5 / 48
5.失礼なメイド
しおりを挟む
「ケネス殿下、うちの妹が大変失礼致しました!」
フィリップは、ケネスに土下座をして謝った。
「もう良いよ。ジーナには、もう謝らないでって言ったから。わざわざ仕事の最中にすまなかったね。フィリップは仕事に戻って。ジーナは本を読む?」
「はい!」
「分かった。お茶を用意させるね。ちゃんと部屋の扉は開けておくから安心して」
「お気遣いありがとうございます。ジーナ、もう失礼な事するなよ。余計な事も言うなよ!」
「分かってるわ。お兄様ごめんなさい」
フィリップが去ろうとすると、メイドがお茶を持って現れた。フィリップが礼を言うと、うっとりとした顔をしている。
ケネスはため息を吐いて、メイドに言い付けた。
「それ置いたら、出て行って良いから」
「はぁーい。ぷっ……貴女も大変ねっ……」
「……」
ジーナは、失礼な態度を取るメイドを怒鳴りつけたい衝動に駆られたが、兄との約束を思い出して我慢した。
メイドが出て行ってから、ケネスは自らお茶を淹れ始めた。
「ケネス殿下がお茶を淹れるのですか?」
「……ん、ああ。メイドに任せると渋いお茶しか出さないからね。心配なら飲まなくて良いけど……」
「いえ、頂きます。ありがとうございます」
そんな怪しいメイドが持ってきたお茶なら、自分が毒味をした方が良いだろうと考えたジーナは、先にお茶に口を付けた。
「……美味しい……」
「そう。良かった。本、どれを読みたい?」
「あまりに多くて決められなくて……本棚を拝見してもよろしいですか?」
「良いよ。僕はここで座って本を読んでるから、好きに選んで」
『ケネス殿下は、部屋の外からすぐに見える所にいらっしゃる。これなら、本を読んでいるだけだと分かるわ。きっと、わたくしを気遣って下さってるのね。なんてお優しい方なのかしら』
ジーナが本を選んでいると、ポツリとケネスが口を開いた。
「ジーナは、どうしてここに戻って来たの?」
「お約束でしたので。もしかして、戻らない方がよろしかったのでしょうか?」
「ううん。戻って来てくれて嬉しい。けど、戻って来るとは思わなかった」
『どういうことよ?! どっちが正解だったの?! わたくし、また何か失礼をしてしまったの?!』
混乱しているジーナに、ケネスは独り言のように呟いた。
「僕が誘ったら、みんな嫌がるから」
「恐れながら申し上げます。わたくしは、殿下からお誘い頂けて嬉しかったです。そのような事を仰らないで下さいまし」
「僕が話しかけてもみんな嫌な顔するよ。ジーナは目が悪いから良いけど、僕は見るに堪えない顔だって……」
「どなたがそのような事を仰るのですか?」
ジーナの質問に、ケネスはビクリと肩を震わせた。
「……誰って……みんな……」
「うちの兄もですか?」
「ううん。フィリップはそんな事言わないよ。むしろ言った人を注意してくれる」
「では、みんなではありませんわね」
満面の笑みを浮かべたジーナは、ケネスの顔をじっと見つめた。
「わたくしは確かに目が悪いですけど、ケネス殿下のお顔をきちんと拝見致しました。とても、殿下の仰る『みんな』と同じ感想は持てませんでしたわ」
「だって僕は拾われっ子だって……」
「殿下の瞳は綺麗な青紫。王族の特徴ではありませんか。それに、過去に茶髪の国王もいらっしゃったのですから、殿下が茶髪でもおかしくありません」
「兄上もそう言ってくれる……けど……」
「王太子殿下と、その辺の有象無象、どちらのお言葉を信じるのですか?」
「……それは……兄上……だけど……」
「なら、それでよろしいではありませんか。わたくしは身分上殿下のお相手にはなり得ませんが、ケネス殿下はお優しく素晴らしい方だと思いますし、見た目だって素敵です。そもそも、殿下の出自を疑うなんてそれこそ処刑ものではありませんの?」
「ぷっ……あははっ……! 確かにその通りだ! さすがフィリップの妹!」
フィリップは、ケネスに土下座をして謝った。
「もう良いよ。ジーナには、もう謝らないでって言ったから。わざわざ仕事の最中にすまなかったね。フィリップは仕事に戻って。ジーナは本を読む?」
「はい!」
「分かった。お茶を用意させるね。ちゃんと部屋の扉は開けておくから安心して」
「お気遣いありがとうございます。ジーナ、もう失礼な事するなよ。余計な事も言うなよ!」
「分かってるわ。お兄様ごめんなさい」
フィリップが去ろうとすると、メイドがお茶を持って現れた。フィリップが礼を言うと、うっとりとした顔をしている。
ケネスはため息を吐いて、メイドに言い付けた。
「それ置いたら、出て行って良いから」
「はぁーい。ぷっ……貴女も大変ねっ……」
「……」
ジーナは、失礼な態度を取るメイドを怒鳴りつけたい衝動に駆られたが、兄との約束を思い出して我慢した。
メイドが出て行ってから、ケネスは自らお茶を淹れ始めた。
「ケネス殿下がお茶を淹れるのですか?」
「……ん、ああ。メイドに任せると渋いお茶しか出さないからね。心配なら飲まなくて良いけど……」
「いえ、頂きます。ありがとうございます」
そんな怪しいメイドが持ってきたお茶なら、自分が毒味をした方が良いだろうと考えたジーナは、先にお茶に口を付けた。
「……美味しい……」
「そう。良かった。本、どれを読みたい?」
「あまりに多くて決められなくて……本棚を拝見してもよろしいですか?」
「良いよ。僕はここで座って本を読んでるから、好きに選んで」
『ケネス殿下は、部屋の外からすぐに見える所にいらっしゃる。これなら、本を読んでいるだけだと分かるわ。きっと、わたくしを気遣って下さってるのね。なんてお優しい方なのかしら』
ジーナが本を選んでいると、ポツリとケネスが口を開いた。
「ジーナは、どうしてここに戻って来たの?」
「お約束でしたので。もしかして、戻らない方がよろしかったのでしょうか?」
「ううん。戻って来てくれて嬉しい。けど、戻って来るとは思わなかった」
