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4. ポルターガイストって普通の事でしたっけ?
ポルターガイストって普通の事でしたっけ? ⑤
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心臓の具合はすこぶる快調で、医師のお墨付きを貰った沙和はようやく退院するに至った。
七ヶ月ぶりの我が家。
自室のベッドに俯せて寝転がり、お天道様と洗い立ての香りを鼻腔にいっぱい吸い込んだ。
帰って来られたんだと実感する。
一時期は、もう二度とこの部屋には戻れないと、諦めていたのが嘘みたいだ。
『これが沙和の部屋かぁ』
ナチュラルな家具にパステルトーンで纏まった女の子らしい部屋を、幽さんが興味深そうに眺め回し、沙和はそんな彼を眺めている。
身長は並んだ時の差が三十センチはあるから、凡そ百八十センチ。ほとんど地面に足が着いている事がないから、目測だけど。
ウェーブがかかったミルクティー色の髪は柔らかそうで、やや眦が下がった二重の双眸は、沙和が親近感を持つ理由の一つだと最近気付いた。
瞳は色素の薄い茶色。癪に障るくらい睫毛が長く豊かで、生身だったらバサバサ音を立てそうな睫毛をカットしてやりたくてムズムズするけど、妄想に留めるしかないのが残念だ。
(どっちも垂れ目なのに、幽さんばっかりズルいよね)
鼻筋はスッとして高過ぎず低過ぎず、唇は自然と笑みを作る。
好き嫌いは迷惑なくらいはっきりしているものの、基本はとても優しい人だし、世話好きだ。じっとして黙っていてくれたら、間違いなくいい男の分類に入るだろう彼は、恐らくモテたに違いない。
女子の部屋に入ることだってあったはずだ。
そんな彼が沙和の部屋に興味を持っていることが、どうもしっくりこない。
(記憶がないんだから、って解ってるんだけどね)
幽さんが徐に振り返り、沙和に微笑む。
沙和の思考に口を挟んでくることはなくなったけど、きっと彼女の考えは筒抜けなんだろう。いちいち気にしていたら身が持たないけど、こればかりは慣れたくない。
羞恥から顔を背けたのに、ノック音がしてドアが開かれる気配に、幽さん越しからそちらを見た。
「沙和。荷ほどき終わった?」
中を覗き込んできたのは、自覚がないまま幽さんの標的認定されている奈々美だった。
肩越しにドアを振り返った幽さんから、イラっとした感情が伝わってくる。
奈々美と沙和の間にいる幽さんから不穏なものを感じ取り、沙和は素早く起き上がった。
久方ぶりの自室をぐちゃぐちゃにされるなんて、冗談じゃない。
『幽さん。ハウス!』
咄嗟に心の中で叫んで、自分の隣に座れとばかりに目で促す。幽さんは不満を顕わに、それでも黙って沙和の隣に来ると、奈々美に背を向けベッドの上に正座した。幽霊にはあまり意味ないと思うが、幽さんなりに反省の意思表明なのだろう。
『俺は犬かよ』
不貞腐れている幽さんにチラと視線を遣ってから、奈々美を見た。
「ま~だ。どうしたの?」
「もう。のんびり屋ねぇ。お昼ご飯できたわよ」
「わかった。今行く」
「早く来てね」
ドアがぱたんと音を立てて閉まるのと、沙和が幽さんに視線を向けたのはほぼ同時。拗ねた幽さんに溜息が零れた。
「お願いだから、帰って早々、部屋を荒らさないでね?」
『……わかってる。だから理性を総動員して我慢しただろ』
「そう、だね」
非常に危うかったけれども。
退院するにあたって、幽さんと決め事を作った。
奈々美に対する過剰反応防止策として、彼女がいる時は沙和の部屋から絶対に出ないで大人しくしていること―――そう約束した。
うっかり奈々美と遭遇しようものなら、家の中は荒れ狂うことになる。これは是非とも回避したい案件だ。
ただ同じ屋根の下に住んでいれば、先刻みたいなイレギュラーも発生する。これはもう、腹を括って幽さんを止めるしかないけど。
それから奈々美が留守中でも、女子として最小限の矜持を守るべく、極めて限られた空間でのプライバシー保護を提案した。
幽さんだとて、宿主の沙和のご機嫌を悪くしたくない。
分かったと頷けば、沙和に胡乱な目で見られてたじろいだ。入院中についうっかりを繰り返した結果と言えよう。
家の中だったら沙和との直線距離が五十メートル以上になる事がないので、幽さんが引っ張り戻されることはないし、以上を守ってくれるなら、何をするにも彼は自由だ。
(守れるなら……だけど)
一抹の不安が沙和の胸を過った。
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