、口から、これでもかってくらいの水分が噴出した。
もうJKの尊厳とかどうでもいい。顔面崩壊レベルで号泣だよ!
「藤吉郎さん、あなた最高だよおおお! 健気すぎるよおおお! 映画化決定だよこんなの! ねねちゃんも腹黒そうだけどイイ奴だよおおおお!」
「お、おい、汚いぞ真昼。鼻水が」
「ウキー」
小一郎が私の頭を撫でてくれるけど、涙も鼻水も止まらない。
だって、こんなの応援するしかないじゃん!
夫婦の愛と、主従の絆と、猿とロリっ娘との友情だよ⁉
ガラッ。
襖が開いて、信長様が入ってきた。
「おい、いつまで泣いている。外まで聞こえて……うわ、なんだその顔は。化け物か」
私はグズグズに濡れた顔を上げ、信長様と藤吉郎さんを交互に見つめた。
そして、鼻水をズズッとすすって宣言する。
「私、決めました……!」
「何をだ」
「私、頑張ります! 一生懸命働いて、信長様と藤吉郎さんのお役に立ちます! うおおおおおお! 燃えてきたああああああ!」
そんな私を見て藤吉郎さんはフッと笑って、信長様はニヤリと笑う。
「やかましい奴よ。センイチ、こやつに先程話した任務を任せようじゃないか」
『じゃな。他の任務割り振っても、この小娘、余計な混乱しか起こさんだろうし』
ボールのくせに偉そうだな。センイチっていったっけ? 残り107個見つけるのにこき使ってやるからな。
でも、任務だって! よっしゃ、どんな任務でも頑張るぞおおおお。
「長谷川真昼、貴様に野球部員勧誘を命じる」
『しっかりやれよ、小娘。未来から来たなら適任じゃろ』
……。
おっと、いかんいかん。思考が停止してしまった。
なんだって? 野球部員を勧誘?
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絶叫する私の肩に、小一郎がポンと手を置いたのだった。
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