『どういうことよ?! どっちが正解だったの?! わたくし、また何か失礼をしてしまったの?!』
混乱しているジーナに、ケネスは独り言のように呟いた。
「僕が誘ったら、みんな嫌がるから」
「恐れながら申し上げます。わたくしは、殿下からお誘い頂けて嬉しかったです。そのような事を仰らないで下さいまし」
「僕が話しかけてもみんな嫌な顔するよ。ジーナは目が悪いから良いけど、僕は見るに堪えない顔だって……」
「どなたがそのような事を仰るのですか?」
ジーナの質問に、ケネスはビクリと肩を震わせた。
「……誰って……みんな……」
「うちの兄もですか?」
「ううん。フィリップはそんな事言わないよ。むしろ言った人を注意してくれる」
「では、みんなではありませんわね」
満面の笑みを浮かべたジーナは、ケネスの顔をじっと見つめた。
「わたくしは確かに目が悪いですけど、ケネス殿下のお顔をきちんと拝見致しました。とても、殿下の仰る『みんな』と同じ感想は持てませんでしたわ」
「だって僕は拾われっ子だって……」
「殿下の瞳は綺麗な青紫。王族の特徴ではありませんか。それに、過去に茶髪の国王もいらっしゃったのですから、殿下が茶髪でもおかしくありません」
「兄上もそう言ってくれる……けど……」
「王太子殿下と、その辺の有象無象、どちらのお言葉を信じるのですか?」
「……それは……兄上……だけど……」
「なら、それでよろしいではありませんか。わたくしは身分上殿下のお相手にはなり得ませんが、ケネス殿下はお優しく素晴らしい方だと思いますし、見た目だって素敵です。そもそも、殿下の出自を疑うなんてそれこそ処刑ものではありませんの?」
「ぷっ……あははっ……! 確かにその通りだ! さすがフィリップの妹!」
3
あなたにおすすめの小説
落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~
しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。
とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。
「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」
だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。
追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は?
すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。
小説家になろう、他サイトでも掲載しています。
麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!
【完結】旦那様、離縁後は侍女として雇って下さい!
ひかり芽衣
恋愛
男爵令嬢のマリーは、バツイチで気難しいと有名のタングール伯爵と結婚させられた。
数年後、マリーは結婚生活に不満を募らせていた。
子供達と離れたくないために我慢して結婚生活を続けていたマリーは、更に、男児が誕生せずに義母に嫌味を言われる日々。
そんなある日、ある出来事がきっかけでマリーは離縁することとなる。
離婚を迫られるマリーは、子供達と離れたくないと侍女として雇って貰うことを伯爵に頼むのだった……
侍女として働く中で見えてくる伯爵の本来の姿。そしてマリーの心は変化していく……
そんな矢先、伯爵の新たな婚約者が屋敷へやって来た。
そして、伯爵はマリーへ意外な提案をして……!?
※毎日投稿&完結を目指します
※毎朝6時投稿
※2023.6.22完結
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
いきなり結婚しろと言われても、相手は7才の王子だなんて冗談はよしてください
シンさん
恋愛
金貸しから追われる、靴職人のドロシー。
ある日突然、7才のアイザック王子にプロポーズされたんだけど、本当は20才の王太子様…。
こんな事になったのは、王家に伝わる魔術の7つ道具の1つ『子供に戻る靴』を履いてしまったから。
…何でそんな靴を履いたのか、本人でさえわからない。けど王太子が靴を履いた事には理由があった。
子供になってしまった20才の王太子と、靴職人ドロシーの恋愛ストーリー
ストーリーは完結していますので、毎日更新です。
表紙はぷりりん様に描いていただきました(゜▽゜*)
公爵令嬢は皇太子の婚約者の地位から逃げ出して、酒場の娘からやり直すことにしました
もぐすけ
恋愛
公爵家の令嬢ルイーゼ・アードレーは皇太子の婚約者だったが、「逃がし屋」を名乗る組織に拉致され、王宮から連れ去られてしまう。「逃がし屋」から皇太子の女癖の悪さを聞かされたルイーゼは、皇太子に愛想を尽かし、そのまま逃亡生活を始める。
「逃がし屋」は単にルイーゼを逃すだけではなく、社会復帰も支援するフルサービスぶり。ルイーゼはまずは酒場の娘から始めた。
婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中
かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。
本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。
そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく――
身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。
癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる