腐的な笑み

鑽孔さんこう

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腐的な笑み

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はるか、合格したか?」

「ったり前だろ!露成ろなりは俺を見くびり過ぎなんだよ。」

「良かった。…安心した。」

 俺は親友の露成と合格報告をしあっていた。

 高校受験で別々の高校を受けた俺達は、1ヶ月後にはお互いが遠い場所に引っ越す。

 別れが辛いこともあり、受験勉強中、毎日電話した。

「なぁ…明日、会いに行っていいか…?」

「あぁ、良いが。どうした?」

「合格したって実感したい。露成に…その…褒めて欲しい。」

「…分かった。明日だな。菓子用意しとく。」

「ルマソド買っといて!」

「ははっ。あぁ。」

「じゃあな!」

「あぁ、また明日。」

「おぅ!」

電話を切ると、俺はベッドに寝転んだ。

顔が真っ赤になっている。

俺は俗に言うツンデレで、露成以外には滅多にデレない。
露成に対しても普段はツンツンしてるらしい。
そう露成が言っていた。

俺にとってデレることはかなり難しい。
電話口では言わんとすることを察してもらえないため、更に恥ずかしいのだ。

「ろなりぃ…俺頑張ったよなぁ…?」

空気に向かって言うと、心の底から合格した嬉しさが込み上げてくる。
感傷に浸りきる間も無く、親や友達、親戚に合格報告をしする。

親友の露成に1番に報告すると決めていたから、他の皆は聞いてきていても未読スルーだった。

『合格したよ!』

『俺も!おめでとさん!』

『良かったね。入学祝い、また考えておいて。』

色んな友達から合格報告や合格通知の写真、お祝いメッセージが届いた。
友達の1人が不合格を知らせてきたが、本命は私立高校だったらしく、公立に落ちても落ち込んでいなかった。

沢山の友達とやり取りをしているうちに、外が紫色に暮れていく。

地平線から最後の赤い一筋が静かに消え、春の生暖かい風が、俺の心を落ち着かせた。


父母が帰ってくると俺が夕飯の仕度、後片付けをする。
夕飯ののんびりした時間の中、再び報告をした。
メールでは『受かった』としか知らせなかったからである。

「山中高校受かった。」

「まぁ!良かった。頑張ったわね。」

「長い間、よく耐えたな。」

「ふふん…うん!」

父が珍しく労う言葉をかけてきて喜びもひとしおだ。
照れくさいが、嬉しかった。

「明日露成ん家行ってくるから。」

「家の鍵ちゃんと持って行くのよ。」

「露成ん家の?」

「我が家のよ。」

「夕方の6時までには帰ってこいよ。事故、起こすなよ。」

「わーってる!どうせ露成だから俺の事守ってくれるって!」

皿を下げて、母から小遣いを貰うと、一度自分の部屋に帰る。
明日持って行く鞄に入り用な物を詰めると、小遣いも丁寧に財布に入れて、鞄底に忍ばせる。

服を決めてベッドの端に置いたら、そろそろ親も食べ終わっているだろうとリビングに戻った。

案の定皿を下げているところに出くわし、後を引き継ごうとする。

「合格したんだから、今日ぐらい家事サボってもいいのよ?」

「俺が料理に使った皿だから俺が洗うのー!母さんは部屋戻ってて!」

「もぅ…ありがとうね。」

優しく微笑んで部屋に戻っていく母を見送り、父が歯磨きのために洗面台を使っていることを確認してから、鼻歌を歌っての皿洗いを開始した。

本人曰く声は水流の音に掻き消されているというが、洗面台の父はともかく、母は昔から丸聞こえなのを秘匿している。


漸く皿洗いを終えて、自分の部屋に戻る。
いつもより早く星柄のベッドにぽふりと倒れ込んだのは、はしゃぎ疲れたのもあるが、明日起きる時間が早いことが大きい。

露成と遊ぶ時はいつも8時に露成家別邸集合であるため、前日の夜は10時には寝る。

目覚ましをかけるためにスマホを起動し、ホーム画面を見て頬が緩んだ。

『あー!露成の満面の笑みめっちゃ好き!』

つい悶えてしまうような王子様スマイルは、体育祭の時にマラソンのアンカーを見事走り切り、1位を勝ち取った時に俺にだけ向けてくれた特別なものだ。

お気に入りの笑顔をたっぷり10分見つめていた。
1枚しかないパーフェクトスマイルなので、写真に現像し、バックアップを取り、絶対に消えないようにしてある。
別に露成の他の写真には保護も何もしていない。

この写真だけは特別、と心の中で言ってから、目覚ましをかけ、明かりを消した。

「おやすみなさい。ふぅ…明日は寝坊しないようにしないとな。」


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