11 / 11
第十一話
しおりを挟む
「いやあ、素敵な執務室ですねえ。この絵画なんて持って帰って飾りたいぐらいだ。ティーカップも年代物ですかね」
国王が座る机の前、ひょいとティーカップを持ち上げたけれど、するりと手から落ちて、床へ落ちた。落ちたのがカーペットの上だったため割れはしなかった。
「ごめん、ごめーん。割れなくてよかった」
椅子に座り、両手を机に出した国王は握りこぶしをして、クロムを睨みつけていた。フーフーと口で息をして、つもより一層呼吸も荒い。腕を動かそうとしているが、上にも左右にもどうしてか動かない。まるで机に張り付けられているかのよう動かない。椅子からも立ち上がろうとしない。上半身をどう動かしても、お尻が座面に張り付いてしまったように動けない。
「何のつもりだ!私を殺す気か!?衛兵!衛兵!」
どれだけ国王が叫んでも声は空しく部屋に響くだけ。クロムはにっこりと笑って落ちたティーカップを拾い上げると、机に置いた。
「少し魔法を掛けました。この部屋から一切音漏れしない。兵士たちは催眠にかかっています。そして貴方は、私の言葉に許諾しない限り、底から動けない」
「脅しか?そんなものには屈しないぞ!」
でも国王はどうやっても動けず、動くためにはクロムに従うほか方法はなかった。
「もちろん権力は貴方が上かもしれない。でも私には貴方とは比べ物にならないほどの力がある」
端に置かれていた椅子を掴み持ってくると、国王と向かい合うようにして座った。国王には汗がにじみ、怯えが表情に浮かんでいる。クロムは足を組んで、にっこりと笑った。
「私から貴方に要望することは一つ。ルビナを私に渡してください。そうしてくれたら今すぐに開放します」
「ムリだ!ルビナはこの国の宝で国防に関する。国を守るためにはルビナがいなければいけない」
「この国に魔法使いがいないわけじゃない。結界を張るのは貴方が思うより簡単です。私が力を貸しましょう」
「そんなことは到底許されない!」
大声を張り上げる国王には焦りや恐怖がにじんでいた。クロムはそこで諦める気はさらさらなかった。
「あなたの考えていることは分かっています。貴方は何より魔法使いを恐れている。そしてルビナにこの国を滅ぼされているのではないかと思っている。この都市は元々魔族や魔物も少なく、地理的にも攻め込まれる危険性が少ない。でも魔力を使う結界を張らせているのはルビナの力を恐れ、持て余しているからですね」
まるで本心を見抜かれた国王は、大声をあげることをやめ、口を閉じて、まっすぐとクロムのことを見つめた。クロムはにっこりと笑う。
「彼女は国王に早く結界を直せと怒られたと言っていた。でも貴方が恐れているのはルビナが結界に注ぐ力を自身に蓄え、この国の厄災となる事。では辺境にずっと住まわせておけばよかった。でもそれをしなかったのは、他の国に奪われることを恐れていたから。それは正解ですね。国々は、必ずルビナを血眼になって探したでしょう。なにが番がおらず、コントロールができたのはルビナだけだったから。他のドラゴンの生まれ変わりはもうすでに番を見つけていますからね」
ただ黙って国王はその話を聞いていた。
「彼女を解放せず、俺と離したなら、また燃え上がるだろうよ。ドラゴンの本当の力を手に入れたルビナは今までの比にならないほど強大になる。でもその力の操り方を教えられる人間はこの国には居ない。並の魔法使いでは彼女は自分の力を制御できず、後悔することになる」
「ならお前がここに住みルビナを育てろ。金ならいくらでも出す」
この緊急事態にとってはいいアイデアが出てきた方だった。ルビナも、クロムのここに居続ければ国防は守られる。
「それは無理な話です。彼女にとってこの都市は小さすぎる。それにドラゴンの生まれ変わりはそうやって人の元で生きるものではないのです。なにせ津波やハリケーンのようなものだからです。俺はホロース出身ですが、国は私を野放しにしています。ホロースは柔軟だ」
「それでは国が」
口を開いたときクロムの表情が変わったのが国王には分かった。子供のような雰囲気が一瞬にして消え、まるで犯罪者から情報を吐き出させようとする者のごとく、にらみを利かせた。
「もう嘘はどうだっていいんだよ。自分の国は自分で守れ。ルビナに人を殺させることは俺が許さない。戦いの道具に使うな」
さっきまでとはうって変わって低い声色に、怒りのこもった雰囲気。国王をものともせず、自分の意見を突き通そうとしているのが分かる。
「分かったというと思うか?」
声はわずかに震えていた。クロムはまたにっこりと笑った。
「協力関係が築けないなら、この都市を火の海にすればいいだけの話です。ルビナを解放するか、今すぐ俺に滅ぼされるか、どちらがいいですか」
「殺されたいか?」
「あ、ちなみに、一番最初に死ぬのは貴方ですよ」
長いにらみ合いであった。クロムには国王の答えがはっきりとわかっていた。
国王が座る机の前、ひょいとティーカップを持ち上げたけれど、するりと手から落ちて、床へ落ちた。落ちたのがカーペットの上だったため割れはしなかった。
「ごめん、ごめーん。割れなくてよかった」
椅子に座り、両手を机に出した国王は握りこぶしをして、クロムを睨みつけていた。フーフーと口で息をして、つもより一層呼吸も荒い。腕を動かそうとしているが、上にも左右にもどうしてか動かない。まるで机に張り付けられているかのよう動かない。椅子からも立ち上がろうとしない。上半身をどう動かしても、お尻が座面に張り付いてしまったように動けない。
「何のつもりだ!私を殺す気か!?衛兵!衛兵!」
どれだけ国王が叫んでも声は空しく部屋に響くだけ。クロムはにっこりと笑って落ちたティーカップを拾い上げると、机に置いた。
