なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件

ハムえっぐ

文字の大きさ
45 / 54
【最強の敵、半兵衛君を説得せよ、美濃攻略編】

第45話 長谷川真昼、一夜の奇跡を目撃する

しおりを挟む
 北近江の小谷城の高台で、琵琶湖を見下ろす美少年が佇んでいた。
 美濃から亡命した竹中半兵衛君だ。
 彼の隣に、織田家の同盟相手である浅井長政さんが残念そうな顔をして立っている。

「行ってしまうのか、半兵衛。我が家はまだ六角との小競り合いが続いている。貴殿の力が必要だ」

 長政さんが引き止めるが、半兵衛君はゆっくり首を横に振った。

「……僕の役目は終わりました。六角家は観音寺騒動という致命的な失態を犯しました。もうここに僕の役目はありません」

 半兵衛君の手元で、モリミチボールが明滅する。

『信長のあの無茶苦茶な熱量が懐かしいのう。……ここじゃあ大勝ちの野球はできても、魂が震えん』

 半兵衛君は苦笑して空を見上げた。

「ふょうへふへ(そうですね)。いっはんいんへいふふほほあふふはあひあへん(一旦隠棲するのも悪くありません)」

「お、お市殿! 半兵衛殿の背に乗って頬を抓らないでくだされ!」

 長政さんは慌てて、お市ちゃんを自らの腕に移動させる。

「だって長政様、せっかくお兄様がおもちゃをくれたのに、出ていくなんて無礼ですわ。お兄様の物は私の物、長政様の物も私の物ですのに」

「すまない、半兵衛殿。気を悪くしないでくだされ」 

「お構いなく。どうやら僕も、あのうつけに毒されたようです。……美濃の空が、騒がしくなる予感がしますので」

「……今まで世話になった。おかげで六角家との争いに優位に立てております。お市殿の無茶振りも色々叶えていただき、まことに感謝いたします」

 半兵衛君は長政さんとお市ちゃんに深々と一礼し、小谷城を後にした。

「さあ、行きましょう、モリモチさん。僕の美しい顔が、これ以上変形しないうちに」

『お主、浅井家を去る理由、それじゃろ』
 
 行き先は美濃の山中、栗原山。
 世俗との関わりを断つ隠遁生活……のふりをして、次なる役目を待つために。

 ***

 そしてこちらは美濃攻略の前線基地、小牧山城。
 信長様が地図の一点を指差して、無茶振りをかましていた。

「稲葉山城の鼻先に砦を築くぞ。場所はここ、以前斎藤の砦があった場所、墨俣だ」

 墨俣。長良川と犀川が合流するデルタ地帯で、稲葉山城からは目と鼻の先。
 敵地ど真ん中じゃん!

