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3.兄の話

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ジーナは、兄の執務室に剣を届ける事が出来た。案内してくれたケネスは、既に部屋に戻っている。

道を覚えているかジーナに確認して、わざわざ地図まで渡したケネスは、ジーナにまた会いたいと思っていた。けど、彼女が兄と話してやっぱり自分の事が嫌だと思ったら逃げられるようにしないといけないとも思っていた。ケネスは先に部屋に戻ると告げて去り、ジーナはケネスに深く頭を下げて礼を言い、兄の執務室をノックした。

「お兄様、忘れ物を持って来たわ」

「おお、ありがとうジーナ。でもどうして? 迷わなかったか?」

ジーナの兄のフィリップは、騎士団の隊長になったばかり。引き締まった身体の美丈夫だ。

「コレ、送ってきたでしょ。なんでわたくしを名指しするのよ! 迷ったけど、ケネス殿下が助けて下さったの」

ジーナが兄から届いた急ぎの手紙を渡すと、フィリップは顔を顰めた。

「え……?!」

「本に釣られて、危うく王子の部屋に無断侵入した罪で裁かれるところだったわ。だけどケネス殿下はお優しいのね。許して下さった上に、お部屋に招待して下さったの!」

「はぁ?! 部屋に招待って……意味分かってるのか?!」

「普通なら殿方から部屋に招待されるなんて邪な事でもされるんしゃないかって心配するけど、大丈夫よ。本を読まないかって言われただけ。それに、きちんと扉も開けて下さるそうよ」

「……そうか。なら良い。確かにケネス殿下はお優しい方だから、無体な事などなさらないだろう。けど、噂になるかもしれないぞ。ジーナがケネス殿下に見初められたとな」

「うちみたいな貧乏伯爵家じゃ王子のお相手には不足でしょ。そんな噂話にならないわよ。せいぜい、話し相手だとか、悪い噂なら……夜のお相手とか? ま、今は昼だし扉も開いてるならその心配はないわよね」

「ビクター殿下やライアン殿下ならそうだろうけど、ケネス殿下なら間違いなく噂になるぞ」

「そうなの? なんでよ?」

「ケネス殿下は見た目が、その、少し華やかではないから……」

「殿下もそんな事を仰っていたわね。まさか、お兄様もそんな失礼な事を言っているの?」

ジーナは、心底不快だと顔に出ていた。普段は貴族らしく感情を表に出さないジーナだが、兄の前では本来の自分を曝け出していた。ジーナの口ぶりから、ケネスを慕っている事がありありと分かる。

「そんな訳ないだろ」

「そうよね。お兄様の美意識が破綻してなくて良かったわ」

「相変わらず辛辣だな。……まさか、そのセリフを殿下に言ってないよな?」

ジーナは、静かに兄から目を逸らす。焦ったフィリップが声を荒げて妹に詰め寄った。
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