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第4話 ボリス・グローマン
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王立学校に入学して数日経った。
特に問題なく進んでいるんだけど……
相変わらず、私に話しかけるのはカリーナとイワンぐらいな日々である。
「次は体育だっけ? え~っと、体操服~っと」
ん? あれ?
「どうしたのリーシャ?」
「ごめんカリーナ、先に更衣室に行ってて。ちょっと用事を思い出しちゃった」
「ああ、あれ? 歴史の狸から、レポートを再提出するように言われてたっけ」
……しまった。それもあったか。
「うん、そんなとこ」
「じゃあ先に行ってるからね~」
バイバイと手を振って、教室から出ていくカリーナを見送る私。
さて、と。
教室はすでに私だけだ。
イワンも王子らしく、忙しくクラスで動き回っているので側にいない。
特に男子生徒のリーダーとして、尊敬と羨望を一身に背負っているのであった。
うん、やっぱりないな。私の体操服。
朝、持ってきたのは覚えているし、前の小休止の時にトイレへ行く前に確認もした。
つまりこれは、イジメってやつだ!
ついに始まったんだ!
王子がフィアンセと紹介した、平民の私を追い出す作戦が!
アワアワ……犯人誰だよおおおおおおお。
これ以上、私の悩みを増やさないでくれえええええええ。
そんなことを思っていると……
教室の戸が開いて赤髪の脳筋が入ってきて、何かを私にポンと投げてきた。
ん? 私の体操服が入ってる袋じゃん!
「お前ので合ってるか?」
ぶっきらぼうに言ってくる脳筋。
「あ、うん。ありがとう。どこにあったの?」
「廊下に落ちてたんだよ。名前ぐらい書いとけや」
そう言って、教室を出ていく脳筋。
うわっ! ムカつく!
拾ってくれたのは嬉しいけど、こっちは乙女だぞ!
もっと優しい言葉をかけろっての!
イワンだったら絶対こっちの感情を想像して慰めてくるぞ!
多分だけど。
っと。着替えしなくっちゃ。
私は全力疾走で更衣室に向かうのだった。
途中でのんびり歩いている脳筋が「廊下を走るな!」と言いつつ、私についてこようとするのを置いていきながら。
セーフ! なんとか授業に間に合ったよ。
「リーシャおひさ~」
「カリーナおひさ~。で、今日の授業って何?」
「マラソンだって~」
ゲッ! 異世界でもマラソンあるんかい!
まあ、こっちでは魔獣の森のガイドをアルバイトでしていた私だ。
体力に自信はあるから大丈夫かな?
そうして始まる男女混合マラソン。
グラウンドを一周し続けるという単純な作業だ。
「今日はみんなの体力を調べるのが目的だ! 力尽きるまで走り続けるのだ!」
なんて言っている、体育教師のおっさんの声。
「はひい……わたくし……無理です」
最初の脱落者は公爵令嬢のソフィアさん。
開始5分で汗をダラダラさせて、ゼエゼエ言って、へたり込んでいった。
それを見て彼女の取り巻き女子たち、私とカリーナ以外の女子全員が脱落していった。
う~ん、ソフィアさん体力ないなあ。
前世の私より酷すぎるぞ。
てかなんだあのタキシードの老人!
突然出現して、ソフィアさんを介抱してるし!
あれか、執事ってやつかな?