「普通の普請じゃ、基礎工事の段階で敵にバレて妨害される。……となれば」

 信長様の視線が、秀吉さんに向けられる。
 秀吉さんは一歩前に出ると、自信満々に胸を張った。

「私にお任せください。一夜で城を築いてみせます」

「一夜⁉」

 私が素っ頓狂な声を上げると、信長様はニヤリと笑った。

「一夜ときたか、面白い。そのような大言壮語、失敗したら切腹もんだぞ?」

「望むところです。……ただし、真昼殿と川並衆の協力が必要不可欠ですが」

「えっ、私も⁉」

 また巻き込まれた! でも、秀吉さんの真剣な眼差しを見たら断れないよ。
 こうして、墨俣一夜城プロジェクトが始動したのだった。

 私たちは早速、蜂須賀小六さんや前野小右衛門さんらがいる川並衆の元へ向かった。

「一夜で城? 無茶言うなよ、長谷川の姉御! 藤吉郎の旦那!」

 小六さんが呆れ顔で手を振るも、秀吉さんが持参した設計図を広げていく。

「無茶ではない。上流で材木を加工し、筏に組んで川を一気に下らせる。現地では組み立てるだけにするのだ」

「なるほど! イケアの家具みたいなもんね! プレハブの組み立てなら、お父さんが得意だったので私も大得意です!」

 私が補足すると、小六さんは渋い顔で腕を組んだ。

「理屈はわかるがよぉ……でも人手が足りねえ! 木を切って加工して運んで組み立てる……今の俺らの人数じゃあ、どう計算しても間に合わねえよ」

「織田家に肩入れしてるし、俺らもなんとかしてえけどよ」

 小右衛門さんの困惑顔が目に入る。
 たしかに、いくら川並衆が手練れでも物理的なマンパワーが不足している。
 万事休すか……と思っていると。

「甘いわね!」

 凛とした声と共に、茂みからねねちゃんが登場した!
 後ろには秀長の妹猿・旭ちゃんと、信長様の侍女見習いになった八重緑ちゃんもいる。

「秀吉様の一世一代の大仕事よ! 私たちも手伝うわ!」

「ウキー!」

「私も! 恩返しがしたいです!」

 女子&猿軍団の参戦だ!
 ねねちゃんが腰に手を当てて小六さんを睨む。

「あんたたち! 男なら黙って秀吉様に賭けなさい! 成功したら臨時報酬弾むわよ!」

「「へ、へい! やらさせていただきます! ねね姐さん!」」

 小六さんたち、ねねちゃんの迫力にあっさり陥落。

 でも、まだ問題がある。資材だ。
 短期間で大量の木材を用意するのは難しい。
 うーん……硬くて、丈夫で、大量にある棒状のもの……。

「あっ! あるじゃん!」

 私はポンと手を叩いた。

「野球道具を使おう! 倉庫に眠ってる信長様とセンイチが開発したけど、強度が足らんと開発失敗に終わった木製バット!」

 あれなら加工の手間もいらないし、強度も抜群だ。
 天下統一までは金属バットが主流になるだろうし、ちょうどいいよ。

「バットで……柵を……?」

 小右衛門さんが引きつった笑いを浮かべるが、背に腹は代えられない。採用!

 ***

 決行の夜、天候は大嵐で雷鳴が轟き、豪雨が視界を遮る。
 普通なら工事中止の悪天候だけど、敵の目を欺くには好都合だ。

「今だ! 流せぇぇぇ!」

 上流からの合図と共に、筏に組まれた資材が濁流に乗って下ってくる。
 川並衆が決死の覚悟で川に飛び込み、墨俣の岸へ引き上げる。

「ほらそこ! 手が止まってるわよ! 木下家の輝かしい未来のために死ぬ気で働きなさい!」

 現場監督のねねちゃんが、ハリセン片手に仁王立ちだ。
 雨に濡れた髪をかき上げる姿は鬼神の如し。

「ひいい! 鬼嫁だぁ! 休んだら殺されるぅ!」

 小六さんたちが泣きながら丸太を担ぐ。

「頑張れー! おにぎりですよー!」
「ウキキ!」

 旭ちゃんと八重緑ちゃんが簡易テントの下でチアガールのように応援&おにぎりの配給して、泥だらけの男たち(秀長含む)が、おにぎりを食べながら作業だ。

「みんなすまない! だが、成功すれば美濃攻略に多大な貢献となるのだ! 今行っている労働の対価は多大な利益となり、皆の懐を潤わしてくれるだろう!」

「ったく、秀吉さんは口が上手いなあ。へいへい、お嬢ちゃんたちのためならエンヤコラァァァ!」

 アメとムチの使い分けが完璧すぎるよ木下夫婦。

 私も金属バットをハンマー代わりに、木製バットの杭を地面に打ち込んでいた。

「ふんぬっ! 秀吉さんを切腹させてたまるかー!」

 ガゴォッ! ガゴォッ!
 一撃で杭が地面に突き刺さる。
 私の怪力に周りの川並衆がドン引きしているのがわかるけど、気にしない気にしない!

