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第2章 幻影と覚醒、又は神の贈り物
第9話
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地面へと落ちる漆黒の左腕、削られた場所から煙のように影が流れ出る。
ヴァイスの右手には漆黒の塊が揺らめきながら握られ、それが渦のように次第にうねりを上げて拡散する。
屍の巨人兵としての一部を破棄され、形が保てなくなった闇は黒い霧の様な物が辺りを浮遊した。
「ォォォオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
またもや咆哮による風圧が巻き起こる。
小さな敵を排除しようとクレーターが更に地面へと減り込む。
「や、やりやがった……あんちゃん」
ガイアスは太い腕で顔を守りながら成り行きを見守る。
彼の目には信じられないと言った表情で、細い小さな瞳を見開いて見ていた。
固有スキルはガイアス自身も戦士としてのレベル70にしてようやく覚えたばかり。ヴァイスの歳で今行ったスキルが、固有スキルだという事は目に見えて理解していた。
「俺の『刃の凱旋』なんて比じゃねぇ……何者だ」
長年戦士として戦い、幾多もの冒険者、組合員達を見てきたガイアスにとって、ヴァイスの存在は初めての人間だった。
ノーマルな種族、特に大きく秀でる事がない種族人間族。
ドワーフや、エルフ、ビースト、ホビットは何かしら何処か秀でている。
種族の歴史を辿れば、神がヒューマンから進化させた種族だと言う学者もいれば。神が怠惰するヒューマンへの当てつけに秀でた種族を作ったとされる説もある。
ドワーフは力を、エルフは魔法を、ビーストは感覚を、ホビットは知恵を、ヒューマンは凡才を。これが長年の歴史の中で紡がれたもう一つの理でもある。
ガイアスにとって、長年の経験の中で秀でたヒューマンは数える程度……いや、1人しか知らなかった。
それも、ガイアスは否定する。思い浮かべるヒューマンは化物であるからだ。
「ぜぇ……ぜぇ、ぜぇ…ぜぇ」
ヴァイスの呼吸が激しく乱れる。
『完璧なる盗み』は質量、物量によって必要消費魔力が違う。盗んでみなければ、どれ程魔力が必要なのかも不明。現在ヴァイスはありったけの魔力を吸い取られ、身体中に駆け巡る、猛烈な疲労と気怠な重みを感じていた。
「ぜぇ…………ぜぇ…」
屍の巨人兵は削り取られた片腕を抑えながら、動きが停止している。
不気味な呻き声のみが、辺りをサウンドさせる。
「後は………」
ポーチから魔力回復液を取り出して飲み干すと、キツく睨みつけながらまた右手を突き出した。
もう一度、トドメと言わんばかりに歯を食いしばる。
「ヤレるのか?」
ガイアスは心配そうに眺め、ハルバードを強く握り締めた。
いつでも動き出せる様に、最大限の注意と『肉体強化』スキルを発動させる。
「うおおおおーーーーーーー!!!!」
先程よりも神々しくヴァイスの右手が発光する。
その輝きに、屍の巨人兵は危機を覚えた。
残りの腕で薙ぎ払う様に小さな敵、ヴァイスが狙われる。
ガイアスはこれを予想していたのか、素早く動き出してヴァイスの側に寄り、猛威を振るう屍の巨人兵の攻撃を真っ向から受け止める。
踏ん張る足が地面を削りながら、衝撃により軽く浮きかける足を腰を落として踏ん張る。
「ぬぅーー!!」
ガイアスの鍛え抜かれた筋肉質な寸胴が悲鳴を上げる。
ミシミシとハルバードの強度が限界の音が鳴る。それでもと、愛斧を握り締め身体全体でヴァイスの壁になり続ける。
「行け、あんちゃん!!」
その言葉にヴァイスは力を得た気持ちになった。彼に答える様に、この迷宮の王を倒せると踏んで右手が更なる光で躍動する。
ーが、彼等の足元から真っ暗な闇が広がっている事に気が付いた。
ーーーーーなんだこれは?そう思った矢先に、遠くからイリスの声が聞こえた気がした。
「レノア……今、小僧の声が…」
