38 / 49
38.ニコラスの絶望
しおりを挟む
「トーマスさん、ニコラス様がお呼びよ」
「かしこまりました」
平静を装い、指示された部屋に行く。そこは、トムが最初にニコラスに見つかった場所のすぐ近くだった。
「お待たせいたしました。ご用件を伺います」
「上手く化けたものだね。本名はトムだっけ? お前の目的はなんだ?」
余裕のないニコラスのイラついた様子を見て、トムは主人の作戦成功を確信した。
「目的ですか?」
「質問は許さない」
「そうは言われましても、なんのことだか分かりません」
「お前の正体は分かっている! お前の名前はトム・サンダースだな!」
「違います」
今は公爵家の養子になったので、トムの名前はトム・サンダースではない。トムが嘘を吐いていないと分かったニコラスは混乱した。
「ニコラス様は私の事をお調べになったのでしょう?」
「調べたさ! お前が渡した手紙をすぐ検閲しなかったせいで、全てが台無しだ」
ニコラスが手紙を読んだのは、トムがエドガーにアルフレッドの行方を知らせてから丸一日経過してからだった。手紙を読んだニコラスは慌ててアルフレッドの所に行ったが、アルフレッドは行方不明になってしまった。エドガーが、すぐに人を手配してアルフレッドを連れ出していたのだ。アルフレッドの不在はすぐに国王に報告され、国王は弟を呼び出した。兄から詰問されても、エドガーは変わらない笑みを浮かべていた。ニコラスがなんとか手掛かりを探ろうと動き、トムにたどり着くまで一週間かかった。
「台無しとは?」
「もう、アルフレッドが王になれる未来はない」
「彼は王太子でしょう?」
「再教育中に抜け出す王族は、裁定者が認めない! いっそ閉じ込めてしまえば、良かった!」
「どうして、アルフレッド殿下をきちんと幽閉しなかったのですか?」
「裁定者から手紙が来たからだ! 閉じ込めてしまえば、それだけの器しかないと見做されアルフレッドは消されてしまう!あれが、最後のチャンスだった。アルフレッドが改心すれば……」
「改心なんて、しませんよ。そんなに焦っておられるなんて、国王の下に裁定者から最終警告でも来ましたか?」
トムがニヤリと笑うと、ニコラスはがっくりと肩を落とした。
「その通りだ。お前、嘘は吐いていないよな?」
「嘘を見破れる人の前で嘘を吐くほど、考えなしではありませんよ」
「そうか……アルフレッドが王になる日を待ち望んでいたのに……」
「ミランダ様を犠牲にするような男が国をまとめられると思っておられるのですか?」
「……ミランダ様には申し訳ないと思っていた。だけど、アルフレッドを支えられるのは彼女しかいなかった。エドガー様は、厳しいお方だ。国王陛下と年齢が離れておられるから、エドガー様の治世は長く続くだろう。お子はエドガー様に似て優秀だから、アルフレッドが後を継ぐ未来は確実にない。あの方が王になれば、今までやってきた仕事が無駄になる」
「元々無駄な仕事だったのですよ。不要な仕事は無くせばいい」
「効率主義の権化のようなあの方なら間違いなくそうする! だが、それでどれだけの者が仕事を失うと思う? 無駄に思える仕事にも、多くの人々の生活が懸かっている!」
「だから……アルフレッド殿下に王になって欲しかったのですね?」
「そうだ! アルフレッドは怠け者だが、愚かではない! 我々が支え、上手く導いてやれば、立派な王になった筈だ!」
「その為にミランダ様の人生をあんな馬鹿に捧げろと?」
トムの殺気を浴びたニコラスが、笑いだした。
「はは……そうか、お前はミランダ様と繋がりがあったのだな?」
「ええ、俺はミランダ様の幼馴染です。王家が余計な事をしなければ、ミランダ様があんなに苦しむことはなかった。俺は、アルフレッド殿下を許せない。ミランダ様が苦しんでいると知っていても見て見ぬふりをした貴方も、役人たちも、国王も王妃も許せない」
「エドガー様だって、同じだろう!」
「同じじゃないです。エドガー様は、いつもアルフレッド殿下を諫めていた。国王が言わないことを、何度も言っていた。それで動かなかったのはアルフレッド殿下の落ち度だ! 王家に振り回されたミランダの幸せを全力でバックアップすると言ってくれたのはエドガー様だけです。ニコラス様は、ミランダ様の幸せを考えた事がありますか?」
ニコラスは無言になり、トムはニコラスを睨み続けた。長い沈黙が場を支配し続けた。どのくらい時間が経過したか分からなくなった頃、ニコラスがため息を吐いた。
「ないな。こうなった責任は、我々にもある……か。アルフレッドに……ミランダ様を大事にしないと裁定者が動くと言えばよかった……」
「裁定者はそんなに甘くありませんよ。そんなハリボテ、見破るに決まっている」
「……まさか、お前が裁定者か?」
「いいえ。俺は裁定者じゃありません。でも分かります。裁定者も怒っています」
「そう、か。アルフレッド……いや、我々は……間違えたのだな。今から五年で挽回するのは無理だ」
「おめでたいですね。警告はとっくの昔に来ていましたよ。もう、タイムリミットです。貴方が庇おうとしている男は、長年仕え続けた貴女の忠告を無視して初対面で甘い言葉を言う俺を信じました。王の器ではない」
ニコラスは絶望して気付いた。ミランダも同じ、いや、もっと深い絶望を味わったのだと。
「かしこまりました」
平静を装い、指示された部屋に行く。そこは、トムが最初にニコラスに見つかった場所のすぐ近くだった。
「お待たせいたしました。ご用件を伺います」
「上手く化けたものだね。本名はトムだっけ? お前の目的はなんだ?」
余裕のないニコラスのイラついた様子を見て、トムは主人の作戦成功を確信した。
「目的ですか?」
「質問は許さない」
「そうは言われましても、なんのことだか分かりません」
「お前の正体は分かっている! お前の名前はトム・サンダースだな!」
「違います」
今は公爵家の養子になったので、トムの名前はトム・サンダースではない。トムが嘘を吐いていないと分かったニコラスは混乱した。
「ニコラス様は私の事をお調べになったのでしょう?」
「調べたさ! お前が渡した手紙をすぐ検閲しなかったせいで、全てが台無しだ」
ニコラスが手紙を読んだのは、トムがエドガーにアルフレッドの行方を知らせてから丸一日経過してからだった。手紙を読んだニコラスは慌ててアルフレッドの所に行ったが、アルフレッドは行方不明になってしまった。エドガーが、すぐに人を手配してアルフレッドを連れ出していたのだ。アルフレッドの不在はすぐに国王に報告され、国王は弟を呼び出した。兄から詰問されても、エドガーは変わらない笑みを浮かべていた。ニコラスがなんとか手掛かりを探ろうと動き、トムにたどり着くまで一週間かかった。
「台無しとは?」
「もう、アルフレッドが王になれる未来はない」
「彼は王太子でしょう?」
「再教育中に抜け出す王族は、裁定者が認めない! いっそ閉じ込めてしまえば、良かった!」
「どうして、アルフレッド殿下をきちんと幽閉しなかったのですか?」
「裁定者から手紙が来たからだ! 閉じ込めてしまえば、それだけの器しかないと見做されアルフレッドは消されてしまう!あれが、最後のチャンスだった。アルフレッドが改心すれば……」
「改心なんて、しませんよ。そんなに焦っておられるなんて、国王の下に裁定者から最終警告でも来ましたか?」
トムがニヤリと笑うと、ニコラスはがっくりと肩を落とした。
「その通りだ。お前、嘘は吐いていないよな?」
「嘘を見破れる人の前で嘘を吐くほど、考えなしではありませんよ」
「そうか……アルフレッドが王になる日を待ち望んでいたのに……」
「ミランダ様を犠牲にするような男が国をまとめられると思っておられるのですか?」
「……ミランダ様には申し訳ないと思っていた。だけど、アルフレッドを支えられるのは彼女しかいなかった。エドガー様は、厳しいお方だ。国王陛下と年齢が離れておられるから、エドガー様の治世は長く続くだろう。お子はエドガー様に似て優秀だから、アルフレッドが後を継ぐ未来は確実にない。あの方が王になれば、今までやってきた仕事が無駄になる」
「元々無駄な仕事だったのですよ。不要な仕事は無くせばいい」
「効率主義の権化のようなあの方なら間違いなくそうする! だが、それでどれだけの者が仕事を失うと思う? 無駄に思える仕事にも、多くの人々の生活が懸かっている!」
「だから……アルフレッド殿下に王になって欲しかったのですね?」
「そうだ! アルフレッドは怠け者だが、愚かではない! 我々が支え、上手く導いてやれば、立派な王になった筈だ!」
「その為にミランダ様の人生をあんな馬鹿に捧げろと?」
トムの殺気を浴びたニコラスが、笑いだした。
「はは……そうか、お前はミランダ様と繋がりがあったのだな?」
「ええ、俺はミランダ様の幼馴染です。王家が余計な事をしなければ、ミランダ様があんなに苦しむことはなかった。俺は、アルフレッド殿下を許せない。ミランダ様が苦しんでいると知っていても見て見ぬふりをした貴方も、役人たちも、国王も王妃も許せない」
「エドガー様だって、同じだろう!」
「同じじゃないです。エドガー様は、いつもアルフレッド殿下を諫めていた。国王が言わないことを、何度も言っていた。それで動かなかったのはアルフレッド殿下の落ち度だ! 王家に振り回されたミランダの幸せを全力でバックアップすると言ってくれたのはエドガー様だけです。ニコラス様は、ミランダ様の幸せを考えた事がありますか?」
ニコラスは無言になり、トムはニコラスを睨み続けた。長い沈黙が場を支配し続けた。どのくらい時間が経過したか分からなくなった頃、ニコラスがため息を吐いた。
「ないな。こうなった責任は、我々にもある……か。アルフレッドに……ミランダ様を大事にしないと裁定者が動くと言えばよかった……」
「裁定者はそんなに甘くありませんよ。そんなハリボテ、見破るに決まっている」
「……まさか、お前が裁定者か?」
「いいえ。俺は裁定者じゃありません。でも分かります。裁定者も怒っています」
「そう、か。アルフレッド……いや、我々は……間違えたのだな。今から五年で挽回するのは無理だ」
「おめでたいですね。警告はとっくの昔に来ていましたよ。もう、タイムリミットです。貴方が庇おうとしている男は、長年仕え続けた貴女の忠告を無視して初対面で甘い言葉を言う俺を信じました。王の器ではない」
ニコラスは絶望して気付いた。ミランダも同じ、いや、もっと深い絶望を味わったのだと。
1,150
あなたにおすすめの小説
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
一度完結したのですが、続編を書くことにしました。読んでいただけると嬉しいです。
いつもありがとうございます。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します!
真理亜
恋愛
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。
そこで目撃してしまったのだ。
婚約者が幼馴染みの男爵令嬢キャロラインと愛し合っている場面を。しかもギルバートは私の家の乗っ取りを企んでいるらしい。
よろしい! おバカな二人に鉄槌を下しましょう!
長くなって来たので長編に変更しました。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。
藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。
バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。
五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。
バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。
だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
感想の返信が出来ず、申し訳ありません。
婚約者が、私より従妹のことを信用しきっていたので、婚約破棄して譲ることにしました。どうですか?ハズレだったでしょう?
珠宮さくら
恋愛
婚約者が、従妹の言葉を信用しきっていて、婚約破棄することになった。
だが、彼は身をもって知ることとになる。自分が選んだ女の方が、とんでもないハズレだったことを。
全2話。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる