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35.制御出来るのは1人だけ
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「姉さん、やりすぎ」
「……反省はしてるけど、後悔はしてないわ」
「クレマンが居なくて、良かったわね」
確かに、お兄様が居たら大騒ぎになりそうですわ。お母様とローランに口止めを頼みましたけど、却下されたのでそのうちお兄様にも伝わってしまうでしょうけれど、構わないわ。
倒れたリュカをあまり動かすのは良くないからと、ローランの隣のベッドに寝かせています。
正確には、リュカの身体が大きいのでわたくしや侍女達では運べなかったのです。部屋の外に居た護衛の騎士の皆様に、助けて頂きましたわ。
ローランが療養している部屋は、3つ程ベッドがあるのでひとまずそちらに寝かせたのですけど、騎士の方々リュカが起きたら恐縮するから騎士の詰所に運ぶと言われました。けど、わたくしの婚約者だから構わないと強引に寝かせてしまいましたわ。
だって、騎士の詰所になんて行かれてしまったらわたくしが側に居られないじゃない。
「あのね、姉さん。僕はリュカを労ってあげてって言ったよね? それなのに、労うどころか余計疲れさせてどうすんの!」
そして今、わたくしは元気になったローランに叱られておりますわ。
「だって、リュカの様子がなんだかおかしいんだもの。わたくし、また振られてしまうかと思って……」
クリストフ様との婚約破棄はラッキーとしか思わなかったけど、リュカに振られるのは嫌だったの。
「リュカは今、疲労してるの! 身体だけじゃなくて、頭を使い過ぎてギリギリの状態なんだよ! 顔色、悪かったでしょう?」
「……そうね」
ローランの方がリュカの事を分かっているみたい。物凄く面白くないわ。
「なのになんでキスなんてする訳? 姉さんがそんな事したら、リュカは気絶するに決まってるじゃん!」
「まぁまぁ、幸い公の場で口付けをした訳ではないから、そこまで大事な事にはならないわ。カトリーヌは、不安だったのよね?」
「不安だからってやる事が無茶苦茶! 姉さんは昔っからそう! ちゃんと話せば良いでしょ?! なんですぐ短絡的な行動をしちゃうの?!」
「ごめんなさい」
こうなったローランには、ひたすらに謝るしかない。なにせ、言ってる事は全て正論なのだから。確かに、いくら婚約者でも口付けはまずかったわよね。わたくしはもうリュカ以外と結婚する気はないけど、リュカの選択肢を狭めてしまうのはいけなかったわ。
ローランは、頬を膨らませてわたくしを叱る。ローランとはずいぶん会っていなかったから、こうやって叱られる事も久しぶりで懐かしい。
いつの間にかローランと話す事も無くなってしまった。そうだわ、わたくしの婚約が決まって淑女教育が厳しくなって……リュカとも会わなくなって、クリストフ様とルイーズが浮気した後くらいから家族とは話さなくなって……わたくし、寂しかったわ。だから、ローランに叱られるのが嬉しくて仕方ない。
「姉さん、ごめん! 言い過ぎた!」
「ローラン? 急にどうしたの?」
「だって、泣いてるじゃない」
「……え?」
ふと、頬に手を当てると確かに涙が流れておりました。嫌だわ、わたくしは時を戻ってから涙脆くなったみたい。
お母様がわたくしの涙を拭って下さり、抱きしめてくれました。
「カトリーヌ、貴女はみんなに愛されているわ。だから、そんなに不安にならなくて良いの」
「……お母様、わたくし、寂しかったの」
「そうよね、寂しかったわよね。ローランが叱ってくれて、嬉しかったんでしょう?」
「そうです。ローランに叱られて、お兄様やお姉様が優しく相談に乗ってくれて、シリルがわたくしを慕ってくれて。暖かくて、優しくて……」
「大丈夫、みんなこのままよ。みんなずっと、カトリーヌが好きなままよ」
「……ほんと、ですか?」
「ええ、大丈夫。ルイーズの魅了魔法はもうないわ」
「そうですよね……魔法のせいです。なのに、リュカは自分の魔法でみんなを元に戻せたって言い出して……過去で、気が付けば良かったって……自分を責めるの。そんなの、無理なのに。ローランが気が付いたのは、ローランが凄いだけなのに……」
お母様に抱きついて、泣きじゃくります。時を戻ったら、まるで心まで子どもに戻ってしまったみたいです。わたくし、こんなに泣き虫ではなかったのに。
カドゥール国に居る時は、王妃教育がどれだけ厳しくても、泣いたりしなかったのに。わたくしがあの国で泣いたのは、時を戻す寸前にリュカが死んでしまった時だけです。
もっと酷い事を沢山されても平気だったのに、今はすぐに泣いてしまいます。
「ごめん、姉さんとリュカは僕らと違う時間を過ごしてたんだよね。だから、リュカはあんなに焦ってるし、姉さんだって……」
「なんで今度はローランが泣くのよぉ……」
気がついたら、2人で泣いておりました。そんなわたくし達を優しく抱きしめてくれたのはお母様でしたわ。
わたくし達があまりに泣くものだから、心配した侍女達がお姉様とシリルを呼んでくれました。
お仕事が終わったお父様も来て下さり、お父様とお姉様にも、リュカにキスをした事を叱られてしまいました。
お姉様に叱られるのはとても久しぶりです。嬉しくてニコニコと叱られるわたくしに、お父様もお姉様も溜息を吐いてしまわれましたわ。
「もう……拍子抜けしちゃうわ! もう良いからさっさと結婚しちゃいなさいよ!」
「え! 良いのですか?!」
「待て! 色々待ってくれ! まだカトリーヌは16になったばかりだぞ!!!」
「あら? わたくしも16で嫁ぎましたわよ」
「それはそうだが! 急にどうしてそんな事を言い出した! 婚約で充分だろう!」
「結婚すれば、カトリーヌもリュカも落ち着くと思ったのですわ。カトリーヌは王妃教育までやったのでしょう?」
「まぁ、途中までですけどね」
「カトリーヌの体調なんて無視して詰め込んだだけあって、かなりの知識が詰まってるから少しだけ補完してあげれば結婚も問題ないと思うわよ。リュカもそうよ。教育は充分だし、夫婦の方が外交はやりやすい。お兄様は外交は苦手だものね。ローランだけじゃ大変だし、カトリーヌとリュカに外交をやって貰えば良いわ。さっさと結婚させて2人の関係を揺るがないものにしておく事を勧めるわ。婚約者と、夫婦じゃ天と地ほど違うもの」
「僕も賛成です! 姉さんを制御出来るのはリュカくらいですよ! さっさと幸せになって貰わないとまた姉さんが暴走します。それに、もう姉さんに悲しい思いはして欲しくありません。この城に居れば、リュカだけじゃなくて僕らも姉さんを守れます。政略結婚は必要ありませんよ。王妃教育を受けた姉さんと、父上に扱かれた知識を持ちトップクラスの強さ誇るリュカは貴重な人物です。2人が外交をする方が遥かに国の利益になります。姉さんとリュカを他国に渡すなんて、大損害です。婚約者じゃ、リュカがいくら頑張っても姉さんに目を付ける男が続々と現れますよ。リュカが認められる為にと無茶をすれば、また倒れます。そんなの続けてたらそのうち姉さんがリュカを連れてどこかに消えてしまいそうです。さっさと囲い込んでしまいましょう」
「そうです! ねーさんは幸せになるべきです!」
みんな、一斉にわたくし達が早く結婚するべきだとお父様に訴えます。嬉しいのですが、ローラン……わたくしを制御出来るのはリュカだけってどういう事よ!
「むぅ……確かに……リュカが倒れるとは思わなかった。少し無茶をし過ぎたな。こんな事が続けば、確かにカトリーヌはリュカを連れて出奔しかねん」
お父様まで?!
わたくし、そんなに信用がありませんの?!
ああ! だから過去でもお父様はわたくしに逃げて良いなんて仰ったのね!
