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2. いろいろ試してみたって、許可なしですか?
いろいろ試してみたって、許可なしですか? ④
しおりを挟む翌日も幽さんの話は続いていた。
ただでさえ体力がない所に、幽霊に憑かれ、眩暈を覚える数々の話に沙和が途中放棄して、逃げるように眠りに就いたからだ。
朝食を済ませて一息ついた頃、唐突に幽さんが話し始めた。
それから間もなく、大きく目を見開いて愕然と幽さんを見る沙和の顎が、外れんばかりに開かれる。
幽さんは沙和の開いた口が塞がらなくなる様な、とっておきの隠し玉を出してきた。
『いや~あれにはちょっと苦労したよ』
と語った苦労とは、沙和との同調だった。
乗っ取りだけじゃ済まないで、沙和の夢に介入したと言うのだから、顎が外れそうになっても大袈裟だとは思わない。
夢の中の登場人物になりすまし、沙和を起こしに来たのは外でもない幽さんだった。
そっと頭を撫で、声をかけてくれたその人を、何故だか無条件で信頼していた気がする。だから差し伸べられた暖かい手が嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて……。
(なのに正体が身元不明の幽霊とかって……何で一週間も暢気に寝ていたんだ、あたし!)
詐欺にかけられた気がして憤慨していると、以心伝心の幽さんが目に見えてしゅんとなる。ツンと無視していると、目の前をふわふわと移動しながら『ごめんね? 何度もごめんね?』と彼女の機嫌を窺ってきて、鬱陶しいほど纏わりついて来る。
態勢を変えながら知らんふりをしていた沙和の口から、怒りとも諦めともつかない長い溜息が吐き出された。
さすがに我慢の限界だと、下から顔を覗き込んでいる幽さんに目線を合わせる。
「……幽さん」
『やっと目を合わせてくれたね。良かった』
「良くないッ! お願いだから、こーゆーこと止めて。シュールだから」
幽さんが、沙和の鳩尾あたりから生えている。
イケメンがお腹から生えているって、なんのホラーか。
まるで一反木綿のようにスルスルと抜け出しながら、『幽体離脱~ぅ』と愉しそうな幽さんを殴ってやりたい衝動に駆られる。
(殴れるものなら本気で殴りたい! そのくらいしたって、絶対罰は当たらないよね!? あたしの心労を鑑みたら、安いもんよね!?)
あわよくば投げつけてやろうと、枕を掴んだ指に力が入る。そんな事をしたって幽さんは痛くも痒くもないだろうけど、沙和が本気で怒っているアピールは出来るだろう。
『さ~わ。怒ってばかりだと、シワ増えるよ?』
「怒らせる張本人が何言ってんのっ?」
『和ませようと思ったのに。沙和って前からこんなに怒りっぽかったっけ?』
うっかりしたら聞き流しそうだった言葉に、ハタと動きを止めた。目の前でちょっと不貞腐れ気味の幽さんを咄嗟に捕まえようとして、前につんのめってベッドに倒れ込む。
『何やってんの?』
そう言って沙和を起こし、くすくす笑う。
沙和は触れられないのに、幽さんは彼女に触れられる。それを不平等に思って、ふとそんな事じゃないと、頭を切り替えた。
「幽さん、やっぱあたしのこと知ってるの!?」
『記憶喪失だって言ったでしょ』
「けど今『沙和って前からこんなに怒りっぽかったっけ?』って言った!」
すると幽さんは音が聞こえてきそうな瞬きを数回して、唸りながら首を傾げた。
『……俺そんなこと言った?』
「言った」
『記憶にございません』
「どこの政治家よ」
手掛かりが見つかると思っただけに、幽さんのリアクションでどっと疲れが出る。朝からこんなでは、今日一日持つのだろうか。
沙和が体力の心配をしていると、ふわっと大きな手が頭を包む。
大丈夫、そう言っているような柔らかい微笑み。
この温もりを知っている。
記憶にないのに、“幽さんを知っている” 何故かそう確信している。
思い出そうとすると、せつない感情が込み上げてくるのは何故だろう。
幽さんも微かに眉を寄せ、微苦笑だ。
沙和の頭を包んでいた指がピクリと動いた。すると幽さんは『どれっ』と立ち上がり、
『半径五十メートルの巡回でも行ってきますかね』
「巡回って?」
『ここには俺のお仲間が大勢いるからさ』
「ごめん。聞かなかったことにする」
『あははっ。じゃ、行ってきます』
そう言って幽さんが出て行った後、すぐに母親が見舞いに訪れた。
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