「ーーーーーイリス?」
「隊長、それは何かやばいです!!」
「逃げてヴァイス!!」
その言葉の意味は一瞬にして気付かされた。だが、気付いた後には遅く。ガイアスとヴァイスは空中に投げ出されていた。
身体全体から血が飛沫、血線が弧を描きながら空を飛ぶ。目だけを辛うじて動かしながら、先程まで居た場所を見る。
こいつは、最初からこれを狙っていたのか。此方が気付かれる前に、此奴は俺達の足元を狙っていた。
削り取られた左肩によって落ちた腕は、地面へと到達前に闇の霧となって消えた。だがそれはずっと浮遊し、足元を濁らせて残って居た。
最初に気付くべきだった。まず削り取られた左肩はどう消えたか………一瞬にして空へ、いや拡散するように煙となって消えていた。
……そう、消えていたのだ。しっかりと。
だが、どうだろうか。
落ちた左腕は消える事なく形を崩しながら、ただただ地面に浮遊していただけだ。
何故気付かなかった。そんな遅過ぎた反省を思い浮かべながら、地面へと叩き付けられたヴァイスとガイアス。
一度跳ね、二度、三度と地面を跳ねながら倒れこむ。
「隊長!!」
「ヴァイス!」
イリスは直ぐ様駆け寄り、屍の巨人兵の追撃から逃れようと隠れるように運び込もうとするも、だが既に大きなクレーター……更地となったこの場所に隠れる場所は無かった。
「隊長!隊長、起きて下さい!」
レノアが必死に声をかけ、ポーチから取り出した回復液を一本をガイアスの口元に、そしてイリスに声を掛け一本を投げ渡されそれをヴァイスの口元へと流し込まれる。
「ぐっ……くそ…」
……全身の骨が再生するのがわかった。
回復液を飲んだところで、みるみる回復して行くが、回復中の骨と骨が繋がるのはいつまでたっても慣れずに痛覚が刺激され唸り声を上げる。
「イリス…か?」
「うん、大丈夫?」
「ガイアスさんは?」
勢い良く上体を起こすが、痛みが走り反応的に身体を丸めた。
「まだ、回復液が効き切ってないよ。動かないでヴァイス…」
「いや。そうも言ってられない……」
彼等の前で屍の巨人兵は真っ直ぐと4人を睨み付けている。
先程攻撃に使用した闇の渦は、新しく左腕となってくっ付いていた。
「グゥゥ…」と呻き声と共に、ひび割れた口元から真っ黒な煙が漏れ出ている。
「隊長、もう少し休んだ方が……」
レノアを制止ながらガイアスが立ち上がる。
「馬鹿野郎……そんな暇があるのか、あの化物を見て言え」
それは同意だと、ヴァイスも自身を奮い立たせる。
額から流れ出る血はいつの間に止まり、拭いながら屍の巨人兵を見る。
「ヴァイス、これ…」
「それって」
「うん。拾った。使って」
イリスの手元から失くしたとばかり思っていた短刀を受け取る。
ガイアスは2人を一瞥しながら、肩を貸すレノアから離れて、地面に突き刺さったハルバードを手に取って構える。
既に強烈な攻撃を耐えたハルバードは、ボロボロな状態であるも、形をなんとか保っている。それを黙って見ながら、手元にある最後の回復液を隣のレノアへと渡しながら指示を飛ばす。
「小僧、回復液と魔力回復液の数は幾つだ?」
「回復液は一つ、魔力回復液は三つです」
「そうか……コレはお前が持ってろ。嬢ちゃんと一緒にサポート、俺とあんちゃんが前衛だ」
レノアはその指示に眉間へ皺を寄せながら、ヴァイスを一度見てガイアスへと向き直る。
「いや、でも…隊長、俺が前衛をすべきです」
レノアは自分がヴァイスよりもレベルが高い事を知っている。
いや、そう感じている。定石通りであれば、サポートは後衛ソーサラー系統かレベルが低い者が受ける仕事だ。レノアは実際戦士レベル42と、齢21にして才能ある若者だが、ガイアスはそれを拒み、たった一年目冒険者盗賊レベル23のヴァイスを前衛へと指示した。
「ふむ、まあそれでもええか……あんちゃん、後衛で距離を取ってさっきのアレやれるか?」
ガイアスは髭を撫でながら、後ろにいるヴァイスへと視線だけ送り問う。
“アレ”とはつまり、ヴァイス・リンスリードの固有スキル『完璧なる盗み』の事だろう。
ヴァイスは素早くガイアスの意図を理解し、静かに頷いた。
「よし、小僧……魔力回復液を全部あんちゃんに渡せ」
「え?良いんですか?」
「馬鹿野郎、前衛が魔力の事を気にするな。今はな……さっさとしろ。黙って様子見してくれてるあの、化物がいつまでも待っちゃくんねーぞ」
「は、はい!」
レノアが小瓶3本を渡し終えると、4人は一斉に構える。
「小僧、てめぇは左側を回って攻撃し続けろ。一撃離脱を基本でな」
「りょ、了解!」
「あんちゃん、いつでも奴の隙をついたら狙え。嬢ちゃんはあんちゃんのサポートだ!気を抜くなよ……」
ーさぁ、第2Rの始まりだ。そう告げるかのように、そう受けとめたかの様に、両者が一斉に動き出した。
ー先に動き出したのは屍の巨人兵だった。
巨体が片膝を付き、右手を大地に添えると。そこから漆黒の霧が4人に向かって広がる。
ガイアスは右に、レノアは左側に動き始めながらヴァイスとイリスは後方へと距離を取りながら霧を躱す。
漆黒の霧が4人を補足できないと見るや、次に行動したのは早かった。
レノアやガイアスが攻撃を開始するよりも、広げられた黒霧は小さな形を変えてアプローチを変えた。
シャドー、迷宮に棲息するアンデッド系統のモンスター。人の様に二本足で、そして赤い鋭い目つきに鋭い漆黒の爪を生やしたモンスターが、次々と屍の巨人兵が放たれた黒霧から誕生した。
「シャドー……モンスターがモンスターを作った!?」
「落ち着け小僧、とりあえずはデカブツを注意しながら、シャドーを倒せ!」
「んな、無茶な!」
「じゃなきゃ死ぬだけだ!」
動揺するレノアに、ガイアスは叱責し指示を叫ぶ。
「ヴァイス……」
「ああ、モンスターがモンスターを作るなんて聞いた事がない。いや、そもそもシャドーの生態がわかっていなかったのは。あいつが作っていたって事になるのか!?」
「わわっ!?こっち来るよヴァイス!」
「とりあえず地面を這う黒い霧に捕まらない様に、落ち着いてシャドーを倒すぞ!」
「う、うん!!」
迫り狂う人間サイズのシャドーと対峙する事になった2人は、各々武器を構えて迎え討つ。
ヴァイスの右手には漆黒の塊が揺らめきながら握られ、それが渦のように次第にうねりを上げて拡散する。
屍の巨人兵としての一部を破棄され、形が保てなくなった闇は黒い霧の様な物が辺りを浮遊した。
「ォォォオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
またもや咆哮による風圧が巻き起こる。
小さな敵を排除しようとクレーターが更に地面へと減り込む。
「や、やりやがった……あんちゃん」
ガイアスは太い腕で顔を守りながら成り行きを見守る。
彼の目には信じられないと言った表情で、細い小さな瞳を見開いて見ていた。
固有スキルはガイアス自身も戦士としてのレベル70にしてようやく覚えたばかり。ヴァイスの歳で今行ったスキルが、固有スキルだという事は目に見えて理解していた。
「俺の『刃の凱旋』なんて比じゃねぇ……何者だ」
長年戦士として戦い、幾多もの冒険者、組合員達を見てきたガイアスにとって、ヴァイスの存在は初めての人間だった。
ノーマルな種族、特に大きく秀でる事がない種族人間族。
ドワーフや、エルフ、ビースト、ホビットは何かしら何処か秀でている。
種族の歴史を辿れば、神がヒューマンから進化させた種族だと言う学者もいれば。神が怠惰するヒューマンへの当てつけに秀でた種族を作ったとされる説もある。
ドワーフは力を、エルフは魔法を、ビーストは感覚を、ホビットは知恵を、ヒューマンは凡才を。これが長年の歴史の中で紡がれたもう一つの理でもある。
ガイアスにとって、長年の経験の中で秀でたヒューマンは数える程度……いや、1人しか知らなかった。
それも、ガイアスは否定する。思い浮かべるヒューマンは化物であるからだ。
「ぜぇ……ぜぇ、ぜぇ…ぜぇ」
ヴァイスの呼吸が激しく乱れる。
『完璧なる盗み』は質量、物量によって必要消費魔力が違う。盗んでみなければ、どれ程魔力が必要なのかも不明。現在ヴァイスはありったけの魔力を吸い取られ、身体中に駆け巡る、猛烈な疲労と気怠な重みを感じていた。
「ぜぇ…………ぜぇ…」
屍の巨人兵は削り取られた片腕を抑えながら、動きが停止している。
不気味な呻き声のみが、辺りをサウンドさせる。
「後は………」
ポーチから魔力回復液を取り出して飲み干すと、キツく睨みつけながらまた右手を突き出した。
もう一度、トドメと言わんばかりに歯を食いしばる。
「ヤレるのか?」
ガイアスは心配そうに眺め、ハルバードを強く握り締めた。
いつでも動き出せる様に、最大限の注意と『肉体強化』スキルを発動させる。
「うおおおおーーーーーーー!!!!」
先程よりも神々しくヴァイスの右手が発光する。
その輝きに、屍の巨人兵は危機を覚えた。
残りの腕で薙ぎ払う様に小さな敵、ヴァイスが狙われる。
ガイアスはこれを予想していたのか、素早く動き出してヴァイスの側に寄り、猛威を振るう屍の巨人兵の攻撃を真っ向から受け止める。
踏ん張る足が地面を削りながら、衝撃により軽く浮きかける足を腰を落として踏ん張る。
「ぬぅーー!!」
ガイアスの鍛え抜かれた筋肉質な寸胴が悲鳴を上げる。
ミシミシとハルバードの強度が限界の音が鳴る。それでもと、愛斧を握り締め身体全体でヴァイスの壁になり続ける。
「行け、あんちゃん!!」
その言葉にヴァイスは力を得た気持ちになった。彼に答える様に、この迷宮の王を倒せると踏んで右手が更なる光で躍動する。
ーが、彼等の足元から真っ暗な闇が広がっている事に気が付いた。
ーーーーーなんだこれは?そう思った矢先に、遠くからイリスの声が聞こえた気がした。
「レノア……今、小僧の声が…」
「ーーーーーイリス?」
「隊長、それは何かやばいです!!」
「逃げてヴァイス!!」
その言葉の意味は一瞬にして気付かされた。だが、気付いた後には遅く。ガイアスとヴァイスは空中に投げ出されていた。
身体全体から血が飛沫、血線が弧を描きながら空を飛ぶ。目だけを辛うじて動かしながら、先程まで居た場所を見る。
こいつは、最初からこれを狙っていたのか。此方が気付かれる前に、此奴は俺達の足元を狙っていた。
削り取られた左肩によって落ちた腕は、地面へと到達前に闇の霧となって消えた。だがそれはずっと浮遊し、足元を濁らせて残って居た。
最初に気付くべきだった。まず削り取られた左肩はどう消えたか………一瞬にして空へ、いや拡散するように煙となって消えていた。
……そう、消えていたのだ。しっかりと。
だが、どうだろうか。
落ちた左腕は消える事なく形を崩しながら、ただただ地面に浮遊していただけだ。
何故気付かなかった。そんな遅過ぎた反省を思い浮かべながら、地面へと叩き付けられたヴァイスとガイアス。
一度跳ね、二度、三度と地面を跳ねながら倒れこむ。
「隊長!!」
「ヴァイス!」
イリスは直ぐ様駆け寄り、屍の巨人兵の追撃から逃れようと隠れるように運び込もうとするも、だが既に大きなクレーター……更地となったこの場所に隠れる場所は無かった。
「隊長!隊長、起きて下さい!」
レノアが必死に声をかけ、ポーチから取り出した回復液を一本をガイアスの口元に、そしてイリスに声を掛け一本を投げ渡されそれをヴァイスの口元へと流し込まれる。
「ぐっ……くそ…」
……全身の骨が再生するのがわかった。
回復液を飲んだところで、みるみる回復して行くが、回復中の骨と骨が繋がるのはいつまでたっても慣れずに痛覚が刺激され唸り声を上げる。
「イリス…か?」
「うん、大丈夫?」
「ガイアスさんは?」
勢い良く上体を起こすが、痛みが走り反応的に身体を丸めた。
「まだ、回復液が効き切ってないよ。動かないでヴァイス…」
「いや。そうも言ってられない……」
彼等の前で屍の巨人兵は真っ直ぐと4人を睨み付けている。
先程攻撃に使用した闇の渦は、新しく左腕となってくっ付いていた。
「グゥゥ…」と呻き声と共に、ひび割れた口元から真っ黒な煙が漏れ出ている。
「隊長、もう少し休んだ方が……」
レノアを制止ながらガイアスが立ち上がる。
「馬鹿野郎……そんな暇があるのか、あの化物を見て言え」
それは同意だと、ヴァイスも自身を奮い立たせる。
額から流れ出る血はいつの間に止まり、拭いながら屍の巨人兵を見る。
「ヴァイス、これ…」
「それって」
「うん。拾った。使って」
イリスの手元から失くしたとばかり思っていた短刀を受け取る。
ガイアスは2人を一瞥しながら、肩を貸すレノアから離れて、地面に突き刺さったハルバードを手に取って構える。
既に強烈な攻撃を耐えたハルバードは、ボロボロな状態であるも、形をなんとか保っている。それを黙って見ながら、手元にある最後の回復液を隣のレノアへと渡しながら指示を飛ばす。
「小僧、回復液と魔力回復液の数は幾つだ?」
「回復液は一つ、魔力回復液は三つです」
「そうか……コレはお前が持ってろ。嬢ちゃんと一緒にサポート、俺とあんちゃんが前衛だ」
レノアはその指示に眉間へ皺を寄せながら、ヴァイスを一度見てガイアスへと向き直る。
「いや、でも…隊長、俺が前衛をすべきです」
レノアは自分がヴァイスよりもレベルが高い事を知っている。
いや、そう感じている。定石通りであれば、サポートは後衛ソーサラー系統かレベルが低い者が受ける仕事だ。レノアは実際戦士レベル42と、齢21にして才能ある若者だが、ガイアスはそれを拒み、たった一年目冒険者盗賊レベル23のヴァイスを前衛へと指示した。
「ふむ、まあそれでもええか……あんちゃん、後衛で距離を取ってさっきのアレやれるか?」
ガイアスは髭を撫でながら、後ろにいるヴァイスへと視線だけ送り問う。
“アレ”とはつまり、ヴァイス・リンスリードの固有スキル『完璧なる盗み』の事だろう。
ヴァイスは素早くガイアスの意図を理解し、静かに頷いた。
「よし、小僧……魔力回復液を全部あんちゃんに渡せ」
「え?良いんですか?」
「馬鹿野郎、前衛が魔力の事を気にするな。今はな……さっさとしろ。黙って様子見してくれてるあの、化物がいつまでも待っちゃくんねーぞ」
「は、はい!」
レノアが小瓶3本を渡し終えると、4人は一斉に構える。
「小僧、てめぇは左側を回って攻撃し続けろ。一撃離脱を基本でな」
「りょ、了解!」
「あんちゃん、いつでも奴の隙をついたら狙え。嬢ちゃんはあんちゃんのサポートだ!気を抜くなよ……」
ーさぁ、第2Rの始まりだ。そう告げるかのように、そう受けとめたかの様に、両者が一斉に動き出した。
ー先に動き出したのは屍の巨人兵だった。
巨体が片膝を付き、右手を大地に添えると。そこから漆黒の霧が4人に向かって広がる。
ガイアスは右に、レノアは左側に動き始めながらヴァイスとイリスは後方へと距離を取りながら霧を躱す。
漆黒の霧が4人を補足できないと見るや、次に行動したのは早かった。
レノアやガイアスが攻撃を開始するよりも、広げられた黒霧は小さな形を変えてアプローチを変えた。
シャドー、迷宮に棲息するアンデッド系統のモンスター。人の様に二本足で、そして赤い鋭い目つきに鋭い漆黒の爪を生やしたモンスターが、次々と屍の巨人兵が放たれた黒霧から誕生した。
「シャドー……モンスターがモンスターを作った!?」
「落ち着け小僧、とりあえずはデカブツを注意しながら、シャドーを倒せ!」
「んな、無茶な!」
「じゃなきゃ死ぬだけだ!」
動揺するレノアに、ガイアスは叱責し指示を叫ぶ。
「ヴァイス……」
「ああ、モンスターがモンスターを作るなんて聞いた事がない。いや、そもそもシャドーの生態がわかっていなかったのは。あいつが作っていたって事になるのか!?」
「わわっ!?こっち来るよヴァイス!」
「とりあえず地面を這う黒い霧に捕まらない様に、落ち着いてシャドーを倒すぞ!」
「う、うん!!」
迫り狂う人間サイズのシャドーと対峙する事になった2人は、各々武器を構えて迎え討つ。
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