そう言えば、わたくしはすぐに逃げたりしないから。負けず嫌いだから、ギリギリまで頑張ってしまうから。やっぱりお父様の掌の上なんじゃないの! 悔しいわ! リュカを付けたのも、わたくしが潰れないようにする為だったのかもしれないわ。過去でも今でも、結局わたくしはリュカが居ないと駄目だと言われているみたいじゃないの。
まぁ、その通りですけど……。
もう! リュカが起きたら結婚話が進んでるなんて、また気絶してしまいそうだわ。
「……反省はしてるけど、後悔はしてないわ」
「クレマンが居なくて、良かったわね」
確かに、お兄様が居たら大騒ぎになりそうですわ。お母様とローランに口止めを頼みましたけど、却下されたのでそのうちお兄様にも伝わってしまうでしょうけれど、構わないわ。
倒れたリュカをあまり動かすのは良くないからと、ローランの隣のベッドに寝かせています。
正確には、リュカの身体が大きいのでわたくしや侍女達では運べなかったのです。部屋の外に居た護衛の騎士の皆様に、助けて頂きましたわ。
ローランが療養している部屋は、3つ程ベッドがあるのでひとまずそちらに寝かせたのですけど、騎士の方々リュカが起きたら恐縮するから騎士の詰所に運ぶと言われました。けど、わたくしの婚約者だから構わないと強引に寝かせてしまいましたわ。
だって、騎士の詰所になんて行かれてしまったらわたくしが側に居られないじゃない。
「あのね、姉さん。僕はリュカを労ってあげてって言ったよね? それなのに、労うどころか余計疲れさせてどうすんの!」
そして今、わたくしは元気になったローランに叱られておりますわ。
「だって、リュカの様子がなんだかおかしいんだもの。わたくし、また振られてしまうかと思って……」
クリストフ様との婚約破棄はラッキーとしか思わなかったけど、リュカに振られるのは嫌だったの。
「リュカは今、疲労してるの! 身体だけじゃなくて、頭を使い過ぎてギリギリの状態なんだよ! 顔色、悪かったでしょう?」
「……そうね」
ローランの方がリュカの事を分かっているみたい。物凄く面白くないわ。
「なのになんでキスなんてする訳? 姉さんがそんな事したら、リュカは気絶するに決まってるじゃん!」
「まぁまぁ、幸い公の場で口付けをした訳ではないから、そこまで大事な事にはならないわ。カトリーヌは、不安だったのよね?」
「不安だからってやる事が無茶苦茶! 姉さんは昔っからそう! ちゃんと話せば良いでしょ?! なんですぐ短絡的な行動をしちゃうの?!」
「ごめんなさい」
こうなったローランには、ひたすらに謝るしかない。なにせ、言ってる事は全て正論なのだから。確かに、いくら婚約者でも口付けはまずかったわよね。わたくしはもうリュカ以外と結婚する気はないけど、リュカの選択肢を狭めてしまうのはいけなかったわ。
ローランは、頬を膨らませてわたくしを叱る。ローランとはずいぶん会っていなかったから、こうやって叱られる事も久しぶりで懐かしい。
いつの間にかローランと話す事も無くなってしまった。そうだわ、わたくしの婚約が決まって淑女教育が厳しくなって……リュカとも会わなくなって、クリストフ様とルイーズが浮気した後くらいから家族とは話さなくなって……わたくし、寂しかったわ。だから、ローランに叱られるのが嬉しくて仕方ない。
「姉さん、ごめん! 言い過ぎた!」
「ローラン? 急にどうしたの?」
「だって、泣いてるじゃない」
「……え?」
ふと、頬に手を当てると確かに涙が流れておりました。嫌だわ、わたくしは時を戻ってから涙脆くなったみたい。
お母様がわたくしの涙を拭って下さり、抱きしめてくれました。
「カトリーヌ、貴女はみんなに愛されているわ。だから、そんなに不安にならなくて良いの」
「……お母様、わたくし、寂しかったの」
「そうよね、寂しかったわよね。ローランが叱ってくれて、嬉しかったんでしょう?」
「そうです。ローランに叱られて、お兄様やお姉様が優しく相談に乗ってくれて、シリルがわたくしを慕ってくれて。暖かくて、優しくて……」
「大丈夫、みんなこのままよ。みんなずっと、カトリーヌが好きなままよ」
「……ほんと、ですか?」
「ええ、大丈夫。ルイーズの魅了魔法はもうないわ」