 翌朝になると嵐が去り、霧が晴れ、墨俣の地に突如として城が出現していた。
 柵には無数のバットが並び、朝日を受けて異様な威圧感を放っている。

 対岸の稲葉山城の城壁の見張り兵たちが、目を擦って絶叫した。

「な、なんだあれは⁉ 昨日までは何もなかったぞ⁉」
「城だ! 一夜にして城ができている!」
「妖術だ! 織田の妖術だぁぁぁ!」

 城内は大パニックだ。
 そんな様子を、竹中半兵衛君が遠く離れた栗原山の山頂から見つめていた。

「……やりましたね、帰蝶様。いえ、木下藤吉郎秀吉殿。バットの城とは、また奇抜な」

 半兵衛君の口元に、微かな笑みが浮かぶ。
 懐のモリミチボールも明滅する。

『ふっ、守備側の意表を突く、いい攻撃じゃ。これなら少しは楽しめるかもしれん』

 半兵衛君の瞳に、再び情熱の火が灯り始めていた。

 ***

 完成した墨俣城に、信長様が視察にやってきた。

「でかした猿! 見事な城だ!」

 信長様は柵に並ぶバットを撫でてご満悦だ。

「どうです信長様! 名前は『墨俣バットパレス』でどうでしょう!」

 私が提案すると、信長様は即答した。

「却下だ。普通に墨俣スタジアムとする」

「チェッ。センスないなぁ」

 私が唇を尖らせていると、ねねちゃんがドヤ顔で泥だらけの秀吉さんの肩を叩いた。

「さあ、あなた。これで立身出世確定よ! 褒賞で新しい着物買ってね!」

「あはは……ねねには敵わないな」

 秀吉さんは苦笑しつつ、完成した城を見上げ、亡き兄・義龍さんや父・道三さんに心の中で語りかけているようだった。

(見ていてください。この城を足がかりに、必ず美濃を……)

 墨俣スタジアムの完成。
 それは長かった美濃攻略戦の、終わりの始まりを告げる狼煙であり象徴。
 
 ちなみに信長様の命名、墨俣スタジアムも定着せず、人々は墨俣一夜城と呼んで語り草にしたそうな。

 信長様、ちょっと不満そうだったよ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

存在しないことにされていた管理ギフトの少女、王宮で真の家族に出会う 〜冷遇された日々は、王宮での溺愛で上書きします〜

小豆缶
恋愛
「願った結果を、ほんの少しだけ変えてしまう力」 私に与えられたギフトは、才能というにはあまりにも残酷な自分も人の運命も狂わせるギフトだった。 そのあまりの危うさと国からの管理を逃れるために、リリアーナは、生まれたことそのものが秘匿され、軟禁され、育てられる。 しかし、純粋な心が願うギフトは、ある出来事をきっかけに発動され、運命が動き出す。 二度とそのギフトを使わないと決めて生きてきたのよ だが、自分にせまる命の危機ーー 逃げていた力と再び向き合わなければならない状況は、ある日、突然訪れる。 残酷なギフトは、リリアーナを取り巻く人たちの、過去、未来に影響し、更には王宮の過去の闇も暴いていく。 私の愛する人がどうか幸せになりますように... そう、リリアーナが願ったギフトは、どう愛する人に届くのか? 孤独だったリリアーナのギフトが今、王宮で本当の幸せを見つけるために動き始める

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

神様!スローライフには準備が多すぎる!

わか
ファンタジー
超超超ご都合主義 人に興味が無い社会人の唯一の趣味が な〇う系やアルファポリスでファンタジー物語を、ピッ〇マやLIN〇漫画で異世界漫画を読み漁る事。 寝る前にはあるはずないのに 「もし異世界に転生するならこのスキルは絶対いるしこれもこれも大事だよね」 とシュミレーションして一日が終わる。 そんなどこでもいる厨二病社会人の ご都合主義異世界ファンタジー! 異世界ファンタジー系物語読みまくってる私はスローライフがどれだけ危険で大変か知ってます。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...