傷物にされた私は幸せを掴む

コトミ

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「お久しぶりです。お母様」
「お久しぶりも何も、なんで貴方、そんな高いドレスを着てるわけなの?そんなの買うお金無かったはずでしょ?」
「雇い主の旦那様から頂きました。この舞踏会に出席するように言われて」

 母の耳に刺さるような甲高い声を聞くだけで、吐き気がしてくる。今までずっとそんなことなかったけど、少し母と離れてみてわかった。
 私はお母様の事が二度と会いたくないぐらい、大嫌い。

「社会の厳しさを教えられていると思っていたのに、公爵様はとても甘い人なのね。それで公爵はどちらへいらっしゃるの?ミアの事をご紹介したいし」
「ミアの事をご紹介したいって、ルイスはどうするの?ミアはルイスと婚約していらっしゃるでしょ」
「なに言ってるの。公爵と結婚できるチャンスなのよ。彼の事は仕方が無いからお断りするわ」

 周りを見渡していると、母の背後からミアがやってきた。そしてミアも母と同じような反応を見せた。

「なんでそんな高そうなドレス着てるわけ?」
「それは、これを着て舞踏会へ出るように言われたの」

 ミアは手を握りしめて、私の事を睨みつけると、大きなため息をついてどこかへ行った。

「ちょっとミアどこへ行くのよ!」
「ジャック様探しに行くの!

 機嫌の悪いミアを見て、こちらも気分が悪くなると、背後から突然肩を叩かれて、私はドキ!っとした。

「私になにかようですか?」

 紺色の背広を着て、前髪を上げて額を出しセットしている。だからか、いつもと雰囲気が違う。なんだかふんわりした雰囲気から、キリっとしている。なんだか言葉が出てこない。
 ミアは目を丸くすると、にっこりと笑ってヒールをツカツカと鳴らしてこちらへやってきた。挨拶でもするのかと思ったら、離れろと言わんばかりに私の肩を強く押して目を細めた。でもジャック様を見る目は子猫のような大きな丸い瞳。

「初めまして、私ミアと申します。お姉様がご迷惑をおかけしておりません…か?」
「大丈夫?」
 
 目を丸くするジャック様に強く腕つかまれていて、驚いた。困惑し、動揺する彼の瞳から目を離すことができない。
 心配されている?

「え、はい、私は、大丈夫です」

 目が合ったままで、時間が止った気がした。でも間にミアが割り込んできて、止まっていた時間も一瞬にして動き出した。

「姉なら大丈夫ですよ」

 その時私は今まで見たことがないジャック様が憤りをあらわにする姿を見た。穏やかで優しい人が怒るときと言うのは怖い物だと、私は知った。

「何が大丈夫だというんだ!転んで怪我でもしたらどうするんだ」
「え?」

 今まで説教と言う説教をされたことがないミアは、呆然として、頬を引きつらせた状態で何が何だか分からないという風に目を丸くしていた。

「非常識極まりない」
「そんな、ただ、ぶつかっただけで」

 弁解を試みようと、ミアはジャック様へ触れようとしていた。でもその手を振り払い、私の手を握りしめた。なんで私の手を握りしめているの?

「おいで」

 手を引かれるがまま私はジャック様に連れられて、大広間から出て、屋根があって、心休まるようにと置かれたソファが置かれた、外のテラスへと出た。
 夜風が頬を撫でて、強くつかまれている手が少し痛かった。

「あ、あの、ジャック様」

 大きく息を吐いてジャック様は立ち止まり、私の手を離した。

「妹が、申し訳ありませんでした」
「君が謝る必要なんて何もない。私の方が感情的になって、申し訳なかった。会ってみて、すごく腹が立ったんだ。なんで何も悪くないエミリアがあんな粗末な事されなきゃいけない」
「妹は甘やかされて育ったので。自分の意見が通らないと嫌なんだと思います」

 肩と腕が出たボールガウンでは、夜風が吹くたびに寒くて、手で二の腕をこすった。その様子が見られたためか、ジャック様は背広を脱いで私の肩にかけた。

「言いそびれていたけれど、すごく似合っているよ。身の丈に合わないなんてそんなことはない」
「ありがとうございます」

 薄暗いために、ジャック様の陰の濃淡がはっきりと濃くおとされている。なんだか申し訳なさそうな、そんな表情をしている。
 しばらく俯いて沈黙が続いた後、ジャック様は顔を上げて視線がぴったりと合った。

「ワルツ、誰と踊っていたの?」
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