「そうですよね……魔法のせいです。なのに、リュカは自分の魔法でみんなを元に戻せたって言い出して……過去で、気が付けば良かったって……自分を責めるの。そんなの、無理なのに。ローランが気が付いたのは、ローランが凄いだけなのに……」
お母様に抱きついて、泣きじゃくります。時を戻ったら、まるで心まで子どもに戻ってしまったみたいです。わたくし、こんなに泣き虫ではなかったのに。
カドゥール国に居る時は、王妃教育がどれだけ厳しくても、泣いたりしなかったのに。わたくしがあの国で泣いたのは、時を戻す寸前にリュカが死んでしまった時だけです。
もっと酷い事を沢山されても平気だったのに、今はすぐに泣いてしまいます。
「ごめん、姉さんとリュカは僕らと違う時間を過ごしてたんだよね。だから、リュカはあんなに焦ってるし、姉さんだって……」
「なんで今度はローランが泣くのよぉ……」
気がついたら、2人で泣いておりました。そんなわたくし達を優しく抱きしめてくれたのはお母様でしたわ。
わたくし達があまりに泣くものだから、心配した侍女達がお姉様とシリルを呼んでくれました。
お仕事が終わったお父様も来て下さり、お父様とお姉様にも、リュカにキスをした事を叱られてしまいました。
お姉様に叱られるのはとても久しぶりです。嬉しくてニコニコと叱られるわたくしに、お父様もお姉様も溜息を吐いてしまわれましたわ。
「もう……拍子抜けしちゃうわ! もう良いからさっさと結婚しちゃいなさいよ!」
「え! 良いのですか?!」
「待て! 色々待ってくれ! まだカトリーヌは16になったばかりだぞ!!!」
「あら? わたくしも16で嫁ぎましたわよ」
「それはそうだが! 急にどうしてそんな事を言い出した! 婚約で充分だろう!」
「結婚すれば、カトリーヌもリュカも落ち着くと思ったのですわ。カトリーヌは王妃教育までやったのでしょう?」
「まぁ、途中までですけどね」
「カトリーヌの体調なんて無視して詰め込んだだけあって、かなりの知識が詰まってるから少しだけ補完してあげれば結婚も問題ないと思うわよ。リュカもそうよ。教育は充分だし、夫婦の方が外交はやりやすい。お兄様は外交は苦手だものね。ローランだけじゃ大変だし、カトリーヌとリュカに外交をやって貰えば良いわ。さっさと結婚させて2人の関係を揺るがないものにしておく事を勧めるわ。婚約者と、夫婦じゃ天と地ほど違うもの」
「僕も賛成です! 姉さんを制御出来るのはリュカくらいですよ! さっさと幸せになって貰わないとまた姉さんが暴走します。それに、もう姉さんに悲しい思いはして欲しくありません。この城に居れば、リュカだけじゃなくて僕らも姉さんを守れます。政略結婚は必要ありませんよ。王妃教育を受けた姉さんと、父上に扱かれた知識を持ちトップクラスの強さ誇るリュカは貴重な人物です。2人が外交をする方が遥かに国の利益になります。姉さんとリュカを他国に渡すなんて、大損害です。婚約者じゃ、リュカがいくら頑張っても姉さんに目を付ける男が続々と現れますよ。リュカが認められる為にと無茶をすれば、また倒れます。そんなの続けてたらそのうち姉さんがリュカを連れてどこかに消えてしまいそうです。さっさと囲い込んでしまいましょう」
「そうです! ねーさんは幸せになるべきです!」
みんな、一斉にわたくし達が早く結婚するべきだとお父様に訴えます。嬉しいのですが、ローラン……わたくしを制御出来るのはリュカだけってどういう事よ!
「むぅ……確かに……リュカが倒れるとは思わなかった。少し無茶をし過ぎたな。こんな事が続けば、確かにカトリーヌはリュカを連れて出奔しかねん」
お父様まで?!
わたくし、そんなに信用がありませんの?!
ああ! だから過去でもお父様はわたくしに逃げて良いなんて仰ったのね!
そう言えば、わたくしはすぐに逃げたりしないから。負けず嫌いだから、ギリギリまで頑張ってしまうから。やっぱりお父様の掌の上なんじゃないの! 悔しいわ! リュカを付けたのも、わたくしが潰れないようにする為だったのかもしれないわ。過去でも今でも、結局わたくしはリュカが居ないと駄目だと言われているみたいじゃないの。
まぁ、その通りですけど……。
もう! リュカが起きたら結婚話が進んでるなんて、また気絶してしまいそうだわ。
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