戦えば私も無事で済まなそうな、とんでもないオーラを発しているけど。
ま、いいや、無視無視っと。
やっぱり家柄が公爵家には教師も弱いのか、「お疲れ様ですソフィア様!」なんて言ってるし。
「やあリーシャ。まだ息が乱れていないなんてさすがだね」
「イワンもね。さすがは暇つぶしに凄腕の冒険者をやってただけあるね」
イワンに横に並ばれて話しかけられる。
おや、気づけば先頭集団でカリーナを置いてきちゃったよ。
後ろを振り向くと、まだ余裕はありそうだけど先頭集団のスピードにはついて行けないっぽい。
軽く手を振られて、先に行っていいよと合図を貰った。
「けっ! 王子を呼び捨てか。気に入らねえぜ!」
ん? 脳筋もついてきてるのか。
「ボリス、それは僕が許可しているんだ。彼女に敵意を向けるのは筋違いだよ」
「王子! 俺はそういうのが許せないんだよ! なんの能力もねえ、ただ王子の好みの女ってだけで特権を与えられるってのがな! おい平民の女! ちょっと体力に自信があるようだが、調子に乗るなよ。体力だけなら俺は王子よりも上なんだからな!」
ビシッと自分に指を向ける脳筋。
……なんの自慢なんだか。
ま、そうまで言われたら勝負に乗らなきゃダメでしょ。
私はギアを上げた。
「な! テメエ! 待ちやがれ! マラソンで負けてたまるかああああああ」
ほほう? ついてくるとはビックリ。
さすがは王国一の脳筋と陰で言われているだけはある。
「お~い、リーシャにボリス。この授業、そういう授業じゃないぞ。だが、王子として負けるわけにはいかない!」
そう言ってイワンまでも横に並んでくる。
「どうせなら勝負しないかい、リーシャ。負けたら相手の言うことを一つ聞く、ってのはどうだい?」
「まあ、良いですけど」
「なら、俺はこう願うぜ! 俺が勝ったら王子は平民の女なんかにうつつを抜かすな! 平民女は退学しろ! ここはお前みたいなのがいていい学校じゃねえんだよ!」
は? 退学? こいつの頭の中は直球な言葉しか浮かばんのかい。
そんなふざけたことを言ってギアを上げる脳筋。
「ちょっ! ボリス。君は関係なくて僕とリーシャでファーストキスをだな! って待つんだボリス!」
イワンは慌てて追っていくが……ふむふむ、どうやら脳筋のほうが体力が優れているのは事実みたい。
無茶なペース配分で、イワンはみるみるスピードを落としていく。
「はあはあ……ファーストキス……したいです」
そんなことを言って倒れていくイワン。
既に脱落していた、青髪緑髪銀髪のお偉いさんの男の子たちが介抱に向かっていくのが見えた。
ま、ファーストキスはまだまだ先ってことで。
つーか、賭け事みたいにファーストキスを扱うなっての。
ちょっと減点だぞ、イワン。
うん、もう私と脳筋しか走っていないみたい。
みんな唖然として全力疾走している私たちを眺めていた。
「なっ! この俺についてくる……だとお⁉」
驚愕する脳筋。
まったく、この程度で驚かれるのもムカつくぞ。
魔獣の森で、どこぞの冒険者に寝床を壊され、ブチギレた魔獣に三日三晩追いかけられた経験のある私だ。
あの時に比べたら軽くてあくびが出るっての。
「ボリス様! そ、それとリーシャ・リンベル! もう授業が終わる! 次の一周で勝負を決めてくれ!」
そんな体育教師の声にボリスが絶叫していく。
「うおおおおおおおおお! 負けるかああああああああ! 平民の女なんかにいいいいいいいいい」
叫んだら疲れるでしょうに。
さて、と。
本気だしますか。
横の脳筋に、勝利の笑みを浮かべてからゴールに向けて走り去る私。
あ~スッキリした。
絶句する脳筋の表情に溜飲が下がったよ~。
私が負けたら退学なんて言うからだぞ。
はい、ゴールっと。
うん、拍手はカリーナとイワン、それにイワンの側にいる青緑銀だけか。
そいつらは舌打ちしながら、王子に合わせているのが露骨だったけど。
他の生徒たちは冷たい視線(特に女子)と、なんであんなに走って息も乱れてないんだって驚いた表情してるなあ~。
まあ、両親が冒険者ギルドの職員だからってことにしよう。
「お疲れ~、やっぱリーシャ凄いわ~。はいタオル~」
「ありがとうカリーナ」
あ~癒される。
カリーナと友達になれて良かったよ~。
「ハアハアハアハア……この俺が……負けた」
フフン♪ 落ち込んでるねえ。
ま、相手が悪かったってことで。
「まあいい、負けは負けだ。俺は退学する」
……はい?