「少し魔法を掛けました。この部屋から一切音漏れしない。兵士たちは催眠にかかっています。そして貴方は、私の言葉に許諾しない限り、底から動けない」
「脅しか?そんなものには屈しないぞ!」
でも国王はどうやっても動けず、動くためにはクロムに従うほか方法はなかった。
「もちろん権力は貴方が上かもしれない。でも私には貴方とは比べ物にならないほどの力がある」
端に置かれていた椅子を掴み持ってくると、国王と向かい合うようにして座った。国王には汗がにじみ、怯えが表情に浮かんでいる。クロムは足を組んで、にっこりと笑った。
「私から貴方に要望することは一つ。ルビナを私に渡してください。そうしてくれたら今すぐに開放します」
「ムリだ!ルビナはこの国の宝で国防に関する。国を守るためにはルビナがいなければいけない」
「この国に魔法使いがいないわけじゃない。結界を張るのは貴方が思うより簡単です。私が力を貸しましょう」
「そんなことは到底許されない!」
大声を張り上げる国王には焦りや恐怖がにじんでいた。クロムはそこで諦める気はさらさらなかった。
「あなたの考えていることは分かっています。貴方は何より魔法使いを恐れている。そしてルビナにこの国を滅ぼされているのではないかと思っている。この都市は元々魔族や魔物も少なく、地理的にも攻め込まれる危険性が少ない。でも魔力を使う結界を張らせているのはルビナの力を恐れ、持て余しているからですね」
まるで本心を見抜かれた国王は、大声をあげることをやめ、口を閉じて、まっすぐとクロムのことを見つめた。クロムはにっこりと笑う。
「彼女は国王に早く結界を直せと怒られたと言っていた。でも貴方が恐れているのはルビナが結界に注ぐ力を自身に蓄え、この国の厄災となる事。では辺境にずっと住まわせておけばよかった。でもそれをしなかったのは、他の国に奪われることを恐れていたから。それは正解ですね。国々は、必ずルビナを血眼になって探したでしょう。なにが番がおらず、コントロールができたのはルビナだけだったから。他のドラゴンの生まれ変わりはもうすでに番を見つけていますからね」
ただ黙って国王はその話を聞いていた。
「彼女を解放せず、俺と離したなら、また燃え上がるだろうよ。ドラゴンの本当の力を手に入れたルビナは今までの比にならないほど強大になる。でもその力の操り方を教えられる人間はこの国には居ない。並の魔法使いでは彼女は自分の力を制御できず、後悔することになる」
「ならお前がここに住みルビナを育てろ。金ならいくらでも出す」
この緊急事態にとってはいいアイデアが出てきた方だった。ルビナも、クロムのここに居続ければ国防は守られる。
「それは無理な話です。彼女にとってこの都市は小さすぎる。それにドラゴンの生まれ変わりはそうやって人の元で生きるものではないのです。なにせ津波やハリケーンのようなものだからです。俺はホロース出身ですが、国は私を野放しにしています。ホロースは柔軟だ」
「それでは国が」
口を開いたときクロムの表情が変わったのが国王には分かった。子供のような雰囲気が一瞬にして消え、まるで犯罪者から情報を吐き出させようとする者のごとく、にらみを利かせた。
「もう嘘はどうだっていいんだよ。自分の国は自分で守れ。ルビナに人を殺させることは俺が許さない。戦いの道具に使うな」
さっきまでとはうって変わって低い声色に、怒りのこもった雰囲気。国王をものともせず、自分の意見を突き通そうとしているのが分かる。
「分かったというと思うか?」
声はわずかに震えていた。クロムはまたにっこりと笑った。
「協力関係が築けないなら、この都市を火の海にすればいいだけの話です。ルビナを解放するか、今すぐ俺に滅ぼされるか、どちらがいいですか」
「殺されたいか?」
「あ、ちなみに、一番最初に死ぬのは貴方ですよ」
長いにらみ合いであった。クロムには国王の答えがはっきりとわかっていた。
24
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。
吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
過去に戻った筈の王
基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。
婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。
しかし、甘い恋人の時間は終わる。
子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。
彼女だったなら、こうはならなかった。
婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。
後悔の日々だった。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
その婚約破棄喜んで
空月 若葉
恋愛
婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。
そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。
注意…主人公がちょっと怖いかも(笑)
4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。
完結後、番外編を付け足しました。
カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる