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発情期※

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「フーッ…。グゥゥッー…。」

熊獣人は発情した声を苦しげに出すと、向かい合わせに抱きしめていた理善の体を脇を持って持ち上げた。
小さい頃以来の扱いに、理善は肩が外れやしないかと身を固くする。
一拍遅れて、熊獣人の凸部が理善の体の前に来るように調整するための動きだと気付いた。
急所の上に無神経に座っていたことが申し訳ない。
理善の体がゆっくりと熊獣人の股上に降ろされ、再びぐっと抱き締められた。

「グルル…グゥ、グルルッ」

引き付けられた体全体に低い響きが伝わり、背骨が甘く痺れた。
それと共に微かな危機感が、勢いの弱い噴水のように湧く。
相反する2つの感情に怖気づく間も無く、背中に背負っていたリュックを勢い良く引っ張られた。
熊の鋭い爪でリュックの左の肩紐が千切られたのを見て、理善は慌てて右肩から紐を外す。
抵抗が無くなったリュックは部屋の隅へ放られた。
身軽になった理善に気を良くしたのか、熊獣人の舌が顎関節から耳の付け根を蜂蜜を味わうかのごとく舐め上げ、分厚いい舌先がぐちゅりと耳介を周回した。
こそばゆくて身を縮めると、背中に当てられた大きな手の平が厚手のトレーナーをブチブチと引き裂こうとする。

「待って!服は脱ぐから破らないで。」

両手で熊獣人を突っぱねて言い聞かせると、案外素直に従ってくれた。
茶色のトレーナー生地から爪が外れる感触を確かめ、上の服をすべて脱いでいく。

「これはもう着られないかな。」

すぐに止めたにも関わらず無惨にほつれた背面を見て理善がため息をつくと、熊獣人がトレーナーの襟に噛み付いてきた。
そのまま無理矢理に左側へ引き上げられ、手を離すと部屋の彼方へ放られる。
トレーナーの下に着ていた服も同様に部屋の隅に積まれた。

「え、なんで…んうっ、」

口を開けたところに長い舌が入ってきて、理善の舌をめちゃくちゃに絡め取る。
口内に甘酸っぱい木苺の味が広がった。
歯の裏や舌の奥まで塗り込められるように舐められ、呼吸もままならなくて思考が白む。
口吻が深くなるほどに熊獣人の顎が段々と開き、頬に犬歯がピタリと当たる。
素面であれば捕食されそうな恐怖で逃げ出そうとするだろうが、理善はそれよりも、初めて受けた愛撫に自分の動きを合わせることに夢中になっていた。
腰や背中をフカフカの手で力強く抱かれ、胸と両手を熊獣人の体毛の中でも特に柔らかい胸元に埋め、口内をはしたない水音を立てて貪られる。
理善の理性へ至福と情欲が放射線状にほとばしり、本音を隠そうとする心はあっと言う間に溺れ沈んだ。

「ん、んむ、」

柔らかい感触を更に感じようと、上半身を熊獣人に押し当てる。
すると、熊獣人が、動きが鈍くなるタイミングで息継ぎをしていることに気が付いた。
呼吸のタイミングを合わせると、漸く意味のある言葉を発せるようになった。

「は、はー…。普通なら毛に羽虫が留まってることが多いのに、キミはついてないね。」

唇を離した途端に色気の無い話をして、相手に呆れられるだろうかと不安が浮上する。
だが、熊獣人は表情が動きにくいながらも、嬉しそうな気配を醸した。

「川っで、水あビした。虫、居ルとこロ、行かな、かった。」

たどたどしく伝えられる内容で、理善のことを思って長らく行動してきたことが感じ取られた。
理善はどうにも嬉しくなって、ツキノワグマの月柄の毛に額をグリグリと埋め込ませる。
瞼の上にハリのある毛並みを感じながら、躊躇いがちに呟く。

「…ありがと。」

照れ隠しにうつ伏せたままでいると、喜ばれたか、面倒がられたか分からず顔が上げられない。
グズグズと頭をつけたり離したりしていると、突然腰を鷲掴まれた。

「へ?!」

目を零れ落ちんばかりに見開きながら足をバタつかせて抵抗しても、熊獣人は意に介さない。
とうとう理善はうつ伏せに押し潰された。
巨体が理善の背後に張り付き、理善の腰ほどもある腕が二本共、理善の二の腕をガシリと掴んだ。
尻に張り切った怒張がピッタリと当てられ、唸り声を上げながらカクリカクリと擦り付けられる。

『完全に交尾の体勢…煽っちゃったのか?』

思い当たってしまうと恥ずかしい。
グイグイと匍匐ほふく前進の要領で腰を逃がそうとする。
逃げる理善のズボンに熊の手が移動し、繊維の間に爪を引っ掛けられる。
まずい、と止まった理善に、熊獣人は不機嫌な声を漏らした。
逃げようとしたら服を千切って脅せば良い、と悟られたのかと思ったが、どうやら違うらしい。

「ジャマ。孕まセらレない。」
「孕む気は無いよ!?」

理善がヒエッと奇怪な声を出して否定すると、熊獣人の顔が見るからに腹に据えかねているものになる。
不機嫌な顔のまま、理善の双丘に軽く歯を立ててきた。
口がガパリと開けられ、足の分かれ目に下顎が挟まり上顎は弾力のある丘に乗せられる。
敏感な急所で鋭い犬歯の存在を感じさせられた。

理善が押しも引きもできずに居ると、ズボンの真ん中のつなぎ目を熱いものが這っていることに気付いた。
ソレは最初、双丘の間で柔らかい弾力を楽しんでいた。
だが、下に下がるにつれ理善の身体がピクリと反応し一部分が膨らんできていることに気付くと、そこの根本ばかりを執拗に舐め始めた。
焦れったい刺激に耐えられず理善が両腕に顔を埋めても、ズボンの布地を通り越して肌に唾液が届こうとも、熊獣人の舌は蟻の戸渡りから睾丸までを往復し続けた。

「ふひゅっ、ぅっ…もう、脱ぐからっ…。離してぇ…!」

舐める度に強くなる青い匂いに夢中になっている熊獣人を弱々しく蹴り放し、理善は体をなるべく丸めるように座った。
膝を曲げて盾にした状態でベルトの銀色のバックルを掴み、出来る限りゆっくりと外した。
抜いたベルトは円筒型に丸めて右脇に静かに置く。
両手でズボンのボタンに手を掛けて、扱い慣れていないようなふりをしてモタモタとボタンを外した。

「ふぅ。」

熊獣人の目線が手元に刺さっているような妄想を抱えて、ズボンのチャックを開ける音を静かな部屋に響かせた。
膝立ちになりゆるゆると体の線を顕にする。
理善はなるべく事に及ぶ時間を遅らせたくてしていたが、熊獣人としては艶めかしい曲線を焦らして見せつけられている状態で、余計に興奮していた。

ズボンを足元に折り畳み下着一枚になると、朝の若い太陽が白いヴェールで体を温めてくれる。
子供の頃から外で遊んでいるのに、理善の白い肌は一向に焼けない。
白磁器のような身体を頼りなさげに持て余す理善を、熊獣人が茶の毛を金色に輝かせて迎えに行った。
理善の目の前で膝立ちし、両手を理善の下着に優しく掛ける。
そのまま下ろそうとするものの、熊の指は太く、ピタリと肌に沿うゴムを浮かすことができない。
2、3度同じ動作をした後、もどかしそうに唸った。

「ふふっ…ん、いいよ。下着も脱ごうか。」

困る姿が幼くて、自然と笑ってしまった。
鼻先で脱ぐことは憚られて、中腰で手早く脱ぐ。
折り目正しく畳んでズボンの上に積んだ。
熊獣人と相対すると、膝立ちのままの彼の頭をするりと抱き締めた。

『熊の交尾は長いから、早めに焚き付けないと大学に遅刻しちゃうな。』

平らな胸に湿った鼻息を受けて、薄紅色の頂きが盛り上がってくる。
ツヤリと丸いボタンのように熟れてきた頃、不意に血色の舌が甘い肉粒をくすぐった。

「ぷちゅ、ぺろっ」
「ひあぁん?!」

差し出された粒に舌を這わせただけで理善が甲高く啼いたので、熊獣人はぱちくりとしていた。
だが、恐る恐るといった体で再トライしてくる。

「ひっ、っあ…ふぅっ…!」

思ったより硬い舌先が、何も感じないはずの胸飾りを強く弾く。
恥ずかしい声を抑えようにも、喉から糸を引くように響き出して身体の感度を上げてゆく。

「あぅんっ!牙、いひゃぃ…つよいのダメっ!す、吸わなぁっー!」

肉粒を眼前で吸われ、噛まれ、蕩けるまで舐られる。
チュポンという音の後で、理善の体が小刻みに震えた。
理善のひ弱な男根からは透明な滴りが溢れている。

「ムネ、乳、でナい?」

思いがけないことを問われて、今度は理善がパチクリとする番だった。

「雄だからね。母乳…乳は出ないよ。」
「オス?同ジ?」
「同じ。」

コテンと首を傾げる熊獣人にウンと頷くと、熊獣人は3秒ほどフリーズした。

「コービは?」
「交尾は出来るよ。」
「コービっどこにイれる?」
「うえぇい。」

理善は壮絶に恥ずかしいポーズを要求されていることを感じ取り、出来得る限りの抗議を一言に込めた。
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