「ちょっ! ボリス! 何を言い出すんだ!」
慌てるイワン。
「王子! 俺は平民の女に負けたら退学しろって口にしたんだ! 当然、俺が負けたら退学すんのが筋ってもんだろ!」
うわあ、ガチで脳筋だなあ。
でも、そういう一本気なところも悪くないかも……って、何考えてるんだ私!
「ボリス! 君は責任を放棄するつもりか? 戦場でたった一回の敗北で逃げるのと同じだぞ」
メガネをクイッとさせる青髪。
「ヘヘ、将来のライバルが一つ減るのはラッキーだぜ! ……だがよ、ダセえ奴に勝ったって全然嬉しくねえなあ」
悪態をつく緑髪。
「大体、退学なんていう行為、生徒同士で賭け事のように扱われて受理するわけありません。もし退学したいのであれば止めはしませんが、その後の事後処理は面倒ですよ。僕は手伝いませんからね」
淡々と語る銀髪。
「はあ? これは男の約束ってやつだろ! ケジメつけなくっちゃダメだろうが! テメエもそう思うだろ! 平民の女!」
おい、こっちに投げんな脳筋。
てか私は女だし、約束もしていないっつーの。
……ま、こいつには私の体操服を見つけてくれた恩義はあるし、助け舟を出しますか。
「えっと、負けたら相手の言うことを聞くってのが勝負内容だったと思うんだけど。そうだよね、イワン」
「うん……そうだよ」
「というわけで、え~っと脳筋?」
名前なんだっけ。元帥の息子ってのは覚えているんだけど。
「ボリス・グローマンだ……」
ヤバい! 凹ませちゃった?
「あ、えっと、勝者の私からの命令! 今まで通り! はい以上この話はおしまい!」
「は? ちょっと待て! ペナルティなしはダメだろうが! 俺は勝負に負けたんだぞ!」
うわ……めんどくさい。
「じゃあ……そうね。あっ、そうだ。私のことを平民の女じゃなくってリーシャって呼ぶこと! 私もボリスって呼び捨てにする。これでいいかな?」
にこやかスマイルを炸裂させる私。
フフーン♪ 結構効くでしょ。
何せこっちは、私を2度も殺した勇者に狙われているのだ。
外面は良くしておかないとって一生懸命練習したのだ。
「お、おう……ポッ」
ん? ポッてなんだ。
「一件落着だね、良かった良かった。ボリス、君は大事な人材なんだ。僕の許可なくいなくなるのは許さないよ」
そう言ってボリスの肩を抱くイワンなんだけど……
「な、なあ王子、その、なんだ。まだリーシャとは付き合ってないんで、いいんだよな?」
んん? 何を言おうとしてるのかなあ、ボリスは。
「俺にも、チャンスあるってことでいいんだよな。リーシャと、そ、そのファーストキスして、結婚するってチャンスが」
んん?
「ああ、ボリス。グハッ! 僕に君の気持ちを止める権利はない。これからはライバルということになる……のか。グフッ!」
って、おい! 血の涙を流して吐血しながら言うなイワン!
「これからよろしくな。リーシャ」
おお! 照れながら口にするボリス。
ちょっとカッコいいって思っちゃったぞ。
「王子様の次は元帥様の息子か~。モテモテだねえリーシャ」
「あはは……はあ」
カリーナからそう言われて、私はため息を吐いたのであった。
ボリスまで私に好意を寄せてくるなんて。
……ということは、彼も勇者の転生体かもしれないってこと⁉
イワンだけじゃなく、ボリスも警戒しなきゃいけないの⁉
マジで?
***
『岩下真帆殺害事件
第2容疑者
ボリス・グローマン
年齢 16歳 王立学校1年生
容姿 赤髪 イケメン 長身筋肉質
身分 レフレリア王国元帥の嫡子
能力 体力ならレフレリア王国で五指に入るぞ
性格 曲がったことは大嫌いだ!
人生 リーシャに出会うまでは順調だった
目的 リーシャと結婚すること(本当かは不明)』
特に問題なく進んでいるんだけど……
相変わらず、私に話しかけるのはカリーナとイワンぐらいな日々である。
「次は体育だっけ? え~っと、体操服~っと」
ん? あれ?
「どうしたのリーシャ?」
「ごめんカリーナ、先に更衣室に行ってて。ちょっと用事を思い出しちゃった」
「ああ、あれ? 歴史の狸から、レポートを再提出するように言われてたっけ」
……しまった。それもあったか。
「うん、そんなとこ」
「じゃあ先に行ってるからね~」
バイバイと手を振って、教室から出ていくカリーナを見送る私。
さて、と。
教室はすでに私だけだ。
イワンも王子らしく、忙しくクラスで動き回っているので側にいない。
特に男子生徒のリーダーとして、尊敬と羨望を一身に背負っているのであった。
うん、やっぱりないな。私の体操服。
朝、持ってきたのは覚えているし、前の小休止の時にトイレへ行く前に確認もした。
つまりこれは、イジメってやつだ!
ついに始まったんだ!
王子がフィアンセと紹介した、平民の私を追い出す作戦が!
アワアワ……犯人誰だよおおおおおおお。
これ以上、私の悩みを増やさないでくれえええええええ。
そんなことを思っていると……
教室の戸が開いて赤髪の脳筋が入ってきて、何かを私にポンと投げてきた。
ん? 私の体操服が入ってる袋じゃん!
「お前ので合ってるか?」
ぶっきらぼうに言ってくる脳筋。
「あ、うん。ありがとう。どこにあったの?」
「廊下に落ちてたんだよ。名前ぐらい書いとけや」
そう言って、教室を出ていく脳筋。
うわっ! ムカつく!
拾ってくれたのは嬉しいけど、こっちは乙女だぞ!
もっと優しい言葉をかけろっての!
イワンだったら絶対こっちの感情を想像して慰めてくるぞ!
多分だけど。
っと。着替えしなくっちゃ。
私は全力疾走で更衣室に向かうのだった。
途中でのんびり歩いている脳筋が「廊下を走るな!」と言いつつ、私についてこようとするのを置いていきながら。
セーフ! なんとか授業に間に合ったよ。
「リーシャおひさ~」
「カリーナおひさ~。で、今日の授業って何?」
「マラソンだって~」
ゲッ! 異世界でもマラソンあるんかい!
まあ、こっちでは魔獣の森のガイドをアルバイトでしていた私だ。
体力に自信はあるから大丈夫かな?
そうして始まる男女混合マラソン。
グラウンドを一周し続けるという単純な作業だ。
「今日はみんなの体力を調べるのが目的だ! 力尽きるまで走り続けるのだ!」
なんて言っている、体育教師のおっさんの声。
「はひい……わたくし……無理です」
最初の脱落者は公爵令嬢のソフィアさん。
開始5分で汗をダラダラさせて、ゼエゼエ言って、へたり込んでいった。
それを見て彼女の取り巻き女子たち、私とカリーナ以外の女子全員が脱落していった。
う~ん、ソフィアさん体力ないなあ。
前世の私より酷すぎるぞ。
てかなんだあのタキシードの老人!
突然出現して、ソフィアさんを介抱してるし!
あれか、執事ってやつかな?
