【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第6章 雪原は鮮血に染まる

第5話 奔走! 果物集め!

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「サンストーン・グレイプの原体を所望とは、また物好きな客人よのう」

 魔導具店の店主は、カウンターの奥から顔を出し、ちょび髭を捻りながら目の前の若い男女のリョウとクレアを値踏みするように眺めた。

「ふむ。それで、取引価格はいくらになるのかね?」

 クレアが落ち着いた声音で尋ねる。

「そうよのう、何分にも希少な代物じゃ。加工前の原体とはいえ、大金貨2枚は下らぬぞ」

 大金貨2枚。衛兵が1年間、飲まず食わずで働いてようやく手にできるかどうか、という額だ。
 リョウの顔が僅かに曇る。傭兵稼業でそれなりの蓄えはあるが、気軽に出せる金額ではない。
 クレアも今は旅の身だ。

「クレア殿……さすがにそれほどの大金は……」

 リョウが言い淀むのを、クレアは手で制した。

「なるほど。それで、在庫は現在あるのかね?」

「まあ待て。焦るでない」

 店主は悪戯っぽく笑うと、奥の棚から厳重に保管されていた箱を取り出した。

「まだ工房に出す前のものが、ちょうど一つだけある。ほれ、これじゃ」

 箱の中から現れたのは、成人男性の拳ほどの大きさの、鉱石のような物体だった。葡萄とは似ても似つかない。
 燃え盛る夕日を思わせる深みのあるオレンジ色をしており、表面には無数の微細な粒子が内側から発光するように煌めき、神秘的な七色の光彩を放っていた。
 宝石と紹介されても疑わないだろう。

「ふむ、見事なものさね。たしかにサンストーン・グレイプの原体だねえ」

 クレアが鑑定するように頷く。

「これを魔導具のコアとして加工すれば、大金貨3枚でも買い手がつこうぞ」

 店主は自慢げに語る。

 リョウに魔導具の知識はないが、その輝きと店主の言葉から、これが尋常ならざる価値を持つ品であることは嫌でも理解できた。

「店主殿、貴重な品を見せていただき、感謝いたします。しかし、残念ながら今回は手持ちが足りませぬ。諦めるとしましょう」

 リョウは潔く頭を下げた。仲間のためとはいえ、今の自分には分不相応な品だ。

 だが、店主はにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。

「まあ、そう言うでない。どうしても欲しいというのなら、ちいと頼み事を聞いてはくれんか? 報酬として、これを譲ってやらんでもないぞ」

「頼み事……ですか?」

「うむ。昨日リオーネ川に、とんでもない化け物が出たと評判でな。『大ウグイ』とか呼ばれとるらしい。そいつを仕留めてきてくれたら、このサンストーン・グレイプと交換してやろう」

「大ウグイ……?」

 聞き慣れない名前に、リョウは首を傾げる。

「なに、ただのデカい魚よ。だが、ちいとばかり厄介でな。漁師どもも手を焼いとるらしい。どうじゃ? 腕に覚えがあるなら、挑戦してみるか?」

 店主の言葉には、明らかにリョウを試すような響きがあった。
 サンストーン・グレイプは喉から手が出るほど欲しい。
 仲間の、クリスの喜ぶ顔が見たい。

「……承知いたしました。その大ウグイ、俺が仕留めてまいります」

 リョウは迷わず即答した。
 その隣で、クレアは(なるほどねえ)と内心で面白がるように微笑んでいた。
 リョウの実力と覚悟を試す、良い機会になりそうだ、と。

「クレア殿、大ウグイ討伐には時間がかかるかもしれません。これ以上、俺の個人的な頼みに付き合っていただくのは、ご迷惑では……」

 魔導具店を出ると、リョウは申し訳なさそうにクレアに言った。

「気にすることはないさね。むしろ、君の英雄譚を間近で見られるのは、僥倖というものさね」

 クレアは優雅に微笑む。

「それに、私の旅の目的の一つは、各地の珍しい素材、特に果物を集めて、新たな薬のレシピ開発に役立てること。君の見舞い品探しは、私の目的にも合致しているのさ」

 クレアはそう言うと、リョウが持っていた果物リストに目を落とした。

「だが、一つ一つ対処していては日が暮れるねえ。大ウグイの前に、他の果物の目星もつけておくべきさね。ブラックベリーのジャム、南部諸国産のマンゴー、それに高級なイチゴや梨、レスティア産に近い味のリンゴ……心当たりはあるのかね?」

 リョウは首を横に振った。高級品となると、普通の果物屋では難しいだろう。

「ふむ。ならば、まずは情報収集さね」

 クレアの提案で、2人は王都の飲食店や高級食材店を巡り始めた。
 口下手なリョウに代わり、クレアが持ち前の落ち着きと巧みな話術で情報を引き出していった。

「最高級のイチゴや梨、レスティア産に似た風味を持つ特別なリンゴも南部諸国産のマンゴーもございます。ブラックベリーのジャムも、今年は出来が良いものが少ないですな。これらは相応のお代をいただきます。……ですが、大ウグイを退治していただければ進呈しましょう」

 やがてたどり着いた貴族御用達の高級果物店で、そう告げられた。
 直接的ではないにせよ、大ウグイ騒動が影響しているようだ。

「どうやら、街の厄介払いをするのが、結局は一番の近道みたいだねえ」

 クレアは肩をすくめ、リョウを見つめる。
 その瞳の奥には、単なる好奇心だけではない、何か別の感情が揺らめいているようにリョウには感じられた。

「……はい。どの道、サンストーン・グレイプのためにも、大ウグイは倒さねばなりません」

 リョウは覚悟を決め、クレアと共にリオーネ川へと向かった。
 
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