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第一章 うちの娘は、世界一美しいわ!
6.鏡の告げ口
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「慈悲深い国王陛下は、白雪姫を大事に思っておられるわ。それでも、まだ国王陛下の傷は癒えておられない。だから、心にもない事を仰ってしまうの。白雪、貴女のお父様は白雪の事を大事に思ってるわ。でも、もう少し休ませてあげて欲しいの。そのかわり、わたくしが亡きお母様とお父様の分……2人分貴女を大事にするわ」
使用人達の前で、白雪の養育をわたくしに任せると書かれた書類を出す。宰相が国王のサインだと宣言して使用人達に見せてくれた。
よしよし。鏡、良い仕事したわね。
実際に国王がどう思ってようが関係ない。白雪は父に愛されていると思っていて欲しい。
白雪を蔑ろにしていた使用人は震えているが、わたくしは慈悲深い女王。すぐにクビにしたりはしない。
「料理長は質素に見えて栄養のあるスープを作ってくれていたわ。そんな風に、影ながら白雪を案じてくれていた使用人ばかりだと信じてる」
半分は心から喜び、半分は怯えている。
「半月、皆の働きを見せてもらうわ。わたくしの言葉の意味が心から理解出来ない者は、残念だけど辞めてもらう。わたくしは女王、城の人事権はあるわよね?」
「はい! ございます女王様!」
すっかりわたくしの忠臣と化した宰相が叫ぶ。そうよね。わたくしのおかげで仕事は捗るし髪も増えたし、忠誠を誓う理由は充分だ。
「さ、白雪。食事にしましょう。食事はわたくしが作ったの。口に合うか分からないんだけど……食べてくれる?」
「嬉しいです、お母様」
あのヘタレ国王は、まだ料理長への命令を解いてない。他の使用人には直接命令してなかった。彼らや彼女らは察して動いていただけだったのだ。だからわたくしが白雪を大事にするように命令を上書き出来るけど、料理長への命令は直接国王が解かないと下手したら料理長の首が物理的に飛ぶ。
彼は白雪の食を支えてくれた忠臣。絶対に守り抜くわ。宰相と国王が話すのは3日後、その時に料理長の命令を解除するように進言してもらう。それまではわたくしが白雪の食事を作る。
この世界に微生物とか菌があるのかは分からないけど、生野菜は怖いので朝食は温野菜サラダと目玉焼き、焼きたてのパンというシンプルなメニューだ。白雪は喜んで食べてくれた。
夕食は豪勢にしたいけど、白雪の胃が慣れるまでは消化の良いメニューを作る。少しずつ品数を増やしていく予定だ。鏡に確認したから、好きな物も苦手な物も分かっている。最初は好物を中心に、慣れたら苦手な物も食べて貰えるよう工夫する。
アレルギーはないみたいだから良かったわ。アレルギーの概念を鏡に説明するのに時間がかかったけど、なんでも食べられるみたいだから頑張って苦手な物も克服して貰いましょう。
その後は白雪は家庭教師の元へ。わたくしは執務を行う。最初はみんな非協力的だったからやりにくかったけど、宰相が味方になってくれてとてもやりやすくなった。
「なぁ、白雪が家庭教師に虐められてるぜ」
すっかりお馴染、わたくしにしか見えない鏡がひょっこり現れて教えてくれた。
「宰相」
「は、はいぃっ!!!」
「しばらく抜けるわ。問題ないわよね?」
「はい! ありません!」
わたくしの今日の分の仕事は終わらせてあるし指示も済ませてある。
鏡に案内して貰って白雪の元へ急ぐ。部屋の外までヒステリックな声が響いている。白雪に何かしたら、許さないんだから!
「まぁー……なんて無能なのかしら。こんな事ではいけませんわぁ」
駆けつけると、意地悪そうな女が白雪に鞭を振るっていた。
「何をしているの?」
「……じょ……女王様……これは、躾です。教育ですわ!」
「……そう。ならわたくしがやるわ。鞭を貸しなさい」
家庭教師は、笑顔で鞭を渡す。わたくしはすぐに家庭教師に鞭を振るった。
「あがっ……いたっ……何を……」
「教育よ。痛みがわからないものを子どもに振るうなんてあってはならないでしょう? 貴女、わたくしの娘に何をしたの? どんな教育をしたのか言いなさい。わたくしが、白雪にした事と同じ事を貴女にする。教育……なのでしょう?」
「そんな……そんな……」
「痛い?」
「痛い……痛いです!」
「貴女は何回白雪に鞭を振るったの?」
鞭で家庭教師の顎をさする。目からも鼻からも色々出てるわ。全く美しくないわね。
「この家庭教師が来たのは1年前で、通算256回鞭を白雪に使ってた」
しれっと鏡が教えてくれる。
週3回の家庭教師だと言ってたから、休みも考えたら1年で150回程度。確実に毎回鞭を使ってた計算になるわね。
家庭教師は、震えて何も答えないからそのままクビを宣告する。
「貴女はクビよ。2度と白雪の前に現れないで」
鞭を持ったまま宣言すると、家庭教師は泣きながら帰って行った。
「白雪、痛かったわね」
「お、お母様ぁ……! わたくし、駄目な子だから……痛くても我慢しなきゃいけなくて……」
「白雪は駄目な子なんかじゃないわ。立ち振る舞いは、とても洗練されていて美しい。知識はこれから身に付けたら良い。貴女はまだ10歳。教育に暴力を使う教師は三流よ。あんな三流家庭教師、可愛い白雪に必要ないわ。白雪の養育権はわたくしにあるんだから、もっと優しい一流の教師を探すわ。安心して、鞭を使うような教師は手配しないから」
とはいえ、なかなか良い人材が居ないのよね。馬鹿な国王の行動は貴族にも浸透してしまったらしく、貴族達は白雪を馬鹿にしてる者が多いのだ。王族の家庭教師は主に貴族。偏見のないものを手配するのは難しい。
「俺がやろうか?」
鏡がニコニコと笑って、言った。
使用人達の前で、白雪の養育をわたくしに任せると書かれた書類を出す。宰相が国王のサインだと宣言して使用人達に見せてくれた。
よしよし。鏡、良い仕事したわね。
実際に国王がどう思ってようが関係ない。白雪は父に愛されていると思っていて欲しい。
白雪を蔑ろにしていた使用人は震えているが、わたくしは慈悲深い女王。すぐにクビにしたりはしない。
「料理長は質素に見えて栄養のあるスープを作ってくれていたわ。そんな風に、影ながら白雪を案じてくれていた使用人ばかりだと信じてる」
半分は心から喜び、半分は怯えている。
「半月、皆の働きを見せてもらうわ。わたくしの言葉の意味が心から理解出来ない者は、残念だけど辞めてもらう。わたくしは女王、城の人事権はあるわよね?」
「はい! ございます女王様!」
すっかりわたくしの忠臣と化した宰相が叫ぶ。そうよね。わたくしのおかげで仕事は捗るし髪も増えたし、忠誠を誓う理由は充分だ。
「さ、白雪。食事にしましょう。食事はわたくしが作ったの。口に合うか分からないんだけど……食べてくれる?」
「嬉しいです、お母様」
あのヘタレ国王は、まだ料理長への命令を解いてない。他の使用人には直接命令してなかった。彼らや彼女らは察して動いていただけだったのだ。だからわたくしが白雪を大事にするように命令を上書き出来るけど、料理長への命令は直接国王が解かないと下手したら料理長の首が物理的に飛ぶ。
彼は白雪の食を支えてくれた忠臣。絶対に守り抜くわ。宰相と国王が話すのは3日後、その時に料理長の命令を解除するように進言してもらう。それまではわたくしが白雪の食事を作る。
この世界に微生物とか菌があるのかは分からないけど、生野菜は怖いので朝食は温野菜サラダと目玉焼き、焼きたてのパンというシンプルなメニューだ。白雪は喜んで食べてくれた。
夕食は豪勢にしたいけど、白雪の胃が慣れるまでは消化の良いメニューを作る。少しずつ品数を増やしていく予定だ。鏡に確認したから、好きな物も苦手な物も分かっている。最初は好物を中心に、慣れたら苦手な物も食べて貰えるよう工夫する。
アレルギーはないみたいだから良かったわ。アレルギーの概念を鏡に説明するのに時間がかかったけど、なんでも食べられるみたいだから頑張って苦手な物も克服して貰いましょう。
その後は白雪は家庭教師の元へ。わたくしは執務を行う。最初はみんな非協力的だったからやりにくかったけど、宰相が味方になってくれてとてもやりやすくなった。
「なぁ、白雪が家庭教師に虐められてるぜ」
すっかりお馴染、わたくしにしか見えない鏡がひょっこり現れて教えてくれた。
「宰相」
「は、はいぃっ!!!」
「しばらく抜けるわ。問題ないわよね?」
「はい! ありません!」
わたくしの今日の分の仕事は終わらせてあるし指示も済ませてある。
鏡に案内して貰って白雪の元へ急ぐ。部屋の外までヒステリックな声が響いている。白雪に何かしたら、許さないんだから!
「まぁー……なんて無能なのかしら。こんな事ではいけませんわぁ」
駆けつけると、意地悪そうな女が白雪に鞭を振るっていた。
「何をしているの?」
「……じょ……女王様……これは、躾です。教育ですわ!」
「……そう。ならわたくしがやるわ。鞭を貸しなさい」
家庭教師は、笑顔で鞭を渡す。わたくしはすぐに家庭教師に鞭を振るった。
「あがっ……いたっ……何を……」
「教育よ。痛みがわからないものを子どもに振るうなんてあってはならないでしょう? 貴女、わたくしの娘に何をしたの? どんな教育をしたのか言いなさい。わたくしが、白雪にした事と同じ事を貴女にする。教育……なのでしょう?」
「そんな……そんな……」
「痛い?」
「痛い……痛いです!」
「貴女は何回白雪に鞭を振るったの?」
鞭で家庭教師の顎をさする。目からも鼻からも色々出てるわ。全く美しくないわね。
「この家庭教師が来たのは1年前で、通算256回鞭を白雪に使ってた」
しれっと鏡が教えてくれる。
週3回の家庭教師だと言ってたから、休みも考えたら1年で150回程度。確実に毎回鞭を使ってた計算になるわね。
家庭教師は、震えて何も答えないからそのままクビを宣告する。
「貴女はクビよ。2度と白雪の前に現れないで」
鞭を持ったまま宣言すると、家庭教師は泣きながら帰って行った。
「白雪、痛かったわね」
「お、お母様ぁ……! わたくし、駄目な子だから……痛くても我慢しなきゃいけなくて……」
「白雪は駄目な子なんかじゃないわ。立ち振る舞いは、とても洗練されていて美しい。知識はこれから身に付けたら良い。貴女はまだ10歳。教育に暴力を使う教師は三流よ。あんな三流家庭教師、可愛い白雪に必要ないわ。白雪の養育権はわたくしにあるんだから、もっと優しい一流の教師を探すわ。安心して、鞭を使うような教師は手配しないから」
とはいえ、なかなか良い人材が居ないのよね。馬鹿な国王の行動は貴族にも浸透してしまったらしく、貴族達は白雪を馬鹿にしてる者が多いのだ。王族の家庭教師は主に貴族。偏見のないものを手配するのは難しい。
「俺がやろうか?」
鏡がニコニコと笑って、言った。
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