戦えば私も無事で済まなそうな、とんでもないオーラを発しているけど。
ま、いいや、無視無視っと。
やっぱり家柄が公爵家には教師も弱いのか、「お疲れ様ですソフィア様!」なんて言ってるし。
「やあリーシャ。まだ息が乱れていないなんてさすがだね」
「イワンもね。さすがは暇つぶしに凄腕の冒険者をやってただけあるね」
イワンに横に並ばれて話しかけられる。
おや、気づけば先頭集団でカリーナを置いてきちゃったよ。
後ろを振り向くと、まだ余裕はありそうだけど先頭集団のスピードにはついて行けないっぽい。
軽く手を振られて、先に行っていいよと合図を貰った。
「けっ! 王子を呼び捨てか。気に入らねえぜ!」
ん? 脳筋もついてきてるのか。
「ボリス、それは僕が許可しているんだ。彼女に敵意を向けるのは筋違いだよ」
「王子! 俺はそういうのが許せないんだよ! なんの能力もねえ、ただ王子の好みの女ってだけで特権を与えられるってのがな! おい平民の女! ちょっと体力に自信があるようだが、調子に乗るなよ。体力だけなら俺は王子よりも上なんだからな!」
ビシッと自分に指を向ける脳筋。
……なんの自慢なんだか。
ま、そうまで言われたら勝負に乗らなきゃダメでしょ。
私はギアを上げた。
「な! テメエ! 待ちやがれ! マラソンで負けてたまるかああああああ」
ほほう? ついてくるとはビックリ。
さすがは王国一の脳筋と陰で言われているだけはある。
「お~い、リーシャにボリス。この授業、そういう授業じゃないぞ。だが、王子として負けるわけにはいかない!」
そう言ってイワンまでも横に並んでくる。
「どうせなら勝負しないかい、リーシャ。負けたら相手の言うことを一つ聞く、ってのはどうだい?」
「まあ、良いですけど」
「なら、俺はこう願うぜ! 俺が勝ったら王子は平民の女なんかにうつつを抜かすな! 平民女は退学しろ! ここはお前みたいなのがいていい学校じゃねえんだよ!」
は? 退学? こいつの頭の中は直球な言葉しか浮かばんのかい。
そんなふざけたことを言ってギアを上げる脳筋。
「ちょっ! ボリス。君は関係なくて僕とリーシャでファーストキスをだな! って待つんだボリス!」
イワンは慌てて追っていくが……ふむふむ、どうやら脳筋のほうが体力が優れているのは事実みたい。
無茶なペース配分で、イワンはみるみるスピードを落としていく。
「はあはあ……ファーストキス……したいです」
そんなことを言って倒れていくイワン。
既に脱落していた、青髪緑髪銀髪のお偉いさんの男の子たちが介抱に向かっていくのが見えた。
ま、ファーストキスはまだまだ先ってことで。
つーか、賭け事みたいにファーストキスを扱うなっての。
ちょっと減点だぞ、イワン。
うん、もう私と脳筋しか走っていないみたい。
みんな唖然として全力疾走している私たちを眺めていた。
「なっ! この俺についてくる……だとお⁉」
驚愕する脳筋。
まったく、この程度で驚かれるのもムカつくぞ。
魔獣の森で、どこぞの冒険者に寝床を壊され、ブチギレた魔獣に三日三晩追いかけられた経験のある私だ。
あの時に比べたら軽くてあくびが出るっての。
「ボリス様! そ、それとリーシャ・リンベル! もう授業が終わる! 次の一周で勝負を決めてくれ!」
そんな体育教師の声にボリスが絶叫していく。
「うおおおおおおおおお! 負けるかああああああああ! 平民の女なんかにいいいいいいいいい」
叫んだら疲れるでしょうに。
さて、と。
本気だしますか。
横の脳筋に、勝利の笑みを浮かべてからゴールに向けて走り去る私。
あ~スッキリした。
絶句する脳筋の表情に溜飲が下がったよ~。
私が負けたら退学なんて言うからだぞ。
はい、ゴールっと。
うん、拍手はカリーナとイワン、それにイワンの側にいる青緑銀だけか。
そいつらは舌打ちしながら、王子に合わせているのが露骨だったけど。
他の生徒たちは冷たい視線(特に女子)と、なんであんなに走って息も乱れてないんだって驚いた表情してるなあ~。
まあ、両親が冒険者ギルドの職員だからってことにしよう。
「お疲れ~、やっぱリーシャ凄いわ~。はいタオル~」
「ありがとうカリーナ」
あ~癒される。
カリーナと友達になれて良かったよ~。
「ハアハアハアハア……この俺が……負けた」
フフン♪ 落ち込んでるねえ。
ま、相手が悪かったってことで。
「まあいい、負けは負けだ。俺は退学する」
……はい?
「ちょっ! ボリス! 何を言い出すんだ!」
慌てるイワン。
「王子! 俺は平民の女に負けたら退学しろって口にしたんだ! 当然、俺が負けたら退学すんのが筋ってもんだろ!」
うわあ、ガチで脳筋だなあ。
でも、そういう一本気なところも悪くないかも……って、何考えてるんだ私!
「ボリス! 君は責任を放棄するつもりか? 戦場でたった一回の敗北で逃げるのと同じだぞ」
メガネをクイッとさせる青髪。
「ヘヘ、将来のライバルが一つ減るのはラッキーだぜ! ……だがよ、ダセえ奴に勝ったって全然嬉しくねえなあ」
悪態をつく緑髪。
「大体、退学なんていう行為、生徒同士で賭け事のように扱われて受理するわけありません。もし退学したいのであれば止めはしませんが、その後の事後処理は面倒ですよ。僕は手伝いませんからね」
淡々と語る銀髪。
「はあ? これは男の約束ってやつだろ! ケジメつけなくっちゃダメだろうが! テメエもそう思うだろ! 平民の女!」
おい、こっちに投げんな脳筋。
てか私は女だし、約束もしていないっつーの。
……ま、こいつには私の体操服を見つけてくれた恩義はあるし、助け舟を出しますか。
「えっと、負けたら相手の言うことを聞くってのが勝負内容だったと思うんだけど。そうだよね、イワン」
「うん……そうだよ」
「というわけで、え~っと脳筋?」
名前なんだっけ。元帥の息子ってのは覚えているんだけど。
「ボリス・グローマンだ……」
ヤバい! 凹ませちゃった?
「あ、えっと、勝者の私からの命令! 今まで通り! はい以上この話はおしまい!」
「は? ちょっと待て! ペナルティなしはダメだろうが! 俺は勝負に負けたんだぞ!」
うわ……めんどくさい。
「じゃあ……そうね。あっ、そうだ。私のことを平民の女じゃなくってリーシャって呼ぶこと! 私もボリスって呼び捨てにする。これでいいかな?」
にこやかスマイルを炸裂させる私。
フフーン♪ 結構効くでしょ。
何せこっちは、私を2度も殺した勇者に狙われているのだ。
外面は良くしておかないとって一生懸命練習したのだ。
「お、おう……ポッ」
ん? ポッてなんだ。
「一件落着だね、良かった良かった。ボリス、君は大事な人材なんだ。僕の許可なくいなくなるのは許さないよ」
そう言ってボリスの肩を抱くイワンなんだけど……
「な、なあ王子、その、なんだ。まだリーシャとは付き合ってないんで、いいんだよな?」
んん? 何を言おうとしてるのかなあ、ボリスは。
「俺にも、チャンスあるってことでいいんだよな。リーシャと、そ、そのファーストキスして、結婚するってチャンスが」
んん?
「ああ、ボリス。グハッ! 僕に君の気持ちを止める権利はない。これからはライバルということになる……のか。グフッ!」
って、おい! 血の涙を流して吐血しながら言うなイワン!
「これからよろしくな。リーシャ」
おお! 照れながら口にするボリス。
ちょっとカッコいいって思っちゃったぞ。
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「あはは……はあ」
カリーナからそう言われて、私はため息を吐いたのであった。
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学園卒業祝いの夜会の場に、凛と響いた王太子殿下の一声。
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幼い頃に一度出会ったきりの初恋の彼と学園で再会出来たらなぁ、なんて淡い期待を抱いて通っていたのに、道理で卒業式までなんにも起きなかったわけだ。
ーーなんて、ひとり納得していたら。
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タイムリミットは1年間。
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