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44.醜いのは?
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アルフレッドが暗闇を歩いていると、突然床が抜けた。足が折れ、動けなくなったアルフレッドは悪態をつく。
「なんだよこれ。痛いじゃないか。なんで、誰も来ないんだよ」
散々罵詈雑言を呟いても、響いてくるのは自分の声ばかり。どれくらい時が経ったか分からなくなった頃、アルフレッドはポツリと呟いた。
「そういえば、ミランダを執務室で蹴り飛ばしたな。ミランダの足が折れて……泣いていたな……私は……ミランダに怪我の原因を隠すよう命令して……はは……こんなに痛かったんだな」
あの時は、叔父がミランダを褒め称えていてイライラしていた。殴ってもミランダはなにも文句を言わず、黙って仕事をしてくれた。
自分の愚かさを呪いながら、寒い中足の痛みに耐えていると、思い出すのは幼い頃の事ばかり。
「初めて会った時、ミランダは笑っていたな」
日に焼けた肌で、慣れないドレスを着て無邪気に微笑んでいたミランダを可愛いと思ったのに。一生懸命王妃教育をこなすミランダを眩しいと、見ていられないと思ったのはいつからだっただろう。いつの日からか、ミランダは微笑むこともない、つまらない女になっていた。
微笑まなくなったのは、自分のせいだったのに。
「はは、なんでおかしいと思わなかったんだろう」
ミランダと初めて会った日、いつも優しい叔父が小声でミランダを貶した。それだけだったのに、酷く自分も醜いような気がして……。
母の心を持って行ってしまったミランダが許せなかったのに、母が褒めるソフィアに惹かれたのはなぜだろう。そうだ、叔父がソフィアの本を持っていたからだ。叔父が認める女性なら間違いないし、ミランダより扱いやすいから……王太子派、王弟派なんて派閥が出来て……負けられないと思って……でも、自分にはミランダのような実力がなくて……。
上手くいかないのは全てミランダのせいだと思い込んだのはいつからだ。叔父が、すれ違いざまに言う言葉がいつも気になって……正論を言うミランダがうっとおしくなって……。馬鹿な会話をするソフィアと過ごす方が楽になって……でも、あの子も偽物で……。こうなったのは叔父のせいで……。
アルフレッドの思考はどんどん迷走していく。
頭に浮かんだのは自分が切り捨てたミランダの顔だった。アルフレッドは大声でミランダの名を呼んだ。何度も何度も呼んだ。
喉が渇き、空腹が襲ってきた。王太子として大事に育てられたアルフレッドは、空腹を感じたことなどない。初めて感じる強い空腹感、冷えた床、動けない身体。不安で不安で、涙が止まらない。
「ミランダ……助けてくれよ……お腹が空くと、こんなに苦しいのかよ……頼む……助けてくれ……」
時間になれば届く豪華な食事、ティータイムの美味しいお菓子は誰かが用意してくれていたものだ。だがアルフレッドは、用意してくれた侍女の名前すら知らない。
泣いて、叫んで、声が枯れた頃、アルフレッドの目の前に一本のロープが垂らされた。
「アルフレッド殿下、生きておられます?」
美しい女性が、アルフレッドに問いかける。彼女はロープをつたい、軽い身のこなしでアルフレッドの目の前に現れた。
「あなたは?」
「やっぱり覚えてないわよね。まぁ良いわ。予想通りだし。裁定者と言えば分かるかしら?」
冷たい目で笑う女性に、アルフレッドは震えた。王太子になる時、父から散々聞かされた歴史をいつの間に忘れていたのだろう。そうだ、叔父が形骸化していると言ったから……。
この期に及んで叔父のせいにしようとするアルフレッド。彼の他責思考は簡単には直らない。
叱ってくれるミランダはもういない。
自分を守る術がないアルフレッドは黙って裁定者を見つめるしかなかった。
「なんだよこれ。痛いじゃないか。なんで、誰も来ないんだよ」
散々罵詈雑言を呟いても、響いてくるのは自分の声ばかり。どれくらい時が経ったか分からなくなった頃、アルフレッドはポツリと呟いた。
「そういえば、ミランダを執務室で蹴り飛ばしたな。ミランダの足が折れて……泣いていたな……私は……ミランダに怪我の原因を隠すよう命令して……はは……こんなに痛かったんだな」
あの時は、叔父がミランダを褒め称えていてイライラしていた。殴ってもミランダはなにも文句を言わず、黙って仕事をしてくれた。
自分の愚かさを呪いながら、寒い中足の痛みに耐えていると、思い出すのは幼い頃の事ばかり。
「初めて会った時、ミランダは笑っていたな」
日に焼けた肌で、慣れないドレスを着て無邪気に微笑んでいたミランダを可愛いと思ったのに。一生懸命王妃教育をこなすミランダを眩しいと、見ていられないと思ったのはいつからだっただろう。いつの日からか、ミランダは微笑むこともない、つまらない女になっていた。
微笑まなくなったのは、自分のせいだったのに。
「はは、なんでおかしいと思わなかったんだろう」
ミランダと初めて会った日、いつも優しい叔父が小声でミランダを貶した。それだけだったのに、酷く自分も醜いような気がして……。
母の心を持って行ってしまったミランダが許せなかったのに、母が褒めるソフィアに惹かれたのはなぜだろう。そうだ、叔父がソフィアの本を持っていたからだ。叔父が認める女性なら間違いないし、ミランダより扱いやすいから……王太子派、王弟派なんて派閥が出来て……負けられないと思って……でも、自分にはミランダのような実力がなくて……。
上手くいかないのは全てミランダのせいだと思い込んだのはいつからだ。叔父が、すれ違いざまに言う言葉がいつも気になって……正論を言うミランダがうっとおしくなって……。馬鹿な会話をするソフィアと過ごす方が楽になって……でも、あの子も偽物で……。こうなったのは叔父のせいで……。
アルフレッドの思考はどんどん迷走していく。
頭に浮かんだのは自分が切り捨てたミランダの顔だった。アルフレッドは大声でミランダの名を呼んだ。何度も何度も呼んだ。
喉が渇き、空腹が襲ってきた。王太子として大事に育てられたアルフレッドは、空腹を感じたことなどない。初めて感じる強い空腹感、冷えた床、動けない身体。不安で不安で、涙が止まらない。
「ミランダ……助けてくれよ……お腹が空くと、こんなに苦しいのかよ……頼む……助けてくれ……」
時間になれば届く豪華な食事、ティータイムの美味しいお菓子は誰かが用意してくれていたものだ。だがアルフレッドは、用意してくれた侍女の名前すら知らない。
泣いて、叫んで、声が枯れた頃、アルフレッドの目の前に一本のロープが垂らされた。
「アルフレッド殿下、生きておられます?」
美しい女性が、アルフレッドに問いかける。彼女はロープをつたい、軽い身のこなしでアルフレッドの目の前に現れた。
「あなたは?」
「やっぱり覚えてないわよね。まぁ良いわ。予想通りだし。裁定者と言えば分かるかしら?」
冷たい目で笑う女性に、アルフレッドは震えた。王太子になる時、父から散々聞かされた歴史をいつの間に忘れていたのだろう。そうだ、叔父が形骸化していると言ったから……。
この期に及んで叔父のせいにしようとするアルフレッド。彼の他責思考は簡単には直らない。
叱ってくれるミランダはもういない。
自分を守る術がないアルフレッドは黙って裁定者を見つめるしかなかった。
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